表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

#6


 連戦連敗は大台を迎えた。セレモニーでは感謝状と人参でつくられた首飾りが贈呈された。最も縁深い人間はただ「本当に弱い」とだけ評した。更にコメントを求められると、「常に一生懸命走るのは魅力かもしれないが、単に動物として捉えた場合、プロから見れば正直十人が十人とも口を揃えて『魅力はない』と答えると思う」と加えた。後には地元の観光協会から観光功労者としても表彰された。勿論、その時も敗戦後のセレモニーで。


 セレモニー…………。

 人参でつくられた首飾り…………。

 ……………………。

 公衆の面前で、柱に繋がれ、「異端の主導者」の紙の帽子を被せられ、焚刑に処されたフス…………。


 中央の正真正銘スーパースターと共演することとなる。入場者数のあまりの多さに“流刑地”史上初の入場規制。私の馬券購入の為だけのファン専用が設置された。にも拘らず、待ち時間は七時間越えであった。結果は十一頭立てで十位だったにも関わらずウィニングランが行われた。

 付き合わされた稀代の天才――全国に名を馳せるスーパースター。思えば彼は人格者であった。元々は「僕が少しでも地方の助けになれれば」と軽い気持ちでオファーを受けたそうだが、当日二週間前の段階で、加熱し過ぎている私のブームに対し、「あまりにも異常な騒がれ方で正直辟易としている」「生涯一度も勝ったことのない者がどんな賞を取った者よりも注目されているのは理解し難い」「本質からかけ離れた大騒ぎが繰り広げられていることに嫌気がさし、憤りすら覚える」と苦言を呈している。

 私は「立派だ」と思った。

 ただ……、

 ただ、やはり彼は人であり、我が同輩ではないのだ。

 レース当日、“箱庭”を埋め尽くし、眼を輝かせて応援する観客を見て、彼の怒りは消えたのだ。「『一度共演してみたい』との当初の気持ちに立ち返ることが出来た」、そして、「ああ、こういうスターがいてもいいんだ」と思ったという。だけど……、

「それは違うよ」

 彼はその時の熱狂とあの時の熱狂――今から三十年ほど前に中央で繰り広げられたあの芦毛の先達のラストラン――とを重ねて見てしまったのではないだろうか。たとえ僅かであったとしても。だけどね……、

「何もかもが違うんだよ」

 彼の先達とこの私とでは。

 同じなのはそれこそ夥しい人々が熱狂しているというだけ。

 レース後、稀代の天才は「『強い者が強い勝ち方をすることに面白さがある』と僕は思っています。しかし、ここにあれだけのファンを呼び、ニッポン全国に狂騒曲をかき鳴らした彼女に勝ちの味を教えてあげられなかったことには口惜しさを感じています。けれども彼女はファンの心を大きく揺り動かすスターでした」とのコメントを残しているのだが、やはりそれは違うのだ。何もかもが違い過ぎていて……。

 それでも偽物の私に最後まで気遣いしてくれたことにはとても感謝している。ありがとう。紛うこと無き本物のスーパースターさん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ