22 エジックス島ダンジョン2号最深部
女神の祝福の一行は草原を歩いていた。緩やかな登りとなっていた。ダンジョンの中であっても、夕陽が暮れようとしていた。
「ねえ。マウマウ、キュキュがもの凄い速さで成長している様に感じるのだけれども」
テラは、空を旋回しているキュキュを見ながら肩掛け鞄に入れているマウマウに話しかけた。
『そうね。戦闘中の飛行能力は段違いにレベルアップしているわね』
「それがね。頭の2本の角と尻尾が伸びてきているのよ。それに翼もしっかりしてきている」
『角と尻尾、翼ね。それだけではないわよ。黒い炎の効果が高くなり、効果継続時間も長くなってきているわ』
「やっぱりね。キュキュの黒い炎で私たちは随分と助けられている気がする」
『このダンジョンは魔物が強くて、群れていることが多いから、キュキュの黒い炎での弱体化は威力を発揮しているわね』
「ちょっと前は卵で、生まれたころはミルクしか飲めなかったのに、いつの間にか肉も魚も野菜も何でも食べるし、戦闘も強くなっている」
『黒い炎で弱体するたびに魔物の生命力を吸収しているからね』
「キュキュが魔物の生命力を吸収しているの?」
「空から魔物が来たぞ。敵ダークグリフィン、戦闘隊形C」
マナツが指示を出した。
『ダークグリフォン、Aクラス、物理攻撃の他に風魔法も使用。数6匹』
鷲の上半身に狼の下半身。大きな茶の翼と黄色い嘴、2本の鷲の足に鋭い爪、狼の胴と後足、尻尾を持った体長4m弱魔物である。
ハフがトレジャーハンターの弓を射る。キュキュが黒い炎を吐く。ダークグリフォンから出た青白い光がキュキュに吸い込まれる。業火が地面から舞い上がり空を乱舞する。マナツがミスリル製の大剣を振るう。テラが刀長1.4mのアダマンタイト製の斬魔刀飛願丸を跳ね上げる。リッキがミスリル製のウォーメイスでダークグリフォンをかち上げる。
緩やかな斜面の続く草原には、ダークグリフォンの死骸が横たわっていた。ダークグリフィンの死骸が消えると黒い羽根や嘴、爪などが現れた。黒い羽根は、音もなく風を切るため矢羽根に適していた。嘴などは防具の手甲の材料として需要が高かった。魔石と封魔石も数個ずつ出ていた。
緩やかな丘の頂上に着くと、その下には草原が広がっていた。その中央には堀と柵に囲まれた環濠集落があった。丘の上からは、環濠集落の堀と柵の中に、四方に物見櫓、高床式の倉庫、竪穴式住居が点在し、中央には高い柵に覆われた円形の場所があることが窺えた。
「キャプテン、あれは村ですかね」
先頭のハフがマナツに言った。
「ここは魔力で作られたダンジョンだ。人間の村に似せて作られていても人間が住んでいるわけではない。棲んでいるとしたら魔物だ」
西日の中で、仄かに橙に染まる環濠集落が見える。
「広い環濠集落ですね。四方500mはありそうだ」
ダンが眼下の環濠集落を眺めて呟いた。
『あれはこの階層ボスのエリアだ。正確にはこのダンジョンはこの3層で終わりだ。だからあそこに最終のダンジョンボスがいる。かなりの強敵だ。気をつけて』
マウマウの言葉を受け、テラがメンバーに言った。
「あれは、このダンジョンボスのエリア、かなりの強敵だって。気を引き締めて」
「テラ、すると、あそこにダンジョンボスがいるのだな」
「うん、マウマウがそう言っている。かなりの強敵だって」
女神の祝福メンバーが頷いた。
「今日の探索はここまでとして、ここでキャンプを張る。明日にあのダンジョンボスと対決だ」
「「「「「了解」」」」」
女神の祝福のメンバーは、丘の上でキャンプを張ることとした。
翌朝。エジックス島ダンジョン2号探索4日目。
ダンジョン内3層は快晴だった。時折穏やかな風が頬を撫でていく。
「マウマウ、いよいよダンジョン2号のボスとの対決ね」
『テラ、決して焦ることなくいつも通りよ。飛願丸の柄の数字はいくつ?』
「12よ。だから虹魚は1.4m×12。 有効射程は16.8mね」
『冷静だな、有効射程を計算していたのね。いつも通りだ。魔力のある魔物に通算12斬撃したということね』
「うん、ダンジョンでは、魔力のある魔物も結構な数いたから」
「出発は予定通り後15分後だ。戦闘装備の最終点検をしろ」
マナツが女神の祝福に指示を出した。
「キュキュー。戻ってきなさい」
テラは遠くを飛行するキュキュに声をかけた。そして、ワルキューレのサクを呼ぶことのできる導きのペンダントが首に掛っていることを右手で確認してから、マウマウを肩掛け鞄の中に入れた。
女神の祝福が臨戦隊形をとりながら環濠集落に近づいて行く。堀の内側にある柵からの激しい攻撃を想定していたが、攻撃を受けずに柵の入口まで来た。堀は幅が5m、深さが3m程だった。堀の内側にある柵は高さが3mであった。物見櫓は高さが15m近くありそうだった。
「キャプテン、環濠集落の入口に向かって、堀に橋が架かっています。このまま入れということですかね」
学者の角帽を被り、眼鏡を掛けているダンが言った。
「・・・ハフ、入口から中を覗いてみてくれ」
ハフは橋を渡り、柵の入口に立った。入口の頭上には青銅製のやや平べったい鐘のようなものが下がっていた。時折吹く強い風で鐘が揺れ、カラン、カランと高い音を立てていた。
「銅鐸ですね」
ダンが入り口の鐘を指さした。
「キャプテン、高い柵に囲まれた場所があります。そこが戦闘エリアかもしれません。特に異常はありません」
「前進する」
マナツの指示で女神の祝福は臨戦隊形のまま前進した。
中央にある7mの柵の前に立った。柵は円形に並べられ、直径が200m以上ありそうだった。
柵の入口に立ったハフが中を覗いて報告する。
「中央に直径100m、高さ5mの台地があります。台地の上はここからでは見えません。台地の周りは砂・・・台地が砂に囲まれています」
「防御強化魔法を掛けます」
レミが言った。
「入るぞ。最前列はハフ。2列目は左からデューン、私、リッキ、テラ。3列目はローレライ、レミ、ファンゼム、ダン。各自10m以上の間隔を開けて慎重に進め」
マナツがいつもより低い声で命じた。
女神の祝福が入口から入ると、入口の柵は閉まった。ダンが押してみたが、もうびくともしなかった。
女神の祝福は互いの距離を確保しながら、中央の台地を目指して、砂の上を慎重に進んで行った。足の裏が砂に取られて滑る。時より吹く風に砂塵が舞い上がった。リッキとファンゼムが目を擦っていた。
突然、風の刃が砂の中から飛んできた。テラは半身になってこれを躱す。テラの左半身をかすめた。テラの肩掛け鞄の紐がきれてマウマウの入った鞄が砂に落ちる。その瞬間にテラの足元の砂が陥没した。直径10m程のすり鉢型の穴が開いた。テラは跳躍してこのすり鉢型の穴から脱出した。鞄の中に入ったマウマウがすり鉢型の穴に落ちていく。まるで蟻地獄に呑み込まれた蟻の様であった。
「マウマウー」
テラが叫んで手を伸ばすが、鞄は中心の窪みに落ちていく。鞄は砂の最深部に吸い込まれていく。
『テラ、だめよ。飛ばないで』
マウマウが言ったその瞬間に、テラはムーブメントで蟻地獄の様な砂の最深部に飛んでいた。
テラは手を伸ばし、マウマウの入った鞄の切れた紐を辛うじて掴んだ。鞄は既に中央の砂の中に没している。テラは渾身の力を振り絞って、鞄を引き上げた。テラの下半身は既に砂に飲み込まれていた。
テラは無属性魔法のムーブメントで脱出を図るが、飛べない。
「何でムーブメントができないの」
テラは胸まで砂に飲み込まれていた。
『テラ、貴方は魔力1の時空術士よ。ムーブメントが7回使えたのは、私の渾身応援があったからなの』
テラは肩まで砂に飲み込まれていた。
「今、マウマウは私の傍にいるわ。ムーブメントを使えるはずでしょ」
『私が穴に吸い込まれて貴方と離れた時に、ムーブメントを使ったでしょう。渾身応援の範囲外たったのよ。その時、渾身応援で7倍になっていた貴方の魔力は1に戻っていたのよ。だから、魔力を使った今のテラの魔力は0。0×7は0なのよ。回復には1日かかるわ』
「このままでは蟻地獄に飲み込まれるわ・・・」
テラの口は砂の中にあった。やがて、テラの頭が砂に没した。テラの左手だけが砂から見えていた。
その時、キュキュがロープを加えて飛んできた。キュキュは加えたロープをテラの左手の掌に巻き付けた。テラは左手でこのロープを掴んだ。ロープが引かれ、テラの上半身が地上に浮かぶ。テラは口に入った砂を吐き出すと、肺一杯に空気を吸い込んだ。
テラはロープの先に視線を移すと、そこにはリッキとマナツがロープを握っていた。リッキとマナツがロープを引く。テラは砂から出ると、すり鉢状の蟻地獄の穴から引きずり出されていく。
穴の最低部から2本の巨大な顎がテラを追って出て来た。テラに向けて顎を大きく開き、テラを滑り落そうと砂を飛ばしてくる。テラは巨大な顎を脚で蹴る。ハフの雷魔法が巨大な顎に命中する。巨大な顎が、動きを止めるとテラは勢いよく引き上げられた。
穴の最低部に業火が落ちていく。砂が高温となり巨大な顎は石焼き状態となった。巨大な2本の顎は、音もなく砂に沈んでいった。
「テラ、間に合って良かったー」
マナツが抱きしめる。テラは、
「母さん、ありがとう。リッキ、皆さんありがとう」
テラは鞄の中のマウマウを慌てて取り出した。
「マウマウ、大丈夫なの?」
『テラ、ありがとう。感謝しているわ。でも、ダンジョンボスにムーブメントは使えない。それだけではなく導きのペンダントに込めるマナもない。だから、ワルキューレも呼び出せないの』
「マウマウが助かって良かったわ。ムーブメントとサク様を呼び出せないのは不安だけれどもしかたないわ」
『この代償は大きいわ。メンバーにも説明して』
テラはマウマウの言葉に頷くと、メンバーに事情を説明した。
「その状況では、一旦退避としたいが、入口は閉じたままだ。ダンジョンボスを倒すしかない」
メンバーはゴクリと唾を飲み込み頷いた。
ハフを先頭にして台地へ上がった。
台地の上は直径100m程であった。その中央にダンジョンボスが控えていた。姿は人間の女性であり頭に金の王冠、白い麻のシャツに朱の簡易な和服、紺の羽衣を纏い、首には翡翠の勾玉が並んだ首飾りを付け、手には太陽を模した杖を持っていた。
『人間の姿をしているが魔物。奴はヒルヨミコ。Sクラスの中でも上位種よ。ヒルヨミコは様々な鬼道で人間を惑わす。そして、ヌエを召喚する。ヌエもSクラスの魔物よ』
「マウマウ、用心するわ」
「戦闘隊形B」
マナツが指示を出す。ヒルヨミコを半円で包囲し始める。
ヒルヨミコは、真っ赤な瞳だけが動き、女神の祝福の9名を見つめる。
『我はヒルヨミコ。か弱き人間どもよ、我の力を恐れ、我を敬うがよい』
ヒルヨミコの紺の羽衣が宙を舞う。太陽を模した金の杖を太陽に向かい掲げた。
太陽が暗くなり始めた。
「いったいどうしたんじゃ」
ファンゼムが辺りを見回す。
「太陽を月の影が隠しています。あれは日食です」
ダンが太陽を左手で遮りながら呟いた。徐々に薄暗くなり始めている。
やがて、太陽が月の影に覆われ、皆既日食となった。辺りは薄暗くなっていた。
ヒルヨミコは、両手の指で印を結んで何やら呪文を唱え始めた。
ヒルヨミコの前方の空間が歪んだ。その歪みから体長6mの魔物が召喚された。
魔物の体は逞しい肢体の虎で、顔はヒヒ。尾は大蛇であった。
『ヌエを召喚したわ。ヌエの動きは速いから気をつけて』
マウマウがテラに言った。
『我の力を恐れよ。我に跪け』
ハフの左足が跪く。ハフは懸命に抗おうとしているが体が跪こうとしている。ハフの両手と両膝が地面に着く。
「ぐうう、ぐ、ぐううう」
と、声が聴こえた。テラはその方向に視線を移すと、女神の祝福の盾役をしている怪力無双のリッキが両膝を着き、今まさに両手を地面に着けようとしている。リッキは懸命に抗おうと全身の力を振り絞り、呻き声を上げていたのだ。
テラは、
「ハフ、リッキ、どうしたのよ、立って。ヒルヨミコとヌエと戦うのよ!」
そう言って2人を奮い立たせようとしている。しかし、テラ自身の視界の半分に地面が写っている。
「え、何が起こっているの」
テラがそう言葉を発した時には、テラの視界には自分の手の甲までもが写っていた。テラは自分がヒルヨミコに平伏していることに気付いた。キュキュがテラを心配して、顔の横に降りて来た。
テラは全身に力を込め、ようやく首を傾けると、マナツとデューンの平伏している姿が見えた。
「マウマウ、体が勝手に動いて行く。なぜなの」
『ヒルヨミコの呪力よ。ヒルヨミコは呪力を言霊にして対象を従わせる。対象の精神を操るのではなく、行動を操る』
女神の祝福のメンバーの誰もが、全身を震わせ言霊に抗おうとしていることが分かった。
ヒルヨミコの甲高い笑い声が響いた。
『無理よ。我の言霊に逆らうことはできない。このままヌエの牙と爪の餌食にしようかしら・・・見たところ貴方たちは結束の固そうなチームね。それなら、互いに殺し合う方がいいわね。そこの白熊獣人よ。ウォーメイスで山猫獣人の頭を潰しなさい』
ヒルヨミコがそう命じると、リッキが全身を震わせながら、ゆっくりと立ち上がった。右手にはウォーメイスを握っている。リッキは平伏するハフに近づいて行き、ハフの横に立つ。
リッキは全身を震わせて抗おうとしている。
「ハフ、に、逃げろ。に、逃げてくれ」
リッキは喘ぎ声のような微かな声でハフに言った。
「・・・・」
懸命に動こうと力を振り絞るハフであるが、立ち上がることもできない。
リッキは平伏するハフを目がけてウォーメイスを振り上げた。
「止めろー」
リッキが叫ぶ。
リッキがハフの首にウォーメイスを振り下ろす。ウォーメイスがドゴーンと大きな音を立てた。ウォーメイスはハフの頭の脇の地面に食い込んでいた。リッキの腰にファンゼムが体当たりをしていた。
「・・・ファンゼム」
「リッキ・・・今のは何とかなったが、儂はもう動けんぞい」
ファンゼムは、リッキの腰を掴んだまま動けない。
『まだ自分の意志で僅かに動ける者がおったか。その中年のドワーフから始末するか』
リッキは左手でファンゼムの肩を掴み引きはがすと、地面に放り投げた。リッキは倒れるファンゼムにウォーメイスを振り上げる。リッキが右手をファンゼムに振り下ろした。
「いやー」
テラの声が台地をつんざく。
ドンとウォーメイスが地面に落ちた。リッキは振り上げたウォーメイスを振り下ろす直前に、その握った指を広げ、ウォーメイスを手放していたのだ。
『なんてしぶといの。いいわ、それならヌエで皆殺しにしてあげるわ』
ヒルヨミコが苦々しい表情で吐き捨てた。
「マウマウ、このままでは、全滅する。どうしたらよいの」
『言霊は強力な呪力で対象の身体を動かす、言うなれば剛の技。ヒルヨミコの集中力を乱すのよ』
テラの脇でキュキュが心配そうにテラの顔を覗き込んでいる。
「キュキュは大丈夫そうね。キュキュ、ヒルヨミコに攻撃をして」
キュキュは、キュイーンと鳴くとヒルヨミコに向かって飛んで行く。ヌエが飛行するキュキュめがけて飛び跳ねた。キュキュを叩き落とそうとヌエの虎の左右の前足が交互に振り下ろされる。キュキュは、急旋回をしてヌエの2本の前足を躱す。ヌエの体の横を高速で擦れ違う。
キュキュの口から出た黒い炎がヒルヨミコを包む。青白い光がキュキュに吸い込まれる。ヒルヨミコがキュキュを睨みつける。女神の祝福のメンバーは言霊の呪縛から解放された。
キュキュは振り向き様にヌエに黒い炎を吐いた。ヌエは黒い炎に包まれながらも、その炎の中から飛び出し、前足でキュキュを叩き落とした。
地面に落ちたキュキュをヌエは虎の前足で押さえつけた。ヌエのヒヒの顔が笑みを浮かべた。ヒヒの口からは鋭い牙が光る。ヌエの背後から飛願丸が迫る。ヌエは跳躍してこの一撃を躱した。ヌエの尻尾の大蛇がテラを睨んでいた。
「言霊に注意よ。ヒルヨミコに魔法を撃ち続けて」
テラがメンバーにそう叫んだ。
『我に跪け』
ヒルヨミコがそう言うと、メンバーの動きが止まった。
「ぐっ、魔法が後手になった」
テラがそう呟くと、言霊による行動制御はなかった。レミが回復魔法をヒルヨミコに連続で撃っている。
「レミ、ナイスよ」
「回復魔法を撃つだけで、ヒルヨミコの言霊の力が途切れるのね。私に任せておいて」
「レミとハフは魔法で、ダンは小型火薬筒でヒルヨミコの言霊を封じて。デューンは業火で一気に勝負を決めろ。私とテラでヌエをやる。ローレライとファンゼムはサポート」
マナツの声が飛んだ。
「よくもリッキを苦しめたわね」
ハフはヒルヨミコにトレジャーハンターの弓から魔力の矢を放った。矢はヒルヨミコの口から喉に入った。
「この矢はダメージを与えられないことが難点ね。でも、一矢報いたわ」
ハフはそう言うと、雷魔法を唱えた。
レミの回復魔法とハフの雷魔法が、間髪を入れずにヒルヨミコに命中する。デューンの手前から業火が湧いた。業火は大蛇が地を這うようにしてヒルヨミコに迫る。ヒルヨミコが風魔法で竜巻を起こし、業火の向きを変える。デューンが両手を左右に動かして業火をコントロールしている。
テラにヌエが跳びかかる。テラは飛願丸を横に払う。空中でヌエは身を翻してこれを躱す。ヌエの着地に合わせてマナツが大剣を薙ぎ払った。ヌエの尻尾の大蛇が悲鳴を上げて、胴から切り離されて地面に落ちた。大蛇は苦しそうに地面でもがいている。マナツは大剣を大蛇の頭に突き立てた。
テラが、ヌエに斬りかかる。ヌエが後ろに跳びこれを躱すが、横からマナツの大剣が虎の腹をかすめる。
テラが踏み込む。飛願丸に浮かぶ数字は12。
「虹魚」
テラは下から上に向けて斬り上げた。ヌエは後ろに跳躍してこれを躱そうとした。虹魚は16.8mの射程の刃となってヌエを襲った。ヌエは空中で両断された。ヌエの肢体はボトッ、ボトと地面に落ちた。
マナツは即座に振り向き、ヒルヨミコを視界に入れた。
ヒルヨミコは竜巻を左右に移動させて、デューンの業火を躱している。
「テラ、加勢に行くぞ」
マナツがテラにそう言うと、テラは飛願丸を構えたまま頷いた。
ヒルヨミコは業を煮やして、最大の呪力を込めて言霊を使う。ヒルヨミコは黒い霧が立ち上る。
『汝らの敵は、汝自身とな・・・』
その時、ヒルヨミコの眉間が炸裂した。ローレライの弾丸が命中したのだ。ヒルヨミコはその衝撃で頭を後ろに傾け、竜巻が止んだ。
「あら、ごめんなさい。私は、決して外さないのよ」
ローレライは、長い銀の髪を左手で掻き揚げた。
リッキが跳躍すると、ウォーメイスでヒルヨミコを渾身の力で脳天から叩いた。リッキは追撃をせず、そのまま後ろに跳ねた。
デューンの業火が大口を開け、ヒルヨミコを呑み込んだ。業火はヒルヨミコもろとも天に舞い上がった。
やがて、ヒルヨミコがドンと鈍い音を立てて台地に落下した。その体は真っ黒に炭化していた。青白い煙と橙に光る火の粉が宙を舞っていた。
リッキは、これを睨みながら
「ハフ、ファンゼム、すまなかった」
「何を言っているんや。なんもなんも」
「大丈夫よ。私は生きている。ファンゼムさん、ありがとう、助かったわ」
ファンゼムは白い歯を覗かせて拳から親指を立てた。
「キュキュ、ありがとう。怪我はない?」
テラはキュキュを抱きしめて体を擦っていた。
「これは見事な宝箱です」
ダンが声を上げた。
台地の中央には、超特大の宝箱が出現していた。
「これは、期待できそうだわ」
ハフが小躍りして、マナツを見る。
「ハフ、罠はないわ。開けて」
ハフはごくりと唾を飲み込んで、慎重に宝箱の蓋を開けた。
「なんじゃ、これは」
「これは・・・いったい」
ファンゼムとリッキが声を上げた。
超特大の宝箱の中には、40cm程のL字型の針金が2本入っているだけであった。ハフが針金を指で摘んで持ち上げた。顔を使づけてよく観察をしてみたが、何の変哲もない銀製の針金のようだった。
「キャプテン、これは銀の針金の様ですが鑑定をしてください」
マナツは銀の針金の鑑定をした。
「こ、これは・・・銀製の針金。Lロッドと呼ばれるダウジング魔道具。左右の手に持って探し物の名を言えば、その探し物のある方向が分かる」
「落とし物を探すのには便利そうですね」
レミがそう呟く。角帽を被り眼鏡をかけたダンが目を丸くして、
「それはそうですが、これはまさに神器と呼べるものです。我々の探している秘宝を見つけることが出来るかもしれません」
「なんじゃと、儂らが長年探し求めている秘宝の方角も、これで分かるということかいな」
「ええ、試してみる価値はあります」
ダンはハフからLロッドを受け取ると。
「蘭奢香」
と呟いた。
Lロッドはダンの握り拳の上でくるくると回ると、西南西を指して止まった。
「古代樹のゲート」
Lロッドが回り出し、南東の方向を指して止まった。
「裁きの杖」
Lロッドが動き出す。
「これは、凄いお宝だ。このLロッドが最上位の秘宝の1つと呼んでも良い」
マナツも興奮気味に言った。
「これで人類が追い求めて止まない秘宝を探索できるのですね」
ローレライの眼が輝いていた。
「秘宝はどうでも良いけれど、冒険ができるなら俺は満足だ」
と、デューンが空を見上げる。
『テラ、魔族が来る』
「え、何?」
マウマウの言葉にテラが聞き返した。
デューンが空を指さしす。
「凄い速度でこちらに向かって来る奴がいる」
マナツがデューンの指さす方角を見て、
「全員戦闘準備」




