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第4章 双子島の戦い  8 魔族への生贄

 魔大陸のラゴン海域に入って2日目の朝

 前方には雲一つない突き抜けるような青い空が広がっている。この辺りはサンゴ礁もあり水深が浅い場所であった。ヘッドウインド号の三角形のラティーン・セイルは追い風を受け、エメラルド色の水面から時折顔を出している岩礁の間を滑走するかのように順調な航海をしていた。

 マナツは船首に立って女神の船首象に右手を置き、前方の海面に目を凝らしている。

 「ファンゼム、220m先岩礁。1時へ面舵」

 「1時へ面舵」

 

 マストの見張り台では、ハフが怠りなく周囲を警戒している。ハフは少し落ち着かない様子だった。

 「尻尾がビリビリする。低気圧が近づいている。ダンどうだ」

焦げ茶と茶色の縞のある尻尾を立てながら、ハフが甲板のダンに叫んだ。

 「ハフ、分かっている・・・キャプテン、あれを」

航海士を兼ねるダンが北東の空を指してマナツに言った。マナツは船尾方向を見た。

 「ああ、これは来るな」

 「かなり速そうです。6時間と言ったところでしょうか。昼過ぎには、追いつかれそうですね」

 「一体どうしたんですか」

と、カイトが不思議そうに尋ねる。

 「低気圧が北東から近づいて来ています」

ダンがそう答えた。

 「サイクロンですか」

カイトが驚いて船尾の彼方の空に目をやった。

 「まだ、明るい空ですが、本当にサイクロンが来るのですか」

 「来る。間違いないです」

 マナツが、

 「ハフ、サイクロンの勢力は感じ取れるか」

と、見張り台を見上げて言うと、

 「尻尾の毛がビリビリしています。かなり危険な勢力だと思います」

 「分かった。ハフ、引き続き洋上の警戒に当たってくれ」


 ダンとファンゼムは、もう海図を広げて航路の変更を検討していた。

 「4時間以内で岩礁のない泊地になりそうな場所はあるか」

マナツがそう言うと、

 「キャプテン、3時間圏内に、あるにはあるのじゃがちと問題が」

 「・・・魔大陸ラゴン大陸の近くなのか」

 「そうなんじゃ・・・」

 ファンゼムの言葉に、ダンが更に説明を加える。

 「この航路が使われていた頃の話なのですが、この南東に入江と洞窟のある島があり、そこで嵐を避けて係留していたと言われています。双子島と呼ばれる無人島です。しかし、ラゴン大陸海岸線から22km。魔族のテリトリーです」

 「入り江で嵐を避けて係留できる場所があるのなら、洋上でシーアンカーを使ってやり過ごすより安全だな」

 「今日は新月で昼のサイクロン、大潮と重なってもいます」

 「サイクロンを避けるためには、双子島に向かうのが良いと言うことなのだな」

 ファンゼムとダンは唾をゴクリと飲むと、黙って頷いた。

 マナツは即決した。

 「双子島の入江の洞窟に係留してサイクロンをやり過ごす。そこは、ラゴン大陸海岸線から22km だ。注意を怠るな。針路南東。全速前進」

 クルーは了解と返事をして頷く。

 「目標双子島。針路南東。取舵!」

ファンゼムの声が甲板に響いた。リッキとテラがヤードを動かし、ラティーン・セイルが膨らんだ。


 2時間もすると北東の空に厚く大きな雲が追って来るのが見えた。やがてポツポツと雨が降り始めた。

 「南東12時の方角、双子島。島が2つ並んでいます」

ハフの声が揺れる船体に響いた。


 「あと4時間で暴風圏内といったところでしょうか」

 「ああ、ダンの予報は正確だったな。ロープとクッション、鉄杭の準備。双子島の入江や洞窟が使えなかった場合に備えて、シーアンカーも準備しておいてくれ」

そう言って、マナツはダンの肩を叩いた。そして、テラを呼んだ。


 テラは、手に小型火薬筒と手旗を持っていた。マナツはそれを見ると黙って頷いた。テラは、小型火薬筒と手旗をアイテムケンテイナーに無言でしまった。

 「テラ、時間がないのだ。行ってくれるか。あの双子島は、魔族のテリトリーだ。もし、魔族がいた場合には、テラの安全を最優先にして、帰艦しなさい」

 「母さん、分かっているわ。双子島の索敵と船の係留できそうな場所を見つけてくるわね」

 「2つの島のうち手前の島の北西部分に入江があるということだ」

 テラは頷くと、遠くに見える双子島に目をやった。次の瞬間には、テラの姿が甲板から消えた。


 テラは、双子島の手前の島に立っていた。島はホールケーキ型の高台の中央には険しく小高い山があった。足元には岩と30cm程の丈の草と枯れた低木が生えていた。

 テラは身を屈めながら辺りを見回した。ここは海面からかなりせり上がった場所だということはすぐに分かった。

 「マウマウ、この島に魔族や魔物はいるか」

 『魔族はいない。魔物もいない。隣の島には魔物が多数いるが、戦闘力は低い』

 「なら、安心して係留地を見つけられる」

そう言ってテラが立ち上がった。

 テラの朱色の髪が風に靡く。断続的だが突風も吹き始めていた。

 『テラ、安心するのは早いぞ』

 「え」

 『魔族と魔物はいないが、高い魔力を持った人間が1人いる』

 テラは慌ててその場に身を屈めた。

 「マウマウ、私たちは気付かれた?」

 『気付かれた様子はない。私は魔力を消しているし、テラの魔力は僅か1だ。神獣による魔力探知でも気付くことは難しい』

 「その高い魔力を持った人はどこにいるの」

 『この島の中央にあるあの山の山頂付近だ』

 「え、すぐそこじゃない」

 島の中心部にある険しい斜面の小高い山を見た。

 『それにテラの周辺の平らな地形には、魔力の痕跡がある』

 「魔力の痕跡?」

 『この辺り周辺の広域で凄まじい魔法が使われた痕跡がある。しかし、この痕跡は5年、いやもっと前の痕跡だ』

 「そんな前に誰が・・・」

 『それは分からない』


 テラは身を屈めながら島の北西端へ移動して行った。テラが地面の端から下を覗いた。

 「うぁ、高い。崖だ・・・海に浮かぶ崖の島と言う感じだわ」

島は高さが50m近い切り立った断崖によって海と隔たれていた。真下に高い岩礁に囲まれた三日月型の入江が見えた。

 「この下に船を係留できる洞窟があるのか」

 テラは無属性魔法ムーブ メントで入江まで飛んだ。

 「入り江の水深も問題ない。これなら大型船でも入って来れそう」

 そこから島を見ると、島の断崖がくり抜かれたような巨大な洞窟があった。


 洞窟の中には大型船も入れるような幅と高さ、水深があった。係留ロープを繋ぐために岩に打ち付けられた鉄杭が6か所にあった。

 「これは、島の地形を利用して、人の手で作られた係留場所だ」

 テラは鉄杭の強度を確かめた。

 「問題ないわ。ここで係留できる」


 テラは入江の入口に立った。ヘッドウインド号は500mの場所にまで迫っていた。

 テラはアイテムケンテイナーから手旗を取り出すと、ヘッドウインド号へ向かって手旗信号を送った。

 「コ コ イ リ エ イ リ グ チ、 ド ウ ク ツ ア リ、 ケ イ リ ュ ウ カ ノ ウ」

ハフが叫ぶ。

 「テラより手旗交信、ここ入江入口、洞窟有、係留可能」

 「針路そのまま、入り江へ向かう」

マナツが指示を出す。

 「ワ レ、 サ ン チ ョ ウ ニ ム カ ウ、 サ ン チ ョ ウ ニ チ ュ ウ イ サ レ タ シ」

 「キャプテン追信が」

 「ああ、見えた・・・テラ。あれ程安全を優先しろと言ったのに、何かあったな・・・双子島の入り江に急げ」

 マナツは船首に走り、女神の船首象に右手を置いて、前方の海面に目を凝らした。


 テラは島の中心部にある険しい斜面の小高い山を登っていた。

 「マウマウ、向こうはまだ気づいていない?」

 『ああ、意識がはっきりとしていない状態かもしれない』

 テラが岩に足を取られながらも登って行くと、目の前に洞窟が見えた。

 「マウマウ、ここに人がいるの」

 『間違いないわ。意識が朦朧(もうろう)としていたとしても気を付けて、かなりの魔力の持ち主だから』

 テラは頷くと飛願丸を抜いた。そして、洞窟内へと足を進めた。


 洞窟内は僅かだが登りの傾斜となっていた。

 「何この臭い・・・苦しくなるわ」

 『テラ、気をつけろ。これは虚ろ草だ。虚ろ草を燃やした煙の成分には意識を低下させる効果がある』

 テラは慌てて数歩下がると、

 『この濃度なら大丈夫だろう。念のために口元を布で覆っていればよい』

 テラは、布で口元を覆うと洞窟へ入って行った。

 20m程行くと、薄暗い洞窟の中に何かがいる気配がした。飛願丸を構え1歩、1歩足を進める。

 薄暗い洞窟の最深部の壁を見て、テラは驚きのあまりに言葉を失った。最深部の壁に上半身裸の男性が両手に鎖を付けられていたのだ。

 脚を前に伸ばして座ってこそいるが、両手を上に広げられて壁から伸びた鎖に吊るされてる。その手前には、薄暗くてよく形は分からないが、魔法陣の様なものが地面に記されていた。


 「・・・大丈夫ですか」

 「・・・」

 「あの・・大丈夫ですか」

 男性は僅かに目を開いた。洞窟内の光を反射して瞳だけが光っていた。

 その男性は朦朧とした意識の中で言葉を口にする。

 「・・・ま、魔族か・・いや、お、おまえは天使・・か・・・天使なら・・お・・俺はお前に言いたい・・ことが・・山ほどある」

 「私はテラ。交易・冒険者チーム女神の祝福のテラ。貴方は・・」

 「ちっ・・・悪魔や天使よりも・・俺の嫌いな・・人間か・・・」

 「私は人間、ホモ・サピエンス。あなたの名前を聞かせて」

 「・・・俺に名はない・・・」

 「では、なぜここにいるの」

 「お前には・・か、関係のない・・ことだ」

 テラは水筒を男性に差し出した。

 「これを飲んで」

 「・・・いらん」

 テラは飛願丸を男性に向けた。

 「・・・俺を殺すのか」

 飛願丸の切っ先は男性の左手首に巻かれた鎖を切断した。続いて右手首の鎖も切断した。

 「お・・い、そこの人間。よ、余計・・なことをするな・・・俺にやっと・・安らぎがくるというのに」

 「馬鹿ね。さあ、飲みなさい」

 水筒を口元に近づけると男性は、ゴクゴクと音を立てながら飲みだした。ゴホッゴホッと咽る。

 「ゆっくり飲みなさい。全部あげるから・・・ねえ、あなたまだ子供じゃない?」

 「うるせえな。俺は・・大人だ。お前こそ・・まだガキじゃねえか」

 「私はレディよ。そんな挑発には乗らないわ。大人と言うのはね、そんなことには動じないものよ。貴方はどう見ても10歳位いよね」

 「俺はもうすぐ12歳だ。お・・お前と違って大人だ」

 「やっぱりね。まだまだ子供。私はもうすぐ13歳よ」

 「・・・うるせい。バ、ババア」

 テラは拳で男子の頭を叩いた。

 「くぅー」

 頭を押さえている手をテラは握って引っ張った。

 「一緒に来なさい」

 「や、やめろよ」

 テラに引かれて洞窟の入口までよろよろと出て来た。

 陽の光の中でテラは振り返って男子を見た。男子は薄い桜鼠色(さくらねずいろ)の肌に白藍色(しろあいいろ)の髪と瞳をもっていた。瞳は透き通るような白藍色だった。首には石でできた首輪がついていた。胸には見たこともない文字の刻印がついていた。体には殴られたような痣がいくつもあった。

 「この首輪と刻印がそんなに珍しい・・のか」

 「ううん、生きていてよかったね。私の母さんに相談してみるといいわ」

 「う・・るせい。母さんっておまえも・・まだま・・だガキだな」

 「ええ、私はずっと母さんの子供よ・・・さあ、一緒に来なさい」

 「テラ、その子は誰なの」

 振り返るとテラの前には、マナツが驚いた眼をして立っていた。


 入江の洞窟内では、ヘッドウインド号が四方から伸ばしたロープで固定されていた。帆も全て降ろされ、甲板の道具や船倉の荷物をクルーたちが急いで固定している最中だった。

 「船体の脇にぶら下げている物は何ですか」

 カイトがもの興味深げに質問すると、ファンゼムは忙しそうに道具を固定しながらカイトを振り向きもせずに、

 「クッションぜよ。高波で船体が岩へ衝突したとしても、船体を衝撃から守るためのクッションだぜよ。シーアンカーと同じで、船には必需品と言えるものだ」

 「なるほど」

 カイトはクッションを手で叩いて弾力を確認していた。

 波も高くなり、ヘッドウインド号の船体が大きく上下している。

 「リッキ、右1番のロープをあと1m、右3番は70㎝緩めてくれ。もっとロープに遊びがほしい。高波で船体が上下動した時に、破損する恐れがある」

ファンゼムがリッキに向かって大声で指示をした。

 「了解」 

 「ファンゼム、船倉の荷物の固定は終了。甲板はどう?」

ハフが尋ねた。

 「甲板も大体終わったがな、大砲の固定をもう1度確認しておいてくれ」

 「了解」

 「あとは食料と水を多めに上げておいてくれ」

 「了解、リッキとダンと一緒にやっておく。この洞窟の上部にある横穴に入れておけばいいのね」

 「ああ、急いでくれ。あと2時間もすれば暴風圏内だ」

 「私にも手伝えることはありますか」

カイトが申し出ると、

 「そこの箱を上の横穴に持って行ってくれ」

 突然、マナツが洞窟の上から叫んだ。

 「サイクロンへの対処が済み次第、フル装備、武器、火薬、小型火薬筒、医薬品等を全て上の穴に入れてくれ。皆に話したいことがある」

 「キャプテンお帰り。テラは見つかったのですか」

 「ああ、無事だ」

 「キャプテン、火薬類は全て横穴に運んである。あと食料と水上げに10分。それで終わる」

 「船の浸水防止の戸締りを点検したら上に行きますわい」

 「分かった。10分後に横穴集合」

 忙しく作業をするクルーたちは、洞窟の上から横穴に向かって歩くマナツの後に、テラと男子が続いていることに気付く者はいなかった。

 「「「「了解」」」」

 

 洞窟内の海面から40mの高さに横穴が掘られていた。高さ2.5m、奥行き20m程の横穴だった。最深部は広くなり、半径6mほどの半円状のドームとなっていた。

 ドームの中央部分にランプを置き、奥には武器や火薬、食料などの荷物を置かれていた。

 ランプの温かな橙の光に照らされて、ドームの壁に黒い影が揺れる。


 「誰ですか、この子は」

 マナツのコートを肩から羽織って腕組みをしたまま座っている男子に、クルーの食い入るような視線が集まっている。

 「テラが見つけて来たのだ。詳細はまだ分からない。だがその前にこの子の胸の刻印と首輪だ」

 その男子の首輪とコートの隙間から覗く胸の刻印に全員の視線が集まる。

 「こ、これはまさか」

 「こりゃーたまげたわい」

 「・・・・」

 「先ずは、君の名前から聞きたい」

橙に照らされたマナツの顔がその男子を覗き込むようにして尋ねた。

 「・・・・・」

 「君は、ティタンの民だね」

 「・・・・・」

腕組みをしたまま無表情でいたが、僅かに(まぶた)が動いた。

 「テラが尋ねてくれ」

 テラは頷くと、卵を膝の上から降ろして、その男子に視線を移して言う。

 「あなたの名前は?」

 「うるせえな!」

その男子はテラを睨みつけた。

 テラもその男子の顔もランプの温かな橙の光に照らされて陰影が濃く出ている。

 テラはその男子の白藍色の透き通るような瞳を見つめて、繰り返えす。

 「名前は?」

 「チッ・・・・・フリュート」

フリュートは視線を下に向けると、腕組みを解き、腕をだらりと下に垂らした。

 「フリュート、良い名だ。フリュートが、なぜあそこにいたのかは想像がつく。ザーガード帝国によって魔族への生贄(いけにえ)にされたのだね」

マナツがそう言った。フリュートの唇が僅かに開く。

 「! ・・・・・・」

 「フリュート、そうなの」

テラが尋ねると、

 「・・・今夜、お前たちも死ぬ。俺に構うな。今すぐに、ここから逃げろ」

 「フリュート、間もなくサイクロンが来るのよ。だから私たちは、この双子島に避難して来たの」

 「・・・・」

 「その首輪は、魔法を封じる封印の首輪だね。そして、その胸の刻印は、受胎の刻印だね」

マナツが落ち着いた口調で話しかけた。

 「・・・・」

 ランプの炎は風で横に揺れ、壁に映る黒い影が斜めに引き延ばされたように揺らめいた。

 「ダン、ハフ、サイクロンの通過は何時だと予測する」

マナツが2人に目を移してそう尋ねた。

 「このサイクロンの勢力は大きいですが、移動速度も速いので今夜9時には通過していると考えます。前後1時間の誤差はあると思います」

 「キャプテン、私には通過時刻までは分からないわ」

 「サイクロンが通過しても、明日の昼過ぎまでは波が高くて出航できない・・・」

マナツはランプの炎を見つめながらそう言うと、クルーを見渡して、

 「今夜、魔族を迎え撃とうと思う。この島に逃げ場はない。座して死ぬより、死地に生を求める。しかし、対魔族は簡単ではない。おそらく死者が出る。または全滅もあり得る。意見があれば言ってくれ」

 「魔族は残虐で、人間を見ればハンティングを楽しむように殺す。そして、強い・・・そやけど、生き延びるために戦う。儂もそれしか方法がないと思う」

 「相手が魔族なら我々の全滅もありうる。それでも、それしか生き残る道はないと考えます」

 「嵐の中を出航して沈没もありえるし、例え無事に乗り切れても洋上で空を飛ぶ魔族の群れに襲われたら、それこそ勝算はゼロ。私たちの生きる道はここで戦うしかない。私も戦いに賛成」

 「俺も賛成だ。それにキャプテンは、この男子に出会った時に、こうなることも予想していたのでしょう。だから、船からフル装備と武器、火薬、小型火薬筒の持ち出しも確認させた」

 「母さん、迎え撃ちましょう。この子を生贄に差し出すことはできないし、例えそうしても私たちは襲われると思う」

 「カイトさんはどうお考えですか」

マナツがそう問うと、

 「私は正直恐ろしいです。でも、恐怖に怯えていても、道は開かれません。多くの民が鉱石の恩恵を得るためにも、私も戦い、生き残りたいです」

 マナツは頷く。

 「よし、魔族を迎え撃つ。決定だ。魔族の人数や強さは分からないが、生きるために戦おう。各自装備の確認と点検。ファンゼムと私で作戦を練る」

 クルーは頷いた。

 「カイトさんはこの洞窟を守っていてください」

 「それでは・・・あ、私は足手まといにしかなりませんね」

 「もし、負けた場合でも、明日の朝、生き残りがいたら手当をしてください」

 「分かりました」

 マナツは、フリュートに視線を移すと、その肩に手を当てて、

 「フリュート、君が生贄になる必要はない。我々と共に生きるために戦おう」

 「・・・・」

フリュートの唇が微かに動き、いざとなれば、俺を差し出すんだろう、と息のような言葉が漏れた。

 テラは黒翡翠のついた導きのペンダントを手に取って眺めると、フリュートの封印の首輪を触った。

 「おい、何するんだよ」

 フリュートはテラの手を跳ね除けた。

 「これ外してもいい?」

 「無理だ。何度もやってみた。これは、力づくで引っ張っても外れない」

 テラはマナツを見た。マナツは黙って頷く。

 「私が外すわ。これを外せば、貴方は魔法が使えるのね。でも、戦わずに隠れていてもいいわよ」

テラはそう言うと飛願丸を抜いた。フリュートの首に左手をそっと伸ばすと、封印の首輪を切った。

 「これでいいわ」

 フリュートは、両手で首を触り、

 「・・ありがと」

と、唇が微かに動いた。

 「聞こえなかったわ」

 「もう言わねえからな・・・ただ、これで奴隷と生贄から解放された気がした」

 「・・・フリュート」

 テラはフリュートの目を見た。それを横からマナツが優しい眼をして2人を眺めていた。

 テラが、

 「ねぇ、私も奴隷や生贄にされたり、・・・死んだりするのは嫌よ。だって、まだまだやってみたい事が沢山あるから。私より年下のあなたを生贄にするなんて許せないわ」

テラがフリュートに怒気を込めて熱く語ると、

 「年下扱いするな・・・俺はお前たちを信用している訳ではない」

 「おいおい、生贄はテラより年下でなくても、嫌だぞい。年長者も労わってほしいぜよ」

 「物の例えよ」

テラは目じりを下げて、プンと頬を膨らませると、ファンゼムに向かって舌を出した。

 「がははは、ええなー、力がモリモリ湧いて来たがな」

ファンゼムは腕に力こぶを出して笑った。

 武器の点検を始めていたクルーたちも、2人のやり取りを横目で見て破顔していた。

 その時、激しい雨音がすると、唸る風の音がした。

 「いよいよサイクロンが来たか」

マナツは、洞窟の入口に目をやって呟いた。


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