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パーティーへのお誘い


「ケルシュ、よく似合ってるな。」


「…ありがとうございます、お父様。」


この日のために用意したドレスに身を包んだケルシュは、少し複雑そうな顔をして淡く微笑んだ。



鏡に映った彼女は、淡いピンク生地のドレスを着ており、胸元には同系色の薔薇のコサージュが付けられている。

ここ王都で今貴族女性達に人気の、ごくごく一般的なデザインだ。

よく言えば女性らしく上品で控えめ、悪く言えば個性がなくなんの面白みもない古典的な見た目のものであった。


銀髪の美しいと髪と透き通るような青い瞳、そして小動物のような愛くるしい雰囲気を纏うケルシュには、この可愛らしいドレスが大変よく似合っていたが、本人は何か思うところがあるらしい。浮かない顔をしている。


そんな分かりやすい態度をする娘に、ランロットは小さくため息を吐いた。



「ケルシュ。私もあまり言いたくはないのだがな、お前ももう18だ。見合いが嫌だと言うのなら、せめて自分で相手を見つける努力くらい…」


「お父様!エイトルはどこかしら?」


「…少し前に学園から帰宅していたから、自室にいるんじゃないか。」


「ありがとうございます!」


ケルシュはランロットの小言を遮るように礼を言うと、ドレスの裾を両手で持ち上げ急ぎ足で部屋から出て行ってしまった。

彼女の支度を手伝っていた侍女のクリエはランロットに向けて軽く頭を下げると、慌てて彼女の後を追った。




「まったくあの娘は…」


部屋に一人残されたランロットは額に手を当てていた。



この国でかなりの美人とされる見た目をしているケルシュ。

女性にとって結婚が全てあるこの国にとって、それは大変有利な点であり、この国の女性であれば誰もが手にしたいと望むものだ。


それなのに、ケルシュは結婚適齢期となった16を迎えてから連日送られてくる釣書に全く興味を示さず、父親のランロットは手を焼いていた。


いくら見た目が良いとは言え、19を過ぎれば途端に結婚は難しくなる。この男性優位の世界では年若い女性が好まれる傾向にあるため、時期を過ぎると一気に貰い手が少なくなるのだ。



男性と違って学園に通うことも仕事に就くこともしない貴族女性にとって、親がいなくなった後に頼れる相手は夫しかおらず、嫁ぎ先が全てとなってしまう。


そのような背景もあり、今宵王都で開かれるパーティーに並々ならぬ期待を寄せていたランロット。

そんな親の心を知ってか知らずか、逃げるように自分の元を去っていた娘のことを思うと、頭痛が鳴り止まないのであった。





「エイトル、入るわよ。…ぎゃあああっ!!」


その頃、ノックもせずに弟の自室へと入ったケルシュは腹の底から悲鳴を上げていた。



「無断で人の部屋に入って何勝手に叫び声上げてんだよ。」


エイトルと呼ばれた上半身裸の少年は、床に手をつき腕立て伏せをしていた状態から起き上がり、心底迷惑そうな顔を向けた。


一方のケルシュは口をぱくぱくさせながら、目の前にいるエイトルのことを非難するように指さしている。



「貴方こそ何身体鍛えてるのよっ!やめてっていつも言ってるのに!貴方まで熊みたいになったらどうするのよ!!」


「はぁ?筋肉が無いとモテないんだから仕方ないだろ。ただでさえ、俺は筋肉が付きにくい体質だっていうのに…」


トレーニングをやめたエイトルは、ソファーの背もたれに掛けていた白シャツを手に取って羽織った。

一応ケルシュに背を向けながら第二ボタンまで閉める。



「そっちこそ、そんな格好して何やってんだ?まさか夜会にでも行くつもりなんじゃ…」


「そのまさかよ。北方の辺境伯からの招待状だもの。たかだか伯爵家のうちが断れるわけないじゃない。」


「可哀想だな…」


「でしょ!だからエイトル、貴方にひとつお願いがあって…」


「は?可哀想なのはお前の見た目に騙される被害者のことだよ。どうせその見た目で憐れな男どもをたぶらかしてくるんだろ。」


上着を羽織ったエイトルは、どかっと大きな音を立ててソファーに腰掛けた。


ケルシュよりも2歳年下の彼は、切れ長の青い瞳で上背があり実年齢よりもだいぶ大人びて見える。

その整った見た目で嫌そうな顔をしたエイトルは、ケルシュのことを残念なものを見るかのような目で見返してきた。


「姉に向かってなによ、その目とその言い方はっ!!うちに来たばかりの頃は、私のことを姉様姉様って天使のような可愛さで慕ってくれたっていうのに…」


「おいこの卑怯者。人の黒歴史を勝手に掘り起こすなよ…」


エイトルは組んだ両手の上に額を乗せて項垂れている。



「とにかく!今夜は私と一緒に来て。そして私が熊みたいに屈強な男に絡まれていたら、『俺の女に手を出すな!』って言って肩に担いでそのまま連れ帰ってちょうだい。」


「なんだそれ…お前はどこの国の暴君だ…」


「なんのために日々鍛えてるのよ!華奢な私を担ぐことくらい造作でもないでしょう。たまには姉孝行をなさい!」


「いつも鍛えるなって口煩く言ってくるくせに、ほんと無茶苦茶な奴だな。」


自分の都合しか考えていないケルシュに、エイトルは呆れ返っていた。

今すぐこの部屋から追い出してやりたいのに、その気力すら湧いてこない。




ー コンコンコンッ



「ケルシュ様、そろそろ参りませんと、遅れてしまいます。」


その時、侍女のクリエが凛とした声音で催促をしてきた。



「今行くわ!それと、エイトルも参加することになったから急いで支度をお願い出来る?」


「は!?ちょっと待て、俺は行くなんて一言も…」


「たまには姉のために体を張りなさい!そのくらいしてもバチなんて当たらないわよ。」


「ああもう分かったよっ!」


エイトルは雑に片手で頭を掻くと、腹筋を使って勢いよくソファーから立ち上がった。



こうしてケルシュのゴリ押しにより、パーティーへの同行を強制されてしまったエイトル。


超特急で、クリエの用意した正装に着替えて身支度を整えたのであった。



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