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プロローグ

腹減った・・・


俺は道端にうずくまった。

通行人たちが、何事かと俺を見ていくが、誰も声はかけない。

かけられても、答える体力も気力もないけどな。


生まれてこのかた19年。

ここまで腹が減ったことはない。


ほんの3日前まで、金も時間も有り余るほど持っていたこの俺が、

なんて様だ。



3日前、俺はお袋と喧嘩をして家を飛び出した。

養子でお袋に頭の上がらない親父は、お袋をなだめるでも俺を止めるでもなく、

ただ見ているだけだった。


お袋とはここのところずっと上手く行ってなかったから、

なるべくしてこうなっただけだが・・・


しまった。

家を出る前に、もっと現金を用意しておくんだった。

でも後悔してももう遅い。


俺はうずくまりながら、財布の中を見た。

漫喫やファミレスでなんとかしのいできたけど、もう金がない。


いや、金より凄いものはある。


親父名義のブラックカードだ。

でもこれも、今となってはゴミ同然。

お袋の奴、俺が家を出てすぐにカードを止めたらしい。

あっぱれな素早さだ。


・・・そんなこと、どうでもいい。

とにかく腹が減った。

空の財布を見てると、余計に減ってくる。


俺もついてないよな。

今が大学の夏休みじゃなけりゃ、大学の学食が朝から晩までやってる。

学食の請求は翌月に一括で親のところに行くから、実質食べ放題なのに・・・


って、この期に及んで親の金を当てにしているのだから、俺もつくづく馬鹿だ。

でも馬鹿でも腹は減るんだ。



仕方ない。

最後の手段だ。


俺は携帯を取り出し、ガキの頃からの友達の番号を探した。

俺の友達はみんな、俺と一緒で金持ちばかりだ。

俺1人をしばらく家に置いて飯を食わせても、なんの迷惑でもないだろう。


今の今までそれをせずに、耐え忍んできたのは単にプライドの問題だ。

「家を出たけど金がないから、しばらく面倒見てくれ」なんて口が裂けても言いたくなかった。

だけど、そんなプライドもこの空腹の前では何の意味も成さない。



ようやく目当ての番号を見つけ、通話ボタンを押そうとしたその瞬間・・・



「え?おい!」


なんと、電源が切れた。


・・・信じらんねー・・・

そりゃ、充電してなかったけどさ。

最悪のタイミングだ。

ついてない時は、とことんついてねー。


いや、カードをあの素早さで止めたお袋のことだ。

携帯だって、とっくに止めてるだろう。


こうやって八方塞にして、俺がおずおずと帰ってくるのを待ってやがるんだ。


それだけは、死んでも嫌だ!

今更シッポ巻いて帰れるかよ!!



・・・それにしても・・・腹減った・・・




「あれ?村山?」


通行人の1人が足を止め、俺の前にかがんだ。


腹が減り過ぎたせいか、視界がぼやけてそいつの姿は見えないが、

聞き覚えのある声だ。

いや、聞き覚えがあるどころの騒ぎじゃない。


忘れたくても忘れられないアイツの声だ。


「こんなとこで、何やってんだよ?」


見りゃわかるだろ。

いや、わかんねーか。


「どうした?」


また別の男の声がした。

穏やかな感じの声だが、

こっちは自信を持って聞き覚えがないと言える。


「あー・・・高校の同級生なんですけど、ここでうずくまってて」

「ふーん。同級生な」


おいおい。

こんなにしんどそうにしてるんだから、もうちょっと関心持ってくれよ。


が、その男は俺の望み通り、俺に「関心」を持ったようだ。

そして俺はすぐにそれを激しく後悔することになった。


「おい、ちょっと待て。お前、今、こいつのこと村山って言ったか?」

「・・・あ」


アイツが口ごもる。

いつも堂々としているアイツが、珍しい。


って、なんだよ。

俺が「村山」じゃまずいのか?

そうだよ、俺は村山だ。

村山健次郎むらやまけんじろうだ。


「村山って、あの村山か?」

「あー・・・はい」


どの村山だ。


聞き覚えのない声の男が、また「ふーん」と言った。

でも、さっきの「ふーん」とは明らかに違う。

何か・・・意味ありげだ。


嫌な予感がする。


男が、俺の前髪をグイッと引っ張り俺の顔を持ち上げた。

すげえ痛いけど、「痛い」という声すらでない。


俺の目に、二つの瞳が映った。

声と同じく穏やかな瞳なのだが・・・

その奥に、狂気とも冷酷ともいえる光が宿っている。


俺は蛇に睨まれた蛙のように固まった。


「おい、お前。選ばせてやる」


何を?


「俺のために働くか、死ぬか。どっちにする?」



・・・選択の余地はないようだ。






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