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21 前方後円墳の攻略

 ダンジョン探索3日目

 「このダンジョンの魔物は強くて数も多い」

リッキが横たわるキングオーガを見ながら言った。キングオーガは消え、代わりに特大の魔石と特大の封魔石、曲剣が残されていた。

 マナツがそれを拾いながら、

 「3層でこれとは、想定外だな」

 「この3層は、天井がなく空が見え、昼と夜があります。全くもって不思議ですね。何といっても広い。3層の探索だけで2日目ですね。今回は3層までの予定ですから、それを攻略したら一旦外に出て、攻略の立てて出直しですね」

ダンが冷静に応じた。

 『2層までは、罠もあり、かなり複雑な構造だったけれども、3層はただただ広い森と草原。これまでとは違うわね』

 「うん、1日目で2層まで攻略して、2日目からはこの3層の攻略に手間取っているわ。対魔物では、キュキュがとても活躍しているわ」

 キュキュは、敵を弱体化する黒い炎を吐き、女神の祝福の戦闘を有利にしていた。

 「キャプテン、また古墳があります。これで4つ目ですね」

 「よし、あの古墳に行くぞ」

 これまでの3つ古墳は、円墳であり、石造りの入口から入ると、そこにはキングアンデット1体が待ち構えていた。このキングアンデットを倒すと宝箱が現れていた。

 女神の一行が4つ目の古墳に近づいて行くと、これまでとは異なる古墳であることが分かった。

 「これは大きい古墳ですね。しかも形が違う。円と長方形が組み合わさっているわ」

ローレライもこの古墳の規模に驚いている。するとダンが、

 「これは、お伽話で葦原の倭国にあるといわれている前方後円墳ですね。入口は長方形の方にあるはずです」

 こんもりした円い丘を迂回して行くと、長方形の先端に石造りの丘があった。そこには、平たい顔をした埴輪の兵士像がいくつも並んでいた。

 「よし、入るぞ」

 石造りの扉を開ける。すると松明が次々に灯っていった。入口の扉は開いたままだった。

 「100m程の長い大広間様な構造ですね。天井も高い。部屋の壁沿いには、武器を携えた4m近い埴輪がたくさん並んでしますね」

先頭を行くハフがキョロキョロしながら、部屋の中の様子を声にした。

 「こりゃ、兵士の埴輪が襲って来るに違いないじゃろ」

 「間違いないな。埴輪は22体」

と、リッキも呟く。

 鎧を着て、手に槍を持っている兵士の埴輪が20体、剣と盾を持っている埴輪が2体いた。

 辺りの埴輪を警戒しながら部屋の中央まで歩みを進めて行くと、ゴゴゴと低い不気味な音がした。体に溜まった埃を舞い散らせながら、兵士の埴輪が動き出した。埴輪が1歩2歩と足を進めて来る。

 「囲まれたな。正面突破だ。奥の壁を背にするぞ」

マナツは辺りを見回すと、大剣で奥を指した。

 メンバーは部屋の最深部を目指して走り出した。正面を塞ぐ埴輪が槍を振り下ろす。リッキが盾でこれを受け止める。マナツが大剣で正面の埴輪を薙ぎ払い、胴を両断した。埴輪はガラガラと音を立てて崩れていった。

 キュキュが黒い炎を吐いた。正面にいる埴輪2体が黒い炎に包まれた。ローレライの3連銃が火を噴いた。埴輪の眉間を砕く。その埴輪は動きが止まった。すかさずテラの飛願丸が埴輪を切り上げた。埴輪は右腿から脇腹にかけて両断された。

 デューンの炎を纏った拳が、ドゴンという音と共に埴輪の左腿を粉砕する。リッキは、ミスリル製のウォーメイスで埴輪の右腿を殴りつけた。ゴンとう音が響くと、右腿は鋭利な刀で両断されたかのように2つに分かれていた。両足を失った埴輪が倒れる。

 女神の祝福のメンバーは長い部屋の最深部に到着した。奥の扉を背にしたまま陣形を組む。

兵士の埴輪も陣形を組んでいた。

 最前列に槍を持った兵士の埴輪が横列で4体、中央に剣と盾を持った埴輪が1体いた。2列目に槍を持った埴輪が4体。3列目に槍を持った兵士の埴輪が5体、中央に剣と盾を持った埴輪が1体、最終の4列に槍を持った埴輪が4体であった。

 『剣と盾を持った埴輪は、ハニワナイト、Aクラス。槍を持った石像は、ハニワソルジャー、Cクラス』

マウマウの思念会話にテラは頷いた。

 「入口の扉が開いている。酸欠の心配はない。デューン、焼き払えるか」

マナツの声に、デューンは頷く。デューンの眼の前から業火が現れた。業火は床を這いながら陣形を組むハニワを呑み込む。高く舞い上がり空中から別のハニワを包み込む。業火の通り過ぎた後には白煙とハニワが残っていた。

 「目に見えるダメージはないようだな」

リッキがそう言うと、デューンは下唇を噛んだ。

 「こうなったら肉弾戦だ。正面を私とリッキが受ける。サポートはハフ。右はテラ、左はデューン、左右から切り崩せ。ローレライとダンは遠隔攻撃。ファンゼムとレミは回復支援」

マナツが指示を出す。

 「キュキュ、お願い」

テラがハニワを指さすと、キュキュはハニワに向かって高速で飛んで行った。キュキュは、これまでよりも高速で宙を飛び、口から黒い炎を吐き散らす。ハニワは微動だにしない。ハニワから青白い球がキュキュに吸い込まれる。キュキュが高速で急旋回を繰り返した。

 最前列の中央のハニワナイトが剣を高々と上げてから、剣先を女神の祝福に向けた。1列目と2列目の9体が動き出した。ハニワの第1波の攻撃が開始された。

ハニワソルジャーは槍の穂先を前に出し、足並みを揃えて前進して来る。しかし、1歩1歩がスローであった。

 「よし、黒の炎は効いているわ。動きが遅い」

テラが旋回するキュキュを見て微笑んだ。

 ハフがトレジャーハンターの弓を構え、魔力の矢を出現させた。弓を更に絞る。稲妻の様にジグザグに光る魔力の矢が放たれた。矢は中央のハニワムナイトの胸に命中した。トレジャーハンターの弓から撃たれた魔法の矢にはダメージはない。そのまま他のハニワと共にゆっりと近づいて来る。

 ローレライの3連銃が火を噴いた。1列目中央にいたハニワナイトの眉間に穴が開く。後頭部が炸裂した。ハニワナイトはガラガラと崩れる。

 3連銃が連射された。2匹のハニワソルジャーの眉間に穴が開き崩れる。ダンの小型火薬筒がハニワソルジャーの肩口で炸裂した。右肩と顔面の右半分を失いハニワソルジャーが崩れる。

 2列目のハニワソルジャー4体とマナツ、リッキが戦闘を開始する。マナツはハニワソルジャーの槍を躱して、大剣で首を払い斬る。

 リッキは、突き出された槍をウォーメイスの一振りで、これをはじき返しながらハニワソルジャーの脇腹に渾身の一撃を浴びせた。

 右側面から攻撃したテラは、槍を受流しながらハニワソルジャーの左首から右わき腹にかけて袈裟斬りにした。

 左のデューンは突かれた槍を、顔を捻り躱すとハニワソルジャーの懐に潜りこみ腹に炎を纏った拳の連打を浴びせた。ハニワソルジャーの腹は削られ大穴が開いた。

 ローレライの3連銃の連射音とダンの小型火薬筒の炸裂音が響き渡る。第2波のハニワへの攻撃は始まっていた。

 リッキのウォーメイスの一撃をハニワナイトが盾で跳ね返した。ハニワナイトの剣の一振りをリッキの盾が受け止める。その脇にいたハニワソルジャーの槍が、無防備になったリッキの腹めがけて突き出される。その槍をハフの短剣が受け流した。ハフは中央のマナツとリッキをサポートしている。ローレライの弾丸がこのハニワソルジャーの眉間に穴を開けた。その瞬間にハニワソルジャーの頭部が炸裂して胸までが吹き飛んだ。ハニワソルジャーの破片が飛び散り、ハフの頬を掠めた。ハフは驚いてローレライを見た。ローレライは御免とばかりに片手で拝む。レミの回復魔法がハフの頬の傷を完治した。

 マナツがリッキと対峙するハニワナイトを側面から大剣を振り下ろした。ハニワナイトは体を前後に両断された。

 ハニワソルジャーの槍がテラの肩口を掠めた。レミの回復魔法がテラに飛んだ。

 「レミ、ありがとう」

テラはハニワソルジャーを斬り伏せながら言った。

 宝箱が出現した。ハフがこれを開けると金塊が1つ、形の異なる金印が2つ入っていた。金印には宝石などの装飾はなく、僅かに大きさと形の異なる純金製の金印に見えた。

 マナツが鑑定をすると、純金の金塊。金印についてはどちらも金印としか鑑定できなかった。

 マナツが不思議に思いながらこれを回収していると、ハフがローレライに言う。

 「最後のハニワソルジャーを倒した弾丸は、これまでとは違って凄まじい威力だった。大きく炸裂したわよね」

 「ハフ、御免ね。試し撃ちだったのだけれど、あんなに炸裂の威力が凄いとは思ってもいなかったのよ」

 「大丈夫よ。それより驚きの威力だったわよ。あの弾丸は特別なの?」

 「ミネルヴァの揺り籠号キャプテンの宿題で休暇中も部屋に籠って造った弾よ。弾丸に封魔石を入れて魔力を込めた弾、炸裂魔弾なの」

 「炸裂魔弾。そのまんま・・・素敵なネーミングね」

 「良いネーミングでしょう。休暇の半分は、ネーミングで迷っていた時間なのよ」

 「ぷっ、何よそれ」

 「ネーミングは大事でしょう」

 「あははは、そのこだわりがローレライなのね」

 「さあ、残りは王棺のあるこの先の円墳まで行くわよ。ここで気を抜かずに慎重に・・・ハフ、その石扉を開けて」

マナツがハフに命じた。

 最深部の石造りの扉の横には、天秤と石甕、陶器製の器、細い紐、石造りの円柱の台座、絶えず水が出ている水飲み場の様なものがあった。

 ハフが、最深部の大きな石造りの扉を注意深く手とナイフで触り、罠を見極めている。

 「特に扉に罠らしき仕掛けは見当たらないわ。でも、油断は禁物。それにこの石扉は押しても、引いても動かない」

 リッキが両腕に力を込めて石造りの扉を押す。

 「動かんな」

 「私が飛願丸で石の扉を切り刻む?」

 「俺の業火で吹き飛ばすこともできるぞ」

 「止めて、そんなことをしたらこの建物の天井が落ちて来たリ、床が抜けたりする仕掛けだったら、全滅よ」

ハフが短絡的な2人に呆れていた。ハフがナイフの先で石の扉の脇にある石造りの石柱の台座を指した。

 「この石造りの台座が気になるわ。この台座の上に何かを置くと扉が開く仕掛けかしら」

 「一体何を置くというのじゃ」

ファンゼムがハフを見てそう言うと、ハフは分からないとばかりに両手を肩の高さまで上げた。

 「石扉の横にある天秤と石甕、陶器製の器、細い紐のことか」

リッキが呟く。

 「定量の水を石甕に入れて台座に置くということですかね」

ローレライが提案した。

 「石甕を置くには、台座は少し小さいですね」

ダンが石甕と石造りの円柱の台座を交互に見ながら言った。

 レミが呟く。

 「ねえ、テラの足元の床に、何か模様が書いてある?」

 石造りの円柱の前に立っていたテラが足元の床石を凝視した。テラは慌てて1歩下がった。

 「埃を被っているが何かあるな」

と言って、マナツが慎重に埃を払った。

 「これは、異国の古代文字だな・・・読めない。ダンは読めるか?」

 ダンが石の床に書かれた古代文字を見た。

 「純金の金塊は其方に授ける。葦原の倭王に真の金印を捧げるべし」

 「真の金印?・・何を言っているんじゃ」

ファンゼムの言葉に、女神の祝福のメンバーは首を傾げる。

 マナツが形の異なる2つの金印を交互に見て言う。

 「恐らく、今、宝箱から出て来た金塊と金印のことを指しているのであろう。この2つの金印の内、1つが真の金印、1つが偽物の金印。これを見極めろということだな」

 ローレライが、

 「金印の真偽を見分けられる方はいらっしゃいますか?」

と言うと、メンバーは首を横に振る。

 「倭王の金印とはどのような形だったのか分かるか」

 「キャプテン、その形については記録にありませんでした。ですが、古代世界の統治者であった倭王は、純金の金印を所持していたと記されていました」

 「ということは、倭王の純金の金印をその台座の上に置けば良いということですね」

ハフが言った。

 ファンゼムが左右の手に金印を持って見比べた。

 「分からんわ。形も違うとる」

 「あの天秤に乗せて重さを計ってみたらどうですか?」

レミが提案した。

 2つの形の異なる金印を天秤に乗せると釣り合った。2つの金印は同じ重さだった。試しに天秤の右皿に金塊を、左皿に金印1つを乗せてみた。天秤は左右に揺れていたが、

 「うーん、金印とこの金塊の重さは同じだ・・・と言うことは、真の金印と偽物の金印、金塊は全て同じ重さか」

デューンが天秤を見比べて言った。

 「打つ手なしだな」

リッキが渋い表情をした。女神の祝福メンバーも溜息をついた。

 「諦めるにはまだ早いわ。あの石甕を使って調べてみようよ」

テラが提案する。

 「え、どうやって?」

女神の祝福のメンバーはテラに疑惑の視線が集まる。

 「まあ、ものは試しよ」

 「これは作業があるから、一番器用なハフ姉さんにお願いしたいわ。石甕一杯にそこの水を入れてください」

ハフは頷く、石甕に水を入れた。

 「これでいいかい?」

 「まだまだです。溢れるぎりぎりまで水を入れて」

テラの言葉を受けて、ハフが石甕を水で満たした。

 「ハフ姉さん、ここからが大事です。金塊をその細い紐で結わいてゆっくりとその石甕に沈めてください。慎重にですよ」

 ハフが金塊を細い紐で結わくと、紐を持って金塊を水に満たされた石甕に慎重に沈めていく。

 「あぁ、石甕から水がこぼれているぞ」

デューンがそう言って、テラを見つめた。テラは、

 「これでよいの・・・ハフ姉さん、ゆっくりと紐を上げて、金塊を取り出してください」

ハフは言われるままに、金塊を慎重に持ち上げた。

 「金印の1つを紐で結わいてその石甕に沈めてください。ゆっくりとですよ」

ハフが金印を水甕にゆっくりと沈めていく。

 「石甕の水面が上がってくる・・・溢れそう・・・石甕の縁ギリギリで水面が止まったぞ」

デューンが水面を指さして言った。

 「やっぱりね・・・真の金印の予想はついたけれども、試しにもう一方の金印に紐を付けて同じように沈めてください」

 ハフはゆっくりと金印を石甕の水に沈めていった。

 「同じように水面が上がっていく・・・あぁ、こっちは水が溢れていく」

デューンは石甕の縁から溢れる水を見て言葉にした。

 「ハフ姉さん、ありがとう。真の金印が分かりました」

テラはそう言って、最初に沈めた金印を指さした。

 「ええ・・なぜ分かるんだ」

デューンが尋ねる。

 テラは、マナツとハフ、ローレライを交互に見て話し出した。

「私には詳しい理由が分からないのだけれども、この間、母さんとハフ姉さん、ローレライと入った露天風呂で発見したのよ。湯が熱くて縮こまっていた私が、手や足をめいいっぱい伸ばして体の形を変えても湯は溢れなかったわ。だから同じ重さの純金なら形が金塊でも金印でも、水は溢れないはずだと考えたの」

 ダンは、なるほどと手を打って驚嘆した。そしてテラの代わりに説明を始めた。

 「同じ重さの純金なら体積は同じです。だから水は溢れません。水の溢れた方の金印は重さを同じにして巧妙に作られていますが、純金ではない金属が混じっているために異なる体積、つまり純金よりも大きな体積になったのです」

ダンが説明すると、なるほどと頷くメンバーと???の顔をするメンバーがいた。

 「ハフ、こちらの金印を、あの石造りの台座の上に置いて」

マナツがそう指示をした。

 ハフは、首を傾げながらも金印を台座に置いた。目の前の石の扉はゴゴゴゴという音と立てて開いた。

 「おおお」

 「やったぞー」

 マナツはテラの肩を叩いた。ファンゼムは白い歯を見せてサムズアップをした。

 ハフが、

 「ふふふっ、テラはいつも面白い子ね。露天風呂での疑問が役立つだなんて」

と言うと、ローレライが、

 「テラは、面白くて賢い子」

と返し、ハフにウインクした。

 「前方後円墳を攻略するぞ。気を引き締めていけ」

マナツがそう言うと、レミは防御強化魔法を唱えた。

 女神の祝福は石の扉の奥にある石階段を登って行った。


 円墳部分は大きなドーム状の部屋になっていた。その中央部分には、長方形の石棺があった。

 マナツが石棺を見て、

 「あれがこの前方後円墳のボスだな。恐らく葦原の倭王のアンデット」

 ダンも石棺から目を離さずに、

 「葦原の倭王は、鬼道で人心を掌握していたヒルヨミコの弟であったと歴史書に記されています」

 「またアンデットか。きっと厄介な敵じゃろうて」

 マナツが横目でデューンを見て指示をする。

 「敵が予想通りの倭王のアンデットであった場合には、デューンがアタッカーだ。業火で跡形もなく焼き払え。リッキはデューンの盾となれ。他は散開して、敵の魔法攻撃に備えながら攻撃だ」

 「了解した」

 石棺の石蓋がズズズと鈍い音を立ててずれていく。隙間からは、禍々しい黒いもやが立ち上っている。ゴンと石棺から石蓋が、斜めにずれ落ちた。

 石棺からアンデットが上半身を起こした。手には先端に赤い玉が嵌め込まれている金の王笏(おうしゃく)を持っていた。アンデットは石棺の上で立ち上がった。赤のフードつきマントから見える体は、ミイラ化した皮膚と骨露出した肋骨が見えた。

 『ワオウアンデット。Sクラス。高い魔法攻撃力を持つ』

智佐神獣白の神書のマウマウが思念会話でテラに告げる。

 ワオウの顔はミイラ化しており、目は窪み、瞳は確認できない。瞳の代わりに黒光りする空間が見えた。ワオウはこちらを見て、ニターッと不気味な笑みを浮かべた。

 「散開」

マナツがそう叫ぶと、女神の祝福はドーム状の部屋の壁沿いを、左右に分かれて走り出した。

 キュキュがワオウ目がけて高速で飛ぶ。ワオウが金の王笏を掲げる。無数の礫がキュキュを襲う。キュキュはこれらを素早い方向転換を繰り返し躱していく。口から黒い炎を吐いた。ワオウが黒い炎に包まれる。ワオウから跳び出した青白い球がキュキュに吸い込まれる。

 ワオウは、目の窪みにある黒光りする空間で、走る女神の祝福の姿を捉えている。金の王笏を掲げた。無数の礫が四方に飛び散る。リッキが盾でこれを防ぐ。散開しているダンの右腿に礫が直撃した。礫はそのまま右腿を貫通する。ローレライの左脇、テラの左腕を直撃した。ワオウが2度3度と魔法で礫を四方に飛ばした。ファンゼムとレミから回復魔法が連続して飛んでいく。

 「気を付けろ! ワオウは、キュキュの弱体を受けているが、奴は1歩も動かないで魔法攻撃だけを繰り返すぞ。デューンいけー」

マナツが叫んだ。

 デューンの業火が生き物の様に石畳をくねりながらワオウに迫る。

 ゴォォォと唸りを上げて業火がワオウに達する寸前に、ワオウは赤のフードつきマントの端を左手で持ち身を包んだ。業火はそのままワオウを呑み込むと上昇していった。業火が過ぎ去った後にはワオウが赤のフードつきマントで身を包み耐えていた。

 ワオウは、金の王笏を掲げた。特大の鋭利な大岩がデューンを襲う。リッキが盾でこれを叩く。大岩は方向を変えて後ろに跳ね飛んだ。

 「きゃー」

レミが悲鳴を上げて転んだ。レミの体を大岩がかすめて行ったのだ。

 ローレライの3連銃が火を噴いた。ワオウの眉間に直撃した。凄まじい炸裂音と共に、その衝撃でワオウの首は後ろに曲がった。倒れた首をギギギーッと戻した瞬間に、ハフの引き絞ったトレジャーハンターの弓から放たれた光の矢が、再びワオウの眉間に当たった。マナツが左横から大剣を薙ぎ払う。テラがワオウの後ろの空中に現れる。テラは飛願丸を頭の上に構え、そのまま振り降ろす。ワオウは金の王笏を動かす。ワオウを中心にして黄色の光が、水面で水の波紋が広がるように広がった。マナツとテラはその黄色い光を受け、体を後ろに跳ね飛ばされた。やがて石畳を跳ねて止まった。2人は倒れたままワオウを睨んだ。2人にファンゼムとレミから回復魔法が飛んでくる。

 ワオウはニターッと不気味な笑みを浮かべた。レミの背筋にゾクッとする寒気が走った。

 業火がワオウの頭上から舞い落ちてくる。ワオウは、赤のフードつきマントで頭上を防御した。業火がワオウを石畳に押しつぶすように圧力をかける。ワオウはこれを赤のフードつきマントで凌いだ。マントが上に持ち上がり、腹から下のミイラ化した皮膚と骨が見えた。テラがワオウの露出した下腹部めがけて飛願丸で薙ぎ払う。ワオウの上半身と下半身が両断された。ワオウの両目の黒い光はテラを忌々(いまいま)しそうに見る。倒れていく上半身で金の王笏を掲げ、テラに最後の魔法を撃とうとした。その瞬間に、ドゴーンと銃声が轟く。王笏の赤い玉が炸裂して散った。ワオウの上半身はそのまま石畳に落ちて砕けた。

 「私は、決して外さないのよ」

ローレライは、長い銀の髪を左手で掻き揚げていた。

 中央の石棺の脇に特大の宝箱が現れた。

 「罠はない。ハフ、開けてくれ」

 「了解」

 ハフが特大の宝箱を開けた。

 特大の魔石。特大の封魔石。大粒のダイアモンドとサファイア、エメラルド各3粒。翡翠の勾玉。翡翠のイヤリング。金にダイアモンドとルビーの宝飾がある王冠。藍色のマント。神木が入っていた。

 「王冠に特殊効果はないようだ。マントは防魔のマントといって、魔法ダメージを半減するとある。これは魔具に匹敵する性能だ。神木の丸太は神のご加護を得るとある。ミネルヴァの揺り籠号には船首象がまだないので、これを使って船首象を造るといい。問題が翡翠のイヤリングだな。これは呪物だ。呪いによって装備した者の体力を10%捕食し続けるが、1年後には自然解呪される。1年後には、何かしらの特典が与えられるというものだ。名は試練のイヤリング」

 「凄い物がでてきたものやな。豪華な宝飾品と魔法ダメージ軽減マント、呪物とはのう」

 「王冠や宝石類は売却で、いつも通り半額はエジックス島の探索と保護費、半額を山分け。神木は船首象。希望者への分配は防魔のマントと呪物のイヤリングだな」

 「防魔のマントはリッキでいいのではないかな。チームの盾役だし」

 「むう、問題なかろう」

 「賛成です」

 「異論がなければリッキへ。よしリッキ受け取ってくれ。メンバーの願いだ」

 「ありがとうございます」

 リッキは、防魔のマントを受け取ると、早速フルアーマーの上から着込んだ。

 「リッキ、お似合いです」

 「良い感じですね」

 リッキも満足気だった。

 「問題は呪物、試練のイヤリングか。希望者はいるか」

 体力の常時10%減とあっては、死のリスクが大き過ぎるため希望者はいなかった。

 「マウマウ、呪物のイヤリングの解呪後の効果は分かる?」

 『分からない』

 「私が呪物イヤリングを装備してもいいかな。マウマウの渾身応援で体力もアップしていることだし」

 『私が傍にいれば渾身応援は確かに受けられるけれども、私と離れたら渾身応援は届かない。私ありきの考えは、甘過ぎよ』

 「・・・うーん、でも興味があるの」

 『・・・言い出したら聞かないところのあるテラだから、判断は貴方自身でしなさい』

 テラは、智佐神獣白の神書のマウマウに思念会話で尋ねていた。

 「私は、その試練のイヤリングを貰いたい」

 「テラ、何を言うの」

 「正気かいな」

 「体力10%は厳しい値だ」

 「でも、そのイヤリングは解呪されて力を発揮する日を待っていると思うの、だから・・」

 「イヤリングが待っている・・・とはね」

 「テラは、面白い子ね」

 「テラがほしいなら、俺は賛成」

デューンが珍しくテラを支持した。

 「テラが望むなら私もテラを精一杯守ります」

テラへの回復魔法で負担が予想される、レミも賛成した。

 マナツは黙ってテラを見つめた。そしてテラの掌に試練のイヤリングを渡した。

 「テラが望むならそうしなさい。でも、その判断の責任はテラ自身がとるのよ」

マナツがテラに言った。

 テラは頷いてその試練のイヤリングを改めて見た。イヤリングには、銀製の金具に緑色の翡翠が付いていた。長さ3㎝の翡翠製のパスタが3本ぶら下がっている様な構造をしていた。先端に行くにしたがってやや太くなっていた。

 テラは試練のイヤリングを左耳に付けた。メンバーは何が起きることかと視線をテラに注いでいる。

 「テラ、体力を捕食されて、苦しいとか痛いとかない?」

レミが尋ねると、テラは首を横に振り、

 「何も変わっていない感じよ」

 メンバーもとりあえず胸を撫で下ろした。

 「テラ、試練のイヤリングが似合っているわよ」

 「ほんと、呪物でないならこころからおめでとうと言えるのにね」

ハフとローレライがそう言った。

 「ありがとう。1年後が楽しみだわ。よろしくね、試練のイヤリングさん」

 「さあ、3層の制覇だ。いくぞ」

 マナツが声を上げた。


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