第15章 時の功罪
第15章 時の功罪
首都ロドの東北東のマイゼク山脈の麓の封魔結界内。
「まもなく第2陣の2500名がこの丘に到着する時刻です」
参謀長のハンガ男爵が言った。
「第2陣が到着次第、先ほど指示しておいた各地点に炸裂火炎砲100門と砲撃兵1000を分散配置、第1防衛柵の後ろに魔法兵士150と歩兵500、側面に弓兵250ずつ、弓兵の外側に歩兵100ずつ、第2防衛柵の後ろに歩兵300、その後方に騎兵450、森の右に伏兵として騎馬隊200、歩兵300、この本陣に歩兵500、丘の後方300メートルに騎兵50と魔道歩兵50、歩兵300の配置を急がせろ」
防衛隊長のジルク子爵が指示を出す。
炸裂火炎砲は砲弾が爆発し、火炎を撒き散らす兵器で、その火炎の効果範囲は直径20メートルと殺傷能力の高い数年前に開発されたばかりの最新兵器である。
早朝にこの丘に到着すると、簡易ながら監視塔や柵、堀、炸裂火炎砲の砲台などの防御陣を構築していた。
参謀マクレール男爵の提案により、第2陣の兵が到着次第、防衛陣が完成するよう、兵種と人数を明記した多数の旗を陣地内に立てていた。
マクレール男爵は、ホモ・サピエンス年齢21歳と若い男性エルフであった。沈着冷静で独創性の高い戦略と戦術眼を持ち、将来を有望視されていた。
「ジルク子爵、第2陣が見えてきました」
「予定の時刻より20分早いな。第2陣も踏ん張ったな」
ジルク子爵は第2陣の隊を見ながら微笑んだ。
「計画通りに、移動を止めずに、各守備位置へそのまま誘導しろ」
「はっ」
陣地にいた歩兵50名が走り出て、第2陣の隊の誘導を開始した。
首都ロドの東北東のマイゼク山脈の麓の封魔結界外。
「ここは封魔結界がほぼ消失している。これなら魔族の侵攻が可能だ。発見した斥候兵は、褒美としてこのままオルバ様の兵に編入させてやる」
シャクゲ魔族東別動隊長がそう言うと、
「斥候兵は元々オルバ兵です」
「・・・流石は、オルバ様の兵だ。一旦ホージュスの兵にしてから、オルバ様の兵に編入だ」
「はっ、絶望の後に、希望を与えるのですね。シャクゲ様の智謀には驚きます」
「当然だ。魔族東別動隊の魔族兵はまだ揃わぬのか」
「あと、15分もすれば突撃の準備が整います」
「では、15分後に侵攻を開始する」
シャクゲは、そう言うと、岩に腰を落ろして、息を吐いた。
シャクゲは、いきなり立ち上がり、
「これから、ナギ王国への侵攻を開始する。目指すは首都ロドだ。者ども、殺戮の限りを尽くせ」
「シャクゲ様、魔族東別動隊の準備までには、あと14分必要です」
「黙れ」
シャクゲが大斧で会話をしていた魔族を袈裟切りした。
「俺の勘が突撃せよと言っている。目指すは首都ロドだ。殺戮の限りを尽くせ。ただし、エルフを切り刻むな。ミンチにはするな。・・・オルバ様がお怒りになる。突撃だー」
「おおー」
シャクゲが先頭となって、封魔結界消失地点からナギ王国へと飛び込んだ。
シャクゲは、魔族の序列を決める戦闘力においては抜きん出ている武闘派だった。個人の戦闘力でのし上がって来た・・・あくまで武闘派であった。知性と品性が著しく乏しい、短慮で粗野、愚直なまでに勇猛な武闘派だった。戦において、細かな連携を必要としない魔族には、個人の高い武と勇猛さは、それだけで大きなデメリットを補って余りあるものであった。
15分後にはジルク子爵率いる防衛隊の陣形が整う。そこへの侵攻は、炸裂火炎砲100門と魔導士兵、弓兵の集中砲火の的になっていたであろう。
人も魔族も時の流れは平等であるが、シャクゲの勘、気まぐれ・・・が、戦局を大きく変えることになった。この僅か15分間の時が、明暗を分けることになった。
図らずとも、シャクゲの魔族の勘、気まぐれによって、戦端の幕が切って落とされたのだ。
魔族兵は、封魔結界の消失地点から森へと雪崩れこんだ。
ジルク子爵率いる防衛隊は、森の中からの雄叫びを聞き、
「魔族が来たぞ」
「魔族が森にいるぞ」
兵たちが警告を発する。
「ジルク子爵、まだ防衛陣が完成しておりません」
「分かっている。配置に付いた炸裂火炎砲、魔導士兵、弓兵から応戦しろ。他は配置を急げ。それから、王都へ伝令だ『我、魔族と開戦せり』」
伝文を足に付けた鳩が防衛陣地から飛び立った。軍用の伝書鳩は、魔族を祖先にもち1日千五百里を飛ぶといわれているグレートピジョンと呼ばれる鳩であった。
魔族兵が雄叫びを上げながら、森を抜けて来た。
「照準、森出口。撃てー」
号令が各隊からこだまの様に響く。
ドゴーン、ドゴゴーン
ゴォー、ゴォー
シュ、シュ、シュシュシュ、シュー
森の出口から出て来た魔族に着弾炸裂し、直径20メートル火炎を飛ばした。範囲内の魔族たちが吹き飛ぶ。
魔導士兵の撃った火弾が魔族の腹に穴を開ける。半身を焼き尽くす。
放物線を描き、空を黒く染める矢の雨が魔族の顔、胸、腹に次々に刺さる。
この間にも、未配備の炸裂火炎砲を砲撃兵たちが丘の上に押し上げている。その横を弓兵が配置場所を目指して駆け上がって行く。
魔族は、一斉に空へ舞い上がった。森の出口からも、森の中からも飛び立ち、空中戦へと変化していく。
魔族から火魔法の火弾が無数に飛んでくる。丘に配備された柵にも、それを盾にしている兵たちにも、次々と着弾する。中級魔法ファイアが空中の魔族から撃たれた。炎の渦が真っ直ぐに伸び丘の上の兵を焼く。上級魔法極炎の直径3メートルの炎柱が立ち上がり兵たちを巻き込んでいく。
森から一直線に本陣めざして丘を駆けあがって来る魔族たちは、武器を手に縦横無尽に殺戮していく。魔族の圧倒的な魔力と腕力の前に、防衛兵たちは押し込まれて行く。
「炸裂火炎砲を空の魔族に向けろ」
「魔導士兵と弓兵も空の魔族だ」
「地上の魔族には、騎馬と歩兵が当たれ」
「森の出口に、伏兵の騎馬と歩兵を当てろ」
空中を自由自在に飛ぶ魔族へ遠隔攻撃が行われる。
炸裂火炎砲は空中で炸裂し、火炎を撒き散らす。効果は抜群であるが、次弾装填までに時間がかかる。その間も容赦なく魔族の高出力魔法が着弾していく。
。魔導士兵の火弾は、1度に複数の魔族を殺傷できない。魔族は広範囲魔法を放ち、兵力を減らしていく。
森の出口から走り出てくる魔族に、森の出口に潜ませていた伏兵の騎馬隊と歩兵が突撃した。虚を突かれた魔族は、騎兵の槍に貫かれていくが、魔族が空に浮き空中から魔法攻撃を始めると形勢は逆転し一方的に殲滅されていった。
魔族の空中からの魔法攻撃へ対応するためには、炸裂火炎砲や魔導士兵の魔法、弓兵など攻撃と限られていたため、かなりの苦戦を強いられていた。しかし、魔族は空中から地上に降りて喜々として攻撃をしかけてきた。魔族はその高い残虐性の本能から空中から地上に降り立ち、手持ちの武器や特殊な近接魔法で切り刻んでいくことを好んだのだ。緻密な集団戦術よりも、個の武力を主流とする対人戦で勝利することに快楽を覚えていた。従って、魔族との戦闘は地上戦がその主流となり、次第に接近戦へと変わっていった。
丘の上方の第2防衛柵から騎馬隊と歩兵が下方めがけて突撃した。騎馬隊と歩兵の逆さ落としによって魔族は次々に討ち取られていく。魔族の剣と騎兵の槍が交わる、歩兵の槍が貫く。歩兵は上方からの圧力で腕力に優る魔族を押し込む。
大斧の一閃が煌めいた。右への1振りで騎兵2人を両断し、左への1振りで3人の歩兵を両断した。魔族東別動隊長シャクゲだった。シャクゲの通り過ぎた後には、息絶えた兵が横たわるのみであった。
「グヘヘヘ、丘の上の敵本陣を狙え。人間どもは仲間を庇い、炸裂火炎砲も弓も使えなくなる」
シャクゲの悍ましい叫び声が轟いた。
魔族は、丘の上の本陣めがけて飛び、あるいは駆け上がって行く。
魔族との開戦から2時間。
「ジルク子爵、ここは後退を」
参謀長のハンガ男爵が言った。
「この後ろは、王都ロドだ。どこに後退をすると言うのだ。我々がここを守らずして、だれがこの国を守る」
ジルク子爵は少しの間、思案していたが、
「王都へ伝令だ。『魔族の勢い旺盛。我が隊の戦果3時間の猶予。王都にての防衛、厳とされたし』」
と言った。
伝令の3騎が、王都ロドへ向け丘を駆け降りて行く。同時に、伝文を足に付けた鳩が防衛陣地から飛び立った。
伝令文を聞いて、初老の参謀長ハンガ男爵はジルク子爵の考えを悟った。そして静かに言った。
「ジルク子爵、このハンガも最後までお供致します」
「私も、ナギ王国のためにここで命を捧げます」
と、若き参謀マクレール男爵も続いた。
すると、ジルク子爵は、マクレール男爵を見つめて言った。
「マクレール、其方が命を捧げる場所はここではない。マクレール男爵に最後の命令をする。よいか、これは厳命だ。これから・・・」
マクレール男爵は、目に涙を浮かべて、ジルク子爵に敬礼すると、馬で丘の裏の斜面を駆け降りて行った。
マクレール男爵の後ろ姿を見送りながら、ジルク子爵は、初老の参謀長ハンガ男爵に言った。
「ナギ王国の未来は我々ではない。この国の未来を、王都の若き王子とその民に託すしかない。ハンガ、お互い十分に生きたのぉ・・・封魔結界は、この国に400年の時を与え給うた。我々は、この国に3時間の猶予をつくるのだ」
初老の参謀長ハンガ男爵は、青空に遠く流れて行く白い雲を見上げてしみじみと言う。
「800年前の人魔大戦は、お互いに初陣でしたな。ひどいものだった。・・・今でもその時のことを思い出しては、戒めにしております。400年前の封魔結界強化で魔族の侵攻がなくなるまでは、転戦ばかりで・・・お互いよく生き残りましたな」
ジルク子爵は、深く頷くと、遠くへ流れて行くその雲を目で追いながら、
「皮肉なものだ。400年間の封魔結界は、我が国に平和と安寧な時を与えてくれた。同時にそれは、我が国から魔族へ対抗しうる力を奪うには十分な時でもあった」
「兄さん、あれは魔族では」
馬上から空を飛ぶ魔族を指さす。
「封魔結界は消失したのか。宝珠に何かあったのか・・・下を見ろ。空を飛ぶ魔族は、騎兵を追っているぞ」
ナギ王国の東方防衛隊長ジルク子爵から送られた伝令3騎が、追ってくる魔族3匹から懸命に逃げている。
騎兵1人が駆けながら弓を構えた。
シュッ
矢が魔族めがけて飛んで行く。
魔族が素手で矢を掴み取る。すぐに火弾を撃ち返す。
火弾は弓を射た騎兵に命中する。騎兵は馬もろとも炎に包まれて倒れた。残りの2騎に迫る。
「凍結」
黒装束の男は、馬上から片手を前に出し、握った拳を開いていた。
魔族2匹は、全身が白く凍り付き、空中で凍結したまま落下する。
柿色装束の女は、クナイを魔族に投げた。クナイは、魔族の首に刺さりそのまま爆発した。魔族は胸から上を失い落下する。
馬を走らせながらこれを見た騎兵は、黒装束と柿色装束の2人に駆け寄って来た。
「急ぎ故、馬上で失礼する。助勢を感謝する。名をお聞きしたい」
「タジ」
「カガリ」
「それより、今のは魔族の様だったが、何上」
タジが尋ねた。
「魔族がこの国に侵攻してきた。ジルク子爵率いる我が防衛部隊が迎撃している。我らはこれから王都へ参る。ご免」
騎兵2名は、再び王都ロドへ向けて駆けだした。
「戦闘はどこで」
カガリが叫ぶ。
騎兵は駆けながら腕だけを東北東に向けた。
「カガリ、何をするつもりだ」
「兄さん、頭領ヒーデキ・オチャノミズ様は、この国を魔族から守るために宝珠をつくりました。民が安心して暮らせるように忍術を開発しました。そして、民の暮らしを豊かにするために、白狐の里に科学を根付かせました。その遺志を継ぐだけです」
「・・・その遺志か・・・お人よしにも程がある。だが、その心意気やよし」
「兄さんこそ、お人良しね」
「お人良しと呼ばれるのは、しゃくだ。420年前の遺志を継ぐ者と呼んでくれ」
カガリはタジを見て鼻で笑った。
「馬鹿ね。自分が他人から何と言われるのかを気にするよりも、自分が何をするかが大事なのよ」
「・・・時は、流れているのだな」
「兄さん、何を言っているの」
「お前が生意気になったと言ったんだ・・・カガリ、東北東へ行くぞ」
「・・・はい」
黒装束の男と柿色装束の女を乗せた2頭の馬は、東北東へ駆けだした。
王宮グレートフォレスト。謁見の間。
謁見の間には、大理石の柱が等間隔で並び、床には白地に金の模様のある絨毯が敷き詰められ、高い天井には大きな黒い喪旗が下げられていた。正面の高い玉座の後ろには、白い雪の結晶の上で翼を広げる銀の雷鳥の意匠のある青い大旗が掲げてあった。
アルベルトお王子は、王座に向かって左に座っていた。その左のルーナ王女の席は空席のままだった。右にはドリゥーン王子、その右にはローズ第2王妃が座っていた。
「魔族の侵攻の危機により、王都ロド以北の街や村に避難命令を出しておりました。民はぞくぞくとこの王都ロドへ避難してきております。王都以南の民は、軍事都市ガイへ避難をしているところです」
内務大臣ラングエッジ侯爵が報告した。
「避難を急がせろ。避難民は全てこのロドの城壁内へ入れるのだ」
アルベルト王子の言葉に内務大臣ラングエッジ侯爵が頷く。
「各地方を警備していた兵の8割が、求めに応じてこの王都ロドに集まりました。また、徴兵によって現在1000人、志願兵2000人が集まっています」
と、軍務大臣を兼任している近衛長官ホワイト侯爵が進み出て報告した。
アルベルト王子は、
「王都防衛と対テロ防止で1500。地方防衛で600を除く全ての兵を動員する。王都郊外の遊軍2000も合わせる」
ホワイト侯爵は、
「兵6400人となります。しかし、近衛兵も出陣となると王都でアルベルト王子をお守りする兵が、少なすぎます」
「ホワイト侯爵、何を言っているのだ。私も出陣するのだ」
「いけません。アルベルト王子。それだけはなりません。王子あってのナギ王国です」
内務大臣ラングエッジ侯爵が慌てて止める。
「アルベルト王子、王宮で指揮を執り、王都をお守りください」
ホワイト侯爵も進言する。
他の重臣たちも一様に異を唱えた。
アルベルト王子が落ち着いた声で語り出した。
「ナギ王国は、410年ぶりの魔族侵攻で国家存亡の危機に瀕している。既に兵4500人は魔族と開戦した。今こうしている間にも、多くの兵の命が失われている。民はその恐怖と戦いながらも徴兵に応じ、また志願兵として王都に駆けつけている。民に強いる尊い犠牲の上に、王の安寧などない」
「しかし、次期王なくしては、ナギ王国は存在できません」
ラングエッジ侯爵が言う。
「ラングエッジ侯爵、それは違う。民なくして王は存在せぬ。王が民を守らずして、誰が国家を守るのだ」
アルベルト王子の声は、謁見の間に響いた。
階下で居並ぶ重臣たちは、うつむいて沈黙した。
「全軍6400で迎え撃つ。私が出陣すれば、兵の士気もあがるだろう。ホワイト侯爵、全軍の指揮を頼む」
「喜んでその任を引きお受けます。そして、必ずやアルベルト王子をお守り致します」
「ナギ王国の民を守るのだ。それを間違えるな」
「はっ・・・しかと肝に命じます」
アルベルト王子は、ドリゥーン王子を見て言った。
「兄上、アルベルトは出陣します。兵1500でこの王都の民をお守りください。それがナギ王国の民を守ることになります。留守の王都の指揮はお任せします。母上も兄上をお支えください」
ドリゥーン王子は、口元に笑みを浮かべた。それに気づいたラングエッジ侯爵は、反乱が頭によぎった。
ローズ第2王妃が、突然席から立ち上がると、アルベルト王子の前まで歩み寄って来た。
アルベルト王子は、ローズ第2王妃の緑の瞳を見つめた。
階下で居並ぶ重臣たちは、何が起こるのかと固唾を飲んだ。
「アルベルト王子」
と言うと、ローズ第2王妃がアルベルト王子の緑の瞳を見つめていた。
「アルベルト王子、私はこれまで我が実子のドリゥーン王子を王位に着かせることを悲願としておりました。そのために多くの人を欺き、アルベルト王子を亡き者にしようと考えておりました」
アルベルト王子暗殺未遂事件への関与を仄めかす発言に、階下の重臣一同がこの発言に驚き、階下の眼の全てがローズ第2王妃の後ろ姿に注がれている。
「私の父、軍務大臣アレックス・フォン・フォール侯爵の毒殺によって、私とドリゥーン王子は最大の後ろ盾を失いました。これまでの事を考えると、フォール侯爵は報いを受けて当然のことです。私も同様です。これで私の願いであるドリゥーン王子の王位継承が事実上、絶たれました。
私は失望のあまり、離宮グリーンフォレストの自室に籠りました。そんな時に、アルベルト王子は自身の危険も顧みず、離宮グリーンフォレストにいる私を見舞ってくださいました。全てを失った私は、王位継承権争いの相手となるアルベルト王子ではなく、人としてのアルベルト王子に初めて触れました。
貴方は私を母と呼び、子として傷心の私を心から労わり慰めてくれました。私は、アルベルト王子の人柄を、心を見ようとしていなかったことに気付きました。私自身の見たいアルベルト王子を無理やり私自身に見せていたのです。
私は、アルベルト王子が慈悲の心をもつ王の器であることを確信しました。私の瞳の中には、民の命を守り、民の安寧を願う賢王の姿がありました」
ローズ第2王妃はそう言うと、アルベルト王子に跪き、頭を垂れて胸に右手を当てた。
「アルベルト王子、これまでの数々のご無礼をお許しください。私は謹んで罰を受けます」
ローズ第2王妃は、ドリゥーン王子を見た。
「民のための王と、己のための王。・・・ドリゥーン、貴方には王の器はありません。アルベルト王子に忠誠を誓いなさい」
ドリゥーン王子は、着座したままうな垂れた。ローズ第2王妃はドリゥーン王子を見て、
「王子として、ここで同じ時を共に過ごしながら・・・私は自分を恥じています」
ローズ第2王妃は立ち上がり、階下の重臣を見下ろした。
「私、ローズ・グリーンフォレストは、王位継承においてアルベルト・フォレスト王子を次期王として支持することを、ここに宣言します」
階下の重臣たちから、
おおおぉ
と、驚きと喜びを込めた声が漏れた。
ローズ第2王妃は、再びアルベルト王子に跪き、
「アルベルト・フォレスト王子に生涯の忠誠をお誓い致します」
アルベルト王子は立ち上がり、ローズ第2王妃の手を取って、
「母上、顔をお上げください。民のためにそのお力を私にお貸しください」
と微笑む。
「アルベルト国王陛下、万歳!」
階下で誰かが叫んだ。
その瞬間に、階下の重臣の全てが膝を着き、頭を垂れ右手を胸に当てた。そして叫んだ。
アルベルト国王陛下、万歳!
アルベルト国王陛下、万歳!
アルベルト国王陛下、万歳!
謁見の間には、少々早い王位継承を祝う歓喜の叫びがこだました。
アルベルト王子は、
「魔族が迫って来ております。兄上、母上、留守は頼みました」
「承知いたしました。ルーナ王女のことは任せていただけますか」
「母上、お願いします」
アルベルト王子は、王座の前に進み出て、自身の剣を抜いた。そしてその銀色に輝く剣先を掲げ叫んだ。
「出陣だ!」
「「「「はっ」」」」
階下の重臣たちも一礼すると、足早に王の間を後にした。




