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第13章 それぞれの未来図

 第13章 それぞれの未来図


 封魔結界のほぼ消失している地域へ、防衛訓練と称して未明に騎兵を中心とした兵2000人を派兵した日の朝方。

 ナギ王国南の街エム。

 朝霧が煙る静かな朝であった。

 ドガーン、ドドドドーン

爆発音と共に地響きと火の手が上がった。

 エムの街に、悲鳴が響く。

 「きゃー。だれか、助けて」

 「何が起こったんだ」

 「火を消せ。火を」

 「ここに怪我人がいる。手をかしてくれ」

 エムの街で、住民たちが朝食を摂りはじめた頃の出来事であった。まだ、人通りは少なかったが、商業区の中心街にある教会と警備隊エム支部の2か所が同時に爆破された。住民が懸命な消火と救命活動を開始する。

 燃え盛る教会を木の陰から見ている2人の男が、笑みを浮かべ左右の人差し指と中指を胸の前で合わせた。

 エム役所からは、

「死傷者多数、同時多発テロの可能性あり救援を乞う」

との伝文を添えたアローピシェンの伝書鳩が、王都ロドに向けて放たれた。


 ナギ王国近郊の街メイサル。ナギ王国南の街エムで起きたテロと同時刻。

 ドガーン

爆発音と共に火の手が上がった。

 メイサルの街でも、教会と警備隊メイサ支部の2か所が同時に爆破された。

 燃え盛る教会を建物の陰から見ている2人の男が、笑みを浮かべ左右の人差し指と中指を胸の前で合わせた。


 ナギ王国王都ロド。同時多発テロの10分前。

 王立歌劇場前で2人の男女が拘束された。

 王都では、ダキュルス教団テロに備えた厳重な警備態勢が敷かれていた。ダキュルス教信者と目されていた者たちを内偵していた近衛兵情報局員らが、テロ実行寸前でこの男女2名を拘束したのだ。


 ナギ王国王都ロド。迎賓第2別館レーク。

 ダイチの滞在していた迎賓第2別館レークでも、テロ実行寸前に男女2名が拘束された。アルベルト王子直々の指示で、迎賓第2別館レークは密かに十重二重の警備網が敷かれていたのだ。侍女のキャメルとクミンは、事前にダイチからの指示で宮廷へと異動していた。

 近衛兵情報局員は、この男女4名を取調室へ連行し、厳しい取り調べを開始した。拘束された男女4名はダキュルス教信者で、3名がダキュルス教団の指示を受けたと自供した。


近衛兵情報局員による内偵や警備で、同時多発テロを未然防止に成功した街は王都ロドを含め2都市、2街だった。いずれの都市と街でも実行犯のダキュルス教信者を拘束した。


 王都ロド。アルベルト執務室。

 「本日、早朝に王都ロド、軍事都市ガイ、エム、メイサル、リライム、ベイスで同時多発テロがありました。エムとメイサルは、教会と警備隊支部が爆破され、多数の死傷者がでました。

 王都ロド、軍事都市ガイ、リライム、ベイスにつきましては、爆破前に実行犯のダキュルス教信者を拘束致しました。拘束した実行犯は、ダキュルス教団による指示があったことを自供しました。

 また、エムとメイサルからは、救命及び救助、支援要請が出ております。この2街につきましては、テロを防げず申し訳ありません」

長身屈強、首元で切りそろえられた白髪の近衛長官ホワイト侯爵がアルベルト王子に報告した。

 軍務大臣アレックス・フォン・フォール侯爵の毒殺以後は、臨時に近衛長官ホワイト侯爵が軍務大臣も兼ねていた。

 「エムとメイサルの支援については、内務大臣ラングエッジ侯爵に任せる。民の命と安全を第1に、早急に対応せよ」

 「はっ、救命隊及び警備隊は、間もなくエムとメイサルへ出動します」

内務大臣ラングエッジ侯爵が、胸に手を当て一礼をしながら答えた。

 「アルベルト王子、ダキュルス教団の本部及び支部の地下教会7つを包囲しています。ご許可をいただければこの全てを壊滅させます」

 ホワイト侯爵が許可を訴える。

 「ホワイト侯爵、人間は全知全能とはいかぬ。後手となり民に大きな犠牲と不安を与えてしまった。今後の憂いを絶つために、地下教会7つだけでなく、ダキュルス教団を潰せ」

 「はっ」

アルベルト王子の厳命に、ホワイト侯爵は胸に手を当て一礼をする。

 「まだ確実な情報とは言えませんが、2つご報告があります」

ホワイト侯爵が顔を上げて申し出た。

 「1つ目が、コージス侯爵らしき人物を王都ロドで見かけたとの情報がありました。既に近衛兵が調査に向かっております」

 「コージス侯爵の拘束に全力を尽くしてくれ」

 「はっ、そして2つ目が、北東の街リライムのテロを防いだ者は、近衛兵情報局員でも警備隊でもありませんでした」

 「如何なる者がテロを防いだと申すのか」

 「はい、何者かが、爆薬を設置しているダキュルス教信者を捕縛の上、近くの樹に縛り付けて消えたとのことです。捕縛されたダキュルス教神信者は、虚ろな意識の中で黒装束と柿色装束2人の後ろ姿が見えたが、その瞬間に消えたと供述しています」

 「黒装束に柿色装束・・・消えた・・・まさかあの者たちが・・・」

 「地下牢に監禁されていたカガリという忍者が、柿色装束だったと聞き及んでいますが、同一人物かどうかは、まだ確認はできておりません」

 「ご苦労だった」

 内務大臣ラングエッジ侯爵と近衛長官ホワイト侯爵は、アルベルト王子執務室を後にした。

 アルベルト王子は、執務室の壁に掲げてあるナギ王国地図を黙って見ていた。


 首都ロドの東北東のマイゼク山脈の麓。

 本日未明に王都ロドを出発した騎兵を中心とした防衛隊2000名は、ダイチの報告のあった封魔結界消失地点から森を挟んだ草原の丘に到着した。ジルク子爵は、封魔結界消失地点の防衛は国家の命運を握る任務と心得て、駆けに駆けて来たのだ。

 表向きは防衛訓練と称しているが、ナギ王国の東の封魔結界消失地点への防衛陣地構築と魔族迎撃であった。この地点は、ダイチからの報告にあったマイゼク山脈北端に近い山陰に潜む東の魔族分隊からはかなり南となる。

 表立った動きをすれば、魔族に封魔結界の消失位置を知らせかねないと考え、極秘にこの草原を防衛陣地とした。近くの砦からは既に物資の一部が運搬されてきている。

 防衛隊(東部防衛隊)の隊長は、ノートル・フォン・ジルク子爵、初老、長身中肉の男性エルフ、ホモ・サピエンス年齢59歳。青の瞳で鼻の下に左右に伸びる白髭を蓄えている。800年前の人魔大戦にも参戦した歴戦の兵である。槍と弓の名手であり、統率力に優れていた。

 防衛隊長ジルク子爵は、この日の朝に出発する食料や補給物資の輸送を含めた第2陣の2500名の隊には加わらず、先発隊の先陣を切って防衛拠点へと駆けて来た。

 長年に渡りジルク子爵と共に戦ってきた初老の参謀長ハンガ男爵が、構築を急ぐ防御陣地を見ながら、ジルク子爵に言った。

 「防御陣地構築は計画通り進んでおります。ここなら封魔結界消失地点から、森を抜けて来た魔族をこの丘から迎撃できます」

ジルク子爵は、黙って頷いてから、

 「対空防御の炸裂火炎砲はいつ到着する」

と、参謀長ハンガ男爵に問いかけた。

 「第2陣が輸送しておりますので、本日の午後2時には、ここに到着する予定です」

 「丘から炸裂火炎砲が100門、魔法兵士200人、弓兵500人で上空の魔族を迎撃する。防衛線をこの東部1か所に絞り、兵力を集中できたことで我々に勝機が生まれた」

 「ナギ王国とその民のために、ここで魔族を葬り去ります」

 「近隣の町村民への避難命令は滞りないな」

 「はい、臨時軍務大臣ホワイト侯爵名の命令を各町村に伝達しました」


 「六羅刹が1人、円舞のオルバ様、間もなくナギ王国の西、傀儡師ホージュス様の西分隊に合流します」

封魔結界外のナギ王国西の国境周辺、バーム皇国領を飛行しながら巨大な薙刀を手にした白髪の老将、副将パリピがオルバに告げた。

 「ホージュスの加勢だなんて、私は気が乗らないわ」

不平を口に出すホージュスの金色のピアスが揺れる。

 「傀儡師ホージュス様の報告では、封魔結界が弱体の傾向にあるとのこと。我々が助勢に向かう西側分隊は、王都ロドへの最短ルートです。ナギ王国警備兵も手薄との情報もあります。ここから王都ロドを落とし、魔王ゼクザール様への土産といたしましょう」

 「いくら魔王ゼクザール様の命令とあっても、私は気が乗らないのよ。あの下品な女のホージュスの加勢だなんて。でも王都ロドを私が壊滅させられるのなら、ここは我慢ね。私が女性の真のエレガントさを見せつけてやるわ」

 六羅刹、円舞のオルバは、緑のドレス、銀色のティアラを付け、金色のスカーフとハイヒールを履いている。2メートル50センチの長身、エルフに似た美しい容姿で、耳が横に伸びている。額の左に1本の角が生えた性別不明の魔族であった。

 六羅刹、円舞のオルバは、配下150匹の魔族を引き連れてナギ王国の西へと飛んでいた。また、オルバは、ナギ王国の東、マイゼク山脈北端に近い山陰に潜むホージュス東分隊の増援として、別動隊200匹の魔族を送っていた。


 六羅刹円舞のオルバ以下150匹の魔族は、ナギ王国の西、封魔結界の隣接地点に待機する傀儡師ホージュス西分隊100匹と合流した。

 ホージュスの西分隊は、武器を掲げながら歓待した。

 六羅刹円舞のオルバが地上に降りると、ホージュスの分隊長3匹が出迎えに来た。ダイチ等の偵察時に、かなり強い魔族が3匹いるとカミューが言っていたその魔族たちであった。

 「貴方たちがホージュスの部下ね。六羅刹円舞のオルバが直々に来てあげましたよ」

 「ご到着を心待ちにしておりました」

巨大な曲刀を背にしている分隊長ゲオーグが歓迎の意を示した。

 「北から六羅刹ホージュス様、西から六羅刹オルバ様、そして東から東分隊と3か所から攻められれば、ナギ王国の滅亡は必至。魔王ゼクザール様もたいそうお喜びになられることでしょう」

魔導士の杖を片手に分隊長ピピンが言った。

 「グヘヘヘヘ、おでのハンマーで人間どもをミンチにしてやるだ。ミンチの咲くお花畑をホージュス様とオルバ様にお見せしてやるだ」

分隊長のゲヒゲンがそう言った刹那、六羅刹円舞のオルバがダンサーのように舞った。緑のドレスと金のスカーフが羽衣のように閃いた。

 分隊長ゲヒゲンの首は胴から離れていた。

 ここにいる魔族だれ1匹として、オルバが何をしたのか分かるものはいなかった。確かなことは分隊長ゲヒゲンの首が飛んだことだけだった。

 「ミンチのお花畑、それは私の趣味ではないわ。人間を殺すにもエレガントさが必要よ。ホージュスは、美学をいったい何と心得ているのかしら」

オルバが声高に言った。

 「・・・・・」

ホージュス配下の魔族兵は沈黙した。

 西分隊長ゲオーグが奥のテントを指して、

 「どうぞ、あちらに朝食のご用意が出来ております」

 「あら、気が利くわね。食後はティーよ」

 「はい、心得ております」

オルバは、分隊長ゲオーグに案内され、テントへと向かった。


 オルバは、朝食が済むと、ティーを味わっていた。

 「あなた、ゲオーグとかいいましたね、朝食の味はまあまあでしたが、美しさのスパイスが足りないわ。昼食は、盛り付けにもっと気をつかってちょうだい。」

 「承知しました」

 「ゲオーグ、ここの位置は、本当に王都ロドの真西なのかしら、私の感覚では違うわ」

 「オルバ様の慧眼に恐れ入ります。現在地は王都ロドの西といっても、正確には北西です。西方面に位置するので西分隊と呼んでいただけなのです」

 「今からここは、オルバ魔族本隊と呼びなさい」

 「畏まりました」

ゲオーグ部隊長は、恭しくお辞儀した。

「ゲオーグ、私は食後の散歩に行ってきますわ。パリピ、ついていらっしゃい」

オルバは、席を立ちあがると副将のパリピと伴い、テントを後にした。

 オルバは、花を愛でながらしばらく歩いていた。突然、立ち止まると草原の宙を眺めた。

 「これが封魔結界ね」

 「その様です。しかし、オルバ様のお力は必要ないかと存じます」

 「ウフッ、さすがね。私に破れるかどうかを試しに来たのだけれども、その必要はないわね。この封魔結界は放っておいても明日の朝には消滅するわね。

 美しい音楽が奏でられ、血の華が咲く舞踏会が楽しみだわ。私の円舞のお相手はどのような殿方たちかしら・・・ウフッ、楽しみを心に秘めて待つというのも乙な物ね。」

オルバは1対多数の戦闘を得意としていた。オルバを囲む敵が自ら踊りながら切り刻まれていく。円舞のオルバの二つ名はそこから付けられていた。

 一涼の風が吹き抜け、オルバの立つ草原の草が靡いた


 オルバのいるテントに部隊長のゲオーグとピピンが呼ばれた。

 テントに入ると中央の大きなテーブルに1人腰掛けて、ティーを飲むオルバが居た。その後ろには、副将パリピが直立したまま控えていた。

 「ゲオーグ、ピピン、元ホージュス魔族兵の中から、封魔結界の見張りをつけなさい。明日の朝には消えるわ」

 「まさか、それは誠ですか」

ピピンの言葉に、オルバの副将パリピが睨んだ。

 ピピンは、屈強な体躯をした白髪の老将パリピの視線に気圧された。

 老将パリピは、オルバの副将として数々の対人戦に参加してきた歴戦の猛者である。800年前の人魔大戦でも、魔王ゼクザールの指揮の下に戦った数少ない古参の魔族であった。

 「オルバ様、封魔結界の消失が明日の朝となると、作戦はいかがなさいますか」

パリピがオルバに尋ねた。

 「そうね、まだ少し時間があるから、エレガントな作戦でいこうかしら・・・。

前門の虎、後門の狼がいいわね。作戦名は、虎狼のワルツ。

3方向からナギ王国をじわじわと華麗なステップで侵食して、王都ロドを南北から攻めるわ。そう真綿で首を絞めるように・・・これこそが、エレガントな作戦だわ。

 手始めの準備として、パリピ率いる魔族兵50とゲオーグ率いる魔族兵60は、王都の南西の結界外まで、直ちに移動しなさい。

 明日の朝、封魔結界が消失したのを合図に同時侵攻よ。

 まず、ピピン率いる魔族兵40が、先陣としてこの西から東へと迂回してから、南へ侵攻、つまり王都の北を目指すのよ。

恐らく、私が増援としてホージュス東分隊に派遣した200匹の部隊長シャクゲは、今頃は東分隊を乗っ取っているころだわ。そうすると、シャクゲ率いる東分隊魔族兵300も封魔結界が消失すれば侵攻して来るでしょうから、運よく合流できれば、魔族兵340となるわね。シャクゲの戦闘力は私も認めるほどなのだけど、気まぐれでおつむが足りないところがあるから、あくまで運しだいだけど。 

次いで、この西から最短ルートで、私の魔族兵100が王都北を目指し侵攻。

私とピピン、シャクゲが、王都ロドを北方面から攻める。

 パリピ、貴方とゲオーグは、南西から侵攻して、王都を南方面から攻めなさい。

 封魔結界消失で北にいるホージュス本隊が、北から長駆侵攻して来ても、到着は我々が王都を落としたあとよ。まさに後の祭」


 *******************************************

 ナギ王国の国土は、リレーでトラックに置くカラーコーンのような三角形をしていた。王都ロドは、国土のほぼ中央に位置していた。王都の東西両脇には、魔族でさえ侵攻が困難な険しい山々と深い森があり、王都は南北に延びる深く広い谷にできた都市であった。正に天然の要害と呼ぶに相応しかった。王都ロドの南南西の草原には、南側からの侵入の抑えとして高い城壁とその南北に2本の河が流れる難攻不落の軍事都市ガイがあった。

 虎狼のワルツとは、王都ロドへの出入り口とも言える南北に延びた谷から、王都ロドへ同時侵攻していくというものであった。王都は逃げ道を塞がれ、袋の鼠となる作戦である。

 魔族は、個人の戦闘力が高く人間との戦力差は人数では計れない。これまで、人間は圧倒的な種の数による力で、戦闘力の高い魔族と力の均衡を保っていた。

 この時、六羅刹円舞のオルバには、まだ知らない情報が2つあった。1つ目は、ナギ王国北に伏せてあるホージュス率いる本隊が、ダイチとクロー、カミューの奇襲にあって、現在戦闘中にあること。

2つ目は、東に封魔結界の消失している地点があり、ナギ王国の兵士が防衛拠点を築くべく集結していることであった。

*******************************************


 「南方面侵攻を賜り、有り難き幸せ」

ゲオーグが謝意を述べる。

 「せいぜい踏ん張ることね。もたもたしていると、私が北から王都を陥落させるわよ。パリピ、オルバ隊随一を誇る貴方の部隊の破壊力を、今回も見せてちょうだい」

 「はっ、お任せください」

 パリピとゲオーグ、ピピンは一礼して、テントを出ると、魔族兵たちに指示を出していった。


 ナギ王国首都ロドの北東、マイゼク山脈北端の山陰に潜むホージュス魔族兵陣地。

 マイゼク山脈北端の山陰に潜む魔族東分隊は、魔族兵100から300と増えていた。ホージュス魔族分隊兵100に対し、増援のオルバ魔族兵200が到着したからである。

 2倍のオルバ魔族兵の到着をホージュス魔族東分隊兵は歓声をもって迎えたが、到着するや否や、オルバ魔族兵はその数を頼りに、この分隊の指揮権を掌握してしまった。

「シャクゲ様、斥候の報告では、ここの南に封魔結界の消失している場所を発見したということです」

東分隊の魔族兵が慌ててながら言った。

 「なに、それは本当なのか」

シャクゲが問い質した。

 「2つの斥候隊が同じことを報告しています。しかもそこは、王都ロドと目と鼻の先です」

 「むう、封魔結界の消失地点まで東分隊は直ちに移動だ。オルバ様とホージュスへは、このことを報告しろ」

 「今、移動を開始すれば、午後2時には到着します。到着次第、侵攻を開始しますか」

 「オルバ様の命令を待つ。しかし、王都へは手が届く距離だ。我が分隊が先陣となり進軍し、更に封魔結界の消失地点からホージュス本隊が後に続けばそれで済むこと。みすみすホージュスに手柄を渡すこともなかろう。やっと、我にも運がまわってきた。

 我シャクゲの率いる東分隊は、これより魔族東別動隊とする」

魔族東別動隊長となったオルバ隊のシャクゲがニヤッと笑った。

 シャクゲは、左右の側頭部から闘牛のような角が生え、体長2.3mで屈強な体躯をした魔族男性であった。


 王宮グレートフォレスト ルーナ王女の部屋。

 「・・・・・・・」

ルーナ王女は、宝珠の映像を観て以来、部屋に閉じ籠っていた。

 「・・・・お父さん、私はお父さんが大好きでした・・・お父さんは、私を深く愛してくれていました」

 「・・・・私への深い愛情・・・自分自身の感情に忠実であり過ぎたのですね。その結果、人としての心を狂わせ、民の信頼に背き、国王としての使命から逃げてしまった・・・・そして親としての責任からも逃げてしまった・・・」

 「・・・なぜ、相談をしてくれなかったのです。苦しい胸の内を明かしてくれなかったのです・・・私は誰よりも貴方を信頼していました」

 「・・・でも、お父さんは私を信じていませんでしたね」

 「・・・・私にどのような事が起こっても、私は貴方の娘です・・・なぜ、信じてくれなかったのですか」

 「私は・・・私は、それが許せない・・・いえ、私に無償の愛を捧げてくれた貴方を許せない私を許せない」

ルーナは両手で顔を覆い泣き叫んだ。

 「・・・・・・」

ルーナ王女の部屋の扉の外では、リリーが跪き、静かに祈りを捧げていた。

 「ルーナ様・・・過去は決して変えられません。変えられるのは未来だけです・・・どうか、過去に囚われて自分自身を苦しめないでください。どうぞ、賢明さを・・・」


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