第2話
僕がギルドを去って、数時間。
荷物を自宅に置き、一人で考えていた。
ギルドを辞めさせられたのは何かの間違いなのではと思い、ギルドに戻ってみた。
ギルドの入口に何か貼ってあるぞ。
『グズタ(本名はクスタ)のギルド立ち入り禁止』
正式の書類であると示すように、ハゲでムキムキの男のサイン入りだ。
(いつもは事務の書類を渡しても遅いのに、こんなときだけ仕事が早いんだな。)
「はぁ・・・」
ギルドの入り口で張り紙を見ていると、冒険者の人たちが僕の顔と張り紙を見ながらニヤニヤした顔つきでギルドに入っていく。
(・・・そうか、冒険者の人たちからも疎まれていたのか・・・)
そう思った途端、ギルドの前で立っているのが恥ずかしくなってきた。
僕は寂しい気持ちと悔しい気持ちで心の中を乱され、ギルドから逃げるように走り去っていった。
走っている間、いつもの景色が滲んで見えた。
「はぁ、はぁ・・・ふぅ・・・」
走り疲れて入った酒場で、一人でお酒を飲んでいると、気分が少し落ち着いてきた。
「はぁぁ・・・あのハゲでムキムキのバルダムが、あんな強引にギルドの変革を進めるなんて思ってもみなかったな。」
僕をギルドからつまみ出したハゲでムキムキのバルダムは、最近になってギルドマスターになった男だ。冒険者からギルドマスターになった途端、前のギルドマスターが行っていた運営方法からガラッとやり方を変えた。
僕なりにも努力はしたんだが・・・どうやら、僕はその新しいやり方に合わなかったらしい。
「はぁ〜。これからどうするか・・・」
僕はチビチビ酒を飲みながら、あーでもないこーでもないと悩んでいた。
「こんな所にいたのか、クスタ。」
声をかけられたので振り向くと、そこには僕の知り合い達が立っていた。
「・・・マシュー兄妹じゃないか。久しぶりだな。いつダンジョンから帰ってきたんだ?」
マシュー兄妹に声をかけるが、声をかけられたマシュー兄妹は呆れた顔を見せてきた。
「おいおい、俺達のことより、お前のことを聞かせろよ。ギルドの張り紙を見たぞ、何があったんだ?」
そう言って、僕を間に挟むようにマシュー兄妹が席に着いて、それぞれ飲み物を注文する。
「いつもどおり仕事をしていたら、バルダムにギルドを追い出されちまっただけだ。」
「普通にやってたら追い出されることなんてないはずだよ?」
マシュー妹が僕の顔を覗き込むように見てくる。マシュー妹の目がクリッとしたかわいい顔が近くにある。自分でも可愛いことを自覚しているのだろう。身体を寄せながらあざと可愛くするポイントを押さえてこっちを見てくる。
「普通にやってたつもりなんだが・・・まぁ、事務員ってだけで、バルダムから嫌がらせを受けてたからな・・・」
僕は顔を背けつつ、マシュー妹に伝える。すると、今度は反対側に座っていたマシュー兄が僕の顔を見ながら話してきた。
「おい、クスタ! お前それでいいのか。あんなにギルドを大事にしてたのに……悔しくないのかよ!?」
ドンッ! と空になったビールのジョッキを勢いよく置いて顔を近づけてくる。
(ええい、寄るな酔っ払い! すぐに酔うクセに、格好がいいからと一気飲みとかすんじゃねぇ! ついでにマシュー妹もくっつくな! マシュー兄も負けてられないって肩を組もうとするな! 意味不明すぎるだろ。)
「兄妹揃って絡んでくるんじゃあねぇ!」
絡んでくるマシュー兄妹に挟まれてうっとおしく、深刻な話しどころではないなと思いながらも、何処か居心地の良い空間に、僕の顔と心は緩み、怒り、笑いながら、哀しみを吹き飛ばしてくれたマシュー兄妹に感謝した。
「ハグしてあげるから、ここの支払いはクスタお願いね?」
「仕事辞めたヤツにたかってんじゃねぇよ!」
「妹よ、お前は何を言ってるんだ? クスタをなめるな! こいつは言わなくても払ってくれる男だ!」
「お前もたかってんじゃねぇよ! ダンジョン帰りでお金を稼いできたんだろうが。」
「ハハハ。もう金がないからクスタを探していたんだぜ。」
「金が無いなら、飲んでるんじゃねぇよ! おい、マシュー妹! 追加注文するな!」