皆様と交流いたしますわ
日が窓辺のレースカーテンを透かし、部屋に柔らかな光を投げかけた。
私は目をこすりながら起き上がり、エプロンを手に取る。
昨日、領民たちにスープと煮込み料理を配った後、畑の手入れの計画を立ててたから、ちょっと寝不足だわ。
そんな弱音なんて言ってられない。
主婦たるもの、忙しい朝なんて日常茶飯事よ。
気合を入れて、「よし、今日もやりますわよ!」と自分を鼓舞する。
厨房に降りると、アニエスがすでにメイドたちと一緒に朝食の準備を進めていた。
彼女、几帳面すぎて朝からフル稼働してるじゃない。
「お嬢様、おはようございます。昨夜は遅くまでお疲れでしたね」
心配そうな顔で言う。
「大丈夫ですわ、アニエス。主婦は寝不足でも動ける生き物なんですの」と笑って返す。
彼女の眼鏡がキラリと光る。
「さすがです」
感心してるみたい。
わたしは主婦じゃないから突っ込んでほしいのだけど……。
ふふ、褒められると調子に乗っちゃうわね。
朝食は昨日余ったスープに、そのへんの食べれそうな野草を刻んで加えたもの。
香ばしい香りが厨房に漂い、メイドたちが「お腹すいた~」って目を輝かせてる。
「さて、アニエス。今日は領民たちと畑に行きますわよ。道具は揃ってるかしら?」
「はい、お嬢様。鍬と籠、それに種を少し用意しました。領民にも声をかけてあります」
完璧ね、アニエス。さすがメイド長。
私はエプロンの紐を締め直して、外へ出た。
リバーウッド家の屋敷から少し歩いたところにある畑は、雑草だらけで土も固そう。
でも、前世で狭いベランダでも家庭菜園やってた私には、これくらい朝メシ前よ。
領民たちが集まってきて、最初は「お嬢様が畑仕事なんて!」って驚いてたけど、私が鍬を手に持って「こうやって土を起こすのよ!」と実演すると、みんな目を丸くしてた。
「お嬢様、力持ちですね」「こんな綺麗な人が畑で働いてるなんて!」
「綺麗ってのは余計ですわ!。私の腕力舐めないでくださいまし!」
と笑いながら、土を掘り返す。
実際、この身体、転生の記憶がある前から働き者だったみたい。
汗が額を伝うけど、土の匂いと野草の青い香りが鼻をくすぐって、気持ちいい。
領民たちも真似して鍬を手に持つと、子供まで「僕もやる!」って飛び込んできた。
小さな手で土を掘る姿が可愛くて、子供ってどこでも元気ねとほっこりする。
すると、畑の端で小さな女の子が野草を手に持ってきた。
「これ、食べられる?」
見ると、ちょっと苦いけど栄養たっぷりのヨモギみたいな草だ。
「これは茹でてスープに入れると美味しいですわ。持ってきてくれてありがとう御座います」
「優しいね!お嬢様!」
女の子が笑ってくれた。領民たちからと声が上がる。
「ありがとう」
「お嬢様のおかげで希望が持てる」
主婦の知恵がこんなところで役立つなんてね。
日が傾く頃、畑は見違えるほど整って、種を植える準備ができた。
疲れた体に鞭打って屋敷に戻ると、庭でルイス様が一人座ってた。
騎士団の制服が埃っぽくて、疲れた顔してるじゃない。
昨夜、盗賊のアジトを探しに行ったって聞いてたから、心配してたのよ。
「お疲れ様ですわ、ルイス様。どうでした?」
と声をかけると、彼が顔を上げてサファイア色の瞳を向けてきた。
「アジトは見つけたが、奴らは逃げ足が速い。追いつけなかった」
肩を落とす姿が子犬みたいで、なんだか放っておけないわ。
私は厨房からハーブティーと、昨日焼いたクッキーを少し持ってきて、彼の隣に置いた。
「これでも飲んで休んでくださいまし。疲れた顔してますわ」
と言うと、ルイスが一瞬驚いた顔をする。
「ありがとう」
クッキーを手に持つ仕草が不器用で、クールな騎士団長のイメージと違っててかわいい。
「甘いな。」
「どういたしまして。気にしないでください」
まさか、こんな素直にお礼を言われるなんて……。少しドキッとしてしまったけれど、平静を装わなければ。
顔をパタパタ煽ると、ルイス様が庭の隅を指す。
白くて小さく、可愛らしい花だ。
「あそこに花を植えてる。戦いの合間に見ると、気持ちが落ち着くんだ」
「ルイス様って、花好きなんですね。なんだか意外ですわ」
「似合わないか?」
少し拗ねた顔をするルイスは子犬のように見える。彼の意外な一面に胸がキュンとする。
やばい、この人、ほんと可愛いわ!