16 ミネルヴァの揺り籠
ロン一家とフリーマン一家を護衛する一団は、港街ノドガルに到着した。ロン一家とフリーマン一家からは、厚い感謝の気持ちを伝えられた。ロン一家とフリーマン一家から護衛終了のサインをもらうと、5日間で次の航海の準備を整え、祖国へ帰ることを告げた。光の狩人のメンバーからも感謝の言葉を受けていた。その場でロンと妻のチョコ、息子のジレス、娘のパリスは、具合の悪くなった父の元に急いで向かった。
女神の祝福は、冒険者ギルトに報告と、交易ギルドに適当な依頼があるかを確認するために立ち寄ることとした。
ローレライ・フリーマンは、女神の祝福が街へ立ち去る姿を暫く眺めていた。
冒険者ギルドには数日前のドラゴンの目撃情報により、討伐依頼書が張られていたが、どの冒険者も受けるはずもなかった。依頼書の討伐報酬は、1億ダルとなっていた。
ドラゴン討伐のために、領主連合の兵まで編成されているという。
マナツが、冒険者ギルドのカウンターで、
「ドラゴンの討伐について話がしたい」
と、申し出ると、受付嬢はマナツをつま先から頭の上まで眺めた。
「ギルドカードをご提示ください」
マナツが冒険者ギルドカードを受付嬢に見せた。
「B級の冒険者チームですね。ここで少々お待ちください」
そう述べると、ついに討伐依頼を受ける可能性のある高級の冒険者が現れたことを、ギルドマスターに報告に向かった。
女神の祝福のメンバーは、冒険者ギルドの接客室に通されていた。接客室の椅子に女神の祝福のメンバーが座っていると、190㎝近くある恰幅の良い男性が入ってきた。
男性は、副ギルドマスターのケインと名乗って座った。
「貴方たちは異国を拠点にしているB級チームの・・・」
「女神の祝福です」
マナツが答えた。
「ドラゴンの討伐の依頼を受けたいというのは誠ですか。仮に、ドリアドにドラゴンが出現したことが事実として、B級チームと言えども、ドラゴンは無理でしょう。S級冒険者3チームでも討伐は極めて困難です。その意気は良いのですが・・・」
「ドラゴンはいました。グリーンドラゴンです」
「グリーンドラゴン? ドラゴン種でもかなり強い種ですね・・・それをB級チームの貴方たちが討伐依頼を受けたいとおっしゃっても、全滅が分かり切っている依頼をお願いする訳にはいきません」
「我々はグリーンドラゴンの討伐依頼を受けにきた訳ではありません」
「情報提供ですか」
「いえ、グリーンドラゴンを討伐したので、この件については、安心してほしいということを各街に連絡をしていただきたいとお願いに参ったのです」
「ですからグリーンドラ・・・え、討伐した?」
「グリーンドラゴンを1匹討伐しました。複数の個体がいるのなら別ですが」
「信じられない事です・・・それは確かですか」
「それでは、ドリアドとノドガル間で討伐したグリーンドラゴンの個体をお見せします」
マナツはそう言うと、アイテムケンテイナーからグリーンドラゴンの頭の一部をテーブルの上に引き出した。頭の一部だけで、テーブルからはみ出ていた。グリーンドラゴンの頭を見て、ケインは椅子から立ち上がると、数歩後ずさりをした。
「ちょ、ちょっとお待ちを、ギルドマスターを呼んできます」
ケインは血相を変えて、接客室から出て行った。
「儂らのことを冷やかし程度に考えていたようだわい。儂らは、安心してほしいと伝えたいだけだったのにのぉ」
ケインとギルドマスターのフンベルトが、接客室に駆け込んきた。アイテムケンテイナーから机にかけて横たわるグリーンドラゴンの頭部の一部を見たフンベルトは、
「こ、これはドラゴンの頭の一部に間違いない」
フンベルトは蒼白の顔で言った。続けて、
「グリーンドラゴンの個体を1階の解体場で拝見したいのですが、よろしいかな」
マナツは頷く。
魔物解体場で、アイテムケンテイナーから引き出されたグリーンドラゴンを見て、
「体長は8mといったところですかね。尻尾を含めると14,5m。緑色の鱗。グリーンドラゴンで間違いないですな。ドラゴンの討伐は、このローデン王国においては十数年なかった・・・・ケイン、ドラゴン討伐の依頼は完了として、ローデン王国領の全ての街へ周知しろ」
副ギルドマスターのケインは頷くと、走って行った。
「それでは、討伐に付いての詳細をお聞かせ願います。勿論、討伐報酬はお支払いします。できましたら、ドラゴンの買い取りを我がギルドにお任せいただければ幸いです」
「ドラゴンの買い取りについてですが、我がメンバーでドラゴンの心臓などを欲している者もおりますので、それ以外の部位でしたらお願いしたいと思います」
ダンがガッツポーズをする。メンバーもダンの喜ぶ姿を見て微笑んだ。
「勿論です。ローデン王国で十数年ぶりのドラゴンです。買い取りできるなら、どの部位でも構いません」
「それでは、グリーンドラゴンの解体とブラディアナコンダ、ツインホークも合わせてお願いします。ブラディアナコンダとツインホークは、全てギルドで買い取っていただければと思います」
「ブラディアナコンダとツインホークもですか・・・貴方たちはいったい・・・承知しました。5日程お時間をいただければと思います」
「お願いします」
こうして、冒険者ギルドへグリーンドラゴン討伐の報告をした。
女神の祝福は、キャラベル船ヘッドウインド号のメンテナンスを依頼していた造船所の『ロン&チョコ』を訪ねた。
主任設計士のダッチロイが、対応に出て来た。ダッチロイは造船所の職人に眼で合図を送った。職人は急いで造船所から走り出て行った。
「このキャラベル船ヘッドウインド号のメンテナンスは終了しています。年季が入っていますが、丁寧に手入れされていて、実によい船です。わが社の自慢の防水加工を施しましたので、4年間は水漏れの心配はありません」
「ここの防水加工はジパニア大陸1と聞いている。船底に溜まる水がなくなることはありがたい」
マナツが頷きながら応じた。
「ヘッドウインド号には、可動式の砲が2門ありました。あれは砲の種類と口径からして、対魔物用ですね。あれも整備しておきました」
「それは助かります」
ダンも上機嫌だった。
「実はですね、女神の祝福様には、ここの社長のロン・ラインズとチョコ婦人、お子様の命を救っていただいたと聞いています。過日にロン社長が、ノドガルにて交易・冒険者チームの女神の祝福チームにお礼をしたいと申し出ていたと思います」
「それは、もう十分ですよ」
マナツが手を振りながらダッチロイに言った。
「ロン社長から、皆様のお役に立てればと、お渡しするように言いつかっております。それがそこのキャラック船です」
「・・・・・なんじゃと!」
「・・いや、それはありがたいお気持ちですが、受け取るわけにはまいりません」
マナツが丁寧に断ると、
「貰える物は、貰っちまったほうが良いのでは」
デューンが、目を合わさずに独り言の様に言った。
リッキが、デューンの頭を拳で小突いた。デューンは頭を撫でながら、ちぇと息を漏らした。
「お気持ちだけいただきます。その様な働きを我々はしておりません」
そう言うマナツの後ろから、
「それは心外だ。実に心外だ。私の命よりも大事にしている私の妻と息子、娘が、この船の価格よりも低いとおっしゃるのですか」
全員の視線がマナツの後ろにいる男性に視線が集まる。男性はロンだった。その脇には妻のチョコと長男ジレス、長女パリスが立っていた。
「商人はその価値に見合う支払いをします。そして、取引もします。マナツさんの謙虚な美徳は尊重したいと思いますが、これだけは譲れません」
「夫ロンとジレス、パリスの命は私にとっても何物にも代えがたい宝なのです。どうぞ夫と私の気持ちに免じてお受け取りください」
妻のチョコは、ジレスとパリスの肩に腕を回しながら懇願した。
「・・・しかし、我々にとってキャラック船は、あまりにも貴重で高価な船です」
「妻と子供たちは私の命です」
「・・・キャプテン、ここはありがたく気持ちを受け取ることが1番じゃな」
ファンゼムがマナツを見てそう言った。
マナツは女神の祝福のメンバーを見た。メンバーは黙って頷いていた。マナツも無言で深く頷いた。
「・・・ロンさん、ありがとうございます。ご好意をいただきます」
「マナツさん、ありがとうございます」
ジレスとパリスも父のロンに合わせて、
「マナツさん、ありがとう」
と、屈託のない笑顔で復唱するように言った。
「ちぇ、俺は小突かれ損じゃねえか」
デューンがそう言うと、
「あははは、そういうことになったな」
リッキが笑って答える。
「大人には、謙虚さと言う丁寧な手続きが必要なのよ。誠意には、誠意で応え、その誠意を感謝で受ける」
テラが大人ぶってデューンを横目で見て言った。
「面倒だな。だから大人は時間を無駄使いして歳をとるんだ」
デューンがぼそりと呟く。
「歳をとった分、相手を思いやるために時間を使うのよ」
ハフが、にこりとしながら言った。
チョコさんのお父さんは容態を持ち直し、数か月の療養で回復する見通しだと、ロン一家も喜んでいた。女神の祝福メンバーも胸を撫で下ろした。
『ロン&チョコ』の主任設計士ダッチロイから特注の最新キャラック船の装備と性能について説明を受けた。自信作らしくこの船を語るダッチロイは、我が子を褒める様な温かな眼差しと言葉の端々に自信と誇りが垣間見ることができた。ダッチロイは女神の祝福のクルーを船内に案内しながら、時折立ち止まっては説明していた。
船体40mで船幅はやや細身に仕上げてあるため船速は速い。3本のマストの内、フォアとメインマストに深紅の横帆、ミズンマスト(後方のマスト)に深紅の縦帆を装備している。メインマストにはヤードが2本つき、帆が2段になっていた。メインマストの深紅の帆には、2つの白い翼がV字型に開き、その中央に天使の輪を模した白い楕円形の輪、女神の祝福の意匠がついた。この四角帆は風向きが一定で強い風の吹く外洋向きであるが、逆風時に効率が良いミズンマストの三角帆を組み合わせることによって、走航性能は高くなっている。
最大の特徴は、魔石を動力源としたシステムを採用しているため、帆の上げ下げやヤードの向きなどの操帆を1人で可能にしていることである。これにより操船に必要な船員数を大幅に削減している。
通常は船倉に格納されている側舷砲は、片舷に後装砲のトルネード砲2門と後装砲のブレス砲1門ずつを装備している。
トルネード砲は、対艦用の中射程で破壊力抜群の主砲である。最新装備のブレス砲は破壊力こそ中程度だが極長距離射程であった。砲術手の技能が高ければ極遠距離からの狙撃も可能となる。甲板には、片舷に砲座が3台ずつあり、対魔物用の稼働式マルチ砲が2門ずつあった。
マルチ砲は短射程で破壊力は弱いが、様々な砲弾を撃つことが可能であった。いずれの砲も後装砲であるため、一般的に普及している前装砲と比べ速射能力が各段に優れていた。
船体の最前部と最後尾からは船首楼と船尾楼が伸び、高波のブロックと海戦で敵の船に乗り移り易い設計となっていた。
ダッチロイの案内で船内をひと回りすると甲板にやって来た。
「聞けば聞くほどドエライ性能の船じゃわい」
ファンゼムが驚きを口に出すと、
「あぁ、最新技術を駆使した操船と装備だ」
マナツも心ここに在らずといった感じで、キャラック船に見惚れながら呟いた。
「この大きな船体でありながら、高い船速とは驚きだ」
リッキも興奮している。
「これが操帆の装置なのね。操舵の横とメインマスト横と2か所あるのね」
テラも目を輝かせていた。
「船室も船倉も素晴らしい。それに防水加工が高性能とは」
狭いながらも船室がいくつかあり、雑魚寝状態から解放されることをハフも喜んでいた。
「とても素晴らしい船です。たいへん気に入りました」
マナツの評価に、ダッチロイは満面の笑みで、
「そうでしょう。そうでしょう。このキャラックは私の、いえ、ロン&チョコの最高傑作です。この船の価値が分かり、この船の性能を生かしていただける方の所有となって、我々も至上の喜びです。受注者の貴族様では、この船の価値が・・・ぁ、コホン。では、このキャラックに名を付けてください」
「名か、何が良いやろか」
「チームの結束が表現されたもの」
「船名は、はやり女性でしょう」
「交易・冒険者チームに相応しいものだろう」
「未知を探る開拓者に相応しい名が良いと思います」
メンバーは口々に希望を述べると、一斉にマナツへ視線が集まる。
「ふぅー・・・言いたいことを言って、ハードルを上げるな」
マナツが溜息混じりでそう言った。
「『ミネルヴァの揺り籠』でどうだろうか」
マナツがキャラック船を見て言った。
「ミネルヴァは、音楽、医学、知恵、商業、魔術などを司る女神ですね。良い名です」
ダンも賛成する。
「ミネルヴァの加護を受けて育つと言う意味じゃな。儂は賛成や」
「私も賛成」
皆が頷く。キュキュもキュキュッ、キュイーンと鳴いた。
「キュキュも賛成みたい」
テラがそう言うと皆は笑顔でキュキュを見つめた。
宿泊場所は、ロンさんが是非にとお願いされた『ロン&チョコ』の宿屋となった。
翌日の夜
1階の食堂兼酒場で女神の祝福が食事をしていると、周りのテーブルで酒を飲んでいる冒険者たちの話が耳に入ってきた。
「おう、聞いたか。ドラゴンはやっぱりドリアド近郊にいたらしいな」
「あぁ、グリーンドラゴンだったと言うじゃないか。冒険者ギルドがドラゴン討伐依頼から討伐完了と明言していたしな」
「その報を受けて、ローデン王国や各貴族領の討伐の任に当たる兵が、偵察任務に変わったらしい」
「グリーンドラゴンは、B級のチームが単独で討伐したらしいな」
「俺も聞いた、何でも異国の女神の祝福ってチームらしい」
「ジパニア大陸は広いなー。ドラゴンを1チームで倒せる、そんなチームがいたとはな」
「女神の祝福は祖国でのS級チームの認定を拒み、敢えてBに留まっていたと聞いているぞ」
「なぜ、S級認定を拒むのだ」
「ここだけの話だが、魔族の子供2人をメンバーとして働かせているから、目立ちたくないらしい」
「魔族の子供をメンバーにだって・・・俺は魔女だと聞いているぞ。銀翼の魔女と言って出合った船は悉く沈めてしまう。海賊たちにも恐れられているという噂だ」
「ああ、目は吊り上がり、翼もあって、額には角も生えているらしい」
「魔族の子供がいるなら公にはできんな」
「今はよいが、その子たちが、大人になったらこの大陸に恐ろしい禍が起きそうだ」
「ああ、800年前の人魔大戦もあったしな。恐ろしいな」
テラは、身を乗り出して何かを言いかけたが、口を閉じて視線を下に落とした。
デューンは、我関せずと鳥の腿肉にかぶりついている。
食事をしていた女神の祝福メンバーは、黙って聞いていたが、
「何たることじゃ。S級を拒んでいるとか、噂に尾ひれが付いていることは許せるが・・・2人を魔族の子供とは、酒の上での噂話としても許せんな」
ファンゼムが隣の席の冒険者たちを睨んで立ち上がった。リッキも立ち上がった。
「人の噂も四十九日。放っておきましょう」
ダンが、ナイフに刺した子羊の肉を頬張りながら片目をつむった。ファンゼムとリッキは隣の席の冒険者たちを睨んだままだった。
「あんたたち、噂を面白半分に吹聴して楽しんでいるなんて、それでも冒険者なの!」
大声で叱責する声がした。
その場にいる全員の視線がその声の主に向いた。
声の主は、顔を真っ赤にして、今にも掴みかかりそうな剣幕でまくし立てた。
「噂を鵜呑みにして、悪魔の子供呼ばわりされる当事者の子供たちの心を傷つけていることに気が付かないの。思考力の欠如している貴方たち、先ずはあの2人に謝罪しなさい」
この声の主は、航海士シーレライト・フリーマンの娘であるローレライ・フリーマンだった。
「なんだ。いきなり。俺たちは聞いた噂を話していただけだ」
「おい、いきなり出て来て、俺たちにいちゃもんをつけるとはいい度胸だ」
「俺たちとやるというのか」
酒を飲んでいた冒険者たちがローレライに殺気を帯びた目で凄んだ。
マナツはゆっくりと席を立ち、隣のテーブルの冒険者たちの後ろに立った。
「私は女神の祝福のキャプテン、マナツです。貴方たちが好奇心で噂をしたがる気持ちは分かりますが、その噂の内容によって傷つく者もいます。あの子たちは人間で、同じ年の子供たちと同じように悩み、傷つきます。根も葉もない噂を吹聴しないでいただきたい」
「え、女神の祝福?」
冒険者たちは一斉に振り返ってマナツを見た。マナツは瞬きもせずに冒険者たちの眼を見ていた。先ほどローレライに凄んだ目つきは、オドオドと宙を泳ぎ、明らかに動揺している。
冒険者たちはうつむいているテラと、その脇で肉にかぶりつくデューンに目をやった。
「べ、別に俺たちは傷つけるつもりはない」
「この期に及んでまだ言い訳をするの? 悪気がなければ何を言ってもいいの? 子供たちの心を傷つけたことには変わりない。この侮辱は、チームの一員として許せないわ」
ローレライは怒気を帯びた目で刺すように男を睨んだ。
デューンは肉にかぶりつきながら、片手で前髪を上げて額を見せた。うつむいていたテラは、デューンを横目で見ると、吹き出しそうになった。テラは肩をグイっと前に出して、背中を冒険者たちに向けた。
噂話をしていた冒険者の1人が尋ねる。
「おい、あの子供たちは、一体何をしているのだ」
「あなた馬鹿ね。額に角のないこと、背に翼のないことを貴方たちに見せたのでしょう」
ローレライは眼を釣り上げて言った。冒険者たちは、脇に立つマナツと自席で仁王立ちする白熊獣人のリッキとドワーフのファンゼムをちらりと見た。勝算のないことに気付き、悪かったなと小声で言うとすごすごと店を出て行った。
「全くもう。子供の心を傷つける言葉を吐いて、酒のつまみにするなんて許せないわ」
ローレライは、怒りが収まらない様子で、立ったまま冒険者の出て行ったドアをまだ見つめている。
「ローレライ、礼を言います。また、貴方の勇気には敬意を表します」
マナツがそう言うと、女神の祝福のメンバーも黙って頷いた。
「ローレライさん、ありがとう。私はドラゴンを倒しただけなのに・・・悔しかったわ」
テラがローレライの前に来て、礼を言った。
デューンは肉にかぶりつきながら、ローレライに向かって親指を上げサムズアップをした。
礼とその勇気への称賛を兼ねローレライを女神の祝福のテーブルに呼んで、食事を囲んだ。楽しいひと時が過ぎて行った。
ダンがおもむろに、
「ローレライさん、先ほどの冒険者たちに、この侮辱は、チームの一員として許せないわとおっしゃいましたね。どういう意味ですか」
「あぁ、あれはね。そのままの意味ですよ」
女神の祝福のメンバーは、え、と眼を開いたまま固まった。
「ローレライさん、貴方はこのチームの皆と同じように憤りを感じてくれましたが、チームの一員では・・・」
ダンが首を傾げる。
「私はこの女神の祝福に入ることに決めたの。テラもデューンも、私をローレライと呼んでね」
デューンは、肉を掴む手が止まり、ゆっくりと視線を上げてローレライを見上げた。
「ローレライがこのメンバーになるじゃと。儂は何も聞いておらんぜよ」
メンバーが一斉にマナツを見る。
「ローレライ、それは貴方一人の願望ね。女神の祝福のメンバーとなるかどうかは、このメンバーの同意がなければ無理よ」
「マナツさん、それはその通りでだと思っています。でも、私が女神の祝福のメンバーになることは最適だと考えています。
その理由は、第1に、メンバーの補充が必要。それは最新鋭のキャラックを新たに購入したからです。
第2に、腕の良い航海士に興味がある。
第3に、凄腕の砲術手が必要。購入したキャラックには、最新装備のブレス砲が装備されている。極長距離射撃は先制攻撃ができて強力な武器となりますが、極長距離射撃は命中率が極端に落ちます。宝の持ち腐れにしないためにも、凄腕の砲術手が必要となります。
第4に、このチームは魅力的です。絆と強さがある。その理由から私は女神の祝福のメンバーに最適です」
ハフが問い返す。
「第4はローレライの願望ね。それに、第2と3の腕の良い航海士と凄腕の砲術手って、ローレライの知り合いを連れてくるということなの?」
「私は、気象や海流、星の運行、海図、航路、測量など航海に必要なあらゆる知識に精通しています。このローデン王国では、父シーレライト・フリーマンには及びませんが、その次に腕の良い航海士だと自負しています」
「疑う訳ではないけれそも、私と同い年位いのローレライが、そのような知識と技術を身に付けていると言うの?」
「はい、私はエルフです。見かけのホモ・サピエンス年齢が20歳前後でも、実年齢は450歳を超えています。その間に、父から専門的な知識や技術を叩き込まれました」
「・・・なるほど」
と、ハフが納得すると、マナツが、
「シーレライト・フリーマンから砲術も学んだのか」
「父シーレライト・フリーマンは航海士としての腕は超一流ですが、砲術には興味すらありません」
「それでも極長距離射程のブレス砲を命中させられると?」
「公にはしたくない部分なので、その根拠は述べませんが、とにかく私の砲弾は的に命中します。例え高波に揺れる船上であっても」
「ちと、オーバーじゃないのかのぉ」
「あら、ごめんなさい。私は、決して外さないのよ」
ローレライは、長い銀の髪を左手で掻き揚げた。
「私には鑑定スキルがある。ローレライに使ってもよいか」
マナツがそう言うと、
「どうぞ」
ローレライは左手を腰にあて、緑の瞳をキリッとさせ、モデルの様なポーズを取った。
テラは吹き出しそうになって、
「ローレライ、鑑定されるときにポーズはいらないわよ」
「あら、私をじっくり見るのでしょう。それなら美しくきめておかないと」
ローレライは笑顔で返した。
マナツは鑑定スキルでローレライを鑑定した。
氏名:ローレライ・フリーマン 年齢:458歳 性別:女性 所持金:1,100,052ダル
種 :エルフ
称号:航海術の高みに迫る者
ギルド:交易D
ジョブ・レベル:1等航海士・レベル17
体力 273 物理攻撃力 91
魔力 226 物理防御力 111
俊敏性 141 魔法攻撃力 235
巧緻性 270 魔法防御力 122
カリスマ性 103
生得スキル
〇アイテムケンテイナー 〇反属性魔法
ジョブスキル
〇強靭な精神力と体力 〇気象予測の極み
特異スキル
〇砲術の極意(特)
「・・・砲術の技術は確かなようだ。
だが、女神の祝福のメンバーにするかどうかは別だ。全メンバーの了承を得る必要がある」
マナツはローレライの眼を見つめて言った。
ローレライは、ポージングのまま、神妙な面持ちで頷いた。
デューンが、
「女神の祝福のメンバーになってどう生きるのだ。何がしたいのだ」
と聞いた。
「私は・・・幼い時から磨いてきた知識と技術を役立てたい。クルーを守りたいの。それが、母さんへの・・・」
ローレライは途中で言葉を止めた。
「メンバーになることが目的ではなく、そこで何をすべきかを考えているのだな」
リッキがローレライの眼を見て低い声で言った。
マナツがメンバー1人ひとりを見つめる。ファンゼム、ダン、リッキ、ハフ、テラ、デューンが黙って頷く。
「よし。この瞬間からローレライは女神の祝福のメンバーだ」
「歓迎するぜよ」
「よろしく」
「よろしくね」
メンバーが次々に声を掛ける。
テラは思念会話で尋ねた。
「マウマウは、ローレライのことをどう思う」
『私がとやかく言うことはない。ただ、現状の女神の祝福のウイークポイントを埋める人材なのは間違いないわ』
「私を庇う、優しさと熱い正義感もあるから、私は好きよ」
『心情面については、尚更口を挟むことはできないわ』
ダンがローレライの左右の腰にぶら下げている銃を指さして、
「ローレライの腰にあるのは銃なのですか? 筒が3つ付いていますね。実に興味深い形をしていますが・・・」
ローレライは黙って頷いた。
「3連発の銃です。銃口が3つあって、銃をこうやって折って、この筒の後ろから銃弾を込めます」
「ほほー、3連発とは初めて見ました。それに筒に火薬を入れないのですね」
「この円柱の弾丸のカートリッジには、弾頭と火薬、雷管が入っています。だから、雨天でも撃てます」
そう言って、円柱の弾丸をダンに渡す。ダンは眼鏡に手を持っていき、じっくりと観察し始めた。
「合理的で、効率的だ」
「射程内なら、この銃でも必中ですよ。ふふっ」
ローレライが笑顔で返すと、そこからは新しいメンバーの歓迎会となって、宴は深夜まで続いた。




