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第23章 目指すはグリュードベル王国

 第23章 目指すはグリュードベル王国


 ダイチは、ロドの鍛冶屋に3日間籠った。

 鍛冶で有名なローデン王国のドリアドから来た鍛冶職人が仕事をする。しかも、アダマント鉱の失われた製法を独自に開発したバイカル鍛冶屋の鍛冶職人が仕事をするとあって、たちまち噂は広まり、ロドの鍛冶職人の多くが見学に来ていた。そこには宮廷彫金師ワイルゼン・パールの顔もあった。

 ダイチは、バイカル鍛冶屋の黒いつなぎに袖のない茶色の皮ジャケット、足首の上まである頑丈そうな革の黒い紐靴を履いていた。

 炉で真っ赤に焼いたミスリルインゴットを取り出すと、一心不乱に打ち出した。

 炉から充満している熱、飛び散る橙の火花、リズミカルな音。ロドの鍛冶屋職人もダイチの鍛冶をうっとりと眺めていた。時折、職人同士で指差しながら何やら話をしている声も漏れてきた。

 宮廷彫金師ワイルゼン・パールは、ダイチの眼差しの鋭さに感心していた。過日に彫金工房で見せた人の好さそうなダイチの眼とは明らかに異なっていた。

 ダイチのジョブスキル整形の妙技が発揮され、刀身の形や厚さなどが思い描くように形づくられていった。ロドの鍛冶屋職人からも驚嘆と溜息がもれていた。

 作業が進むと、鍛冶工房内には異様な緊張感に包まれていた。誰一人として声を出さない、身動きすらしない。まるで1枚の写真のような風景になっていた。ダイチの打つ姿だけが動画のように動き、鍛冶の力強い音を奏でていた。それは、ダイチのクワッと見開いた眼が尋常ではなかったからだ。迷いや雑念がなく、ただ一点のみに集中する黒目は、人に非ざる眼、まさに魔人の眼であった。ダイチの魂を注ぎ込む鬼気とした気迫に気圧されていたのだ。ロドの職人たちの魂を金縛りにしていた。 

 ジュジュジュジュー

白い煙が工房内に充満する。

 ダイチは、水から刀身を持ち上げると、魔人の眼で刀身を根元から切っ先まで眺めた。

 ダイチは刀身を置くと、工房内の職人たちも忘れていた呼吸を取り戻したかのように、息を吐いた。職人たちは、安堵に満ちた表情に変わる。緊張から解放されて、全身に気だるさを覚える程であった。職人たちは、作業について互いに語り始めた。その途端に、キン、カンとまた別の刀身を鍛え始めた。

 「また別の刀身を鍛えるのか・・・俺には、これ以上見学することさえ、もう耐えられない」

 「これがドリアドの鍛冶職人、バイカル鍛冶屋の職人のもつ技と気力なのか」

 「魂を削り注ぎこむと表現したらいいのか・・・」

などと、悲鳴とも称賛とも聞こえる声が漏れてきた。

 宮廷彫金師ワイルゼン・パールは、ダイチの鍛冶の姿を見ながら、

 「あの鬼迫・・・我ら彫金職人も鍛冶職人も己の魂を削り創る。最後に、ナギの彫金職人は彫金の女神に祝福されて逸品となり、ローデンの彫金職人は自らが鬼神の域に踏み込んで逸品となるか」

そう呟いた。

 

 英霊への慰霊式典の翌日に行われた論功行賞で、ダイチは第1等大功となり、ナイトの称号と城外に住居、褒賞金10億ダルを授けられた。

 論功行賞が終わり、ダイチは、王宮グレートフォレスト来賓の間にクローとカミュー、ルーナと共に戻って来た。ダイチの胸には、白い雪の結晶の中で銀の雷鳥が翼を広げいる意匠の大勲位雷鳥章が光っている。

 来賓の間の扉を開けると、長いテーブルには料理が7人分、並べられてあった。

 「この料理は・・・」

 「宮廷料理ではなくナギ王国の田舎料理です」

壁際に立っていたキャメルさんが言った。隣にはクミンさんが微笑んでいた。

 「キャメルさん、クミンさん、ご無事でなによりです」

 「ナギ王国の危機をお救いくださりありがとうございます。ささやかではありますが、お食事をご用意させていただきました」

 「嬉しいなー。またキャメルさんとクミンさんの料理を一緒に食べられるなんて」

 「またお食事をご一緒させていただくことは、大変光栄なのですが、今回ばかりは・・・リリー様からの厳命ですので、覚悟を決めてまいりました」

 「厳命で、覚悟・・・どうしてですか」

ダイチが不思議そうに尋ねた。

 ルーナは微笑んでいる。

 キャメルさんが歯切れ悪く、

 「・・・それは・・・」

と、言った時、

 「ダイチ殿、お待たせしました」

アルベルト王子とリリーが入って来た。

 「アルベルト王子・・・リリーも・・・なぜ、ここに」

ダイチが驚いていると、アルベルト王子が、

 「ダイチ殿の友として参りました」

 「恐縮ですが、私もダイチ様の友として参りました」

リリーも続いた。

 「ありがとうございます。友の訪問はいつでも大歓迎です」

ダイチは笑顔でこの2人を迎えた。

 キャメルとクミンは、アルベルト王子にお辞儀をしたまま固まっている。

 「では、食事の前に友へ友情の証を」

アルベルト王子は、ダイチの前に進むと、指輪を渡した。

 ダイチは手にした指輪を見ると、緑色に輝いていた。角度を変えると青く光った。

 「ありがとうございます。これがあの鉱石の指輪なのですね。美しい」

 「はい、ナギ王国の特産の鉱石です。きっとこの鉱石はナギ王国の輸出の柱となることと思います」

アルベルト王子がそう応じると、ダイチは早速指輪を右指にはめた。

 「指輪は初めてですが、似合いますか」

ダイチが照れたように尋ねた。

 「お似合いです」

リリーも顔を綻ばせながら言った。

 「友情の証の指輪は大事にさせていただきます」

 『この鉱石は、ナギ王国特産の交易品になるでしょう。アルベルト、ナギ王国をお願いします』

ルーナも満足気だった。

 「この鉱石は、父と母の名をとって、アベイスグレイスと名づけました」

 「それは、良い名ですね。亡き国王と王妃も喜ぶことでしょう」

 『その鉱石アベイスグレイスは、民の暮らしを豊かにするでしょうね』

ルーナがそう言うと、一同が頷く。

 友情の証にダイチは自作の一品、ミスリル製の剣をアルベルト王子へ、ルーナにはミスリル製のサーベルを、リリーにはミスリル製の槍を出発前に渡そうと用意していた。4日前に友情の証の話がでたので、ナギ王国の鍛冶屋を借りて造っておいたのだ。カガリにもミスリル製の直刀の小刀を造った。

 部屋の棚を開けてそれらを取り出すと各自に手渡した。リリーにカガリにそれを渡してもらえるように頼んだ。リリーとカガリは、魔族との戦で共に背を任せて戦ってからは、意気投合していた。

 アルベルト王子とルーナ王女、リリーはそれぞれのミスリル製の刀身を見た。アルベルト王子の波紋は緩やだが力強く、王の剣に相応しかった。リリーの波紋は、波の砕け散るような荒々しさがあり王の盾としての鬼迫が映し出されていた。ルーナの波紋は、慈愛と気高さを象徴するような緩やかな波紋と鋭い波紋、その輪郭に雪の結晶をもっていた。

 「素晴らしいです。このような波紋は見たことがありません。孤高の美、厳しくも美しい」

アルベルト王子が絶賛する。

 「美しい・・・そして気高い。手にも馴染みます」

ルーナが剣を構えて言った。

 「アルベルト国王をお守りする鬼神をイメージします」

リリーが刀身を見ながら言った。

 「気に入ってもらえたのなら嬉しいです。アルベルト王子の剣は『光国』、ルーナのサーベルには『雪姫』、リリーの槍は『護国』、カガリには、太陽の元で生活を送ってほしいと願いを込めて、その小刀には『陽昇』と名付けました」

 「ダイチさんの願いのこもった、友情の証を大事にさせていただきます」

アルベルト王子が笑顔で言うと、ルーナもカガリも深く頷いた。

 キャメルさんとクミンさんには、金製のイヤリングを渡した。ナギ王国へ出発前にクローには、金の栞、カミューには金の盃を自作して贈る約束をしていたが、彫金技術を学ぶ機会が少なかったので、市販の物を贈った。

 皆喜んでくれていた。キャメルさんとクミンさんは遠慮していたが、受け取ってもらった。

 『主、そろそろ食べないか』

カミューは、腹が減って待てないらしい。

 「ああ、そうだった。キャメルさんとクミンさんの真心のこもった料理だ。キャメルさんもクミンさんも席についてください」

 そう促されて、2人は緊張しながら席についた。

 「気心の知れた方たちとの食事は格別です」

ダイチがそう言うと、一同が頷いた。キャメルとクミンだけは。ぎこちなさが残る笑顔だった。

 


 「ダイチ様、次はどこに行かれるのですか」

リリーがダイチに尋ねた。

 「・・・実はまだ、決定はしていないのです。豊穣神獣か冥神獣のどちらかにしようと考えているところです」

 「なぜ、その神獣を選んだのですか」

 「ナギ王国から近くクローのお勧めなのです」

 「クロー様がなぜお勧めなのかを知りたいところですね」

アルベルト王子も話に乗ってきた。

 『双方ともカミュー並みの戦闘力がある。魔王ゼクザールが完全復活する前に優先的に召喚神獣としておきたいところだ』

クローは説明をしたが、思念会話なので2人には聞こえない。ダイチが言葉にしていく。

 「カミュー様並みの戦闘力とは、途方もない力なのですね」

アルベルト王子が葡萄ジュースのグラスをテーブルに置いて言う。

 『奴らは確かに強いが、我には及ばん。良く言って互角だ』

 「カミューと互角・・・最強レベルではないか」

ダイチが驚く。

 『まあ、そんなところだ。それでなくては魔王ゼクザールを倒せん』

 「魔王ゼクザールはそんなに強いのか」

 『ダイチ、だから六神獣が必要なのだ。それを束ねる者も』

クローは思念会話で言った。

 『ダイチ殿、わたくしは、異国の民や文化に触れてみたいのでどこでも歓迎です』

ルーナが言った。

 「ルーナだけは、観光気分だな・・・まあ、寝る前に、行き先はゆっくりと話をして決めよう」

 『ダイチの先送りか』

クローがそう呟く。

 ダイチは、聞かなかったことにした。

 その後は、ナギ王国の名所や名物、流行などの話になり、キャメルとクミンも会話に参加し始めた。

 王立歌劇場にあったロドの彫金技術の粋を集めた装飾品や、彫刻、レリーフ、絵画の厳粛にして厳かな装飾が話題になった。

 ダイチが特に心を奪われたエントランスの天井に描かれた7神8魔人の絵画を絶賛すると、

 『あれは、800年前の人魔大戦を描いたものです』

と、ローズが言った。

 「六神獣と魔王ゼクザールの戦いか。圧倒する迫力がありました・・・あれ、魔王ゼクザール討伐って、魔王ゼクザールと戦うだけではないのか」

 『主、当たり前ではないか。魔王ゼクザールが1人で戦う訳などないだろう』

カミューがあきれた表情をして言った。

 「まあ、そうなのだろうけども、魔人8柱が気になるな」

 『それは別の機会に話す』

 ダイチは、カミューの言葉が気になったが、ここにはキャメルとクミンもいるので追及はしなかった。


 ダイチは、襟の長い黄緑の布地に深緑の縁取りのデザインの上下に、深緑のマント、深緑のロングブーツを履いている。マントの下には革製の肩掛け鞄。黒の双槍十文字を握る指にアベイスグレイスの指輪が緑と青の光を放っていた。アルベルト王子から贈られた葦毛の馬「北斗」に乗った。

 ルーナは、白い上下の布地に赤の縁取りのデザインの上下服に、淡い青の羽衣を纏っていた。左の腰には、金色の柄に淡い青色の鞘を付けたミスリル製のサーベルを帯びていた。ルーナの愛馬「雪風」は白い毛が風にそよいでいた。

 見送りは堅く辞退していたため、2騎での旅立ちとなった。

 

 パコ、パコ、パコ、パコ

石畳をゆっくりとした蹄の音が響く。

 まるでローマ時代か、あるいは神話の世界のようなドーム状の建築物や神殿風の建築物の脇を馬が歩いて行く。エルフの王都は、美麗であり、厳かであった。

 やがて、王立歌劇場の四角い巨大な建物と三角の大きな屋根、それを支える巨大な石造りの円柱が見えてきた。屋根の上にはエルフの男性象と女性像が見た。緑の芝生が生い茂った大きな広場の中央には池があり、池の中心には銅像と噴水が今日も流れていた。ダイチは変わらぬ風景を目にすることができ、自分たちが成し遂げたことを実感し、平和を心から喜んでいた。ルーナは黙ってその景色をじっと見つめていた。

 石像が立ち並ぶ石畳の道を抜けると商店街に出た。商店街は今日も多くの買い物客で賑わっていた。ダイチは、

 「この中にも魔族との戦で、子供や夫、兄弟、恋人、友人などを亡くした方は大勢いるはずだ。突然、寂しさが溢れだして眠れない夜もあるに違いない。まだ心の傷が癒えぬなかで、懸命に生きているのだろうな」

などと、思わずにはいられなかった。


 王都ロドの城門を出た。

 「なあ、俺の目的のこの世界で逞しく生きるということについて、アルベルト王子やルーナ王女、リリー、オチャノミズ氏などの生き方に触れて、考えさせられることが多かった。俺には、人が逞しく生きるということは、他者のために全力で生きる姿だと重なるんだ。そう実感した。

 そう考えると、メルファーレン侯爵も、他者のために全力で生きていると思えたんだ。これまでは、我が道を切り拓き、孤高で逞しく生きている英雄だと勝手に思っていたのだけれども、他者のために偉業を成し遂げているからこそ英雄に成り得たのかもしれない」

 『まあ、ダイチ殿には、わたくしの生き方が逞しく見えていたの? 迷ってばかりいたのだけれども』

ルーナがそう言う。

 「逞しく生きていることと、逞しく生きていくために迷うことは違うような気がする」

 『主、次の目的地は決めてあるのだろうな。まだ迷っているのか』

カミューが会話に割って入ってきた。

 『ダイチは、昨夜の食事の後でも、決定を先送りしたしな』

 『ダイチ殿、わたくしはどこへでもお供します』

 「豊穣神獣を召喚獣にする。クロー、目的地はどこになる」

 『豊穣神獣ならグリュードベル王国だと言ったはずだ。ナギ王国のマイゼク山脈を挟んだ東に位置する国だ。マイゼク山脈を北上して、妖精の住むローレライの森を抜けていくことになるな』

 「妖精か・・・楽しみだな」

 『いきなり妖精と出会えるなんて、わたくしは運がいいですね』

 『主、妖精はあやかしの術を使うと、先代カミューの記憶にある。油断はできんぞ』

 「あやかしの術って、妖術ってことか、魔法とは別物なのかな」

 『ダイチ、グリュードベル王国に行くなら、王都ロドから北の谷に出た方が早かったぞ』

 「問題ない。このまま東に進み、マイゼク山脈の麓を北上して行こう」

 『ダイチ殿は、本当にお優しい方ですね。わたくしにマイゼク山脈とアディア山を近くで見せるために、こちらの南口を選んでくださったのですね』

 『主、気が利くな』

 「たまたまだよ」

 『ダイチ、馬で半日の遠回りになったな。でも、遠回りも時には必要か』

ダイチは東を指して言っう。

 「半日分の対価はあるさ・・・東を見ろよ」

そこには、マイゼク山脈の連峰が、青く、白く、高く、険しく、そして美しくそびえていた。山頂の空気は澄んでいて、張りつめた緊張感を纏っている。人の住む世界とは隔絶した聖域としか思えない景色が広がっていた。

 秋を迎える時季へと移り変わっていた。天高い青空に、冠雪した山々は白く淡く輝き、その神々しさは見る者を圧倒した。

 目の前の広大な草原には、ナギ王国の名産である白い幹に緑の葉のついたオリーブ園が広がっていた。




2024.2.21


             ANOTHER EARTH

        ― 魔力がわずか1の魔法使い ―


            未来からの遺産編




                終

  

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