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許して差し上げますわ!


日が傾き始めた頃、広場に意外な馬車の音が響く。

見ると、セレスティーナが馬車から降りてくる。

宝石で飾られた豪華な馬車だけれど、今日は真っ黒でまるでお葬式のようなドレスを着ている。


「あなた、こんなところで何をしているの?」


「領民の皆さんと、スープをいただいているの。あなたもいかが?」


「私は、こんな田舎臭いもの、食べませんわ!」

セレスティーナは出されたスープを手でさえぎったが、領民の子供が目の前にやってきた。


「美味しいよ!貴族のおじょーさま!」

セレスティーナは目を白黒させて固まってしまった。

迷惑という様子でもなく、与えられた純粋な好意に戸惑っているように見えた。


メイド長のアニエスが優しく、押し付けがましくなく流石の立ち振舞で彼女にもう一度給仕する。


「セレスティーナ様、お嬢様のスープは絶品ですよ」


少し悔しそうな顔ををして恐る恐る、口にスプーンを運び、コクリと喉が鳴る。


「……まあまあ、ね。」


「まあまあってことは、美味しいってことよね?」


「笑わないでくださいまし!」


と叫ぶと。領民たちもその照れ隠しが可愛く見えたようで温かい空気に包まれた。ふふ、この子やっぱり、案外憎めない。



「…………。わたくし、謝罪をしに来たんですわ。」


ボソリとセレスティーナは呟く。その顔は普通に歪み今にも泣き出しそうだった。


「わたくし、ルイス様が…ルイス様がただ愛しかったんですの。そしたらお父様が…」



セレスティーナの話はこうだ。

セレスティーナは、ルイスへの恋心を募らせ、ロックフォード家の鉱山資源を独占しようと企んだ。

しかし、その計画は、セレスティーナの父であるロックフォード伯爵によって歪められてしまう。


彼は、セレスティーナの恋心を利用し、リバーウッド家を陥れようと画策したのだ。


「お父様は、わたくしにルイス様を諦めさせ、ロックフォード家の利益のためにリバーウッド家を潰そうとしたんです。わたくし、そんなこと望んでなかったのに……!」


セレスティーナは、涙ながらにそう語った。

彼女の言葉に、広場に集まった領民たちは、驚きと戸惑いの表情を浮かべた。


「セレスティーナ様……」


アニエスが、同情の眼差しを向ける。

セレスティーナは、顔を上げ、私を見た。


「あなたに、謝りたい。わたくし、間違っていた。ルイス様への気持ちも、リバーウッド家への行いも……」


「恋心は抑えられられるものじゃないんじゃない?だから、貴女が謝罪するべきは領民の方々よ。」

「さあ、これを飲んで落ち着いてから、話してみて頂戴」



セレスティーナは、私の言葉に頷き、差し出されたスープをゆっくりと口に運んだ。

その顔は、先ほどまでのわがまま令嬢とはまるで別人。

まるで、幼い子供のように、素直で、そしてどこか寂しげだった。


「……美味しい。こんな温かいスープ、私には勿体ないくらい」

セレスティーナは、そう呟くと、再び涙を流し始めた。


「ごめんなさい。本当に、ごめんなさい」


彼女は、何度も何度も謝罪の言葉を口にした。

その姿に、領民たちも、少しずつ心を許し始めたようだ。


「セレスティーナ様、顔を上げてください。あなたは、もう一人ではありません」

アニエスが、セレスティーナの肩に手を添える。

セレスティーナは、顔を上げ、アニエスを見た。


「アニエス……」

「私たちと一緒に、リバーウッド家を立て直しましょう。あなたにも、贖罪する気があるのならば、できることがあるはずです」

アニエスの言葉に、セレスティーナは頷いた。

その瞳には、再び光が灯り始めていた。

「はい。わたくし、頑張りますわ」

セレスティーナは、そう宣言すると、領民たちに向き直った。


「皆さま、わたくし、セレスティーナ・ロックフォードは、これまでの行いを深く反省し、リバーウッド家の復興に尽力することを誓います」


彼女の言葉に、領民たちから温かい拍手が沸き起こった。

セレスティーナは、その拍手に涙を滲ませながら、深々と頭を下げた。


「ありがとう。皆さま、本当に、ありがとうございます」


その夜、セレスティーナは、リバーウッド家に泊まることになった。

彼女は、アニエスと共に、領民たちのために料理を作り、共に食卓を囲んだ。

セレスティーナの料理の腕は、決して上手とは言えなかった。

しかし、彼女が一生懸命に作った料理は、領民たちの心を温かく包み込む。



「セレスティーナ様、ありがとうございます。このスープ、とても美味しいです」

「お粗末さまでした。でも、皆さんが喜んでくれて、わたくし、嬉しいですわ」


セレスティーナは、そう言いながら、頬を赤らめた。

その笑顔は、まるで幼い子供のように、無邪気で、そして愛らしかった。

私は、そんなセレスティーナの姿を、温かい眼差しで見つめていた。

彼女は、確かにわがままな令嬢だった。

しかし、その心の奥底には、誰かを愛し、誰かのために何かをしたいという、純粋な気持ちが眠っていたのだ。


「セレスティーナ、あなたは、きっと変われるわ。そして、あなたは、きっと幸せになれる」


その言葉にセレスティーナは花のような笑顔になる。やっぱりかわいい子だと思ったのよ。


でも…………。ロックフォード領主は頂けないわ。ちょっとお尻ペンペンしなくちゃあね!





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