第20話
パレードでの騒動から数日後。
帝都の大聖堂にて、ついに結婚式が執り行われた。
ステンドグラスから七色の光が降り注ぐ中、パイプオルガンの荘厳な音色が響き渡る。
私は父代わりとなったガラス宰相(彼は泣きすぎて目が腫れていた)のエスコートで、長いバージンロードを歩いた。
一歩進むごとに、これまでの記憶が蘇る。
地下牢で震えていた日々。
雪山に捨てられた絶望。
そして、シルヴィス様に拾われ、初めて温かいスープを飲んだあの夜。
(……長かった。でも、全て意味があったのかもしれない)
あの苦しみがあったからこそ、今の幸せをこんなにも深く噛み締めることができるのだから。
祭壇の前には、白のタキシードを着たシルヴィス様が待っていた。
彼は私を見ると、世界で一番優しい笑顔を浮かべ、手を差し出した。
「……美しいよ、エリアナ」
「貴方も素敵です、シルヴィス様」
宰相から彼へと手が渡される。
その大きな手の温もりは、初めて会った時から変わらない。
司祭の前に立ち、誓いの言葉が読み上げられる。
病める時も、健やかなる時も。
その言葉の一つ一つが、心に染み渡る。
「……誓います」
「誓います」
二人の声が重なる。
そして、指輪の交換。
彼が私の薬指に嵌めてくれたのは、帝国に伝わる「氷精石」の指輪だ。
透き通るブルーの石は、彼の瞳の色と同じ。
私は彼に、私の瞳と同じ碧色の魔石がついた指輪を贈った。
「では、誓いの口づけを」
司祭の言葉と共に、彼がベールを上げる。
至近距離で見つめ合う瞳。
そこには、私だけを映す深い愛があった。
「エリアナ。……私を見つけてくれて、ありがとう」
「いいえ。……私を見つけてくれて、ありがとうございました」
唇が重なる。
その瞬間だった。
キィィィィン……!!
二人の魔力が共鳴し、奇跡が起きた。
私の体から溢れる「黄金の光」と、彼から溢れる「銀色の冷気」が溶け合い、大聖堂の天井を突き抜けて空へと昇ったのだ。
「見ろ! 空を!」
「なんて綺麗なんだ……!」
参列者たちが窓の外を指差す。
帝都の空に、オーロラのような光のカーテンと、ダイヤモンドダストが舞い散っていた。
光と氷が織りなす、幻想的な祝福の景色。
それは、二人の強大な魔力が完全に調和し、一つになった証だった。
「……派手な演出になってしまったな」
唇を離した陛下が、少し照れくさそうに笑う。
「ふふ、私たちくらしくて良いではありませんか」
私も笑い返した。
大聖堂は、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
誰もが涙を流し、新しい皇帝夫妻の誕生を祝福している。
ここには、私を蔑む視線など一つもない。
それから、数年後。
皇城の庭園には、元気な子供たちの声が響いていた。
銀髪に紫の瞳を持つ男の子と、黒髪に碧眼の女の子。
二人は、かつて私が蘇らせた精霊樹の周りを走り回っている。
「パパ! ママ! 見て、お花が咲いたよ!」
私はベンチに座り、その様子を微笑ましく眺めていた。
隣には、変わらず私を愛おしげに見つめるシルヴィスの姿がある。
「……平和だな」
「ええ。とても」
彼は私の肩を抱き、温かい紅茶を啜った。
「あの雪山で君を拾った時、まさかこんな未来が待っているとは思わなかった。……君は本当に、私に幸運を運んでくれる女神だ」
「女神だなんて。……私はただの、貴方に恋したエリアナですよ」
私が答えると、彼は嬉しそうに目を細め、私の額にキスをした。
「愛している、エリアナ。これからもずっと、私の隣にいてくれ」
「はい。……死が二人を分かつまで、ずっと」
風が吹き、精霊樹から光の花びらが舞い散る。
かつて「呪われた悪女」と呼ばれた少女は、今、世界で一番幸せな皇后として、愛と光に満ちた人生を歩んでいる。
これは、氷の皇帝と身代わりの聖女が紡いだ、奇跡と愛の物語。
その温かい輝きは、いつまでもこの帝国を照らし続けるだろう。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
これにて『「呪われた醜い悪女」と婚約破棄されましたが~』完結となります。




