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『呪われた醜い悪女』と婚約破棄されましたが、それは妹の身代わりでした。  作者:


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第14話

 ルーン王国の王城は、死のような静寂に包まれていた。

 いや、正確には「死臭」に包まれていた。


 王太子ギルバートが手勢を率いて帝国へ向かってから、数日が経過していた。

 彼からの連絡は途絶え、国政は完全に麻痺していた。


 玉座の間。

 ルーン国王と王妃は、憔悴しきった顔で玉座に沈んでいた。


「……ギルバートは何をしているのだ。まだエリアナを連れ戻せないのか」

「食料庫はもう空ですわ……。民衆が城門に押し寄せてきています。早くなんとかしないと……」


 彼らの元には、毎日のように暴動の報告が届いていた。

 氷魔石の輸入停止により、備蓄食料は全滅。

 飢えた民衆は、「パンをよこせ」「王族は責任を取れ」と叫び、城を取り囲んでいる。


 だが、それ以上に深刻な問題があった。

 それは、この城の奥深く、聖女の部屋から漂ってくる悪臭だった。


「……オ、オエッ……。なんだこの臭いは……」


 国王がハンカチで口を押さえる。

 腐った肉と、甘ったるい香水が混ざり合った、耐え難い腐敗臭。

 それは日に日に強くなり、今や城全体を汚染し始めていた。


 バンッ!!


 扉が開き、侍医が顔面蒼白で駆け込んできた。


「へ、陛下! 大変です! ティナ様が……ティナ様が……!」


「どうした!? まさか死んだのか!?」


「いえ、死んではおりません。ですが……もはや、人の形を留めておりません!」


 国王と王妃は顔を見合わせ、急いで聖女の部屋へと向かった。

 廊下を進むにつれて、臭いは強烈になり、吐き気を催すほどになる。

 そして、部屋の中に踏み込んだ瞬間、二人は絶句した。


「あ……あ、あ……」


 そこは、地獄だった。

 豪華な天蓋付きベッドの上で、何かが蠢いていた。

 かつて「天使」と謳われた美少女の面影はない。

 全身の皮膚がどす黒く壊死し、ドロドロに溶け落ちている。

 髪は抜け落ち、眼球だけが異常に飛び出している「肉塊」が、そこにいた。


「うぅ……痛い……痒い……お父様……お母様……」


 肉塊が、しわがれた声で呻く。


「なんで……? なんで私なの……? 私は聖女よ……? 愛されるべき存在なのよ……?」


「ヒッ……!!」


 王妃が悲鳴を上げて腰を抜かした。

 国王も膝が震え、その場に崩れ落ちた。


「こ、これが……ティナなのか……?」


「そうです……。これは『呪い』です。ベルンシュタイン家に代々伝わる、国の穢れそのものです……」


 侍医が震える声で告げた。

 その言葉に、国王はハッとした。


 ――ベルンシュタイン家の呪い。

 聖女の影には、必ず身代わりがいる。

 彼らはそれを知っていた。知っていて、醜いエリアナを「身代わり」として利用し、美しいティナだけを溺愛した。

 エリアナがいる限り、ティナは美しく、国は安泰だったからだ。


 だが、彼らはその「ゴミ箱」を自ら捨ててしまった。

 結果、行き場を失った国の穢れは、本来の持ち主である聖女ティナへと逆流したのだ。


「馬鹿な……。では、私たちは……守り神を追い出し、疫病神を残してしまったというのか……?」


 国王の顔から血の気が引いていく。

 エリアナのあの醜い痣は、ただの汚れではなかった。

 この国の平和を、たった一人で支えていた勲章だったのだ。


「あぁ……なんということを……。エリアナ……許してくれ……」


 王妃が泣き崩れるが、もう遅い。

 その時、部屋の外から慌ただしい足音が近づいてきた。

 伝令の兵士だ。


「へ、陛下! ご報告します!」


「なんだ! ギルバートか!? エリアナを連れて帰ってきたのか!?」


 国王が縋るように叫ぶ。

 エリアナさえ戻れば、この呪いを再び彼女に移せるかもしれない。

 そんな浅ましい希望を抱いた。

 しかし、兵士の口から出た言葉は、絶望的なものだった。


「い、いえ……。帝国より、書簡が届きました。……ギルバート殿下は『皇帝暗殺未遂および王妃誘拐未遂』の現行犯で捕縛。……永久に氷の牢獄へ幽閉する、との通達です!」


「な……!?」


 国王は白目を剥いて卒倒しそうになった。

 王太子が捕まった。しかも、暗殺未遂という大罪で。

 これは、事実上の宣戦布告であり、ルーン王国の終わりを意味していた。


「さらに……帝国軍が国境へ集結しております! 『我が国の王妃を害した罪、国をもって償わせる』と……!」


 終わった。

 何もかもが終わった。

 ベッドの上では、腐り果てたティナが「痛い、痛い」と呻き続けている。

 窓の外からは、暴徒化した民衆が城門を破る音が聞こえてくる。


 エリアナを捨てたあの日。

 彼らは自分たちの手で、この国の未来を捨てたのだ。

 その代償は、国一つの滅亡という形で支払われることになった。


 ルーン王国の崩壊は、もはや誰にも止められない。

 ただ一人、それを止めることができた「黄金の聖女」は、隣国で幸せに笑っているのだから。


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