第1部 第10話
あの日と同じように、俺は本田有を抱いた。
今はもう、お互いの名前も立場もわかっているけど、
そんなのはなんのブレーキにもならなかった。
むしろ、2ヶ月前から今日までの間、一体何人の男が本田有を抱いたのかと思うと、
俺の行為は激しくなる一方だ。
そんな俺に、抵抗することなく本田有もついてくる。
そして・・・
やべえ!
俺は勢い良く起き上がった。
また、寝てしまった!
今回こそは、絶対寝ないと心に決めていたのに!
だけど、恐る恐る隣を見ると、本田有はまだ俺の横で寝息を立てていた。
・・・よかった。
俺はベッドに横向きに寝そべり、本田有の寝顔を眺めた。
あどけない、っつーか、幼い。
こんな女、例え裸で横にいられても抱く気になんか絶対ならない、
と、思ってたのに。
そっと布団をめくると、本当にふっくらという程度の白い胸が露になる。
綺麗な胸だとは思うけど、これもやっぱり色気ない。
でも、そこには新しい幾つかの紅いアザがついている。
・・・俺、こんなこと、したことないのに。
昔、俺が片思いしていた女。
コータのことを好きだった奴だ。
実は、そいつと何度か寝たことがある。
女は冷めてたけど、俺は夢中だった。
でも、その時でさえ、女の身体にこんなもの、つけたことなかった。
なんか、バカバカしいってゆーか、こんなものつけたところで人の気持ちは変わらないってゆーか。
とにかく、無意味でガキ臭いことに思えた。
高校生の時にすらそう思ってたのに、22歳になった今、こんなことするなんて。
ほんと、どうかしてる。
「・・・理事長先生?」
視線に気付いたのか、本田有が目を開けた。
「起きたか」
「・・・はい」
「・・・」
「・・・」
何、話していいかわからない。
「黙っといてくれ」とか言うつもりはない。
それになんとなく、本田有は誰にも言わない気がする。
となれば・・・
「・・・なんか、食うか?」
「・・・はい」
腹が減ってるって訳じゃないだろう。
でも今は、俺が何を言っても逆らったり断ったりするつもりはないらしい。
俺は部屋で適当に食い物を注文し、
どうみても冷凍食品のそれを、本田有とパクついた。
空腹は感じてなかったけど、それでも食べだすと俺も本田有も一心不乱に食べまくった。
そして胃が満たされてくると、脳の方にも血が通い始める。
ひとしきり食い終わって、俺は本田有に訊ねた。
「今日はともかく、前の時どうして俺の財布から金盗らなかったんだ?」
「・・・あんまり入ってなかったから。盗ったら部屋代払えないかと思って」
「・・・」
そりゃどうもご親切に。
結局足りなかったけど。
でも、本当に聞きたいのはそんなことじゃない。
本当に聞きたいのは・・・
「今日学校に来た男。自分が風呂入ってる間に、お前が金を盗もうとしたって言ってたけど、
あれは・・・やる前か?後か?」
「え?」
本田有が首を傾げた。
どうしてそんなこと聞くんだ、って顔をしてる。
そうだよな、どーでもいいもんな。
普通は。
「前、ですけど」
「じゃあ、あの男とはやってないんだな?」
「はい」
「・・・そっか」
俺は、ホッとしてベッドに沈み込んだ。
本田有が本当のことを言っているのかどうかはわからない。
本当だとしても、たまたま今日の男とは寝てないだけで、
他の男とは寝てるのかもしれない。
聞きたかったけど、そこまで聞くのはさすがにおかしいと思い、
その言葉は飲み込み、代わりに他のことを訊ねた。
「なんであんなことやったんだ?」
「・・・お金が欲しかったから」
「親から小遣いもらってないのか?」
「もらってます。・・・でも、足りなくて」
「・・・」
服を着ている本田有をそんなに見たことはない。
だからはっきり言えるわけじゃないけど、
本田有の服や持ち物は、そんなに金がかかってないと思う。
ブランド物らしき物は何もないし、髪や爪に金をかけてる訳でもないようだ。
一体、何に金を使ってるんだろう。
・・・まあ、いい。
俺は財布から、一万円札を何枚か取り出して本田有の胸の上に置いた。
「やる」
「え?」
「金が欲しいんだろ?前の時は俺もまだ学生で大して金を持ってなかったけど、
今はちょっとは持ってる。だからやるよ」
学生の頃は、最低限の学費と生活費を組長から見返り無しで貰ってたから、
無駄遣いはできなかったし、したくなかった。
でも今は、仕事の報酬として、金を貰ってる。
あんま褒められた使い方じゃないけど、もったいないとは思わない。
「その代わり、もう売りみたいなことはするな。金が欲しくなったら俺のとこに来い」
「でも・・・理事長先生から、お金を貰おうなんて思ってません」
「じゃあ、なんで俺と寝た?」
本田有が目をふせる。
なんだよ。
脅されたとでも言いたいのか?
「・・・まあ、いい。とにかく、もうやるな。次やったら普通に処罰するからな」
「はい」
俺は再び本田有を車に乗せ、寮へと戻った。
車を降りるとき、本田有は「ありがとうございました」と言い、
またあの目で俺を見た。