籠の中の鳥(ヒロイン視点)
頭のネジは数本外して読む事を推奨します。
兄が亡くなった。
父は現実から目をそらし母は正気を失った。
泣き叫び母が兄を呼ぶ声が家中に響いた。
泣き叫ぶのを止めた母は微笑みながら私を抱きしめ兄の名前で呼んだ、私は母から兄として生きることを強要され抵抗は許されなかった。
冷たい墓石には私の名前が刻まれている。
死んだのは妹の私、では生きている私はなんなのだろう。
髪を短く切り男装し本来なら兄の代わりに学んだ、筋肉の都合もあり剣術の腕は上がらなかったが文官を目指すなら剣術はそこそこでも問題無いだろう。
縁談の話もあったが私が嫁を娶るのはトラブルしか生まないので全て断った、男色疑惑の噂が上がっているらしいが細かい事は気にしない。
貴族学校に通うようになり最初のうちは令嬢などから声をかけられる機会があったが興味ない態度を示していたらそのうち相手にされなくなった。
…それで良い、そう思っていた。
図書室の窓際で異国の本を訳しながら読んでいると不意に手元が暗くなったので顔を上げた。
女子学生の制服に淡いブロンドが緩やかに巻かれて窓からの風で揺れている。
翡翠色の瞳が印象的だが見た目からは想像出来ない低い声で告げる。
「ねぇ、私に付き合わない?」
遠目に見れば超絶美少女、しかし私の位置からは一般的な女性では見ないものが喉元にあった。
噂は聞いた事があるが実物は初めてみた、公爵家が匙を投げ放任しているという三男だ。
ひそひそと女子学生の声が耳に入る。
「ボーイズラブって両方イケメンだからいいのにあれじゃね。」
「えー見た目はふつーのカップじゃん。」
読みかけの本が名残惜しいがこの状況訂正するのも面倒臭い、逃げ出したい。
私は必死に呼び止めようとするオカマ男子を振り切って図書室をあとにした。
家族のため家督のため独身貫いて養子貰う形で乗り切るつもりだったが今後の身の振り方を考え直さねばならなくなった。
外堀埋められる前に逃げ出したいが如何せん逃げる先が思いつかない、出奔かいや最悪自害か…私は動かない頭をなんとか動かそうと努力した。
自室の窓から心地よい夜風が吹き込む。
私は部屋の窓枠に足をかけ身を乗り出した。