リンジー、婚約破棄される
私の名前はリンジー。
とある王国の子爵家の次女に生まれ、平凡な貴族令嬢として暮らしてきたものの、出席した夜会で侯爵家長男のレイモンド様と運命的な出会いを果たす。
何度かお茶会を重ねたのち、私達は将来を誓い合った。
彼は真剣な眼差しで私にこう告白を。
「リンジー、私は生涯、君以外を愛さないと誓う。どうか私と共に生きてほしい」
まさかこんなに素晴らしい言葉まで貰えるなんて。
これによって、私は一切の憂いなくレイモンド様との婚約を決意した。
ところが、その日からわずか一か月で彼は浮気をする。お相手は伯爵家の令嬢らしい。
問い正す私に、レイモンド様はしれっと述べてきた。
「どうやら私の運命の相手は君ではなかったようだ。婚約は解消させてくれ」
「そんな……、あんまりです。あれだけ私に愛を囁いてきておきながら!」
「だから私の判断ミスだと言っているだろう。もう私の気持ちは冷めてしまった。君が何を言おうが変わらない。幸いにも君の家は子爵家で私の家は侯爵家。婚約破棄に文句を言える立場にないことは分かるな?」
「……はい、文句は言いません……」
笑みを浮かべながら私を見下すレイモンド様に、それ以上の言葉は返せなかった。
……レイモンド様、こんな人間だったなんて。
いえ、これは運がよかったと思うべきかもしれない。わずか一か月間の婚約期間で彼の本性が分かって縁が切れるのだから。
それに、……私の方も幸いにもすでに素晴らしい言葉を貰っている。
顔を上げた私も微笑みを湛えた。
「最後に、明日もう一度会っていただけませんか?」
「何だ、違約金が欲しいのか?」
「そのような物はいりません。ただ、確認したいだけなのです」
レイモンド様は首を傾げつつも了承してくれた。
「それでは、明日を楽しみにしています」
こう言い残して私は自宅屋敷に帰った。
――――。
帰宅した私は自分の部屋に戻る前に、まず地下の倉庫へと赴く。
いくつかの棚を回って必要な材料を集めていると、背後に人の気配が。
「何を嬉しそうに……。またろくでもないことをするつもりね?」
「あ、お姉様。とんでもありません。私、ついさっきレイモンド様に婚約破棄されてしまったのでそのお礼をと」
「え……、お礼ってまさかあなた。……つまりすでに言質を得ているということよね。さすがにやりすぎじゃないかしら?」
「そうでしょうか、軽々しい言葉を口にしたあちらの責任かと」
そう、決してやりすぎなんてことはない。
私は引き出しに入っていた木の実を手に取ってギュッと握り締めた。
「私の心を弄んだあの男に、目にもの見せてやるだけですよ……!」
「……リンジー、相当怒っているわね」
「正当な報復なので当家の家訓にも反しません。構いませんよね?」
「まあ、いいでしょう。近頃は当家の存在感も薄れてきているし、いい宣伝になるかもしれないわ」
とお姉様は承認してくれた上で、一族の了解も得てくれると言うので、私は気兼ねなく自分の復讐に集中できるようになった。
さあ、レイモンド様、今からとっておきの呪いをかけて差しあげます。




