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11 テイマー・バルバロス

 前方の熱帯樹のソテツがガサゴソと左右に揺れた。鬱蒼と茂る葉と葉の間からティラノザウルスの鋭く獲物を狙う眼が見えた。

 「キャプテンバルバロス、ティラノザウルスは1時の方向です」

 バルバロスは杖を突きながら、1歩、2歩と前に足を進めた。

 「距離15m。至近です」

 「大頭・・・」

海賊たちは、恐怖とも、祈りとも似た声でざわめく。

 しー、とバルバロスは、(まぶた)を閉じたまま口に手を当てた。左手をティラノザウルスに突き出し、人差し指と中指を絡めて印を結んだ。

 ティラノザウルスのキョロキョロと動き回る黒い眼球に、バルバロスの肢体が映っている。グルルルッ・・・グゴォォォーンと唸り声を上げた。

 海賊たちはその(うな)り声に、1歩、2歩と後ずさりする。

 ティラノザウルスは音を殺して脚を前に忍ばせる。

 バルバロスは左手の黒い杖を投げ捨てた。光を失った目は閉じられたままであったが、恐らくその瞼の下では、眼光鋭くティラノザウルスを射すくめていた事であろう。

 バルバロスの後方でイワンは、音と立てずにサーベルを抜いた。

 ダックスもイワンの背後で、反りのある短剣を構えた。短剣の切っ先は震え、ダックスの歯がカタカタカタと音を立てていた。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・・・」

海賊たちは呼吸を忘れ、ただティラノザウルスの並んだ恐ろし気な牙へと、視線が釘付けになっていた。

 ドローッ、ボタボタボタ・・ティラノザウルスの開いた口から、(よだれ)がダラダラと(したた)り落ちる。バルバロスのすぐ前に()れ、それが足元へと近づいて来る。バルバロスの耳は、ティラノザウルスとの距離を正確に感じ取っていた。

 ドバドバドバッと唾液が、バルバロスの頭を濡らした。バルバロスの頭から(あご)を伝い、ボトボトッと滴り落ちる。しかし、バルバロスは微動だにしない。

 次の瞬間、鋭い牙が無数に並ぶ顎を開き、バルバロスを頭上から喰らいつこうとした。

 「待て!」

凄まじい気迫で叫んだ。

 バルバロスは、左手で結んだ印をティラノザウルスの鼻先まで伸ばしている。この迫力に気圧された海賊たちは、思わず悲鳴を上げた。

 バルバロスは左手をゆっくりと降ろし始める。ティラノザウルスはバルバロスの印を眼で追い、その頭もゆっくりと低くなる。バルバロスは、右掌をゆっくり、ゆっくりとティラノザウルスの頭上まで伸ばす。

 ティラノザウルスは、グゴォッ、グルルルッと唸り声を上げ、牙を()き出し、バルバロスの右掌を威嚇(いかく)した。バルバロスは、一旦右手を戻したが、再び右掌を慎重に頭に近づけた。ティラノザウルスの眉間に優しく触れるように、徐々に手を置いた。

 「伏せろ」

ティラノザウルスに低く威厳のある声で命じた。

 ティラノザウルスは、後ろ足を折り曲げ、腹と(のど)を地面に着けた。

 「やったぞー」

 「おぉ、流石(さすが)は大頭だ」

 「万歳!」

海賊たちから歓喜の叫びが上がった。

 イワンも胸から大きく息を吐きだすと、サーベルを(さや)に納めた。ダックスは短剣を両手で構えたまま震えている。

 「ダックス、もう良いぞ」

 「・・・・」

 ダックスは、身動きせずに、歯をカタカタと鳴らしている。

 イワンの(てのひら)がダックスの短剣を握った拳を優しく包み、ダックスの指を1本1本開いていった。イワンがダックスからナイフを取ると、ダックスはその場でへなへなと座り込み、動けなくなった。

 バルバロスは、ティラノザウルスの首を()でながら語りかけた。

 「お前の名は、レックスだ」

 レックスは、グゴォッと頭を振りながら唸った。バルバロスは伏せたレックスの首に跨った。

 「立て、レックス」

 レックスは立ち上がり、大きく開いた鼻の穴から、長い息を吐いた。その鼻息で近くの草が(なび)いた。

 「レックスに跨った大頭。格好いいですぜ」

 「この世の王者の風格だ」

と、海賊たちが大頭を見上げて称えた。

 ダックスはへたれ込んだまま、震えながら声を出した。

 「イ、イワン様、大頭はやっぱり、す、すごいですね。まさかあの、あのティラノザウルスを使役してしまうとは・・・」

 「あぁ、驚きだな。ティラノザウルスを恐れぬ胆力(たんりょく)に、改めて畏敬(いけい)の念を覚える」

イワンは、偉大なバルバロスを見上げ、誇らしげに微笑んでいた。

 レックスの(あご)から(よだれ)(したた)り、座っていたダックスの頭にドロッと降りかかった。

 「きゃー、嫌ーっ」

 ダックスは、恐怖と気持ち悪さで黄色い悲鳴を上げ、頭を押さえて地団駄(じだんだ)を踏んだ。

 「「「あはははは」」」

海賊たちは、緊張が解けほっとしたのであろう。腹を抑えて心の底から大笑いした。

 イワンが、首に巻いていた赤に金の刺繍(ししゅう)があるネクタイスカーフをダックスに渡す。

 「これで拭け」

 「イワン様のネクタイスカーフでなんて、とんでもない」

 「それなら、俺が()いてやる」

イワンはダックスの首元を抱えて、水色の長いターバンの上から頭の唾液を(ぬぐ)った。

 「ダックス坊ちゃんには、世話がかかるねー。ねぇ、若頭」

 ダックスは顔を真っ赤にして、からかった海賊を(にら)みつけた。

 「ライフフォースを収めた箱は、このレックスの背に結ぶ。結べ」

 「へい」

 海賊たちが、恐る恐るレックスの背に箱を括り付けた。

 レックスが立ち上がると、バルバロスは、天を見上げて一人呟いた。

 「イグ、よく任を果たした。さらばだ・・・」

 言葉は密林に吸い込まれていったが、イワンはバルバロスの唇を読んでいた。

 「さあ、ゲートへ向かうぞ」

バルバロスがレックスの首に跨り、前方を指さした。


 バルバロス海賊団は、低い丘の上で野営をしていた。

 海賊たちは、数人ずつのグループに分かれ、4か所の焚火(たきび)を囲んでいた。どの海賊たちの顔にも、疲労と不安の色が隠せない。海賊たちは、揺れる橙色の炎をただ黙って見つめていた。

 息苦しさに1人の海賊が口を開いた。

 「・・・なぁ、そう言えば、大頭がレックスを使役してから、俺たちも随分楽になったな」

 「あぁ、全くだ。恐竜に襲われる事が無くなったよな?」

 「レックスは、最強の恐竜で、見るからに強そうだからな」

 「全く大頭は大したものだ。そのレックスを使役しちまうなんて、たまげたよな」

 「そうだそうだ。あのレックスと1対1の睨み合いをした大頭の肝っ玉の太さには、驚きだぜ」

海賊たちはバルバロスへの称賛を口々に言い合い、明るく振舞っていた。だが、どの海賊の心にもそれとは異なる気持ちが渦巻き、空騒ぎと感じていた。

 何時しか海賊たちが黙る。

 「・・・・」

 「・・・・・」

 焚火がパチンと跳ねた。

 「・・・・」

 「・・・無事に帰りてぇなー」

 「・・そうだな・・4隻の船に乗り込み、意気揚々とキプロス諸島のアジトから出航したのが、随分前の事の様に感じるな。俺は娘に会いたい」

 「・・・俺もだよ」

 「・・・はぁ、仲間も大勢喰われちまったしな・・・」

 「次は・・・次は、俺・・かな・・・」

 重鎮リーンダルとバイも、手下の海賊たちにかける言葉を失っていた。


 「イワン様、飲み水をお持ちしました」

 イワンは、見張りに立っていた。最強の恐竜であるレックスが目を光らせているとはいえ、ここは太古の密林の中である。一瞬の気の緩みから、命を失うことになる。

 ダックスの差し出したコップがガタガタと震えていた。

 「どうした、ダックス。手が震えているぞ」

 「い、いえ・・・何でもありません」

ダックスはコップを持った震える右手を、左手で抑え込んだ。

 「先ほど、キャプテンバルバロスがダックスを呼んでいたが、何か言われたのか」

 「・・・大丈夫です。大頭から、明日の任務をお伝えいただいただけです」

 「本当に大丈夫なのか」

 「はい・・どうぞ、これをお飲みください」

 「ダックスか。ありがとう。いただくよ」

 イワンは、水を一気に飲み干した。その横顔をダックスがじっと見ていた。

 「ダックス、額に汗を浮かべているぞ。怪我が痛むのか」

 「怪我などしていません」

 「走っている時に、息苦しそうにもしていたな」

 「問題ないです」

 「分かった。復路のペースは上がった。明日の夕方には、ゲートに到着するだろう。何かあったら俺に言え」

 「はい、ありがとうございます。・・・・それから・・・」

 「ダックス、どうしたのだ。はっきり言いなさい」

 「・・・イワン様は、大頭の無理な命令にも従っていますね。何か理由があるのですか」

 「・・・ダックスにはそう感じるか・・・特別な理由などない」

 「で、でも」

 「・・・強いて言うなら、キャプテンバルバロスが、私の家族だからだ」

 「家族ですか」

イワンは優しい笑顔でダックスの顔を黙って見た。

 「あ、イワン様あそこ・・・」

ダックスが夜空を指さした。

 「美しい流れ星だ・・・しかし、数が多過ぎるな」

 イワンが夜空からダックスに視線を落とすと、ダックスは指を重ねて、流れ星に祈っていた。

 「・・・・、・・・・、・・・・」

 「ダックス、何を願ったのだ」

 「ふふっ、内緒にしておいてくださいね。イワン様が無事でありますように。育ての親のバーバラ婆が長生きしますように。私が無事に元の世界へ戻れますように」

 「ダックスは、流れ星の数だけ願い事をしたのか」

 「勿論です。僕は、この世界の夜空が好きになりました。だって、たくさんのお願い事ができて嬉しいです」

 「そうか。しかし、この世界の空には、恐ろしい事もあるぞ。昼間には、隕石らしきものが落ちて来たしな」

 「僕は、とても怖かったです」

 「そうか・・・明日は早い。もう、寝なさい」

イワンが目で合図を送ると、ダックスはお辞儀をしてから踵を返した。イワンは、この少年の背を静かに見送った。

 「イワン様、見張りを代わります。大頭がイワン様をお呼びです」

 「キャプテンバルバロスが・・・分かった。見張りは頼んだぞ、リーンダル」

 リーンダルは頷くと、懐から小さな林檎(りんご)のような赤い実を出して、イワンに差し出す。

 「この太古の森には、果物が全くありませんでしたが、たった1つだけこの実が落ちていました。バルバロス様に、心のお慰みとして、召し上がってもらえればと思います」

 「承知した。キャプテンバルバロスに、リーンダルからだと言って、これをお渡しする」

イワンは、赤い実を(ふところ)に入れると、バルバロスの下でパキパキと()ぜる焚火を目指して歩いて行った。


 翌朝の復路は、太古の湿潤な気候を象徴するかのような激しいスコールから始まった。

 海賊たちは、ずぶ濡れとなり、足元に視線を落とし、黙々と歩みを進めていた。

 「・・・・」

 「・・・・・」

 レックスによって、恐竜に襲わられることは無くなってきているが、密林の茂みは深くなり、進路を妨げていた。先頭を歩く海賊たちは、草木を剣で払いながら進路を確保する。後続の者は、密林の暗さと激しいスコールで視界が霞み、すぐ前を歩く者の(おぼろ)輪郭(りんかく)を頼りに足を進めるだけであった。

 レックスに(またが)るバルバロスが、足下の海賊に目をやり、鼓舞する。

 「今日まで生き残っ理由が、その腕っぷしよりも、生まれ持った強運の故であるお前たちよ。その強運を信じろ。お前たちの強運の効果で、俺の考えまでも変えられた。キプロス諸島のアジトに着いたら、報酬を3倍とする」

 おおぉ、報酬が3倍と聞きざわめき立つ。海賊たちの視線が上がった。

 「強運の者たちに問う。お前たちが、今しなければならない事とは何だ」

 「・・・そりゃ、ここから無事に脱出すること」

 「そうだ。生きて帰ることだ」

 「こんなところでくたばってたまるかってんだ」

海賊たちは、口々に話し始めた。

 「違う! この馬鹿者たちが」

 「え、・・・では、何ですか」

 「大頭、教えてくだせえ」

 バルバロスが白い歯を見せ、口角を上げた。

 「お前たちがやるべきことは・・・報酬を入れるポケットの数を3倍に増やすことだ」

 「???え、・・・がははははっ、ちげえねえ」

 「あははは、大頭の言う通りだぜ」

海賊たちから笑い声がこだまのように沸き起こる。笑顔で互いの顔を見合った。

 海賊の1人が、服のポケットをひっくり返して、(あわ)てている。

 「あ、俺の服のポケットに穴があいている。こりゃまずい」

 「「「がははははははっ」」」

 バルバロスは、張りのある声で鼓舞する。

 「このスコールも間もなく上がる。さあ、胸を張って金貨をつかみ取れ」

 「「「「おおー!」」」」


 スコールも上がり、蒸し暑さが戻って来た。それでも、海賊たちの足には、力強さが(よみがえ)り、歩む速度が上がっていた。

ドサッと音がすると、胸を押さえてしゃがみ込む者がいた。

 「おい、ダックス大丈夫か」

ベテラン海賊のリーンダルが声をかけた。

 「大丈夫だ。落ちていた金貨を拾っただけだ。お前にはやらんぞ」

 「がははは、これでお前も金持ちだな・・・さあ、肩を貸すぞ」

 「大丈夫だ・・それよりも、俺に構わず、自分が生き残るために前へ進め」

 リーンダルが呆れた様な目つきをして、ふーと一息吐く。そして、イワンに向かって叫んだ。

 「若頭ー、ダックスが、まいっているようです。この辺で休憩にしてはどうですか」

 「止まれ」

若頭イワンが指示を出すと、ダックスの元に歩んできた。

 イワンはしゃがみ込むダックスに視線を落とす。

 「イワン様、大丈夫です。歩けます」

 イワンはダックスの脇にしゃがみ込み、体調を確認し始めた。ダックスの額の汗を見て、顔をしかめた。

 「ダックス、これは汗か」

 ダックスは、慌てて額を腕で拭った。

 「さっきの雨の(しずく)です」

 「脇腹だな・・・見せてみろ」

 ダックスは急いで胸を両手で覆った。

 「大丈夫です。問題ないです」

 「良いから見せろ」

イワンがダックスの両手を払い、脇腹に手を当てた。

 「きゃっ」

ダックスが、声を上げて体を捻った。ダックスの脇腹に激痛が走る。

 「痛たたた・・」

 「肋骨が数本折れているな・・・ダックス、よく我慢して付いて来ていたな」

 ダックスは胸を抑えたまま、懇願するような目でイワンを見る。

 「大丈夫、歩けます」

 イワンは振り向いて、バルバロスに願い出る。

 「キャプテンバルバロス、先に行ってください。私は、ダックスを少し休ませてから、後を追います。それから治療用のさらしを1束ください」

 「ダックスか・・・すぐ先で待つ。イワンにさらしを渡せ・・・皆の者、出発じゃ」

 海賊たちが密林を掻き分けながら歩き出した。

 イワンは腰に下げているポシェットから小さな瓶を取り出して、ダックスに差し出した。

 「・・これは、ポーションでは・・・高価な薬ですので、私にはもったいないです」

 「いいから飲め」

 イワンはダックスの背に腕をまわすと、その唇に(びん)を傾けた。

 「・・・イワン様、ありがとうございます。楽になりました」

 「それは良かった。それから、このさらしを胸に巻いておこう」

 「イワン様、さらしは結構です」

 「あのポーションだけでは、完治はしない。まだ厳しい密林を歩いて行かねばならないのだ」

 「でも・・・」

ダックスは顔を赤らめて、視線を落とした。

 「他に人はいない」

 イワンは、自身が着ている深緑のベストと白シャツのボタンをはずし始めた。

 「な、何を・・・イワン様、お止めください」

 「ダックス、心配無用だ」

イワンはシャツを開き、自身の胸を見せた。イワンの胸は、白いさらしに巻かれていた。

 「あ、えっ、ええっ・・・イワン様・・・そのさらしの下の(ふく)らみは・・・」

 「驚かせて悪かった。私はお前と同じく女性だ」

 「ちょ、ちょっと・・・イワン様がまさか女性。そ、それより・・・どうして男性のふりを・・・」

 「少し事情があってな。それよりダックスの胸にさらしを巻くぞ。手当を済ませたら、皆を追う」

 「は、はい」

 ダックスは、上着を脱ぎ始めた。

 「イワン様は、いつ、私が女性だと気づいたのですか」

 「最初からだ」

 「え、イワン様や皆には、ばれないよう気を付けていたのに・・・私のひとり相撲(すもう)ですかね」

 「・・・ダックスは、相撲が下手だな」

 「・・・・」

 ダックスは上着を置いて、両手を上げた。

 「痛っ」

 「ダックス、このさらしは自分で巻いたのか」

 「はぁい・・婆ちゃんに教わって・・・」

 「これでは、すぐにずれ落ちるし、胸の膨らみもばれる。相撲だけではなく・・・さらしの巻き方も下手だな。いいか、ここを押さえて・・・こう巻くのだ」

イワン様は女性、私にだけその秘密を教えてくれた。ダックスは、驚きと嬉しさが交じり合う胸の中で、何度も反芻していた。

 「さらしはきついか・・・」

 「えっ、いえ、大丈夫です」

 イワンは鋭い目つきをしてから、ダックスの頬を指で摘まみ、微笑んだ。

 「ダックスの大丈夫は、当てにならんからな」

 「本当に大丈夫ですよ。今度は本当です」

慌てて取り繕った。

 「なぁ、ダックス、お前の本当の名を教えてくれ」

 「エーアデです」

 「エーアデ、よい名だ」

 「お尋ねしてもよろしいですか。イワン様のお名前は?」

 「・・・メグ・ナ・プロジャナタ」

 「素敵な名前ですね」

 「よし、巻き終わった・・・水色の長いターバンも巻き直しておけ。ずれ落ちそうだ」

 エーアデは、ターバンをはずして巻きなおし始めた。

 「ターバンをはずせば、エーアデは、青い瞳とショートカットがよく似合う、可愛い女の子なのだな」

 エーアデは顔お赤らめ、ターバンを巻く手が止まる。

 「・・・イワン様、いえ、メグ様・・・こちらを見ないでください」

 「恥ずかしがることはないぞ」

 「・・・私はメグ様に話したいことがあります」

 「何だ」

 「昨夜、大頭に呼ばれて、決して口外するなと念を押された後に、秘密の任務を与えられました。その任務とは、まだ幼く力の弱い女の私が、大頭から1ヶ月前に海賊船員へと大抜擢(だいばってき)されたことと関係があったのです」

 「そうか・・・だが、その理由が何であれ、キャプテンバルバロスは、エーアデを見込んで抜擢し、極秘任務を与えたのだろう」

 「は、はい」

 「それなら、他言はだめだ。その信頼に答えなさい」

 「でも、敬愛するメグ様には、秘密を作りたくないのです」

 「その秘密を打ち明けるべきかどうかは、人の好き嫌いで判断するのではなく、自分の信念に従って判断しなさい。その判断をすべき時が、訪れるまで待ちなさい」

 「はい・・・秘密はまだあるのです。私の元の世界でのことで・・あ、でも、自分の信念に尋ねてからにします」

 「それが良い。では、今の私とエーアデの全ての会話は、他言無用だ」

エーアデは、明るい表情となって頷いた。

 「勿論です。私を信じてくださったメグ様を、決して裏切るような真似は致しません」

 「そうか。では、後を追うぞ」

メグは、エーアデ頭を撫でた。

 「はい、若頭イワン様」

 2人は、密林の草木を払ってできた通路へと走り出した。

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