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24 秘宝と出航

 それから数日間は、交易ギルドや冒険者ギルドへ行き、交易品の売買やヘッドウインド号とミネルヴァの揺り籠号のメンテナンスに追われる日々であった。

 交易品については、交易ギルドに高値で引き取ってもえた。エジックス島ダンジョン2号から出た装飾品や宝石、鉱石等については、固有種からのドロップ品とあって、高額な取引となった。

 女神の祝福は、チームとして交易ギルトA級となり、冒険者ギルドA級と合わせて、押しも押されぬ国内屈指のチームとなった。

 今回の利益については、通常どおりに、半額をエジックス島エジロッタ古代文明の発掘・保護、旅費等の予算とし、残りの半額を女神の祝福のメンバーで分配した。

 初めての分配金を手にしたレミは、その額に驚いていた。レミ一家の年間収入の3倍を越えていたのだ。レミは、その半額を家族に仕送りすることにした。また、父と母、弟のケンにも土産を買うことに決めた。また、時間をつくっては、テラとレミは、マナツと剣の訓練をしていた。デューンもリッキと戦闘訓練に勤しんでいた。

 デューンは、イフリートを召喚したことによって顕在化した思念会話の練習もしていた。小さなトラブルも生まれた。デューンがイフリートとの思念会話をすると、テラにも会話が筒抜けであることがわかった。それは、テラにも同じことが言え、そのことについて互いに不満を言い合っていたことだった。

 キュキュは、この数日で急成長を遂げ、角や尻尾がはっきりと体から伸びてきていた。時より、テラに何かを伝えようとしている姿も見受けられた。


ある日の夕方、ファンゼムがマナツの部屋を訪ねた。

 「キャプテン、実はこれを渡そうかと思うとるんや」

と言って、待ち人の指輪をマナツに手渡した。

 「ファンゼムの次は私の順番だが、所持期間の1ヶ月にはまだ数日残っているが、もうよいのか。諦めたのか?」

 「ああ、もうえぇ」

 「そうか、残念だったな。今日から1か月間は、私がこの待ち人の指輪を()めるよ。運命の人との出会いが早まる効果があると言っても眉唾(まゆつば)ものの感じもするな」

 「いや、そ、そのぉー。もう指輪はいらんのじゃ」

 「なんだ、歯切れが悪いな。いつものファンゼムじゃないぞ。効果が現れなくても気にすることはない」

 マナツはファンゼムを気遣い、励ました。

 「いや、そのー、巡り会ったのじゃ。待ち人に」

 「こんな指輪は眉唾もの・・・えっ、え、えーっ・・・ファンゼム、今なんと言った」

 「儂はマーリンと結婚することにした」

 「な、何ー。マーリンってあの救助者のマーリンのことか」

 「いかにも。今日、マーリンにプロポーズをしたら、受けてくれた」

 「ファンゼムとマーリンか・・・おめでとう。気付かなかったが、考えてみればお似合いのカップルだぞ」

 「この歳になって結婚じゃとか、照れるがのー」

 「何を言っている。めでたいことではないか」

 「マーリン、こちらに」

ファンゼムがドアの外に声をかけた。

 「マーリンじゃ」

 マナツはマーリンに笑顔を向け、

 「おめでとうございます。ファンゼム、マーリンを紹介しなくとも知っているからな」

 「・・・そうじゃた」

 「キャプテンマナツさん、ありがとうございます。突然の事ですが、ファンゼムさんからプロポーズをされました」

 「マーリン、ファンゼムで良いのか」

 「勿論です。とても嬉しかったわ。その一瞬で人生が変わりました。神様のお導きとしか考えられません」

 マナツは部屋から顔を出して叫んだ。

 「女神の祝福、緊急事態だ。直ちに集まれ」


 「何か問題ごとでもあったのですか。キャプテン」

 「問題ごとでも発生したのですか」

 「あ、マーリンさんこんにちは、困りごとでもあるのですか」

 部屋に入って来ると、メンバーが口々に問いかけてきた。

 「まあ、座ってくれ」

 マナツの声に促され、メンバーたちは椅子に掛ける。

 「・・・実はな・・・」


 「ええええ、誠か、ファンゼム」

守りの要、剛の者リッキも驚嘆した。

 驚嘆から祝福へ。祝福から馴れ初めについての質問へと賑やかに会話が進んでいった。

 今は会話が途切れ、部屋の中は静寂に包まれている。それはファンゼムが、

 「待ち人の指輪の効果は期待しとらんかったが、とんでもない効果があるんじゃな」

と言ったからである。

 全員の眼は、ファンゼムの指からマナツの指に集まった。待ち人の指輪への視線が強烈であった。

 ローレライはマナツが嵌めている待ち人の指輪を指さし、

 「そ、そ、それって、やっぱり効果あるのよね・・・」

 ハフの喉がゴクリと鳴り、上ずった声で、

 「そ、そうだよね。この秘宝の待ち人の指輪は順番で、ここから1ヶ月間はキャプテン。その次がリッキ、ダンと続くんだよね・・・」

と言うハフの猫耳は後ろに折れ、焦げ茶と茶色の縞のある尻尾は小刻みに震えていた。

 「マウマウ、聞いた? ハフ姉さんが、待ち人の指輪を、今、秘宝って言ったよ。秘宝と!」

 『聞いたわ。確かに秘宝と言っていたわ。個人的に最高アイテムに格上げしたわね』

思念会話で話しをしていると、隣でデューンが笑いを(こら)えきれずに噴き出していた。

 「もう、デューン、何で聞き耳立てているのよ。失礼よ」

 「仕方ないだろう。2人の思念会話も聴こえる様になったんだから」

テラは思念会話でデューンに告げると、ぷいと頬を膨らました。

 ローレライも真顔でマナツに話す。

 「キャプテン、この秘宝を落としたり、失くしたりしないでくださいよ」

 「今度は、ローレライが秘宝だって、ぷっ」

デューンが思念会話でテラに言う。ふくれっ面したテラも噴き出す。

 「ああ、効果は分からんが、1か月後にはリッキへ渡す」

 「私はダンの次だわ」

ハフが目をキラキラさせていた。

 その時、部屋の扉をノックする音がした。

 「失礼します」

と、アジリカ王国王都アクネの商人ジム・タナーが入ってきた。ジムは、以前にプテラレックスの群れに襲われたところをテラに助けられた。それが縁で、ゲルドリッチ王国での絹の販路拡大を目指すジムを、オーブル港までの移送を請け負ったことがあった。

 「マナツさん、ご無事にご帰還おめでとうございます」

 女神の祝福のメンバーの視線は、この男性、長身、黒い肌に黒髪、黒瞳で愁眉淡麗(しゅうびたんれい)、33歳のホモ・サピエンスに釘付けになった。そして、マナツを交互に見始めた。

 「こ、これって、秘宝待ち人の指輪の効果?」

ハフが裏返った声を出した。

 「え、指輪の効果? 何のことですか」

ジムの問いに、マナツはハフをキッと睨み、

 「何でもありません。ファンゼムがそこにいらっしゃるマーリンさんとご婚約なさったと言うことです」

 「それは、おめでとうございます」

ジムは深々と頭を下げて祝福した。

 ジムは女神の祝福に交易の話で尋ねて来たということだった。

 その夜、ファンゼムとマーリンの婚約祝いの宴が盛大に執り行われた。


 ファンゼムの結婚もあり、女神の祝福は3週間の休暇になった。4週間後には、秘宝古代樹のゲートの発見を目的に新たな航海を開始することとした。

 ダンは感染性の万病に効くエメラルドシードを発芽させ、エメラルドオレンジの栽培実験に取り掛かっていた。

 「ダン、精が出るな。エメラルドオレンジの栽培は上手くいきそうか」

 「キャプテン、まだ栽培ではありません。気候が異なりますから。この種の発芽と生長の条件を研究している段階です。その後に、数段階を経てから本格的な栽培となります」

 「研究とは地道で、時間のかかるものなのだな」

 「扱うものにもよりますが、このデータのよって、多くの人が栽培できるようになります」

 「科学を人類の幸福のために役立てる。その志には頭が下がる思いだ」

 「ところでキャプテン、ダウジング魔道具のLロッドが宝箱から出て来たことは、実に幸運でしたね」

 「あぁ、これで秘宝探索ができる。我ら女神の祝福の夢でもある」

 「未知の解明、私の好奇心が刺激されます。航海が待ち遠しいです」

 「古代樹のゲートについて記されている文献は1つ。それも古代の文献だからな。真偽を疑う気持ちもあったが、Lロッドがその方角を示している」

 「今のところ、我々にしかできない未知の解明ですね」

ダンの言葉にマナツは頷いた。


 「ファンゼムさん。私は冒険者の妻となって考えたのだけれども、夫の無事を心から祈るものなのよ」

 「マーリン、儂は根っからの冒険者で船乗りだ。マーリンの頼みとあっても直ちに引退と言う訳にはいかぬぞ」

 「はい、それは分かっています。だから、私は不安な毎日を1人で過ごしているよりも、人の役に立ちながら生活していたいのです」

 「妻のマーリンが心配する気持ちや待つ身の辛さは分かるのじゃが。それに儂も無事に戻って来たいと心から願ちょる。儂にもしものことがあっては残されたマーリンがと、不安にもなる。待つ身のマーリンの人生・・・」

 「私が言いたいのは、互いを大事に思うその気持ちなのです。その思いは、どの夫婦も同じだと思うのです。ましてや子供がいる夫婦ではなおさら。だから、もしも、交易や冒険で、夫か妻に何かあった場合には、せめてもの一時金が支払われるという保証契約を商品にできたらと思うのだけれども」

 「それはよい考えじゃな。残された者へ一時金が支払われれば、当面の生活はできるかもしれん」

 「保証契約が商品になりませんかね」

 「契約金と支給額によると思うんや。それに一時金欲しさに詐欺が起こるかもしれん」

 「それについてはリスクもありますが、国やギルドにはそのような補償は無いので、残された家族のことを考えると胸が痛むのです」

 「むう。マーリンは優しいのじゃな。これはどうじゃ、例えば、保証契約の商品を初めて購入した場合には、ダンジョン内での罠の見破り方、魔物の特徴と対処の仕方、サバイバル術などの訓練をする・・・しかし、それでは冒険者が面倒になってその商品には手を出さなくなるか・・・これは駄目か・・・」

 「いえ、よい考えですわ。全部は救えません。例え訓練があっても、家族のために生き残る可能性を大きくしたいと願う方のお力にはなれます。結果として無事に戻る方が1人でも増えれば、それこそがこの商品の効果です」

 「そうじゃな。マーリンの言う通りじゃ」

 「この保証契約を商品化するには、まだまだ課題がありそうですから、またご相談させてください」

 「儂ならいつでもよいが、相談者なら商人のジムが良いかもしれんの」

 「そうですわね。新進気鋭の商人ジムさんに相談してみます」

 ファンゼムとマーリンは2人になってこれまでとは違った角度から人生を考え始めていた。


 コモキンの埠頭にリッキとデューンが座って釣りをしていた。

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 デューンの浮きがツンツンと海面に沈む。素早く竿を上げる。

 餌のない釣り針が糸の先にあった。

 「・・・チッ」

デューンが舌打ちをした。

 「・・・・・」

 リッキの浮きがツンツンと動いている。

 「引いているよ」

 「慌てるな。駆け引きだ」

 リッキの浮きがツンツン、キュッと沈んだ。素早く竿を合わせる。

 餌のない釣り針が糸の先にぶら下がっていた。

 「へたくそ」

 「・・・・魚が一枚上手だった」

リッキは針に餌をつけて、それを海面に投げた。

 2人は波に揺れる浮きを眺めている。

 近くの岩で波が砕ける音が絶え間なく聴こえる。

 「なあリッキさん。ティタンの民を奴隷から解放するという俺の目標は、俺とは無関係に達成されたよ」

 「よいことではないか」

 「・・・まあ、そうだな」

 リッキの浮きがツンツン、キュッと動いた。素早く浮きに竿を合わせる。

 竿がしなる。釣り糸が波を切る様に左右へ動く。リッキは竿を上げて手繰り寄せようとする。竿がしなり、竿の先は海面を指している。

 海面近くに鯛の姿が見えた。デューンが身を乗り出して鯛を覗き込む。

 「で、でかい。でかいよ、リッキさん」

桃色と銀に輝く大きな鯛をリッキの大きな手が掴んだ。

 「鯛だ。大物だね」

 「・・・ああ」

リッキはそう言うと手に掴んだ鯛をリリースした。鯛はドボンと音をたてて海面に落ちると、スーッと泳いで逃げて行く黒い影となった。

 「もったいないな。あんな大物を逃がすなんて」

 「鯛は喜んでいるだろう」

リッキはまた海面に浮きを沈めた。

 じりじりとした晩夏の日差しが2人を照らす。カモメが数羽、海面の上を羽ばたいている。

 「・・・・」

 「・・・・」

 「なあ、リッキさん。俺・・・少し怖いんだ」

デューンは波に揺れる浮きを見ながら言った。

 「怖いことがあるのか・・・」

 「イフリートが俺の体内にいて、俺を守ると言っていた。もし、俺が感情を爆発させて、暴走したらと思うと・・」

「そうか・・・それを恐れているなら大丈夫だ」

「万が一、俺が暴走したらリッキさんに止めてほしい」

「俺には、デューンやイフリート様を止める力はない」

「リッキさんなら止められる!」

デューンの言葉に力が入った。

 「・・・そうか。分かった。だが、命を賭けてお前を止める者は他にもいるぞ」

リッキはデューンの顔をちらっと見た。

 「・・・そうかもな。今、メンバー1人ひとりの顔が浮かんだよ」

デューンがリッキの横顔を見て呟いた。

 「そうか」

 「うん」

 「お前が信じられる者たちの顔なのだな」

 「うん・・・そうかもしれない」

 「さて、戻るか」

リッキは立ち上がり、手元の竿をまとめだした。

 「うん、俺が4匹。リッキさんが1匹。俺の勝ちだ」

 リッキは黙ってデューンを見つめた。

 リッキは黙って座り、浮きを海面に垂らした。

 「負けず嫌いだなぁ」

と、デューンはリッキの横顔を見てニヤリとした。


 「ハフ、このスイーツは最高よ」

ローレライは、生クリームに野チゴ(苺)、他にも数種の果物に目を輝かせていた。

 「そうでしょう。甘さと酸味が絶妙なの。コモキン1番のスイーツよ。ローレライ、貴方もこれで『野チゴの畑』の(とりこ)になったわね」

ハフは、スイーツ店野苺の畑の店先の看板を指さした。

 「勿論よ。遥か異国の地にこんなに美味しいスイーツがあるなんて。女神の祝福メンバーになってよかったわ」

 「焼き菓子のスイーツが絶品なのは、オーブルの『メルシー』よ」

 「ちょっとぉ、オーブルはこないだ滞在した街じゃない。ハフ、なんで誘ってくれなかったのよ」

ローレライは不服そうに机を叩いた。

 「貴方は、休暇中なのに部屋に籠っていたでしょう。ミネルヴァの揺り籠号キャプテンからの宿題とかなんとかで」

 「・・・んー、次回のオーブルを楽しみにするわ」

 「ふふっ、2人でもっと美味しい店も探しましょうね」

 「勿論よ」

 「ねえ、ローレライは、この女神の祝福メンバーになるために押しかけて来たのだけれども、実際に航海をしてみてどうなの?」

 「うーん・・幼い時から磨いてきた知識と技術を役立てられていると思うし、クルーを守りたい気持ちは今も変わらないわ」

 「そうなんだ」

 「女神の祝福は、財も名声も手に入れているけれども、他の冒険者チームとは少し違うのよね。金や名声にギラギラしている感じではなくて・・・別の価値も見ている気がするのよ。それはマナツさんだけではなく、メンバー全員が同じものを見ている気がする。でも、みんなそれを楽しみながらやっている感じ。・・・人のため・・・そう、人の役に立つことに喜びを感じている。その価値観が並行してあるのよ。その喜びが大きな推進力になっているのかな。女神の祝福のメンバーと行動を共にして、私もワクワクしているのよ」

 「他の冒険者チームとは別の価値ね・・・どうなのかしらね」

 「ハフは、女神の祝福をどう思っているの?」

 「親しい仲間というよりも家族かな・・・私の家族は亡くなっているので、ここが居場所という感じかな」

 「ハフのご両親は亡くなっていたのね。悪いことを聞いたわ。私も母を亡くし、その母の願いも()んで、今があるという感じね」

 「ローレライもいろいろあるのね・・・さて、おかわりはいかが?」

 「勿論食べるわよ。メニューにあるスイーツから、私の舌にあう最上のものを選ぶわ。私は、決して外さないのよ」

ローレライは、長い銀の髪を左手で掻き揚げた。

 「あははは、私は全メニュー制覇しようかしら」

 2人は食い入るようにメニューを覗き込んだ。


 「レミ、この日焼け止めはいいわよ。無香料だし」

 「ありがとうテラ。何でも教えてくれて助かるわ」

 「ね、レミ、その袋の中はお土産?」

テラが鞄を指さす。キュキュはテラの首に抱き付いたまま、レミの鞄の中を覗く。

 「うん、お土産を買うのがこんなに楽しくて、嬉しい事だったなんて知らなかったわ」

 「レミのご両親は、きっと喜ぶだろうね」

 「ふふ、そうだと嬉しいなぁ」

 レミが靴を選び出した。レミの見ている靴は、実用品の靴ばかりであった。

 「レミ、気に入った靴はあった?」

 「うん、ショッピングをしたことが初めてなので迷うわね」

 「レミの持っているその靴は動きやすそうで、丈夫そうよね」

 「うん、気に入ったわ。でも女の子っぽくないかな」

 「レミに似合うわよ。私もお揃いで履いてもよい?」

 「勿論よ。テラとお揃いかぁー、素敵」

 テラとレミはショッピングが終わると、屋台で焼きハマグリを食べた。

 「焼きハマグリかー。お父さんとお母さん、ケンを思い出すなー」

 「うん、レミのお父さんの焼きハマグリは最高だったね。必ずまた食べに行こうね」

 レミは笑顔で頷いた。

 「ふー、はふー、あ、熱い・・このハマグリは熱い、熱い」

 「ふー、ふー、本当ね」

 キュキュは熱さに耐性があるのか、焼きハマグリをバクバク食べている。

 「ふー、ふー、レミ、マナツ母さんに見てもらっている魔法はどんな感じ、熱、あつ」

 「ふー、マナツさんが筋はよいと褒められた。それから今練習している防御魔法は、苦戦している。熱、味方や自分の前に、壁を造る魔法なのだけど、まだ弱すぎるのよ。でも、焦ることはないって」

 「あ、熱、防御強化魔法の応用で壁を造れること自体が凄いわよ。はふ、はふ、ふー。喉から胸が熱くて苦しかったー」

 「大丈夫? でもテラらしいわ」

 「あははは、おかわり買って来る。レミは?」

 「私も食べるー」

 「キュキュ、キュイーン」

 「キュキュも食べたいのね」

 テラの首からキュキュが飛び立った。テラの周りを旋回している。

 「レミ、ありがとうね。レミと一緒に冒険ができて嬉しい」

 「テラ、私もよ。他の人も良くしてくれるし。一日一日が特別の日になっているわ」

 テラとレミは見つめ合って、互いに微笑んだ。

 「テラ、マナツさんが言っていたわ」

 「何て?」

 「焦ることはない。あなたたちには、まだ未来しかないって」

 「未来しかない・・・か」

 テラとミレは真っ青な空を眺めた。真っ青な空には桃色の短い毛に包まれた雪だるまのようなキュキュが旋回していた。

 「おばさん、焼きハマグリをおかわりー」

 「あいよー」


 「抜錨ばつびょう

 「今回の航海は長くなるぞ。目指すは秘宝古代樹のゲート。針路南東。ヘッドウインド号、出航」

マナツが大剣で南東を刺した。

 「抜錨ばつびょう

 「今回の航海は長くなる。でも心配ない、私たちには未来しかない。目指すは秘宝古代樹のゲート。針路南東。ミネルヴァの揺り籠号出航!」

 交易・冒険者チーム「女神の祝福」のヘッドウインド号は、2本のラティーン・セイル(三角帆)をもつキャラベル船。ミネルヴァの揺り籠号は3本のマストを持ち、フォアとメインマストに横帆、ミズンマストのキャラック船である。セイルは膨らみ順風満帆である。

 見渡す限りの水平線とエメラルド色の海面には、銀色に輝く無数の穏やかな波があった。ヘッドウインド号とミネルヴァの揺り籠号の船首は、うねる波を切り裂いて白い軌跡を生み、船体は揺り籠のように心地よいリズムで上下に揺れながら航行していた。

 テラは温かな晩夏の陽の光を浴びて、甲板で大きく潮風を吸い込んだ。馴染みのある潮風の香りがした。

 瞳にはどこまでも続く海と水平線がキラキラと輝いていた。




               2024.6.21


             ANOTHER EARTH

         ― 魔力がわずか1の魔法使い ―


               黎明航路編


                 終


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