第5章 魔力がわずか1の魔法使い
第5章 魔力がわずか1の魔法使い
河原の石に腰掛け、クローを手に取っていた。
「クロー、俺はこの世界で逞しく生きていくことを目的にしたけれども、元の世界とはあまりにも違う。圧倒的な力が支配するこの世界の生存競争には無力感しかない。クローのガイドによって、この世界についての理解は深められたけれども、俺自身に圧倒的な力に対抗できる力がほしい。生き抜けるという希望がほしい」
ダイチはクローを見つめている。
「だから、魔物に怯えることなく、逞しく生きていく力を獲得するための最適解を示してくれ」
と、すがるような思いを言葉にした。
逞しく生きていく力を獲得するための最適解
1.ステータスの能力を上げる
2.ジョブを修得する
3.仲間をつくる
「ええっ、ステータスとジョブ! ゲーム定番の設定そのものじゃないかー。まさかパラレルの境界を越えたってゲームの世界にか? おい、クロー・・・」
思わず立ち上がり、右に左にうろうろと歩きながら考え始める。
「ゲーム経験はあるので、イメージし易いのはいいな。それならステータスアップとジョブ習得の方法だ。あ、ステータスって見られるのかな。ステータス画面が突然目の前に浮かんできたりして・・・とりあえず、ステータスオープン」
「・・・・・変化なし・・・・まぁ、想定内だ」
自分の口元が引きつるのが分かった。
「ついでに魔法だ」
「ファイアー!・・・・」
「ファイアーストーム・・・・」
「炎弾・・・・」
「サンダー!・・・・」
「雷撃・・・・」
ヒク、ヒクッと頬が引きつる。
「・・・これも想定内、次だ」
「いでよ魔剣!・・・」
「アイテムポーチオープン・・・・」
ヒクッ
「とりあえず、ステータス表示からなんとかしたいな。そうだ、そうだ。ステータス表示をクローにリクエストすればいいのか。黒の神書の使い方を少しずつ理解してきたな」
クロ―を片手に、
「俺のステータスを示せ」
本をめくると、
「あった。これだ。なになに・・・」
ステータス
氏名:野道 大地 年齢:25歳 性別:男性 所持金:0ダル
種 :パラレルの境界を越えたホモ・サピエンス
称号:境界を越えし者
ジョブ・レベル:召喚術士・レベル1
体力 105
魔力 1(固定値)
俊敏性 102
巧緻性 524
カリスマ性 213
物理攻撃力 101
物理防御力 93
魔法攻撃力 81
魔法防御力 106
生得スキル
アイテムケンテイナー
無属性魔法
ジョブスキル
召喚無属性魔法:エクスティンクション
特異スキル
学び
「所持金0ダルって・・・実際に無一文だからそうなのだけれども、現実に見せられると心が折れるな。常に預金通帳開示しているようなものだな。他の人に見られるとしたら恥ずかしい・・・というより個人情報だだ漏れだな。えええー、俺ってジョブがあるじゃないか。しかも、わくわくするようなジョブ名、召喚術士。これ俺が知っているゲームでは、見たことも、聞いたこともないぞ。召喚術士って、どんなジョブなのだろうか」
これは、クローにあとで尋ねることとした。
「大事なステータス値だな。どれどれ、自分の能力の採点表みたいで少し心が折れるな。体力105は高いのか、低いのか? この数値の平均値が分からないので他人との比較のしようがない。他人と比べて長所や短所は分からないけれど、個人内での長短は分かるな。いずれにしても、この数値を伸ばしていけばよいということか。え、魔力1って・・・・俺の他のステータス値と比べると、ないに等しいのでは、しかも固定値。魔力はもう伸びないということか。魔法が使える世界だから、魔法をガンガン撃って、魔物退治をしてみたいに・・・だめじゃないか。儚い憧れだった」
曇天の空に目を移して、一呼吸。
「巧緻性が524って、俺の能力内ではずば抜けている。俺って器用だな。」
先程の魚捕りやナイフ作り、火おこしの道具作りなどでイメージ通りに出来たのは巧緻性のせいなのかもしれないと、自分で納得した。
「日常生活でも召喚術士でも、この巧緻性の価値を最大限に生すことを考えよう。次に・・・カリスマ性が他の数値と比較すると2倍あるな。これも生かし方を考慮しないといけない。生得スキルにアイテムケンテイナーとあるが、ひょっとして大型容量のコンテナのことかな。期待が膨らむぞ」
次の項目は、ジョブスキルだ。魔法という字を目にして、昨日、目撃した魔法使いの魔法を思い浮かべゴクリと唾を飲んだ。
「ジョブスキル 召喚無属性魔法:エクスティンクション、どんな魔法だろう。魔力1、魔法攻撃力81でも発動したり、高い効果を発揮したりするのかな? いずれにしても、魔力1の魔法使いって・・・・ひょっとして、俺って、適性のないジョブに成った残念な人間なのか」
兎に角、いつ魔物に出会うかも分からない状況では、どんな魔法か試しておかないといけない。このことはこの後すぐに試してみることにした。
「特異スキルの学びとはなんだろう。想像もできないな。生活に必要な能力を学び、習得し易いということか?」
ダイチは、魚捕りでも2匹目からは、簡単に、というより無造作に捕っていて、馬鹿にコツの飲み込みが早いなと不思議だったことを思い出した。自身のステータスを一通り見終わると、期待と不安が生まれ、確かめなくてはならない課題を理解した。早速、本の特異スキル「学び」に指を当てて押したり、声に出してみたりしたが反応はなかった。
「これって、意識して発動させる能力ではないな。常時発動を願うだけだ」
突然、音もなく目の前に薄い円盤が現れた。空間に空いた円い穴といった方がよいかもしれない。
「よっしゃー。きたきたきたー! アイテムケンテイナー・・・だよな?」
ステータスの生得スキルにあったアイテムケンテイナー、とりあえず叫んでみた。すると、目の前に円い空間が現れた。その円い空間の中には部屋が並んでいた。その部屋の一つを開けてみると、間口が広がった。つまり、アイテムケンテイナーは入口を開ければ、ロッカーのように各部屋に整理して格納できるということかとダイチは考えた。
「アイテムケンテイナーは、不思議なポケットみたいに何でも入れることができる収納空間だといいな。まずは、どのくらいの容量が入るのか試す必要があるな」
残っていた薪を右手に持って、恐る恐る円い穴の1つの部屋の中に入れてみた。
「何の感触もないな。薪が空間に吸い込まれる」
その後は、試しにアイテムケンテイナーへ石やら薪やらを詰め込んだり、引き出したりした。勿論、眩いばかりに輝く白石と黒曜石、黒曜石のナイフなども格納した。
「アイテムケンテイナークローズ。ふふふふふ、これは素晴らしい能力だ。この世界で逞しく生きていくためには不可欠といっていい。どんどん利用するぞ」
クローに手を置き、見つめた。
「クロー、俺がこの世界で手に入れた能力。失ったものばかりではないのだな」
希望の芽を感じた。
確かめてみた限りでは、河原の石はアイテムケンテイナー内の1つの部屋にどんどん入った。1部屋でも無限に近いか、これがロッカーのように並んでいる。アイテムケンテイナーは無限の容量だと確認できた。