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第7章 歌劇のクライマックス

 第7章 歌劇のクライマックス


 「何の真似だ」

ダイチの言葉は、広場の木立に消えていく。

 女は無言のまま黒いクナイで切りかかる。女はクナイで首や心臓など人間の急所を的確に狙ってきた。ダイチはこれをか(かわ)す。

 そのクナイの動きから、かなりの手練れであることが分かった。体術においては、ダイチには埋めようもない差があった。女はクナイを逆手に持ち替えた。

 この一瞬の間をダイチは見逃さなかった。


 ピンポン玉

  「エクスティンクション」


 魔力がわずか1の魔法使いであるダイチは召喚術士である。

召喚無属性魔法エクスティンクションは、目標の1点に反発エネルギーであり、負の圧力を持つダークエネルギーを召喚する。

 女の持つクナイの刀身1点から透き通った球が膨張した。それは瞬きよりも短い出来事だった。球形が目に見えた訳ではない。ダイチの想定した効果範囲であるピンポン玉大の直径4センチの透き通った球が存在を示すかのように、球形の輪郭内で背景が歪んだのだ。その刹那、球形の輪郭が1点に収縮し消滅した。女のクナイは逆手の下4センチが消滅していた。

 ダイチは、エクスティンクションのリキャスト9秒を心でカウントを開始する。

 ダイチにとって9秒は果てしなく長く、それは時が止まり、永遠に続く時のような感覚になっている。全てがスローモーションのように見える。

 クナイの残った刃先が地面に転がる。

 女は、驚いて手に取ったクナイを見る。

 ダイチは、アイテムケンテイナーを開く。

 女は後ろに大きく跳ぶ。

 ダイチは、アイテムケンテイナーから刀の白菊を取り出す。

 女は腰に下げた小袋に手を差し込む。

 ダイチは、白菊の鞘を捨てる。

 女はクナイを取り出す。

 ダイチは、白菊を構える。

 女はクナイと握った手を大地に向けて突き出す。

 ダイチは、1歩下がる。

 女の付き出したクナイの輪から糸が垂れ下がり、その先に付いた鈴が揺れている。

 チリン

 鈴が音を出す。

 「汝は我が術中に在り。汝の体は縫われ動かず」

 「影縫い」女が手に持ったクナイを投げる。

 ダイチの影に刺さる。

 ダイチの体は金縛りになって、肢体の活動は停止した。

 「ぐ、金縛りだ。動けない・・・・やられる」


 歌劇奉納では最終3幕が佳境を迎えようとしていた。

 左3層の1番前のボックス席では、リリーが相変わらず緊張気味で、深呼吸を繰り返している。アルベルト王子は、時折ルーナ王女の顔を見ては微笑んだ。ルーナ王女は笑顔をつくり頷いていた。

 左3層の2番目のボックス席では、小さなハプニングがあった。

内務大臣ラングエッジ侯爵がワイインを飲みながら、この儀の成功を確信したかのように満足気に座っていた。その脇に座るスラッド伯爵は、ワイインを片手に持っているが1口もつけづに、ずっと1点を眺めていた。その視線の先は、右3層の2番目のボックス席だった。中肉中背の護衛がその様子を席の後ろから見ていたが、おもむろに歩み出した。スラッド伯爵の横顔を覗き込み、

 「ご気分が優れないのですか」

と、声をかけた。

 スラッド伯爵は驚いて、ワイインをグラスからこぼしてしまった。

 「ああ、仕事の疲れが溜まっていたようだ。大丈夫だ。気にしないでくれ」

と言って、こぼれたワイインをハンカチで拭いた。

 「失礼しました。突然に声をおかけして、驚かせてしまいました」

 「気にすることはない。大丈夫だから」

 その護衛の男は、一礼するとボックス席の後ろに直立して、護衛任務を続けた。

 ラングエッジ侯爵が、

 「スラッド伯爵、貴方が紳士で助かりましたな、あの護衛は。ナギ王国期待の新星を驚かすとは、首が飛んでもおかしくないところだ」

と、スラッド伯爵の耳元で囁いた。

 「首が飛ぶなんてまさか。私を心配して声をかけてくれた心優しき護衛ですよ」

 「つくづくお優しい、そして冷静な判断力だ。それこそが、宮廷警備長官ブラウン侯爵の命を救った冷静な判断力だ」

 

 いよいよ歌劇はクライマックスに達し、オーケストラが奏でる音楽も役者の演技も最高潮の熱気となっていた。

 右3層の1番前のボックス席では、ローズ第2王妃がハンカチを目に当てている。緑の瞳から零れてくる涙を拭いながら、演劇から目を離さない。

 「う、う、グスン」

時折、すすり泣きの声を漏らす。

 ドリゥーン王子は、そんなローズ第2王妃を横目で見ながら、少し白けたようにワイインを1口飲んで、豪華な天井の装飾を眺めている。

 隣の2番ボックス席では、軍務大臣フォール侯爵が、オリーブの実の塩漬けを次からつぎへと口に運び、ボリボリ音を立てて食べている。隣の席で、ハンカチの角を指で摘み目を拭いながら観劇していた外務大臣コージス侯爵は、この音が気になっていた。音が気になり始めるとその音が余計に気になり、歌劇に集中できなくなっていた。

 「フォール侯爵、オリーブの実の塩漬けを食べ過ぎると、お体に触りますよ」

と、コージス侯爵が堪らず声をかけると、フォール侯爵はキッと睨んだ。

 「フォール侯爵、もうこれ以上・・・オリーブの実は、毒ですよ」

コージス侯爵も譲らずに繰り返した。

 「お前がとやかく言う必要はない。俺は俺の意思でオリーブの実を食べている。黙っておれ」

怒気をこめてコージス侯爵を怒鳴りつけた。これにはボックス内にいた護衛兵も驚き、顔を見合わせていた。

 コージス侯爵は、肥満の大柄な体を縮こまらせて、

 「失礼しました」

と3度も繰り返した。

 「チッ」

と、フォール侯爵は舌打ちすると、またオリーブの実の塩漬けを頬張り、ボリボリと食べ始めた。ワイインをぐっとあおった。

 コージス侯爵は、歌劇に目を移した。大声量の歌声と流れる音楽の中で、外務大臣コージス侯爵は、ハンカチで禿げた頭の汗を拭うと、ハンカチの角を指で摘み涙を拭き出した。

その脇で、フォール侯爵はオリーブの実を口に入れ、ボリッと噛んだ。

 「ぐ、ぐ、ぐぐ」

と、フォール侯爵は喉を押えて(あえ)ぎ声を上げる。

 クライマックスの音量に喘ぎ声は消される。後ろの護衛兵には、酔って音楽に合わせて体を揺らしているように見えていた。

 隣の右1番ボックスでは、ローズ第2王妃が、ハンカチで目を覆いながら、歌劇の絶頂に心の全てが引き込まれている。

 「ぐすっ、ぐすん」

と、感動で嗚咽(おえつ)している。

 右2番ボックスでは、フォール侯爵が、酔いつぶれて椅子から少しずれ落ちたようにだらしなく座っている。両手はひじ掛けの外側にだらりと垂らしたままである。

 コージス侯爵は劇に目を、音楽に耳を集中させながら無表情に、

 「オリーブの実は、毒だと忠告してあげたのに・・・我が掌のステージから転げ落ちましたね。我が音楽を楽しむことを邪魔する愚かな人間め」

と、呟いた。


 左3層の1番前のボックス席では、アルベルト王子の緑の瞳も潤んでいた。隣のルーナ王女は、膝の上のハンドバックを握りしめたまま、深呼吸を繰り返していた。

 リリーは、ザイド男爵の左脇に立ったまま、静かに息を整えていた。ザイド男爵は、警戒で目を左右に動かしてはいるが、顔を前に向けたままであった。

 歌劇が絶頂となる中。

 「リリー、緊張するな。緊張は反射速度を鈍らせると言ったはずだぞ」

 「ザイド男爵、自分でも分かっています。だから、落ち着かせようと呼吸を整えています」

 「・・・・いつから分かっていたのだ」

 「何をです」

 「リリー、お前は絶えず緊張し、俺を警戒している。まるで敵と肩を並べているかのように。そして、お前は俺の左脇から離れようとしない。俺に左腰に差している剣を抜かせないためだ」

 「今日、ここに来る前です。

 王子暗殺未遂事件の実行犯は『夜面党』でした。本日未明、近衛長官ホワイト侯爵の指揮の元、『夜面党』のアジトを壊滅させました。そこで分かったことは、夜面党が国王緊急脱出通路を利用したことでした。これは第1級の国家機密となっており、アベイス・フォレスト国王陛下が亡き今では、この通路の存在を知る者は、3人です。

 1人目は、内務大臣ラングエッジ侯爵、2人目は、更迭中の宮廷警備長官ブラウン侯爵、

 ・・・3人目は、亡きアベイス国王陛下の護衛をしていた現王子護衛ザイド男爵です」

 「・・・そうか、その3人のうち、なぜ俺が手引きしたと考えたのだ」

 「特定はできておりませんでした。ですから、護衛兵を急きょ変更して3人を同時にマークしています。敢えてマークしていることを悟らせれば、内通者は何らかの行動を起こすはずです」

 「くっ、俺としたことがしくじったな」

 「今からでも遅くはありません。自首してください」

 「俺の思いを何も知らずに、何を言っている」

 「何があったと言うのですか」

 「俺は元をたどれば王家の重鎮となる貴族の家に生まれた。しかし、幼児期に俺の家は取り潰され、両親は自害した。それはよい。俺の父に甲斐性がなかったからだ。

 幼くして親を失ったエルフの人生は過酷だ。長い幼児期を1人で生きていかなければならない。数年後、幸運なことに今のザイド家の養子となることができた。

 ザイド家当主の義父母は俺を愛し、大事に育ててくれた。義父もそれを支える義母も優しい人だった。俺に生きる喜びと、この両親の恩に報いるという生きる目的を与えてくれた。

 800年前の人魔大戦でザイド家当主の義父ネイク・フォン・ザイドは、バーム皇国の前線でエルフとバーム皇国臣民の獣人、ドワーフ、ホモ・サピエンス等の混成軍小隊の指揮をしていた。バーム皇国からの補給物資が滞り、義父の混成軍小隊は食糧難に陥っていた。再三の要求にもかかわらず、バーム皇国からの補給物資は来なかった。それでも僅かな食料を、魔族から解放したバーム皇国の村人にも分け、互いに飢えをしのいでいた。だが、獣人、ドワーフ、ホモ・サピエンス兵は反乱を起こして義父を殺した。そこの村人も食料欲しさにこの反乱に加わっていた。分け与えた食料に笑顔で感謝を述べ、拝むようにして受け取っていた村人が、その笑顔で義父を切り刻んのだ。

 補給物資の来なかった原因はバーム皇国内での横領だと内偵で分かったが、あの国は決して認めようとしなかった。それが原因で、人魔大戦後にナギ王国とバーム皇国との戦争が始まった。それもやがて、停戦となった。

 そして現在、魔族のような狡猾で残虐な民、腐敗した高官が支配する帝国との友好条約締結をすると言うアルベルト王子が許せなかった。惨殺された義父の無念は、無かったことにするのか。友好条約を締結すれば、あの国と民のことだ、我が国の民に、言われなき災難が降りかかってくるに違いない。だから、俺はアルベルト王子暗殺に加担した。

 それでも、アルベルト王子には友好条約締結を考え直していただくことを心の底では願っていた。だが、もはや無理だと悟った。こうなっては、俺がバーム皇国との友好条約締結を防ぐしかない。そして父の無念を無かったことにはしない」

 「・・・バーム皇国への恨みから生まれた怒りの衝動を、友好条約締結後のナギ王国の民への不安と称して、その怒りの矛先を変えていませんか。そして、自分の心を偽ってはいませんか」

 「・・・そうだ。俺は、抑えきれない怒りの衝動に心が支配されている。怒りの矛先が違っていることも、手段が誤っていることも分かっている。それでも、俺の怒りの衝動は日に日に増していくばかりだ」

 「自分の心を偽ってはいませんか。それは、アルベルト王子への信愛の情のことです」

 「・・・・そんなものはない。あるのは怒りだけだ」

 「自分を偽らないでください。私を頼ってください。例え、怒りの衝動が個人では耐えがたいものであったとしても、正しき道を歩むために、他の者から力を借りて個を補っていくご自身の賢明さを信じてください」

 「・・・・俺の言った言葉だな。だが、それが分かっていても、信じたくても変えられないのだ。俺は愚かだ」

 「愚かです。そして私も。・・・どうか、私にお手伝いをさせてください」

 「・・・ありがとう。でも、もう遅い」

 「遅くはありません。夜面党を切り伏せて、アルベルト王子をお守りしたではありませんか」

ザイドはフッと笑うと、

 「あのまま王子を殺すことを考えた。しかし、ダイチが見たこともない白い刀身の刀を持って部屋に飛び込んで来た時、得体のしれない、人とは思えぬ圧倒的な威圧感を感じた。俺は初めて戦慄した。だから、俺は王子を殺せなかった。体が動かなかったのだ。だが、ダイチの目を見ると迷いがあり、圧倒的な威圧感とはかけ離れたものを感じた。この威圧感は、別の何かから発せられているのかと疑う程にな。そこで、俺は、今なら王子と衛兵、ダイチ、仮面の白装束「夜面党」もろとも切り捨てることができると判断した。その瞬間、ダイチからは迷いが消え静かな狩人のような眼になっていた。俺は、口封じに夜面党だけを切り捨てた。・・・もう、俺の心には闇しか見えない」

 ジャーン!

オーケストラのシンバルの音が、その時を告げるかのように響いた。

 ザイドは、しゃがみ込むと剣を抜きながら、リリーを下から切り上げた。

 リリーも、咄嗟にしゃがみ込み、右手で半分だけ剣を鞘から抜いた状態でこれを受けた。

 ステージは照明が抑えられ、ステージの中央がせり上がり、スポットライトを浴びている主演者が高所からフルコーラスで歌う。観衆は、魅了されていた。この歌劇に精神の全てが酔っていた。

 「カミュー様」

 リリーが叫んだ。

 その瞬間、ルーナ王妃の膝の上に置いていた白いハンドバックから30センチほどの白龍が飛び出して来たか思うと、瞬く間に4メートルとなった。

 それを見た護衛兵2人は、身構えた。

 「その白龍は、味方です。出だし無用」

ルーナ王女が叫んだ。

 ザイドは一瞬ギョッとしたが、流石は王の盾、すぐさま剣で白龍の頭に一撃を浴びせた。

 ガキーン

と、金属音が響く。

 ザイドの剣は半ばから折れて、剣先が飛んで深紅の壁に跳ね返った。

カミューは尾を振った。ザイドは身を屈めてこれをかわす。この時、リリーの一撃がザイドの背を撫でた。

 ザクッ

ザイドは思わず跪いて振り返り、リリーを見た。

 剣を構えるリリーの頬には、涙が伝っていた。

 「ぐっ、最早これまで・・・」

ザイドは折れた剣を首に当てた。

 ザイドの腕にしがみ付いて制止する者がいた。アルベルト王子だった。

 「アルベルト王子なにを・・・」

 「ザイド、・・・お前は愚かだ。常に傍にいてくれたお前の苦しみに気付かなかった私は最も愚だ。それでも、そんな私をお前は守ってくれていた」

 「王子、馬鹿なことをおっしゃいますな」

 「お前は、歌劇奉納の儀への私の出席に反対していたではないか。お前は迷っていたのだ」

 「・・・・もはや私にはこの道しかありません」

 「ザイド、お前は愚かで不器用だな」

 「・・・・アルベルト王子、民のために生きる王とお成りください」

ザイドはアルベルト王子の目を見つめて言った。

 「我が使命はそこにある」

アルベルト王子の迷いなき言葉に、ザイドは、一瞬口元が緩んだか見えた。そして、そのまま力なく倒れた。

 「ザイド、ザイドー」

 ザイドは歯に仕込んであった毒を飲んだのだ。

 アルベルト王子はザイドに抱き付き嗚咽する。

リリーも抱き付いて、

 「私の一撃も避けられたはずなのに・・・どうして、どうして。ザイド男爵・・・」

リリーの涙を浮かべて訴える声に、ザイドはもう答えなかった。

 通路に控えていた赤い鎧の近衛兵がアルベルト王子のいるボックス席に飛び込んで来た。

 この瞬間に、ステージ上での歌劇は大音響の音楽と共に終了した。

観衆からはスタンディングオベーションが巻き起こった。王立歌劇場が震動しているのを感じる程であった。観衆は感涙し、拍手は鳴りやまなかった。ステージ上のクライマックスと時を同じくして起きた、左3層の1番ボックスでの事件について、気付いた観衆は誰もいなかった。

 唯一人、対面の右3層2番ボックスで立ち上がり、アルベルト王子とカミューを見つめている緑の瞳があった。肥満で大柄、額から後頭部まで禿げあがった外務大臣ルーレン・フォン・コージス侯爵であった。

 コージス侯爵は突然尻もちをついて、

 「ひゃー、だ、だ、誰か。フォール侯爵が息をしていません」

と叫び、同じボックス内の護衛兵を呼んだ。

 警護兵がフォール侯爵の元に駆け付ける。

コージス侯爵は、

 「フォール侯爵、しっかりしてください」

と、涙ながらにフォール侯爵の動かない体を揺すっていた。


 アルベルト王子は、涙を腕で拭うと、ボックス席で立ち上がり、歌劇奉納の儀の閉幕を高らかに宣言した。


 王立歌劇場前の広場。

 「ぐ、金縛りだ。動けない・・・・やられる」

ダイチは思念会話でクローに告げる。

 『ダイチ、迷うな、女を消滅させろ』

クローの叫びに、ダイチは女と自分の影に刺さったクナイの鈴を交互に見た。


 ピンポン玉

  「エクスティンクション」


 ダイチの影に刺さったクナイの鈴は、消滅する。

 女は、たじろいで2歩、3歩と下がりながら、腰に下げた小袋に手を入れる。

 ダイチは、後ろに一歩飛ぶ。「よし、動ける」

 女は、小袋から2本の小刀と別のクナイを取り出す。

ダイチの得体のしれない消滅魔法を危険と判断し、接近戦を用心している。

 ダイチは、オリハルコン製の白菊の白い刀身を女に向けた。

 女は、目をダイチに向けたまま、2本の小刀を鞘ごと左右の腰のに差す。

 女は、ダイチに向かいクナイを投げる。

 女はダイチに向かって突進して来る。

 ダイチは、クナイを半身になって躱す。

 クナイはダイチの後方の地面に刺さる。

 女は、腹の前で両手を交差させ、腰に差した2本の小刀の柄を逆手に握ったまま走り寄って来る。

 地面に刺さったクナイに結んでいた火薬が爆発をする。

 ダイチは、爆風で前のめりになる。

 女は、ダイチの直前で2本の小刀を居合い抜きで抜刀する。「抜刀(ばっとう)連雁(れんがん)

 ダイチは、前のめりになりながらも、女の腹の前で小刀がクロスしながら抜かれるのを見て、そのクロスしているところへ白菊を伸ばす。

 ダイチのオリハルコン製の白菊の刀身は、女の2本の小刀をまるでキュウリを切るかのごとく両断する。

 女は、ダイチを切り伏せたと確信して、そのまま両腕を開く。 

 ダイチは、両腕を開いた女の頭に肩をぶつける。

 ダイチはそのまま前のめりに倒れる。

 女は、その頭をダイチの肩と地面に挟まれる。

 ダイチは女の体の上に乗ったまま、その両腕の手首を掴み押える。

 女は既に失神していた。

 「ふー。紙一重だった」

ダイチは、大きく息を吐いた。

 「クロー、この女はエルフだけれども、どう考えてもあの忍者だよな」

 『この女の使う戦法は、ナギ王国に入って出会った柿色装束の忍者そのものだな』

 ダイチは、女の顔と首に触れた。やはり皮膚に違和感がある。丁寧に首からエルフのマスクを剥がしていくと、そこには見覚えのある女の顔があった。

 「やはりあの柿色装束の忍者だったか。しかし、何で俺の命を狙うのだ。見当もつかない」

 ダイチは気を失ったまま倒れている忍者を見ながら、

 「また、変わり身の術と微塵の術は、面倒になるので、腰の小袋は外しておくか」

そう呟くと、女の腰にある小袋を外して、アイテムケンテイナーへと仕舞い、代わりにカミューの洞窟へ行く時に購入したロープを取り出し、女を拘束した。


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