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0.目覚め
夢を見ていた。
ぼんやりとした、切れ切れの映像。
何かを強く願う声が、闇の中で響いている。
「……たの……し……く……」
よく聞こえない。けれど、それは確かに心地よい響きを持っていた。
次に映るのは、青白い光に包まれた空間。崩れた柱。割れた床。吹き抜ける冷たい風。
その先に立つのは、幾人もの影。人の形をしているが、顔は見えない。
彼らは何かを話していた。
「……巫女……」
かすかに聞こえたその言葉に、胸の奥がざわつく。
でも、意味は分からない。
気づけば、炎の光が見えた。
焦げた匂い。焼けた大地。
——その中で、誰かが泣いていた。
「……い……たく……ない……」
その声が誰のものかも、分からない。
けれど、胸が締め付けられるように苦しい。
——夢が、黒く塗りつぶされる。
目を開ける。
視界には、何もない。
冷たい石の床。空気は乾いていて、どこか懐かしい。
そして、強烈な飢え。
——お腹、すいた。
それは、ただの生理的な感覚ではなかった。
もっと深い何か。
喉が渇くような、体が求めるような。
「……何か食べよう」
誰に言うでもなく、呟いた。
——それが、最初の言葉だった。