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第4章 太古の世界  9 キュキュ大暴れ

 「キュキュ! 待ちなさーい」

テラの叫び声よりも速く、太古の森の上空を、キュキュが放たれた矢の様に飛び去って行く。キュキュの狙いは、上空を旋回している翼竜ケツァルコアトルスの群れだ。

 「母さん、キュキュがまた恐竜を襲っている」

 「テラ、キュキュは、この太古の森では戦闘本能が抑えられないようね・・・総員、戦闘態勢!」

 女神の祝福とガイが武器を携えて、円陣を組んだ。ハフは、ケツァルコアトルスに狙いを定め、弓を引き絞る。

 キュキュは口から黒い炎を吐いた。黒い炎はケツァルコアトルス群れを包む。黒い炎に包まれたケツァルコアトルスの群れから、仄かに青い光を放つ球体が飛び出ると、キュキュ目がけて無数に飛んでくる。青い光は、キュキュに吸い込まれるように消えた。

 ケツァルコアトルスは、ステータス値の半分を失い、上空での旋回を維持できずに翼をバタつかせる。飛行速度が目に見えてダウンした。ケツァルコアトルスの群れの数匹は、飛行さえできなくなり落下してくる。

 「古代樹のゲートを出てから、見境なくキュキュが恐竜を攻撃しているわね」

ハフが呆れている。

 「ケツァルコアトルスの群れか・・・俺が止めを刺してくる」

ガイは五角形の隼人の盾を構えて、恐竜に突撃していく。

 「キャプテン、ケツァルコアトルスは飛ぶのがやっとで、脅威とはならんじゃろう」

ファンゼムの言葉に、マナツも目で同意する。

 「そうだな。このまま戦闘を避けて、走り抜けるぞ」

 マナツが戦闘を始めたガイに声を張り上げる。

 「ガイ! 戦闘はせずに走り抜ける。戻って来い」

 「え、もう戦闘は始まっているけど、このまま逃げるのか」

 「ガイ、早よ付いて来んしゃい」

 「ちっ・・・」

 マナツとファンゼムの指示で、隼人の盾を背負いマナツのところに戻って来た。

 「今ならあのケツァルコアトルスの群れを倒すチャンスですが、このままで良いのですか」

 「我々の目的はユリスの奪回とライフフォースの守護だ。ガイ、目的を忘れるな」

 「・・・分かった」

 頭部がバナナの様に長いケツァルコアトルスが、翼をバタつかせながらボトボトと地上に落下してくる巨木の森を、女神の祝福メンバーとガイは走り抜けて行った。

 太古の森は、高温湿潤の気候によって、アーケオプテリスやメタセコイアなどの巨大な樹木が生い茂り、丈の高い草木、沼や湿地帯などがあちらこちらにあって、進行を妨げていた。

 森の切れ目の草原では、首の長い四つ足の巨大な草食恐竜が前脚を上げ、首を高く伸ばしてメタセコイアの葉をむしゃむしゃと食んでいた。その脇では、多数の恐竜が集まり、沼の水を飲んでいる。テラの足元をネズミの様な小さな哺乳類が走り回っている。

 太古の森や草原を走っていくと、大地に大きな半球状の穴と、薙ぎ倒された樹木が方々に見受けられた。女神の祝福たちは、この穴と倒れた樹木を避けるようにして走り続けた。

 「キュキュ。戻っておいで」

テラが上空を飛ぶキュキュに叫んだ。

 キュキュは翼を広げ、滑降してくるとマナツの肩にとまった。

 「もう、キュキュったら、何度言ったら分かるの。勝手に攻撃は止めてね」

 キュキュ、キュイーンとキュキュは鳴く。

 ガイがキュキュを見ながら、テラに声をかけた。

 「この森の恐竜との戦闘は可能な限り避ける。だが、一度戦闘が始まれば命を賭して倒す。これがルカの民の掟だ」

 「ガイ、ごめんなさい」

 「テラ、俺が言おうとしていることは少し違う。ルカの民が戦闘を避けていても、森で出合い頭に遭遇したり、待ち伏せをくらったりすることもある。これが最も危険なんだ。特に肉食恐竜は大きな脅威となるからだ」

 「え、どういうことなの?」

 「古代樹のゲートを抜けて、この森に入ってからは一度たりとも肉食恐竜との遭遇戦や、待ち伏せをくらったことはない。キュキュが恐竜たちよりも先に相手を察知して、先制攻撃をしているからだ」

 「え、キュキュの単独行動が、恐竜の脅威から私たちを守っていると言う事なの?」

 「あぁ、今のところはそうだ。キュキュは索敵能力がずば抜けて高く、おまけに弱体化してくれている。こんな経験は今までなかった」

 「キュキュが、私たちを守ってくれているのか・・・」

 『テラ、ガイの言う通りよ。でも、あのキュキュの嬉々とした眼・・・キュキュに我々を守りたいという願いだけで、索敵と先制攻撃をしているとは言い切れないけれども、結果としてそうなっている』

 「マウマウ、結果としてって、キュキュの仲間を思う心からくる先制攻撃ではないの?」

 『そこまでは分からない。キュキュはこの森に入ってからは、明らかに好戦的になっているので、防衛か狩猟本能に従っているだけか、判断できないわ』

 「そうなんだ」

 思念会話のできるデューンが、テラとマウマウの会話に参加して来た。

 「テラ、まあいいじゃないか。俺たちは誰も死んでいない。怪我も追っていない。おまけに時間も短縮できている」

 「デューン、何言っているのよ。キュキュが1人で恐竜へ向かうたびに、私は心配で、心配で・・・」

 「それは、テラがキュキュを信頼していないからだろう。キュキュはかなり強いぞ。あの黒い炎を吐かれたらステータスがガタ落ちして、もうキュキュを追跡できる生き物なんていないだろう」

 「まあ、それはそうなのだろうけれども・・・それとは別。私は心配なの」

思念会話で話をしていると、リッキが突然話しかけてきた。

 「なあ、テラ。キュキュの索敵効果は絶大だ。このまま続けさせた方が良い」

 「な、リッキまで・・・」

 「ほらな、リッキさんはちゃんと見抜いているよ」

ほら見ろとばかりに、デューンが思念会話でテラに言ってきた。

 「・・・もう、分かったわよ」

テラは、デューンにそう言うと、マナツとガイを見た。

 「母さん、ガイ、キュキュに索敵を続けさせるわ」

 「テラの心配は分かるけれども、それが良いわね」

マナツはテラの肩を叩いた。キュキュも、キュキュ、キュイーンと鳴いた。

 「テラ、大丈夫よ。キュキュなら大丈夫」

レミもテラの顔を見て、何度も頷いていた。

 「・・・慎重なレミもそう思うのね・・・うん、分かったわ」

 先制攻撃のお許しの出たキュキュは、それからというもの嬉々として暴れまくった。アウカサウルスの群れや、草食ではあるが、剣ほどの長い爪をもつ体長10mを超えるテリジノサウルスなどを見つけ出すと、疾風のごとく飛んで行っては黒い炎を浴びせた。ライフフォースへと続く進行ルートは、キュキュの独壇場となっていた。

 「・・・信じられない。危なげなくこの速さで森を抜けられるなんて・・・これで、ユリス様の救出が早まる」

ガイが目を丸くしている。

 「ガイ、もう陽が落ちる。暗闇の移動は危険だ。この辺で安全に野営できる場所はあるか」

 ガイは1時の方向を指さした。

 「あの崖には、入り口の小さな洞穴がある。あそこなら安全だ」

 「よし、そこで野営だ」

 女神の祝福は、ガイの後をついて行った。

 「あ、キュキュ・・・また、行っちゃった」

 「もう好きにさせておけ」

 森に飛び立つキュキュを目で追うテラの背中を、リッキがトンと叩いた。


 「貴方は誰なの・・・」

 「なぜ黙っているの」

 「顔が暗くて良く見えないわ」

黒い影に隠れた顔が笑みを浮かべていることは、テラにも分かった。

 「貴方は、誰なのー!」

テラは声を張り上げると、我に返った。

 マナツがテラの額に手を当て、優しく撫でた。レミも心配そうにテラの顔を覗き込む。

 「テラ、うなされていたわよ」

 「・・・・母さん・・・誰かが私に・・・」

 「テラ、ひどい汗よ、ほら。何か悪い夢を見たのね・・・息もこんなに荒い」

レミはテラの顔を布で拭きながら言った。

 「悪い夢かどうかは、分からないわ・・・暗くて顔は分からなかったけれども、男の人が私に微笑んだの・・・あ、そう男の人だったわ」

 「男の人がテラに微笑んだの?」

 「・・・うん、多分」

 「他に覚えている事はあるの?」

 「・・・ううん、ただ、その人と話さなければならないと感じたの。でも、声をかけても何も答えてくれなくて、何度も夢の中で叫んだの・・・」

 「その男に見覚えは?」

 「・・・それさえ分からない」

 マナツがテラの頬を撫でながら、ゆっくりとした口調で尋ねる。

 「テラ、それは神託の指輪の力で見た予知夢なのか」

 「分からないわ・・・朧げな夢だった」

 ハフとローレライも、心配そうにテラの顔を見つめていた。その後ろでは、デューンとファンゼムが高いびきをかいていた。


 朝日が山々の尾根を照らした。まだ薄暗い太古の世界にそびえる山々の頂きが橙色に輝き、神秘さを際立たせている。

 洞窟の入り口に立ったハフが、ううーと背伸びをした。

 「この世界の全てが、橙色に染められていくようだわ」

 「美しい景色じゃ」

 ハフが振り向くとファンゼムも背伸びをしていた。

 「うん、ここが太古の世界だと忘れてしまいそう」

 洞窟から歩いてきたローレライが、明るくなってきた空を見上げる。

 「神話の世界の様ね・・・でも、あれが現実に引き戻す」

ローレライの視線の先には、翼竜が数匹もう旋回を始めていた。

 「・・・・ここは弱肉強食の太古の世界なのね」

 「美しいものを美しいと感動できることは、生きている証たい。明日も美しい朝を迎えたいものじゃな」

各国を旅して、気に入った土地の方言が自然と混じってしまうファンゼムが、空を見上げて言った。

「さあ、朝食よ」

洞窟の中からレミの明るい声が響いてきた。

 洞窟の奥では、テラはキュキュを抱いたまま撫でていた。

 マウマウがテラへ話しかけて来くる。

 『テラ、キュキュが驚くべき成長をしているわよ』

 「それはそうでしょう。昨日、あれだけ見境なく恐竜に襲い掛かっていたのだから、レベルもあがるでしょうよ」

 『レベルだけのことを言っているのではないわ。もっと根本的なことよ』

 「根本的? キュキュが反抗期で不良になっているとか」

 『・・・違うわ。キュキュの体が変化しているの』

 テラが慌ててキュキュの体を触って確認する。

 「そういえば、角も翼も・・筋肉も逞しくなってきたかな」

 『外見は確かに成長が著しいわ。でも、肉体そのものが変化しているのよ』

 「変化・・・どんな風に?」

 『キュキュに備わっていた細胞が、活性化しているのよ。多分、休眠細胞が目覚め出したのね。でも、それだけではない。戦った敵の遺伝子の一部をコピーして、それを体内で増幅している。やがて、敵の能力も具現化できるに違いないわ』

 「遺伝子のコピー? 具現化? それは何? 危険なの? キュキュはこのままだと・・・別の怪物になったり、・・・し、死んでしまったりするの?」

テラは驚きで息を詰まらせた。

 『テラ、落ち着いて。キュキュは大丈夫だと思うわ。大まかに言えば、キュキュの備わっていた能力が、徐々に開花し始めているということかしら』

 「能力の開花・・・でも、キュキュはキュキュだよね」

 『そうね。キュキュは元々そういう生物なのよ』

 「それならいいわ。順調な成長ということでしょう」

不安で曇っていたテラの顔が、ぱっと明るくなった。

 『テラは、楽天的・・・物事に動じなくなってきたわね。懐が深くなってきたと表現すれば良いのかしら。ふふ、貴方も成長が著しいわ』

 「マウマウ、ありがとう」


 「あぁー、今日も旨い」

と、干し肉を挟んだベグルを頬張りながら、デューンがガイに目をやる。

 「なあ、ライフフォースまであとどれくらいかかるのだ」

 「すぐそこだ。昼前には着く」

 「急がなくても良いのか。攫われたユリスは人質となるから、危害を加えられることはないと思うけど、ライフフォースを奪われる心配はないのか」

 「恐らく大丈夫。現存する7つのライフフォースは一か所に集められ、そこには守り神が付いています」

 「守り神?」

 「ええ、始祖龍ファーブニルがいます」

 「ファーブニルって強い龍なのか」

 ローレライがベグルを持ったまま、2人の会話を聞いて驚愕する。

 「ちょっと待った。ファーブニルですって・・・神々の神話をまとめたエルフの文献で読んだことがある。神話に出てくる始祖龍で、山の様な巨体で尾が三本ある。全ての龍種の起源であり、全ての龍の能力を備えている最強種の1つだと。あくまで神話での話だけれども・・・ダン、ちょっと来て」

 ダンは干し肉を咀嚼しながら歩いて来る。角帽に眼鏡を身に着け、いつもと変わらず、飄々としている。

 「ダン、始祖龍ファーブニルについて知っていることはある?」

 「謎の多い生物だから、その生態については、不明な点が多い」

 「ダンさん、謎の多い生物って、まるで実在するみたいじゃないですか。ファーブニルは神話上の龍でしょう」

 デューンが干し肉を頬張りながら、ダンの言葉を拾った。

 「以前は、神話上の生物だと誰もが考えていました。およそ400年前に、古代の地層からその一部の化石が発掘されるまでは」

 「化石の一部って、ファーブニルは実在していたのか」

 「ルカの里に通じる洞窟の壁画にも描かれていましたよ」

ダンの言葉にガイも頷く。

 「えー、ダンさん、その時に教えてよ」

 その会話を聞いていたレミは、顔が真っ青になり、手からベグルをぽとりと落とす。

 「・・・私たちの目的地は、その始祖龍ファーブニルが、ライフフォース守る場所ということですか」

 「レミ、今更何を言っているんだ。俺たちの目的は、2つ。盲目の黒ひげバルバロスからユリスを救出すること。それから、ジャジャイ爺さんの遺志であるライフフォースを守ることだ。バルバロスは、ライフフォースを狙ってその場所を目指している。当然、俺たちもそこを目指して後を追っているんだ」

 「・・・そのファーブニルは、私たちには危害を加えないわよね」

 「うーん・・・どうなんだ、ガイ」

 「始祖龍ファーブニルは、私たちの心に直接話しかけてくることもあります。会話が通じる相手です。しかし、龍は龍ですので、苛立ちや空腹であれば保証はできません」

 「会話ができるなら、心配なさそうだ」

 テラが呆れて、声を上げる。

 「デューンはガイの話を聞いていなかったの。気分や腹具合で、襲って来ると言っていたのよ」

 「まぁ、ガイはそんなことも言っていたな」

 「どうして、そんなに都合よく考えられるのよ」

 マナツがガイの瞳を見て、確認をする。

 「ファーブニルは、ライフフォースから離れずに、それを守っているのだな」

 「はい、ライフフォースのエネルギーを吸い、糧にしている様です」

 「バルバロスからユリスを取り戻すことに、問題はないようだ・・・そうなると、バルバロスが、ライフフォースを何らかの方法で手に入れた場合か・・・」

 「それは大変なことになります。ファーブニルは、怒りで我を忘れ、狂ったように暴れるでしょう。もはや、会話は成り立たないと考えるべきです。その結果、この世界は、死の大地へと変わるかもしれません」

 「それは、何としても避けなければならない。急ぐぞ、あと10分で出立」

 「「「了解」」」

 女神の祝福メンバーは、手にしたベグルや干し肉を頬張って、水筒を口に当てた。

 テラはサクを召喚する導きのペンダントに手を当てて、思念会話でマウマウに話しかけた。

 「マウマウ、もし、ファーブニルと戦闘になったら、冥神獣ワルキューレのサク様は召喚に応じてくれるかな」

 『テラ、可能な限り、冥神獣ワルキューレは召喚に応じると思うけれども、この太古の世界では無理だと思うわ。この太古の世界では、いくら長寿の召喚神獣と言えども、まだ存在していないはずだから』

 「そうか、サク様は無理か・・・デューンのイフリート様はどうかな」

 『炎祭神獣イフリートは、デューンの体内に宿しているから、召喚は可能だと思うわ』 

 「それは良かったわ。デューン、思念会話で聞いていたでしょう」

 「あぁ、サク様は召喚不可能で、イフが召喚可能だって事だろう」

 「いざという時は、お願いね」

 「任せておけ」

 テラは、心の中に渦巻いていた不安が、霧が晴れるように消えて行った。


 テラは前方に向かって、水平に腕を振る。テラの腕に止まっていたキュキュが、鷹匠の手から放たれた鷹の様に、一直線に恐竜へと向かう。

 キュキュは口から黒い炎を吐いく。仄かに青い光を放つ球体がキュキュに集まる。今日もキュキュが大暴れだ。

 テラもマウマウからキュキュの成長が著しいと言われ、迷いなく恐竜にぶつけていた。

 「よし、走って逃げるぞ」

マナツの指示に、女神の祝福メンバーは全力で駆け出す。キュキュの黒い炎をくらった恐竜は、スローモーションの様な足取りで追いかけて来るが、やがて諦めて引き返して行く。

 「今度はあそこよ」

テラがキュキュの乗った腕を振る。キュキュは放たれた鷹の様に飛んで行く。これを何度となく繰り返していた。

 ガイが驚嘆してキュキュを見る。

 「この太古の世界で、こんなに早く移動できるとは信じられない・・・しかも、安全に」

 「キュキュのお陰だな」

ガイとマナツの言葉に、テラは我が子を褒められた時のように、嬉しさが込み上げてきた。

 「さあ、ライフフォースまであと少しです」

ガイは走る速度を上げた。


 「止まって」

ガイはマナツを静止する。

 マナツは腕を曲げ、拳を握った。女神の祝福は立ち止まると、姿勢を低くして茂みの中から前方を覗き込む。

 ガイが指先で1時の方向をツンツンと指した。

 「あの丘の上の岩陰・・・」

 「・・・・大勢の人が、丘を駆け下りて来るぞ・・・海賊たちか」

 「先頭はオオトカゲに乗った男。その後ろを走る2人の男が担ぐ棒に、箱が吊るされている。きっとライフフォースはあの箱の中だ」

 「あれを取り返すという事か」

 「あっ、あそこにユリス様がいる」

ガイが立ち上がって駆け出した。

 「ガイ、待て」

ガイはマナツの静止を無視して、駆けて行く。

 「キャプテン、無理だ。ユリスを視界に捉えたガイの耳には、キャプテンの声は届いていない」

 「くっ、総員戦闘態勢。ユリスを救出するぞ」

 女神の祝福メンバーは、ユリスを救出すべく丘を目指して駆け出した。その時、キュキュがテラの肩から舞い上がり、丘を駆け降りる海賊たちの上を飛び越し、後方に見える山頂へ突撃して行った。

 「あ、キュキュ、どこへ行くの」

テラの叫びは、太古の空に吸い込まれて行った。

 ローレライが息を切らしながら叫ぶ。

 「あ、あそこ、丘の山頂から巨大な龍が現れたわ」

 キュキュの狙いは、丘の山頂から現れた始祖龍ファーブニルであった。キュキュはファーブニルの周りを旋回し、黒い炎を吐いた。黒い炎はファーブニルの頭部を覆った。黒い炎に包まれたファーブニルは、首を左右に激しく振る。ファーブニルから、仄かに青い光を放つ球体がキュキュの体に吸い込まれていく。

 ファーブニルは激高し、上空に橙色の炎の柱を発生させた。その柱は激しく回転を始め、上空から地上に達すると、炎の竜巻となった。炎の竜巻はくねり、不規則な動きでキュキュを追う。キュキュは、蛇行しながらスピードを上げて逃げる。

 ファーブニルは丘の山頂で立ち止まり、頭の上のハエを追い払うかの如く、キュキュに魔法を撃ち込んでいく。

 ファーブニルと遭遇したハフは、その山猫の耳が後ろ向きに閉じ、焦げ茶と茶色の縞のある尻尾は縮こまって小刻みに震え、警戒信号が最大値となっていた。圧倒的な強者から放たれる圧力が恐怖の電流となって、体内を駆け巡っていくのを自覚した。

 「ブルッ・・・・あれが始祖龍ファーブニル・・・危険度MAXだわ」

 「流石、神話級の魔物だな・・・ファーブニルには近づくな。戦闘は避ける」

マナツが走りながら指示を出した。

 「あれが始祖龍ファーブニルか。きっと海賊の誰かがライフフォースを盗み出したのですね。そこへキュキュの先制攻撃・・・怒髪天を衝く、ファーブニルはかなり怒っているみたいですね」

走るダンが冷静に想像した。

 「そりゃ、えらいこっちゃわ」

ファンゼムの言葉が終わらぬうちに、テラが無属性魔法:ムーブメントで逃げるユリスの下へ瞬間移動した。


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