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第9章 手足は彼奴

 第9章 手足は彼奴(あやつ)


 ローズ第2王妃とドリゥーン王子は、フォール侯爵の喪に服するとして、歌劇奉納の儀以来、公の場には出ていない。外務大臣コージス侯爵も敬愛するフォール侯爵の毒殺の場に居合わせたことによって、精神的なショックを受けて体調不良になったと訴え、公務を休んでいた。 

 実娘であるローズ第2王妃は、父フォール侯爵の死を悼み自室に(こも)ったまま姿を現さない日が続いていた。ドリゥーン王子は心配をして部屋を訪れたが、会うことすらできなかった。


 アルベルト王子は、内務大臣ラングエッジ侯爵と内務次官スラッド伯爵とバーム皇国との和平条約の詰めの協議をしていた。協議中にも関わらずアルベルト王子は、どこか上の空だった。

 「アルベルト王子、体調がすぐれないのですか」

ラングエッジ侯爵が心配をして尋ねる。

 「いや、なんでもない。続けてくれ」

 「心労が重なったのではないですか。今日はお休みください」

と、スラッド伯爵が言う。

 「大丈夫だ。心労と言えば、ローズ第2王妃のことが気になる。憔悴して自室に籠り、満足に食事も()っていないと聞いている」

 「アルベルト王子はお優しい。2度の王子暗殺未遂事件に何らかの関係があるとも言われているローズ第2王妃ですぞ」

この発言に、声を荒げることのないアルベルトが立ち上がって怒鳴った。

 「ラングエッジ侯爵、推測でローズ第2王妃を貶めてはいけない。それは王子として看過できないことだ」

 「申し訳ございません」

 「アルベルト王子、ラングエッジ侯爵もこう申しておりますし、王子への敬愛からでた言葉です。お許しください」

スラッド伯爵が取り成すと、アルベルト王子は、静かに座った。

 「むう、ラングエッジ侯爵、今回は不問とする。ローズ第2王妃は、私がもっと幼かった頃は、ドリゥーン王子のものへと変わらぬ優しい目と言葉をかけてくださっていた。私はそれがローズ第2王妃の真の心だと信じている」

 「アルベルト王子の心中を顧みず、不遜な発言をしたことを心より悔やんでおります」

 「私は少し疲れているのかもしれない。今日はここまでと致そう。ローズ第2王妃を見舞いに行ってくる」

 「それはなりません。お考え直しください」

ラングエッジ侯爵が引き止めると、

 「私の身に危険が及ぶというのか、ローズ第2王妃を疑っておるのか、ラングエッジ侯爵」

と、立ち上がる。

 「危険です。何としてもお止め致します」

 「お待ちください。ラングエッジ侯爵は、アルベルト王子の身を案じてのこと」

スラッド伯爵は懸命に止めた。

 「私はこれからローズ第2王妃を見舞う。決定だ」

 「王子、ここは我が命に代えてもお引き留めいたします」

ラングエッジ侯爵は譲らなかった。

 スラッド伯爵は、

 「ここはしばらくお待ちください。ルーナ王女にもお考えをお伺いしてはいかがですか」

と、言ったが2人は無言のまま互いの目を見ていた。

 スラッド伯爵は、ルーナ王女の元へ走った。


 スラッド伯爵がルーナ王女に状況を告げると、

 「何ですって、アルベルト王子が・・、それはとんでもないことです。すぐにお止めしないと」

と、ルーナ王女は叫ぶと、アルベルト王子の部屋に向かって駆けだした。それにリリーとスラッド伯爵が続いた。


 アルベルト王子が突然言い出した離宮グリーンフォレストでのローズ第2王妃の見舞いは、危険だとルーナ王女も猛反対をした。そこにいる全ての人が懸命に説得を試みた。

 逆恨みや自暴自棄となったローズ第2王妃の暴挙はありえないことではない。また、王位継承争いで、ローズ第2王妃派の最大の後ろ盾として暗躍していたフォール侯爵の死は、アルベルト王子派の圧倒的な優勢を意味した。ローズ第2王妃派の起死回生の1手として、離宮グリーンフォレストでのアルベルト王子暗殺もありうる。

 だが、アルベルト王子は、ローズ第2王妃の見舞に行き事を譲らなかった。しかも、義理の母の見舞いになるので、護衛兵は、最小限の人数で行くと言い張る。

 ルーナ王女の提案で、ダイチも護衛として同行することを条件にようやく合意に至った。

 王子暗殺に失敗して自害したザイド男爵に代わり王子護衛となったパープル男爵と護衛兵6人、ダイチを連れて、離宮グリーンフォレストのローズ第2王妃を見舞うこととなった。

 

 新しく王子護衛となったパウル・フォン・パープル男爵、ホモ・サピエンス年齢(33)のエルフ男性、青の瞳に白髪で中肉中背、人望は厚く冷静で実直、最大の特徴は鋭い観察力を持つ。そして剣と風魔法を得意としている。時として護衛には、何者も近寄りがたい威圧感が襲撃防止においては不可欠となることがある。前ザイドに比べると、他を圧する威圧感や体格において明らかに地味である。その点が能力の割には評価されづらい点であった。今回はアルベルト王子護衛隊からの大抜擢ともいえる内部昇格であった。


 内務大臣ラングエッジ侯爵は、退室すると通路で内務次官スラッド伯爵に言った。

 「アルベルト王子も言い出したら曲げない強さがある。それは頼もしい限りなのじゃが、今回ばかりは」

 「心中お察しします」

 「ところでスラッド伯爵、昼食にはまだ早いので、お茶でも飲んでいかぬか」

 「ありがとうございます。折角のお誘いですが、まだ公務が残っております故、ここでお暇させていただきます」

 「仕事はできるものに集まるという。ナギ王国の将来を背負う其方だ。くれぐれも体を大事にな」

 「ご心配おかけします。ラングエッジ侯爵こそお体をご自愛ください」

スラッド伯爵は、そう言うと足早に去って行った。

 「・・・・・」

 内務大臣ラングエッジ侯爵は、その後ろ姿をいつまでも見ていた。


 離宮グリーンフォレスト。

 離宮グリーンフォレストは大騒ぎとなっていた。王位継承権1位のアルベルト王子が突然にローズ第2王妃の見舞いに訪れたのだ。

 「ローズ第2王妃様、ローズ第2王妃様、大変です。アルベルト王子様が」

侍女がローズ第2王妃の部屋の扉を叩く。

 中からは返事がない。

 「あ、ローズ第2王妃様、アルベルト王子様がもうここにいらっしゃいました」

 「騒がなくともよい。私はローズ第2王妃にお悔やみの言葉を述べに参っただけだ」

 侍女は、扉から離れ、アルベルト王子に頭を下げたまま、そこに控えている。

 アルベルト王子はしばらくその扉の前で黙って立っていた。そこへドカドカと足音が近づいて来る。ドリゥーン王子と衛兵たちであった。

 「アルベルト王子、いかに王子であろうと、突然の、離宮グリーンフォレストを訪問し、しかも有無を言わさずにローズ第2王妃の部屋の前まで来るとは、礼を逸しているであろう」

 「ドリゥーン王子、心よりお見舞いを申し上げます」

アルベルト王子は、丁寧にドリゥーン王子へ立礼をした。

 「何をしに来た・・・フォール侯爵に毒を盛ったのは、アルベルト王子、お前だろう」

 「私は、ローズ第2王妃にお悔やみの言葉を述べに参っただけです」

 「白々しい・・・ここで叔父の敵を取ってやろうか」

ドリューン王子がそう言うと、衛兵がアルベルト王子を取り囲んだ。アルベルト王子の護衛6人は四方を守る。パープル男爵は自らの体を盾として、今まで見せなかった鋭い眼光でアルベルト王子を庇う。ダイチは、白龍の装飾の付いた黒の双槍十文字を構えた。クローは肩掛け鞄に入れてある。

 その時、

 「ドリゥーン王子、おやめなさい。王子同士が争うなど、なんたる不祥事。フォール家の家名に傷を付けるだけです」

と、扉を開けてローズ第2王妃がドリゥーン王子を諭した。ローズ第2王妃の緑色の瞳からは、覇気よりも空虚な心を感じさせていた。

 『ダイチ、ローズ第2王妃とドリゥーン王子、衛兵。離宮グリーンフォレスト内は、魔族の力の発生源は感じられない』

 「間違いないな」

 『間違いない』

 ダイチとクローは思念会話で確認をした。

 ダイチは、アルベルト王子の目を見て、静かに頷いた。アルベルト王子は、ローズ第2王妃に目を向けた。

 ローズ第2王妃は、生気のない瞳で、

 「アルベルト王子、どうぞ中へお入りください」

 ローズ第2王妃は、アルベルト王子を自室へと(いざな)い、ドリゥーン王子も続いた。


 ローズ第2王妃とドリゥーン王子は、フォール侯爵の喪に服するとして、歌劇奉納の儀以来、公の場には出ていない。外務大臣コージス侯爵も公務を休んでいた。このため、魔力の力の発生源は、3人に絞られているものの、1人に特定はできていなかった。

 離宮グリーンフォレストへのアルベルト王子の訪問にダイチとクロー、カミューも同行したため、魔族の力の発生源は消去法で外務大臣コージス侯爵に確定した。

 アルベルト王子がローズ第2王妃への見舞いが済み王宮へ戻ると、外務大臣コージス侯爵の逮捕を即座に命じた。近衛長官ホワイト侯爵は、赤い鎧を纏った近衛兵の精鋭200騎を引き連れ、外務大臣コージス侯爵の城へ向かった。

 近衛長官ホワイト侯爵は、コージス侯爵の城内に突撃すると(しらみ)潰しに捜索した。

 「隠し部屋や通路があるかもしれない。壁や絵画、調度品も動かして徹底的に調べろ」

首元で切りそろえられた白髪、身長は2メートル超の屈強な体躯に深紅の鎧を纏った近衛長官ホワイト侯爵が指示をする。ハイエルフの女性ではあるが、指示する声は太くよく通った。アルベルト王子の命を受けた捜索と知って、城内の兵士は抵抗をしなかった。

 捜索から1時間が過ぎてもコージス侯爵の姿を見つけることはできなかった。

 「タイチ、どうだコージス侯爵は、まだ城内にいるか。事前に配置しておいた見張りの兵の話によると、コージス侯爵は歌劇奉納の儀の夜に帰城して以来、外には出ていない。それに、怪しい人物の出入りもなかったということだ」

 アルベルト王子の命令で、ダイチを同行させていた。

 「城内をくまなく歩いて探してみましたが、コージス侯爵はこの城にはいません」

ダイチがそう言うと、近衛長官ホワイト侯爵は近衛兵に、

 「コージス侯爵本人でなくてもよい。潜伏先を示す証拠や不審な物、部屋、今まで見逃していた物があるはずだ、徹底的に探すのだ」

 やがて、城の地下から脱出坑が見つかった。脱出坑内探索へ兵30名を送った。

 それから15分程経過した時である。

 「ホワイト侯爵、こちらへ来てください」

近衛兵が走りながら近衛長官ホワイト侯爵に叫んだ。

 ホワイト侯爵とダイチ、近衛兵数名がその場所へと向かった。

 「ここです」

近衛兵がコージス侯爵の脱出坑内にある分岐した隠し通路を指した。

 「灯りをもってこい」

近衛兵が持ってきたキャンドルスタンドをホワイト公爵は手に取ると、自ら先頭で隠し通路の階段を降っていった。

 突き当りの扉を開けた。真っ暗な空間だった。ホワイト公爵が手に持ったキャンドルスタンドを前に突き出すと、窓のない部屋で、黒いテーブルと燭台に1本の蝋燭、テーブルの奥には椅子が1つ置いてあるだけであった。壁に映るの影は、ゆらゆらと動き、室内の薄暗さを際立たせていた。

 「ここは何に使っていたのでしょうね」

ダイチが、ホワイト公爵の顔を見上げて言う。

 「分からん。しかし、隠し通路からつながる窓のない小部屋、奥に1つだけある椅子。恐らく、ここからコージス侯爵は、部下に直接指示を出していたとも考えられる。そして、コージス侯爵への今回の連絡も恐らくこの通路を通して行われた」

 「ホワイト侯爵もこの状況から、コージス侯爵には、部下がいると推測できるということですね」

 「ああ、おそらく手足となって働いていた者がいるのだろう。この部屋の大きさから考えても指示を受ける部下は1人か2人」

 クローが思念会話で、

 『ダイチ、見事に罠へはまったな。魔族の力の発生源はコージス侯爵。その手足は彼奴だ』

 「そうだ、決定だ」


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