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14 ガイVSバルバロス、デューンVSイワン

 ドドドドドッ、ドドドドドッ

 うろの中からガイが殺気を放った。

 「おのれ、バルバロスめ。よくも神聖なライフフォースを盗んだな」

ガイは握りしめた拳が震えていた。

 ガイは、うろの入り口を盾で守るリッキの肩に手を置くと、その頭の上をポンと越えて外に出た。

 「ガイ、何をしている。勝手なことはするな。もう、恐竜はすぐそこだ」

 「ガイ、退け。踏み(つぶ)されるぞ」

マナツとリッキが叫んだ。

 迫りくる恐竜の群れは、目と鼻の先だ。

 「スピリッツケンテイナー」

ガイは、そう叫ぶと両腕を前面に上げ、指先で宙に四角を描いた。宙になぞられた空間が(ゆが)んだ。その空間に穴が開く。

 「いでよ。縁獣(えんじゅう)万寿(まんじゅ)! うろを守れ」

 歪んだ空間の穴を押し広げて巨大な亀が飛び出し、その重厚な甲羅(こうら)の側面でうろを(ふさ)ぐようにして着地した。

 万寿は、フワァァァァーと、欠伸の様な(うな)り声を上げた。

 先頭を走る恐竜たちが、古代樹の入口を塞ぐ万寿の甲羅に激突した。恐竜たちは岩に(くだ)け散る波のごとく、四方に弾き飛ばされていく。しかし、パニックに陥った恐竜たちは、速度を落とすことなくなおも激突してくる。

 ドゴン、ドドゴン、ドゴンと恐竜を弾き飛ばす重低音が、うろの中で空気を震わせた。

 「この巨大な亀は・・・一体」

デューンが身を乗り出して驚嘆(きょうたん)した。

 うろに戻ったガイがデューンに答える。

 「万寿。縁獣種だ」

 「縁獣種? これはどう見ても巨大な亀の魔物だよな。丸みのある強固な甲羅、尻尾の辺りから伸びる白毛、下あごから2本の牙・・・」

 ガイは、隙間(すきま)からポンと跳ね出して、万寿の甲羅に飛び乗った。

 「俺は、バルバロスを許さない」

 後ろを振り返り、うろの仲間に告げた。

 「いでよ、縁獣千寿(せんじゅ)

 歪んだ空間の穴から、クゥーと甲高い鳴き声が響いた。千寿はスピリッツケンテイナーから飛び出ると、万寿の甲羅の上に立った。千寿は、体高5mの美しい丹頂鶴(たちょうづる)であった。巨大な翼を広げ、天を見上げてクゥーと、甲高く一鳴きした。

 なおもガイのスピリッツケンテイナーの中から、グルルルルルと、低い唸り声が響いてきた。

 「一寿、お前を呼んではいない。戻れ」

ガイがそう命じると、唸り声は収まった。 

 ガイは軽業師の様に千寿に飛び乗っり、長い首に(またが)った。

 続いてガイの背中にドンと何かが当たる。

 「ガイ、バルバロスを倒しに行くんだろう。俺も付き合うぜ」

ガイの後ろに、デューンが座っていた。

 「好きにしろ」

 千寿は美しい両翼を広げ、万寿の甲羅の上を数歩駆けた。翼で宙を打つと、颯爽(さっそう)と舞い上がって行った。

 「ちょっと、勝手な真似は止めなさいよ」

テラが飛び去る鶴に向かって叫んだ。

 「テラ、2人の命令違反は、後で厳罰だ。だが、デューンの事なら心配ない。それにあの守護者ガイの身のこなし、只者ではない」

 「リッキ、そんなこと言ったって・・・」

 ギイギイ、バキバキ、ドガン、ドガン、ズズズーと古代樹の中に音が響く。恐怖に駆られた恐竜たちが古代樹の幹に激突して、骨の(きし)む音、(くだ)ける音、(こす)る音が古代樹の中を反響する。うろの入口を万寿が抑えてはいるものの、激しい地響きと振動が伝わってくる。

 「怖いわ・・・うろの中の暗がりがゆらゆらと揺れている」

レミの目が不安そうに宙を泳いでいる。 

 ドガン、ドン、ドン、バキバキ、ギギギー

 「レミ、落ち着け。こうなっては、辛抱だけじゃ。万寿でうろの入口は塞がれ、恐竜たちの侵入を防げただけでも良しとするばい。問題は、バルバロス海賊団じゃな」

 「バルバロス海賊団は、必ずうろをこじ開けよう近づいてくる。その時が勝負だ」


 上空にある千寿の背から見ると、恐竜たちの群れの最後尾には、バルバロス率いる海賊団の走る姿が見えた。キュキュが懸命に恐竜に向かって、黒い炎を吐いている姿が見えた。

 「キュキュも頑張っているぞ」

デューンは思念会話でテラに知らせた。

 「馬鹿、命令無視、身勝手、生意気・・・」

 テラは、思念会話でデューンの悪口を思いつくだけ並べていた。

 「デューン、振り落とされるなよ」

ガイはそう言うと、ティラノザウルスのレックスに跨るバルバロス目がけて急降下した。

 「うひょーう」

デューンは胸の中がフワツと持ち上がった感覚を覚え、歓喜の叫びを上げた。

 バルバロスの跨るレックスの鼻先で、千寿は1度羽ばたき体を上に持ち上げた。レックスは千寿目がけて頭を突き出し、その顎で噛み砕こうとする。千寿は体を少し上げ、長い脚を縮めた。レックスの上顎と下顎の牙が合わさりカツンと音を立てた。

 「デューン、行くぞ。千寿お前は上空で待機」

クゥーと、千寿が甲高い声で1つ鳴いた。

ガイは千寿から飛び降りた。

 「おい、この千寿は炎を吹かんのか」

 「そんなもの吹くわけないだろう」

着地したガイはデューンを見上げて笑った。

 続いて着地したデューンが、バルバロスを睨んだ。両腕を交互に振った。業火の大蛇は、ティラノザウルスに向けて、口を開き、牙を()きだした。

ティラノザウルスは1歩、2歩と後ずさりを始めた。

 「デューン、何だこの炎の生き物は・・・」

 「俺の業火の大蛇さ」

 「炎はデューンの口から吐くんじゃなかったのか」

 「ガイは馬鹿か、人間が炎を吹くか」

 デューンは、業火の大蛇でバルバロスとレックスを囲い、足止めをした。

 「がはははは、お前たちは2人ともまだ子供なのだな・・・冷徹な命のやり取りはまだ知らぬじゃろう。悪いことは言わぬ。歯向かうな。さすれば元の世界にだけは戻してやろう」

 「バルバロス、俺の名はガイ、お前を倒しに来た。ライフフォースを盗む奴は、ルカの守護者として許すことはできない」

 「ぬ、お前は守護者なのか、仕方ない。子どもであっても守護者なら、その任の下に生を終えよ」

 「俺は、デューン。生意気なテラが騒動に巻き込まれ、成り行きでお前を倒す」

 「がはははは、では、成り行きに任せて死ぬが良い。殺れ、レックス」

 そこに海賊たちがぞろぞろと追いついて来た。

 デューンとガイの目が横に動いて、海賊たちを睨んだ。海賊たちは、デューンの業火の大蛇で近寄れず、遠巻きにしている。

 「大頭、まだこの2人は子供ですぜ。手加減をしてやってくだせい」

 「お願いしますだ」

 「命は助けてやってください」

 「ぬ、お前たちは、古代樹のゲートへ向かえ。そして、占拠しろ」

 「へい、分かりやした」

 「大頭、くれぐれもご用心を」

海賊の重鎮リーンダルとバイが、海賊たちを引き連れて古代樹のゲートへと走った。

 「ダックスだけは、この場に残れ。任務の続きだ」

 「あ、はい」

イワンもこの場に留まり、デューンとガイの目を見て品定めをしていた。

 「・・・イワンは、まだここにいるのか。早くゲートを占領して来い」

 「キャップテンバルバロス、このイワンも運動不足の身。少しお手伝いをさせていただきます」

 「・・・イワンよ。此奴らは、それほどの手練れと見たか」

 「1人はルカの守護者。いま1人は、薄桜鼠(うすさくらねずみ)色の肌に白藍(しらあい)色の髪、瞳は透き通るような白藍色」

 「あのティタンの民か」

「恐らく・・・」

 「・・・好きにせえ」

 「ふあぁぁぁー。話が長くて欠伸(あくび)が出た。もういいか。やるんだろう」

 「がはははは、待たせたな」

ガイは、先端に槍の穂先のついた片手斧を構えた。左手には隼人(はやと)の盾と呼ばれている五角形で、白地に赤と黒の渦巻き模様、上部に黒と赤のジグザグ模様が施されている盾を持っていた。

 「では、参る」

ガイは跳躍して、レックスの腹部を斬りつけた。

 レックスから鮮血が飛んだ。レックスの尻尾がブンと唸りを上げて飛んでくる。ダンは、ひょいと蜻蛉(とんぼ)を切ってこれを避けた。

 「あ、ダン汚いぞ。バルバロスとは俺が・・・」

 デューンの背後からサーベルの切先が伸びてくる。デューンは首を傾げて(かわ)す。

 「このサーベルは速いな・・・お前、強いな」

 「ほほー、今のを躱したのか。俺の名はイワン」

 不意にデューンの後ろから、声がした。

 「わ、私の名は、ダ、ダックス・・」

 デューンは背後に全く気配を感じていなかったため、驚いて飛び退いた。

 ダックスは、脚を前後に大きく開き、右手に短剣を構えた。短剣の刃が銀色に反射する。

 「やぁー」

という掛け声と共に、目を瞑ってその場で短剣を振り回し続ける。

 「???」

デューンは、一瞥(いちべつ)の下に視界から(ほうむ)り去った。

 イワンはサーベルを立てて眉間に当てると、そこから凄まじい刺突(しとつ)を連続で繰り出してきた。デューンは、サーベルの刀身をナックルグローブの甲で受け流す。そのまま姿勢を低く落として、イワンの(ふところ)(もぐ)り込む。

 デューンは拳を突き出そうとした刹那、サーベルの切っ先がデューンの鼻先から伸びて来た。咄嗟(とっさ)に頭を(ひね)りこの一撃を躱す。デューンの白藍色の髪がパラパラと舞った。

 「突いた剣先をいつ戻したのか見えなかった・・・速さだけならリッキさん以上だ」

 デューンは、イワンとの間を開けた。

 「あれも躱せるとは・・・想像以上の反応速度と格闘術だ」

 イワンも横に回り込みながら、白い鳥の羽の付いた深緑色のハットから垂れた藤色の髪をかき上げた。イワンはゆっくりとマントを外した。

 

 「恐竜の突撃は、治まったわね。今度は海賊たちが突撃して来るわ」

ローレライが、万寿の背の上から状況を報告した。

 「これより、打って出る。ユリスはうろの中で待機。ファンゼムとダン、ローレライ、レミは、万寿の上で回復と後方支援。リッキとハフ、私は外で戦う。いかに海賊といえども相手は人間だ。命までは奪うな」

 「「「「了解」」」」

 万寿の甲羅を越え、マナツとリッキ、ハフが外に躍り出た。手に武器を振り上げる海賊たちが、必死の形相で襲い掛かって来る。

 パーンと銃声が響くと海賊が仰向けに倒れた。

 「ローレライ、命を奪ってはだめよ」

ハフが、雷魔法を連発しながらローレライに叫んだ。

 「弾丸を石灰石弾に変えておいたわ。骨は折れても死にはしない。それより、ハフ、貴方こそ雷魔法で命は奪っていないの?」

 「低出力にした雷魔法よ。感電して数時間動けなくなるだけよ」

 海賊たちの間を、大剣を持ったマナツの影が、風の様にすり抜けて行く。海賊たちはバタバタとその場に倒れる。倒された海賊にマナツの姿を捉えられた者がどれほどいたであろうか。

 「ひゅー、流石、子連れ女豹の二つ名も伊達ではないわね」

ローレライがマナツの動きに惚れ惚れしていた。

 海賊が次々に吹き飛ばされていく。リッキは素手のまま海賊を鷲掴みにすると、そのままぶん投げていた。

 海賊がリッキの胸に斬撃を浴びせるが、リッキの着込んだフルアーマーが、火花を咲かせて跳ね返す。

 リッキの丸太の様な腕がしなる。鈍い音が響くと、息を詰まらせた海賊が倒れ込む。

 テラは、キョロキョロと上空を見上げている。

 「キュキュ、もう良いわ。戻っておいでー」

 『テラ、キュキュは大丈夫よ。きっと忙しいのよ』

 「マウマウ、でもね。返事がないと心配になっちゃう」

と、テラはマウマウと思念会話をしながら、ドン、飛願丸で海賊を峰打(むねう)ちした。テラの足元には多数の海賊が倒れていた。海賊の振り下ろす斬撃を躱す。ドン、海賊が倒れる。海賊の剣を飛願丸で受けると剣は、音もなく綺麗(きれい)に切断された。ドン。

 「キュキュー。もう戻りなさーい」

 「こりゃーまた、予想はしておったのじゃが、一方的過ぎるばい。戦闘が終わったら、儂とレミの回復魔法は、味方ではなく海賊たちに使わなくちゃならんぞな」

 女神の祝福の対人戦闘を始めて目撃したレミは、開いた口が塞がらなかった。

 「・・・・対魔物、対魔族だったから、これ程とは気づかなかったわ。これが冒険者チームA級の実力なのね」


 ガイは、レックスの鋭く並んだ牙を躱す。ガイの動きは洗練されており、舞う様に体をしならせている。レックスの攻撃は、ガイの体を滑るかの(ごと)く、紙一重の差で躱されていた。

ガイの斧が、レックスの(ひざ)を絶つ。レックスは甲高い声で苦痛の叫びを上げながら、バランスを失い倒れる。バルバロスもレックスと共に横に倒れ、地面に投げ出された。

 横たわるバルバロスの耳にズシャと、不快な音がした。ガイがレックスの(のど)に止めの一撃を浴びせたのだ。

 「盗んだライフフォースは、この箱の中だな」

ガイが、レックスの背に結ばれていた箱を大事そうに地面に置いた。

 ガイから箱を奪い返そうとイワンが動く。

 「おっと、お前の相手は俺だろう。俺に背を向けてもいいのかい」

デューンが、イワンの進行方向を塞いだ。

 「・・・・ぐ、どこまで邪魔な奴だ」

イワンが唇を噛んだ。

 ガイが箱を慎重に開いた。

 「・・・こ、これは、ライフフォースではない。ただの石だ」

 「ふはははは。俺の勝ちだな」

 「ライフフォースをどこに隠した」

ガイは箱を投げ捨てると、片手斧を横たわるバルバロスの目の前に突き出して(すご)んだ。

 イワンは、ライフフォースがすり替わっていたことに驚き、その瞳が横で短剣を振り回しているダックスに動いた。

 「(すき)だらけだぞ」

デューンは、一瞬の踏み込みでイワンの(ふところ)に潜り込むと、右手拳を下から振り上げ、みぞおちに食い込ませた。イワンの体は宙に浮き、息が止まりぐううっと、背を丸め崩れ落ちた。

 「きゃー、イワン様」

ダックスが悲鳴を上げた。

 デューンとガイが同時に天を見上げた。キュルルル、ドゴーンと先ほどよりも近い場所に、隕石が落下した。

 ゴーォンと、衝撃波が空気の歪みとなって迫ってくるのを感じた。その刹那(せつな)、ダックスは数メートル飛ばされた。デューンやガイも宙で(きり)もみとなり、地面へ衝突した。そのまま2人は気を失た。


 「ダックス・・・ダックス・・」

 ダックスが目を開けると、腹ばいになったバルバロスが、目を閉じたまま顔と手を左右に振り、ダックスを探して呼び続けていた。

 「大頭、ここです。今そちらに行きます」

ダックスはバルバロスの下へ駆け出した。

 ダックスはバルバロスを抱き起した。

「ダックス・・・あの秘密の任務・・・あの2つを・・俺に渡せ・・」

「はい」

 ダックスは目の前の宙を眺めた。

 「アイテムケンテイナー」

ダックスがそう言うと、目の前の空間が開いた。

 ダックスは、アイテムケンテイナーの能力の持ち主であったのだ。そこに腕を伸ばして何かを掴み出した。それを脇に置いた。

 「大頭、預かった裁きの杖です」

 「分かった・・・次に、ラ、ライフフォース・・が入った箱だ・・・」

 ダックスは頷くと、アイテムケンテイナーから箱を取り出した。その箱を開くと輝く拳大のライフフォースが入っていた。ダックスはライフフォースを右手で掴んだ。

 「これが、昨夜、預かった2品です」

 「おお・・・そ、そ・・れを俺の手に・・」

 「止めろ。止めろ、ダックス」

 ダックスは驚いて振り返った。そこには、倒れた樹の幹の下敷きとなっているイワンが、横たわっていた。

 「イワン様!」

 「キャプテンバルバロスに、ライフフォースを渡してはいけない」

 「イワン様・・・すぐにお救いします」

 ダックスは立ち上がったが、足下で倒れている大頭が目に入った。

 「イワン様、ちょっとだけ待ってください。大頭の命が危ういのです・・このライフフォースならば、治るかもしれません」

 「無駄だ。ライフフォースに回復の力などはない。キャプテンバルバロスの目的は別にある」

 「・・・ダックス・・・ライフフォースを・・・早く・・俺に」

 「イワン様、でも・・・大頭が」

ダックスはイワンとバルバロスを交互に見つめた。

 「エーアデ・・・エーアデ、よく聞いてくれ。ライフフォースをキャプテンバルバロスに渡してはならない。悲劇しか生まれぬ」

 「・・・メ、メグ様!」

 エーアデの瞳には、じわじわと込み上げてくるものがあった。

 「エーアデ、そのライフフォースを私に渡すのだ」

 「メグ様」

エーアデは、倒れた幹の下に横たわるメグに向かって歩き出した。


 衝撃波で飛ばされた女神の祝福と海賊たちが立ち上がる。

 「何じゃ、この海賊らは・・・儂らに倒されていた海賊たちまでも、また立ち上がったぞい」

 「・・・信じられん。また立ち上がるのか」

 「立ち上がるのは、これで何度目なのだ」

 「そことその海賊は、立ち上がったのが4度目よ」

女神の祝福メンバーは、倒れても起き上がってくる海賊たちの姿を見て、立ちすくんでいた。 

リーンダルが剣を地につけて、よろよろと立ちながら、(かす)れる様な声ではあったが強い意志を込めて言う。

 「俺・・・たちは、こ、ここで倒れる訳にはいかない・・・皆もそうであろう」

 「あぁ、母・・ちゃんが・・俺を待っている」

 「・・娘が、俺の・・帰りを・・」

 「俺たちは・・皆・・・家族だ」

バイが手にした槍にしがみ付きながら(ふる)い立たせる。

 「立ち上がれ・・・も、もう少しだ・・もう少しで、大頭の・・目指す楽園・・・俺たちの・・楽園ができる。皆の者、立ち上がれ」

 「・・そうだ・・・立ち上・・がれ。家族の・・ために・・楽園を・・・」

 あちこちで倒れていた海賊たちも膝を立て、膝に手を置き、ふらふらと立ち上がってくる。

 「・・・・何度でも立ち上がるこの精神力は、どこから湧いてくるのだ」

リッキが、自問した。

 「まだ立ち上がるとは、もう人の体力を越えています」

ダンは、尋常(じんじょう)ならざる海賊の精神力を理解できずに恐怖を感じた。

 「ボロボロになっても、必死に立ち上がる姿を見ていると、こちらの心が痛みます」

そう言って、レミの顔には、涙が浮んでいた。

 「これほどまでに人を奮い立たせるものは・・・何だ・・・希望・・なのか」

マナツが呟く。

 「・・・希望の力・・」

レミは涙を拭うと、唇が動いた。

 「では、海賊たちには、一体どんな希望があるというの」

ハフも立ち上がる海賊たちを見つめて呟いた。

 「人から財産や家族、命などを奪っていくのが海賊ではないの・・・」

ローレライは顔をしかめた。

 マナツが目じりを吊り上げ命じた。

 「何度立ち上がってこようとも、例えどの様な希望があろうとも、ライフフォースを持ったままこのゲートを通すことはできん。続けるぞ、何度でも倒す」


 「待て・・ダ、ダックスよ」

バルバロスが声を振り絞った。

 エーアデが足を止め、2人を交互に見つめて困惑している。

 「キャプテンバルバロス、今回は、我々の負けです」

 「まだだ。まだ、切り札が残っておる」

 「だめです。それをすれば、貴方はご自身の命、人としての尊厳(そんげん)も失います。私が・・・」

 「イワン、ライフフォースを手に入れる方法は、これしか手がないのだ」

 「キャプテンバルバロス、貴方は海賊たちとその家族の希望なのです。ここは退き、再起を計りましょう」

 「俺は、多くの海賊たちを死なせてしまった。もう引き返せないのだ・・・もし、俺が暴走をしたら、イワン、お前が俺を殺せ。ダックスの力も借りよ・・そのためのダックスだ」

 「キャプテンバルバロス、私は貴方の命など奪いとうございません・・・・それに、まだ、貴方の志を受け継ぐ海賊たちがいます。彼らは(あきら)めずに何度でも立ち上がる事でしょう」

 「(はる)か昔に海を越えたルカの民と、ダディ・ナ・プロジャナタ様、その妻シュリ様、そして、14人の守護者たちの遺志(いし)・・・ダディ様たちは、俺がその遺志を成し()げる事を待っておるのだ」

 「父と母、その守護者たちは、もういません。遺志は、これから次代へと引き継いでいけば良いのです」

 「イワン、いや、メグ様にも見せたかった。あの偉大な指導者ダディ・ナ・プロジャナタ、慈愛(じあい)に満ちたシュリ、14名の守護者たちの雄姿。正に(しいた)げられてきた者たちの光であった」

 バルバロスは、顔をイワンに向け声を振り絞る。

 「メグ様。海賊たちを頼みましたぞ。俺の家族です・・・」

 バルバロスは、ダックスの脚にしがみ付いて立ち上がり、ライフフォースに右手ゆっくりと伸ばした。そして、ダックスの顔を覗く様にそっと(まぶた)を開いた。

 ダックスが驚愕(きょうがく)して叫んだ。

 「大頭、その瞳の痛々しい傷跡・・・いえ、それよりもメグ様と同じ」


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