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第6章 召喚無属性魔法:エクスティンクション

 第6章 召喚無属性魔法:エクスティンクション


 ダイチは、エクスティンクションを試してみることにした。

エクスティンクションは、日本語で絶滅、消滅、死滅などの意味があるのは知っていた。でも魔法となると、迂闊に使用したらどんな災難が降りかかって来るかもしれないと不安があった。

 「仮に召喚無属性魔法エクスティンクションをあそこの木に使ったとして、森全体が死滅とか、その種の樹木が絶滅なんて効果だったら、ジ・エンド。そもそも、自身を守るための魔法か、相手を攻撃するための魔法かすら分からない。ヒントは召喚術士の魔法というだけだ。こんな時には、心の友、俺のお守りクローに尋ねるしかない」

クロ―を手に、

 「召喚無属性魔法:エクスティンクションについて、詳細に示せ」

ステータス以外はほぼ二行の回答だったので、「詳細に」と条件を付けた。


 召喚無属性魔法:エクスティンクション


  術者の全魔力を消費しターゲットの1点に無属性のダークエネルギーを召喚する。

  ダークエネルギーのコントロールは極めて繊細であり困難であるため、術者や周囲を消滅させることがある。


 「全魔力、1点で、ダークエネルギー、コントロールは繊細、術者や周囲を消滅・・・なんか使うなって魔法だよな。全魔力消費って最終技だよな」

 ダイチは、右に左にとうろうろ歩き出した。

 魔法の全体像をイメージしようと懸命だった

 「なぁクロー、魔力が全て回復した状態で全魔力消費、1発しか撃てないってことだよな。そして術者の全魔力回復までは撃てない。これって魔法発動も、再発動までのリキャスト時間もかなり厳しい条件だよな。これ好んで使う人はいるのか。使い勝手が悪すぎるだろう」

 クローに返事はない。ダイチはそのことは分かっているが、独り言のように続ける。

 「それよりも禁忌となりそうなのが、『術者や周囲を消滅させる』だよな。これって使った術者も巻き込まれるってことだよな。範囲は不明だけど、周囲ってことは人だけとは限らず環境も含んでいるってことだろう。しかも攻撃とかダメージとかではなく、消滅。消滅だ」

 ぶつぶつ言いながら、右に左にうろうろ歩き続けている。今回は前後にも歩いている。

 「しかし、もし繊細にコントロールできれば、ターゲットだけを消滅できるということか。言葉で言うのは簡単だけど、魔力の消費と効果範囲の問題で、試し打ちや、慣れるための練習、バリエーションを増やすための特訓とはいかないかなぁー。悩ましいところだ。むうー。エクスティンクションの発動とコントロールの仕方、俺のリキャスト時間をクローに尋ねておくか」

 やっと立ち止まり、

 「エクスティンクションの発動とコントロールの仕方、リキャスト時間を示せ」


 エクスティンクションの発動及びコントロール並びにリキャスト時間


  召喚点及び効果範囲をイメージし、エクスティンクションと唱えることで発動する。

  三次元での1点及び効果範囲のイメージ、並びに狙った1点に召喚させるコントロールとその効果を設定範囲内に留める繊細な魔法操作が必要となるため、制御は極めて困難である。

  汝の再使用時間は9秒である。


 「だいぶ詳細に示してくれたな。さて、ダークエネルギーを1点に召喚・・・ダークエネルギーって、確かまだ仮想的なエネルギーだったよな。反発エネルギーであり負の圧力をもつとか、宇宙を加速膨張させているエネルギーだとか、宇宙全体の物質やエネルギーの70%近くを占めているとか、聞いたことがある程度のあやふやな知識だけど。これが正しいなら無限に近いエネルギー量を利用可能ということか。危険の臭いがプンプンする」

 前ページの無属性魔法:エクスティンクションを読み返してみると、

 「原理や仕組みなどは分からないけれども、要約すると、この無属性魔法を安全にかつ効果的に使用するためは、俺が、①1点と消滅範囲を三次元的にイメージする。②エクスティンクションと唱える。③ダークエネルギーがその1点に召喚され膨張する。ってことだよな。いずれにしても、発動手順の理解は問題ない」

 また、右に左にうろうろ歩き出したが、足をとめて呟いた。

 「技術的な問題は①の三次元的な1点と効果範囲だ。2種類の明確なイメージを瞬時にしないといけない。これは頭の中で繰り返し練習できるな。イメージした1点へ召喚するコントロール及び魔法効果をイメージ範囲内に留める繊細な魔法操作は俺のステータス、巧緻性に頼るしかない。最大の難関は試し撃ちだ。エクスティンクションを実際に撃ってみると覚悟をすることだ」  

 口に出すが早いか、①のイメージを繰り返し練習しはじめていた。

 「消滅の仕組みは、召喚されたダークエネルギーが影響し、1点から強烈な反発エネルギーが加速度的に広がって効果範囲内が消滅するって理解でいいのかな。まぁ、ブラックボックスであっても使用可能で、その恩恵に与れればいうことはい。それに魔力1の俺にとっては、リキャスト条件の全魔力の回復に費やす時間が極端に少ないことが最大のメリットになっている。俺と相性のよいジョブと魔法かもしれない」

 それから数時間、食事もとらずに練習を続けていたが、1点をイメージする度に、違和感を覚えていた。午後になって時折、日が差すこともあったが、すでに西日となっていた。

 「腹減ったな。力が入らん。頭も回らない。薪は少し余っていたから、よし、魚でも焼くか。イワナみたいなあの魚、美味いからなぁ」

といっても魚捕りからである。特異スキル学びと巧緻性のステータス値のためか、瞬く間に魚を5匹たき火で焼いている。

 「学びの特異スキル学びは最高だ。それに巧緻性。俺は、魔力と魔法攻撃力が低いから、残念な人間かと思っていたが、こんな素晴らしい特異スキルを手に入れている。感謝」

 イワナのような魚を腹の辺りからガブリと食らいつく。はらわたの苦みが口の中に広がる。

 「この苦みも最高。クロー、この世界は魚が最高に美味い」

 ダイチは、寂しい記憶の扉を避けるように、陽気であった。

 その日の夜は、河原の赤い大きな岩に背を預けながら寝ることにした。昨夜はいきなりの戦争と元の世界に戻ることはできないという現実に直面して、肉体的にも精神的にも衰弱し、そのままこの赤い大きな岩の脇で寝てしまった。

 しかし、ここは昼間に見た熊の魔物やミノタウルスなどの住む世界。さすがに怖くてこのままでは寝られない。河原より高い木の上の方が安全かと考えて、クローに尋ねた。するとこの場所で魔物に襲われる可能性は極めて低いとのこと。近辺では最も安全だと回答した。何でも魔物が忌み嫌う岩石がこの河原に散らばっているとのことだ。この河原でよく見かける赤い石のことで龍神赤石というそうだ。昨夜は偶然にも河原で1番大きなこの龍神赤石の岩の脇で泣きつかれて寝込んだ。昼間の熊の魔物とミノタウルスの戦いを観たり、熊の魔物と目が合って身を隠したりした岩もこの龍神赤石だ。偶然か本能の成せる業かはどうでもよいことで、結果オーライだった。だから勿論今夜も、河原にあるこの大きな龍神赤石の岩に背を預けて寝ることにした。ちなみに、今後の魔物除けのお守り程度にはなるかもしれないと考えて、河原に落ちている龍神赤石も大小いくつか拾って、アイテムケンテイナーに格納しておいた。


 眩しい朝の光で目が覚めた。昨夜は龍神赤石の岩に背を預けて寝てはみたものの、やはり魔物が気になったり、河原の石で足腰が痛かったりして何度も目が覚めてしまった。朝日が差してきたので、川の水をかぶって、まだボーっとした頭に喝を入れた。

 「今日は、良い天気になりそうだ。街を探しに下流へ行ってみるか」

 クロ―をアイテムケンテイナーに入れて、一時間程薪拾いに出た。勿論エクスティンクションのイメージトレーニングをしながらである。後は恒例の魚捕りと焼き魚。焼き魚を頬張りながら

 「1点のイメージに違和感があるんだよなー」

 焼き魚の味よりもやはりこちらが気になる。心ここに在らず、枝の串から焼き魚がポロリと河原に落ちる。

 「ああ、もったいない。魚の命をいただいているのだから、粗末にできない」

と言いながら、落とした焼き魚についた砂を手で軽く払ったり、息を吹きかけたりした。それから手で握ったまま口に入れた。噛むとガリッ、ペッ、ペッ、砂が付いていた。

 「うわ、ジャリッとした。砂を奥噛む感覚、これは嫌だ」

などと、渋い表情を浮かべていたが、突然立ち上がり右に左に歩き始めた。

 「そうか、エクスティンクションの1点のイメージについての違和感が何なのか分かった」

 その時であった、

 「あんた誰だ」

と、後ろから太い声がした。

 慌てて振り返った。

 背中に大剣を背負い、精悍な顔立ちと逞しい体躯をした30代後半の男性がそこに立っていた。


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