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第6章 遺志を継ぐ者  15 バルバロスの変異

 バルバロスは、失明した無色透明の眼を見開き、エーアデの手からライフフォースを(つか)み取った。

 「大頭、いけません」

 「キャプテンバルバロス!」

 「うごぁぁぁぁー!」

バルバロスが(すさ)まじい叫び声を上げた。

 バルバロスは、その場に倒れ込み、苦痛の中、手探りで裁きの杖を掴んだ。

 古代樹の手前で戦う女神の祝福メンバーや海賊たちも、この悲鳴に振り返った。

 「何があったのだ。あの声は海賊バルバロスなのか」

マナツが遠くで起きている出来事を凝視(ぎょうし)した。

 海賊たちも不安を口にする。

 「あ、あれは・・・誰の叫びだ・・・大頭か」

 「ま、まさか、大頭の身に何かあったのか」

 「大頭ー」

 ガイの意識が戻る。

 「う、う・・バルバロスはどうなった」

ガイの目に映ったものは、(だいだい)色の光に包まれたバルバロスが、苦しみ藻掻(もが)いている姿であった。

 「起きろ、起きろ、デューン」

ガイが体を()すると、デューンも意識を取り戻す。

 「ガ、ガイか・・俺は・・・衝撃波・・・あ、バルバロスはどうなった」

 「バルバロスは、ルカの民だったのだ。そして、禁忌(きんき)(おか)してライフフォースに触れたのだ」

 「バルバロスは他の人種になったのか」

 「まだ分からん。でも、時機に分かる」

 「エーアデ、こちらに来い。逃げるのだ」

 メグの叫びに、我に返ったエーアデが振り向く。

 ウァァァァァー、ウガァァァー、バルバロスの苦痛の叫びが大気を裂く。髪の毛は逆立ち白色と変色し、背から肩までの筋肉がボコボコと、熱湯が沸騰(ふっとう)しているかの様に半球を描いては消えていく。

 エーアデは、イワンの下に走り出した。

 「メグ様」

 「エーアデ、危険だ。この場を離れろ」

 「メグ様、すみませんでした。私が迷っていたばかりに」

 「それは良い。早く逃げろ」

 「今度こそ、メグ様をお助けします」

エーアデはメグの上に乗っている幹に手をかけ、懸命に動かそうとする。しかし、幹はびくともしない。

 「私は良い。早く逃げなさい」

 エーアデは両手で幹を抱え、転がそうとしたが、幹から伸びる枝が邪魔になり小枝が揺れるだけであった。

 グオォォォッ、バルバロスが、雄叫びを上げて立ち上がった。バルバロスの肩から、胸から、背から、腿から次々に筋肉が競り上がってくる。体長も既に白熊獣人のリッキを越えている。

 バルバロスは人とは思えぬ(うな)り声を発して、我武者羅(がむしゃら)に裁きの杖を振り回している。正気を失っていることが、容易に分かった。

 「これは、やばそうだな。ルカの民って、毎回こうなのか」

デューンがガイに問いかける。

 「俺も、ライフフォースで変異するルカの民を見たのは初めてだ」

 「先ずは、あっちを助けるか」

 「仕方ないな」

 デューンとガイは、エーアデの下に駆け寄り、幹を持ち上げた。

 「おい、お前、イワンを引っ張り出せ」

 エーアデは、メグの両脇に手を回して引き()りり出した。

 「・・・ありがとう」

 エーアデが2人に礼を述べ、すぐにメグを支えて立ち上がらせようとした。しかし、メグは激しい息遣いをしたまま、立ち上がれない。

 「待て、無理をさせるな。この様子だと、どこかを骨折しているかもしれない」

 「え、メグ様・・・大丈夫ですか、メグ様、メグ様・・・」

エーアデは涙目になって、メグの顔を(のぞ)き込んだ。

 「いいかよく聞け。俺たちはあのバルバロスを(ほふ)る。イワンを助けたければ、お前が仲間の海賊のところまで背負って行け」

デューンが、エーアデの頬を摘まんで言い聞かせた。

 「はい、私はエーアデ、この方はメグ様」

 「分かった。エーアデ、早く行け」

 「おい、デューン、バルバロスがそろそろ危険だぞ」

 ディーンが顔を上げてバルバロスに視線を移した。

 バルバロスは、3m近い上背と赤黒い皮膚、異常に隆起(りゅうき)した筋肉を(まと)っていた。最も顕著な変異は眉間から1本の角が伸び、背からは蝙蝠(こうもり)の様な翼が生えていたことだ。

 「ガイ、あれがバルバロスか。あの姿に、俺は見覚えがある」

 「デューン、俺は壁画で見たことがある」

 「「あれは、魔族だ」」

 グオォォォーウ


 『テラ、魔族だ』

 「え、マウマウ、ここに魔族がいるの」

 『今、魔族が生まれた。そして、その魔族は、テラの今まで出会ったどの魔族よりも魔力が大きい』

 「何ですって」

テラは、古代樹の北に目をやった。

 マナツもこの異変を目撃し、立ち尽くすのみであった。

 「・・・あの、赤黒くて翼がある奴がバルバロスなのか」

 「キャプテン、あ、あれは魔族だ・・・」

歴戦の戦士で剛の者であるリッキでさえ、魔族の姿に動揺を隠せなかった。

 「き、危険。わ、私の尻尾が、最大級の警戒を告げています。あ、あれは双子島で・・・私たち4人を屠った魔族より危険だと・・・」

ハフは双子島での記憶が鮮明に(よみがえ)り、その耳は後ろ向きに閉じ、短剣を持つ手が小刻みに震えていた。

 「わ、儂も、震えが止まらんぜよ」

 「・・・思い出します。臨死体験を・・・」

ファンゼムも冷静なダンもアドレナリンが(あふ)れ出ていた。

 「大頭、い、一体・・・どうなっちまったんですか」

 「大丈夫ですよね。元に戻れますよね」

 「大頭ーー!」

立ち上がった海賊たちも、変わり果てたバルバロスの身を案じるだけであった。

 グオォォォーウと、重低音の唸り声が空気を震わす。


 「バルバロス、ついには魔族に成り下がったか。デューン、攻撃だ」

ガイは、戦斧と隼人の盾を構えると、数歩の助走と共に跳躍した。

 両肩の軸を斜めにして独楽(こま)の様に1回転させると、そのまま魔族と変異したバルバロスの頭部へ戦斧(せんぷ)を振り下ろした。

 「うぐあ」

(うめ)き声を上げて、ガイが吹き飛んだ。

 ガイの腹部には、バルバロスが投げた裁きの杖が食い込んでいた。ガイはそのまま宙を舞い、地面を転がった。

 ガイは肋骨を骨折し、多臓器に大きなダメージを負った。

 バルバロスは、両手で拳を握り、空に向かいグオォォォーと雄叫びを上げた。

 ゴゴゴゴォーと、業火(ごうか)の大蛇が口を開け、バルバロスの足元から這い上がる。ゲオォォォーと苦痛の悲鳴を上げたのも束の間、バルバロスの体を()み込んだ業火の大蛇は、破裂するかの様に消し飛んだ。

 「な、俺の業火の大蛇が」

 デューンの鼻先には、巨大な拳が迫っていた。デューンは、体を捻りこれを(かわ)そうとするが、肩と胸を殴られた。デューンはそのまま叩きつけられ、地面を跳ねた。

 間髪入れずに、バルバロスは、右足を振り上げ、デューンを踏み潰そうとする。

 「デューン」

古代樹の前で2人の戦闘を見ていたテラが、悲鳴とも聞こえる叫び声を上げた。その瞬間、テラはバルバロスの振り下ろす右足の脇に浮かんでいた。

 アダマント製の斬魔刀、飛願丸(ひがんまる)軌跡(きせき)が黒い閃光(せんこう)を放つ。バルバロスの右脚が飛ぶ。次に、バルバロスの左(もも)脇にテラが現れた。飛願丸で腿を斬り上げ、そのまま胸に振り下ろす。

 2つの黒い閃光の軌跡を残して、バルバロスの腿が斜めに切断され、胸から血飛沫(ちしぶき)が上がった。

 ゲァァァァーと甲高い悲鳴を残して、両足を失ったバルバロスは地に倒れる。

 テラは、ムーブメントで瞬間移動するとデューンの肩を揺する。

 「しっかりして、デューン、デューン」

 デューンからは返事がない。

 「うぐぐ、ぐぐ」

 倒れたバルバロスから()れてくる(うめ)き声に、テラが振り返る。

 テラは立ち上がって、1歩2歩とバルバロスに近づき、魔族の姿に変異した頭の脇に立った。

 「・・・・苦しまないよう止めを刺すわ」

 バルバロスの切断された両足と胸の傷は、ボコボコと盛り上がっていた。

 テラは無言のまま、飛願丸を振り上げた。

 「うぐ、ぐ・・ま、待て・・・すまなかった」

 「・・・・」

 「私の話を・・・聞いてくれ」

 テラは飛願丸を振り上げたまま、バルバロスの顔に視線を移す。

 「私の志は(つい)えた。・・・最後は人間として終わりたい」

 「・・・・」

 「お前の名はなんと言う」

 「交易・冒険者チーム女神の祝福のテラ」

 「テラ・・・ぐぉ、ゴホッ、ゴホッ」

 テラは、無言のまま飛願丸を降ろした。

 「貴方、その体に変異して、目が見えるようになったのね・・・」

 テラは、血を吐き、苦しそうに咳き込むバルバロスの眼を覗き込んだ。その時、パーンと、バルバロスを中心として、何かが弾けた。穏やかな水面に水滴が落ち、水面に波紋が広がるかの如く、凄まじい衝撃波がテラを襲ったのだ。

 「うっ」

 テラは衝撃波に撃たれ、肺の全ての空気を吐き出し、体を九の字に曲げたまま吹き飛ばされた。地面を足と頭が上下に回転しながら、風に舞う木の葉の様に宙を舞う。やがて、地にはテラの肢体(したい)が横たわっていた。

 バルバロスは、地に伏せるテラを見る。

 「生死のやり取りでは、一瞬の躊躇が明暗を分ける」

 バルバロスの心は、混濁から狂気へ、そして人を惑わす魔族のものへと変化していたのだ。

 ゴボゴボと脚が伸び、胸の開いた傷が盛り上がって治癒していく。

 『テラ、テラ、起きて』

マウマウが思念会話で繰り返す。

 「貴様ー!」

マナツが、リッキが、ファンゼムが、ハフが凄まじい形相で、唸り声をあげながら駆けて来る。そして、バルバロスに一斉に(おど)りかかった。

 マナツの大剣がバルバロスの喉元に伸びる。リッキのウォーメイスが唸りを上げて脇腹に迫る。ファンゼムのロッドが(ひざ)を突く。ハフの短剣が心臓を狙う。ローレライの三連銃から発射した弾丸が眉間(みけん)に飛ぶ。

 パーン

 全てのものが衝撃波で跳ね飛ばされた。

 マナツが飛ばされうつ(うつぶ)せに倒れる。リッキは仰向(あおむ)けで身動きしない。ハフは、肩があらぬ方向を向いたまま地に転がっている。ファンゼムは、白目を向いている。

 「俺は生まれ変わったのだ。ルカの民を越え、地上最強種となったのだ。ふぁははははは」

バルバロスは、尊大(そんだい)に高笑いした。

 ボンと、バルバロスの眉間が炸裂(さくれつ)した。バルバロスの眉間は(くだ)け、額から上が吹き飛んだ。

 ローレライが、バルバロスを狙撃したのだ。

 ボン、ボン、ボン、ボンと心臓が、肺が、腹が立て続けに弾ける。その度に、バルバロスは苦痛の声を上げる。

 バルバロスの頭や胸、腹がブクブクと泡立ち、回復していく。バルバロスは、万寿(まんじゅ)の甲羅から狙撃するローレライには見向きもせず、ガイの脇に落ちている裁きの杖に近づいて行く。

 バルバロスは、右手を裁きの杖に伸ばした。

 ザシュ、という音と共にバルバロスの右腕は宙に舞った。ガイが荒い息をしながら戦斧を構えていた。

 「残念だったな。この裁きの杖は、ルカの民の宝だ。お前ごときが手にして良いものではない」

 「小僧ー!」

 バルバロスが左拳を振り上げた。

ボンと炸裂音がして、バルバロスの左手首が宙に飛ぶ。両膝も次々に炸裂する。ローレライの三連銃が火を()いたのだ。

 ガイは、振り向いて視線を万寿の上のローレライに向けた。ニッと白い歯を見せると、裁きの杖を力一杯、ローレライに向かって放った。

 「ローレライ、受け取れー」

ローレライまでは届かなかったが、万寿の前に落ちた。

 「おのれ、余計なことを」

 ボン、ボン、ボン、バルバロスの(のど)と両肩が炸裂した。

 「うぐぐっ、ゴホッ・・ゴホッ」

 ガイの戦斧が、バルバロスの顎を下から切り上げる。返す戦斧で肩を切り落とした。

 「ぐがぁぁー」

 「今度は、本当に苦しいみたいね」

 バルバロスの耳元で、(ささや)く声がした。

 バルバロスは振り向く間さえ与えられずに、飛願丸の刃が走った。バルバロスは肩から脇腹までを袈裟斬(けさぎ)りにされた。バルバロスは、辛うじて両断を(まぬが)れていた。

 テラが鋭い眼光でバルバロスを刺す。

 「今度は、躊躇(ちゅうちょ)しない」

 テラは、バルバロスを頭から両断しようと高く跳躍(ちょうやく)した。

 パーン、バルバロスの周辺のものは衝撃波で弾き飛ばされた。テラとガイは、再び飛ばされた。

 「ぐ、またか」

ガイは、力を振り絞り立ち上がる。

 「う、う・・・」

テラが朦朧(もうろう)とした意識でガイを見る。テラの目は、まだ焦点が定まっていない。

 「・・ガ・・イ・・大丈夫?」

 「あぁ、俺は平気だ。さっきは、うっかり気を失っちまったが、それさえなければ、俺の体は平気だ。ライフフォースに触れて覚醒(かくせい)した能力の1つだ。俺の体は不死身だ」

 「それなら、まだまだ戦えるわね」

 「勿論(もちろん)だ」

 深手を負ったバルバロスは、まだ身動きが取れない。

 『テラ、待って。また魔力波の衝撃が来て、同じことになるわよ。このままでは、こちらのダメージばかりが蓄積して、ジリ貧よ』

 「マウマウ、だって他に手がないわ」

 『奴は、膨大な魔力を持っているが、魔族に成りたてで、まだ魔法を覚えていない』

 「え、あの衝撃波は魔法ではないの?」 

 『あれは魔法波。魔法ではない。魔力を1点に凝縮(ぎょうしゅく)して、一気に解き放っているだけだ』

 「そんなことができるのね」

 『本来は大した威力はないのだが、奴の膨大(ぼうだい)な魔力あればこその技・・いや、技と呼べるほどのものではない。単純な魔力の発散ね。でも、単純な分だけ速い・・・詠唱は全くなしで、己を中心とした範囲を弾く』

 「その単純な魔力の発散が、この威力じゃ・・困ったわね」

 ガイがテラの目を見る。

 「テラ、何度でも行くぞ」

 「ガイ、分かったわ」

 

エーアデの肩に支えられ、メグは古代樹の周りにいる海賊たちの元に向かって歩いていた。

 「メグ様、大丈夫ですか、もう少しです」

 「ハァ、ハァ、すまない・・・エーアデ」

 「お怪我は痛みますか」

 「・・・エーアデ、あれを持って来てくれ」

メグは斜め前を指さした。

 「あ、あれは裁きの杖。一体どうするのですか」

 「エーアデ、頼む。あれを・・」

 エーアデはメグに(うなず)き、裁きの杖を取って来た。

 「これをどうするんですか」

 「私の信念のままに、すべき事を成す」

 「その体で、まだ何かを・・・無茶です」

 「エーアデ、罪深き私の贖罪(しょくざい)だ」

 「何をなさるのですか」

 「キャプテンバルバロスを止める」

 「でも、メグ様は、大頭と同じ志を持つ、家族なのでは・・・」

 「そうだ。同じ志を持った家族だ。だからこそ、私が止める。

キャプテンバルバロスは、目的のために己と家族を犠牲にした。それは、1人で全てを背負い、(あせ)り過ぎていたからだ。その結果、手段を見誤って選択してしまったのだ。

バルバロスに守られて、それを当たり前としていた私が・・・今度こそ、正さなければならない」


 業火の大蛇が地面をうねり、バルバロスを足元から呑み込む。バルバロスは業火の中で苦痛に藻掻いている。

 「デューン、目が覚めたのね。体は大丈夫なの」

 「ああ、問題ない」

 「おい、注意しろ。テラの後ろに、さっきのメグと海賊たちが近づいて来るぞ」

 テラは振り返ってメグを見た。メグはエーアデに支えられながら、ボロボロになった海賊たちとこちらに歩いて来る。

 「メグ、また邪魔(じゃま)をするつもりなの」

 「違う。キャプテンバルバロスを止めに来たのだ」

 「止めに?」

 海賊たちは、テラに向かって口々に話した。

 「そ、そうだ。俺たちも大頭を止めに来たのだ。あんな凶暴な魔族に姿を変えるなんて・・」

 「できることなら、大頭には、元の姿に戻ってほしい」

 メグが、テラにゆっくりと語る。 

 「これは、私の罪なのだ。

 バルバロスに全ての責任と罪を押し付け、私はバルバロスの心の痛みも、その悪行にさえ見て見ぬ振りをしていた。家族であるバルバロスに、全てを押し付けしまっていたのだ。

 バルバロスの目指す平等で自由な楽園を造る目的を急ぐあまりに、その手段は次第に(ゆが)み始めた。それが分かっていても、止める事はせずに、私は小さな慈悲(じひ)(ほどこ)しを与え、自己満足によって私自身の心を守っていたのだ。

 私こそが、罪深き者だ。私は、家族として、暴走を止める。そして、私自身の罪も・・・」

 「メグ様、それは、行動を共にしてきた俺も同じだ」

重鎮(じゅうちん)のリーンダルが、メグを見て言った。

 「俺たちも同じだ。(しいた)げられてきた被害者としての立場を逆手に、略奪(りゃくだつ)を続けてきた。このライフフォースを使って強い楽園を造るためには、更なる犠牲が出ることも知っていた。大頭の命令だと、大頭に罪を(なす)り付けて、俺たちは(すず)しい顔をしていた」

 「そうだ。大頭は、そんな俺たちの(みにく)い心を知っていても、全てを背負いこんでいた」

 「誰もその事には、触れなかった・・・」

海賊たちも心の内を吐露(とろ)した。

 テラはメグの無色透明の瞳をじっと見つめる。メグもテラの瞳を真っすぐに見る。

 「・・・・分かったわ。メグ、それなら一緒に戦いましょう」

 デューンが業火の大蛇を操りながら、口を(はさ)んできた。

 「おい、メグ。そんな体で大丈夫なのかよ。立っていることも、やっとに見えるぜ」

 「私には、この裁きの杖がある。これならバルバロスを止められる」

 メグの差し出した裁きの杖を、テラはしげしげと見た。長さ50cm程の杖で、先端が渦巻き状に(こぶ)ができていた。黄土色で、木製なのか、陶器なのか、はたまた金属なのか、材質は不明だった。

 「それが、世界4大秘宝の1つの裁きの杖なのね」

 「ああ、そうだ」

 ガイが裁きの杖と聞いてメグに問い質す。

 「二十数年前に、ダディ様が、この地から持って出たルカの秘宝の裁きの杖を、なぜお前たち海賊が持っているのだ」

 「その理由は後だ。今は裁きの杖で、バルバロスを止めることが先決だ」

 業火の中で藻掻いていたバルバロスが、メグの持っている裁きの杖を見留め叫ぶ。

 「グゴァァ、それを、よこせ。メグ」

 海賊たちが、必至の形相でバルバロスに駆け寄り懇願(こんがん)する。

 「大頭、もう止めて下せえ」

 「お願いです。元に戻ってください」

 「・・・大頭、俺たちと、また初めから楽園を造り直しましょう」

 「大頭がいてくだされば、俺たちは何度でも立ち上がります」

 パーンという衝撃波が走った。

 業火の大蛇も、周りにいた者たちも吹き飛ばされた。

 至近距離から魔力波を食らった海賊たちは、身動き1つせずに地に横たわっていた。口から白い(あわ)を吹いている者もいた。

 「う、う・・・大頭・・・」

 「大頭・・・もう、止めに・・して・・」

朦朧(もうろう)とした意識の中で、海賊たちの唇が動いた。

 バルバロスが大声を張り上げる。

 「我は、もはや至高の存在の魔族となった。人類ごときが、この我に意見をするとは、万死に値する」

 バルバロスは、倒れているメグを睨み近づいて来る。

 「メグ、その裁きの杖を、我に渡せ」

 「バルバロス、魔族となったお前は、この裁きの杖を恐れているのだな」

メグがふら付きながらも立ち上がった。

 エーアデも立ち上がり、前に出てメグの壁となる。

 「エーアデ、危ない、下がれ」

 「いえ、下がりません」

 倒れていた海賊たちが、よろよろと立ち上がり、エーアデの前で体を張る。

「若頭、・・残念で・・すが、大頭は、心までも・・魔族に・・・。せめて、その裁きの杖で・・・若頭の手で・・・大頭を止めてください」

 「若頭に、またお辛い役目・・を・・・許してください」

 「お、お前たち・・・」

 メグは、海賊たちの思いと背に、言葉が詰まった。

 海賊たちの前にテラが、デューンが、ガイが立つ。更にその前に、マナツが大剣を構え、リッキが大型のウォーメイスと盾を持ち、ハフが左肩を押さえながら立つ。

 万寿が、ファンゼムとローレライ、レミ、ユリスを甲羅に乗せて脇に来ていた。

 テラは、女神の祝福メンバーの大きな背中を眺め、口元が引き締まった。そして、メグを見る。

 「早いところ、決着をつけましょう」

 「・・・分かった」

メグの唇が、(かす)かに動いた。

メグは、その無色透明の瞳で、バルバロスの瞳を悲しげに見つめた。

 「バルバロス、済まなかった。家族として、私もその罪を背負わせてくれ・・・裁きの杖に命じる。キャプテンバルバロスに、裁きを与えよ!」

 スコールが止み、(あかね)色に光る天に向かって、メグは裁きの杖を(かか)げた。

 

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