前世は主婦!
人生が終わる瞬間って、案外あっけないものね。
スーパーの特売コーナーで、卵と鶏もも肉を手に入れた。
帰り際に、けたたましいクラクションが耳を劈いたと思った、次の瞬間には視界が真っ暗に。
トラックに轢かれたらしい。
38年間、主婦として節約と家事に励んできた私の最期がこれだなんて、笑ってしまう。
でもまあ、いい人生だった。
◇
なぜか、死んだはずなのに、まぶたの裏に柔らかな光が差し込んでくる。
ゆっくりと目を開けると、そこには豪華な天蓋付きベッド。
ふわっとした羽毛布団に包まれ、鼻をくすぐるのはほのかなラベンダーの香り。
ちょっと待って、私、死んだよね?
慌てて起き上がると、目の前に置かれた鏡に映ったのは、見慣れたおばさんの顔じゃない。
アッシュブロンドのさらさら髪と、アメジスト色の瞳を持つ18歳くらいの少女。
「え、かわいこちゃんになっちゃったの!?」
そう叫ぶと、声まで若々しくてびっくり。
鏡の中の私は、清楚で上品な美人さんだわ。
自分で見ても惚れ惚れするじゃない。
部屋を見回すと、壁には繊細なタペストリー、窓辺にはレースのカーテン。
服だって、パステルカラーのドレスがクローゼットにずらり。
これはもう、前世で読んだ小説の「異世界転生」ってやつよね?
でも、まさか自分がその主人公になるなんて、想像もしてなかったわ。
状況を把握しようとしていたら、ドアがノックされて、落ち着いた声が響いた。