プロローグ
伯爵家の娘に生まれて18年。
10歳の時に三日間高熱で寝込んだあの時から、私の人生は何もかもが変わってしまった。
あれだけ夢と希望に溢れていた自分の人生が突然絶望に支配され真っ暗闇となったのだ。
それは前の人生の記憶を取り戻してしまったから。
今生きているこの世界とは全く別の世界で自由に暮らしていた時の自分の記憶。
女である自分でも、
全てを選べて全てを決められた。
あの時の私には決定権があった。
それがどれだけ特別でどれだけ価値があることかも知らず呑気に平穏に、満たされていても尚文句ばかり言って生きていた。
それを今さら後悔しても遅いというのに。
この世界は何もかもが合わない。
高貴な女性の象徴とされる薔薇の香油も、控えめで従順が好ましいとされるこの国の女性像も、女性には結婚に対する意思決定権がないことも、その何もかもが私には合わない。
好きな香りは自分で選びたい
思ったことは言葉にしたい
結婚は恋に落ちた相手としたい
そんな前の世界では当たり前だったことがここでは何一つ許されない。
ひとつでも己の願望を口にしたのであれば異端児扱いされ、良くて髪を刈り上げて修道院行き、最悪の場合は身分を剥奪され身一つで市井に置き捨てられるだろう。
だから私は、
個を消してこの世界に溶け込まないといけない。
いくら気に入らない世界とはいえ、
苦行のような人生を歩みたくはないから。
弱い私は、自分の感情に蓋をして嘘をついて強烈な違和感を胸に抱いたまま仮初の人生を生きることを選んだ。
それは、10歳の時に己に誓った確固たる思い。
それなのに…
あんなにも覚悟していたというのに
いつかこうなることは予想していたのに
何度も頭の中で想定してきたというのに
私には耐え難いことが一つだけあった。
これだけは絶対に無理だと思った。
それは今まさに目の前に…
「どうしてこの国の男は、熊みたいにデカい奴らばかりなのよ…」
誰にも聞こえないよう、足元に視線を向けたまま小さく悪態をついた。
彼女の好きなタイプとは真逆の、ガタイの良い男達で溢れるパーティー会場の片隅で、美しく着飾ったケルシュは、その可憐な顔を歪めて今にも吐きそうな顔をしていた。
新連載始めました!
相変わらずの溺愛系ラブコメ路線です(´∀`)
どこまでコミカルになるかはケルシュの弾けっぷり次第ですが笑、気になった方はこれから始まる物語にお付き合い頂けますと幸いです。
よろしくお願いします!