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第3章 幕間

第3章 幕間


 王宮グレートフォレスト。

 礼拝堂から出てくるルーナ王女に一礼すると、リリーは王女の後に従った。

 ルーナ王女が王女の間の前まで来ると、侍女が扉を開いた。

 「リリーもお入りなさい」

ルーナ王女は一瞬だけリリーを見て言った。

 「はい、王女ルーナ様」

リリーは畏まって返事をした。

 ルーナ王女は王女の間に入って行った。リリーが入室すると扉は閉められた。

 「リリー、本当に怪我はないの」

 「はい、ルーナ様、ご心配をおかけしました」

 「宝珠奪還のために、勇敢な兵士たちの尊い命を多数失ってしまった・・・」

 「ルーナ様、今回の不手際については謹んでお詫び申し上げます」

 「王冠と王笏おうしゃく、宝珠、王の三聖器の警備はリリーとは関係のないことです。リリーの宝珠奪還に際しての迅速な対応には感謝しています」

 「身に余るお言葉です。今回はアルベルト王子とルーナ王女、ドリゥーン王子の警護の虚を突かれた形となりましたが、近衛長官ブラッサム・フォン・ホワイト侯爵は、アルベルト王子とルーナ王女、ドリゥーン王子の警護を厳重にするように、宮廷警備長官ブラウン侯爵に進言しておりました。

また、自らは王の三聖器の警護を、今後は受け持つと言っておりました」

 「ホワイト近衛長官にも苦労をかけますね。アルベルト王子の警護にはカヒライス・フォン・ザイド男爵、私の警護にはリリー、2人を頼りにしています」

 「今後もルーナ様に身命を賭してお仕えします。ザイド男爵は、私に戦闘術や警護の全てを教えてくださった方です」

 「そうでしたね。リリーはザイド男爵を父のように、兄のように慕っていましたね」

 「はい。尊敬しております」

リリーは、王女ルーナと王子護衛のザイドを心から信頼していた。

 「ルーナ様、2点報告があります。1点目は宝珠強奪犯に白狐衆が関係していたと思われます」

 「それは確かですか、白狐衆があの宝珠を」

 「宝珠奪還の際に、白狐衆と思われる2人と戦いました」

 「宝珠は白狐衆の住む富岳の里の初代頭領ヒデーキ・オチャノミズからナギ王国アベイス国王に友好の証として贈られてきた宝。宝珠強奪は偶然ではありませんね」

ルーナ王女はリリーを見つめて言った。リリーも頷く。

 「2点目は、ダイチ様のことです」

 「ダイチ殿に助けられたと申したが、いかなるお方なのですか」

 「ダイチ様は、慈悲深く、誠実な方だと感じております。ローデン王国で鍛冶職人をしていたそうです。ナギ王国へは、慈愛神獣雪乙女様にお会いするために尋ねて来たとおっしゃっていました」

 「雪乙女様ですか」

 「後日、ダイチ様には詳しく話を伺いたいと思っております」

 「宝珠と白狐衆、雪乙女様。どれも亡き父アベイス国王に深く関係することばかりだわ」

ルーナ王女の言葉にリリーは頷く。

 「リリー、ナギの民のためにこれからも頼みますよ。アルベルト王子の王位継承はそのための1つの目標です。それには、まだまだ解決しなければならない幾多の課題があります」

そう言うと、ルーナ王女は窓際に歩み、滝の音に耳を澄ましながら、夜空に輝く一つの星を眺めていた。

 リリーは、アルベルト王子が王位についた後には、旅をして広い世界で見聞を広めたい。それが私の最後の夢と語っていたルーナ王女の笑顔を懐かしく思い出していた。

 

迎賓第2別館レーク。

 「夕食の準備が整いました」

と、侍女のクミンさんが連絡にしてきた。

 俺は、迎賓第2別館の右側の1階の部屋で食事をすることにした。食事は主に侍女のキャメルさんが料理している。


 侍女のキャメルさんは、青い瞳に肩までの白髪、小柄で太身、ホモ・サピエンス年齢45歳のエルフだ。落ち着いた人柄で料理が得意だった。宮廷での務めも長く、作法や重鎮たちの顔もよく知っているという。

 もう1人の侍女クミンさんは、青い瞳にショートカットの白髪で中背細身、ホモ・サピエンス年齢22歳のエルフだ。誠実な人柄で掃除や裁縫が得意だった。

 事前に、2人には、クローとカミューについての守秘義務を確認しておいた。

食事の前に、2人にクローとカミューを紹介すると、キャメルさんはパチパチと瞬きをしただけで、

 「クロー様、カミュー様、御用がありましたら何なりとお申し付けください」

と、クローとカミューに一礼した。

 さすがリリーさんから紹介の侍女だ。神獣を前にしても落ち着いている。一方のクミンさんは、ローデン王国に暮らす祖父母たちからカミュー様のことを聞かされていたらしく、平伏したまましばらく声さえ出なかった。

 カミューは、

 『食べ物に嫌いなものはない。感謝の気持ちで捧げてほしい。特に酒は好き・・捧げものに酒は欠かせぬ』

と、リクエストまでしていた。


 食卓に着くと驚いた。10メートルはあるかと思う1枚板のテーブルに、蝋燭が7本立っている燭台が3つ、すぐ手前に卓上花が1つ、2人分の銀の食器類とグラスが用意されていた。

 「この長いテーブルに俺とカミューの2人分か。無駄に広いな」

 黒の神書のクローは、食事をしない。


 料理人と違って、キャメルさんが料理をするので、

 「私には家庭料理しかできませんが、よろしいでしょうか」

事前にそう言われていたが、出てくる料理は心のこもった温かみのある料理ばかりだった。

 俺は、この食事を食べるまで、エルフに対するイメージは、サラダと果物が主食と思っていたが、肉もでてきた。野菜や果物を巧みに使いながら肉に合うソースを作っていた。メニューを元の世界風に表現すれば、

 ・ワイン

 ・特産のオリーブの実の塩漬け

 ・きのこのクリームスープ

 ・ベリーとリンゴのサラダ

 ・大盛のマッシュポテトの上にステーキ(トナカイに似た魔物の肉らしい)、ベリージャム

 ・ロールキャベツをオーブンで煮焼きし、トマトソースをかけたもの

 ・円盤状にして焼いたチーズ

 ・シナモンロール

というところだ。こちらの世界の料理名までは覚えられなかった。

 ダイチは、夕食に何か物足りない気がしていた。

 思念会話でクローとカミューに話しかけた。

 「クロー、カミュー、この食卓は少し足りない気がするな」

 『そうか。異国の料理ではあるが、いつもと変わらん。主には食事の量が足りないのか』

カミューがワイインを飲みながら言う。

 「なんだろう。料理は美味しいし、異国の珍しさもあってワクワクする。でも、心が満足していない」

 『ダイチ、部屋には貴重な金属を加工した装飾品が多数ある。食器もそうだ。照明用の灯りもある。人はこれを豪華、贅沢と表現し、これを好むのではないか。それに部屋やテーブル、食器、料理も衛生的だ。何が不満足なのだ』

と、クローも不思議に感じているようだ。

 「ダイチ様、私の料理と給仕が粗末なために、もしやご不快な思いをさせておりませんか」

キャメルがダイチの表情から何かを察したのか、丁寧に頭を下げた。クミンも慌ててこれに続いた。

 「違います。料理も環境も最高です。でも、何か寂しいのです。そう、寂しいのです。ローデン王国にいた時には、毎日鍛冶屋の家族や職人たちと賑やかに食事をしていましたので、寂しく感じるのです」

 ダイチはクローとカミューを見つめて思念会話で続けた。

 「明日からは、キャメルさんとクミンさんも一緒に食事をしてもよいか」

 『ダイチ、私は何も食べることはできない。問題はない』

 『主、何か問題があるのか』

 ダイチは安心して、侍女の2人に、

 「キャメルさん、クミンさん、明日から食事を一緒に食べてください」

と、お願いした。

 「それは侍女の分を越えております。ご一緒に食事なんて」

キャメルが慌てて言うと、クミンも頷く。

 「キャメルさんとクミンさんに抵抗があるなら無理とは言いませんが、夕食だけでもお願いします」

 翌日から夕食のテーブルには、4人分の食器類が並んだ。

 ダイチは自室に戻ると、黒の神書クローを使い、自身のステータスを確認した。


 氏名:野道 大地   年齢:25歳   性別:男性   所持金:10,210,446ダル

   種 :パラレルの境界を越えたホモ・サピエンス

   称号:神龍を導く者

   ジョブ・レベル:召喚術士・レベル   57

            鍛冶特級職人・レベル  2


 体力     1614

 魔力        1(固定値)

 俊敏性     309 

 巧緻性    4712

 カリスマ性  3273

 物理攻撃力   529

 物理防御力   487

 魔法攻撃力   728

 魔法防御力   953

   

   生得スキル

    アイテムケンテイナー

 無属性魔法


   ジョブスキル

    召喚無属性魔法:エクスティンクション

    思念会話

    神獣召喚

    整形の妙技


   特異スキル

    学び


   召喚神獣:神龍

        黒の神書


 「鍛冶特級職人になっているのは鍛冶職人として嬉しいな」

ダイチは、満面の笑みで言った。

 「雪乙女を召喚神獣にするために、このナギ王国に来たのだけれども、王位継承問題に巻き込まれそうな気がしてきた」

 『ダイチ、私たちはもう巻き込まれているぞ』

と、黒の神書のクローが言う。更に、

 『ダイチ、私のジョブ:生活百科はLvl.50まで上がっている』

 「おお、クロー、それはすごいな。Lvl.50にはいつ上がったのだ」

 『忍者との戦闘でのアドバイスでだ。黒の神書は、直接の戦闘でLvlを上げるのではなく、主への貢献度で上がるからな』

 「その時に、教えてくれればいいのに」

 『教えようと話しかけたが、ダイチは、話は後でと言ったではないか』

 「・・・あの時か、Lvl.50になればジョブを変えられると言っていたよな」

 『ああ、ジョブの選択肢が提示されたので、いくつかの選択肢から選べる』

 「それは、楽しみだな。ジョブの選択肢を提示してくれ」

 ダイチは黒の神書のクローに手を置いて、

「黒の神書の現在可能なジョブの選択肢を示せ」

ダイチは、黒の神書にそう告げると、ページをめくる。そこには、神獣黒の神書の所有者で主となったダイチの問いに対する回答が示されている。


 黒の神書の現在のジョブ選択肢を示す


  医学百科

  農学百科

  地理学百科

  軍学百科

  戦闘術学百科

  帝王学百科

  

 『ダイチの望むジョブにチェンジできる。ジョブチェンジをすると、そのジョブがLvl.50以上にならなければ、新たなジョブへはチェンジできない。ジョブによってはLvl.100以上が必要な場合もある』

 「医学、農学、地理学、軍学、戦闘術学、帝王学か。どれもこの過酷な世界で逞しく生きていく上では欠かせない知識と技術だな。帝王学って王と成るための人格形成、知識、作法についての教育だよな。すごいジョブが出て来たな」

 『どれにするのか、決めてくれ』

ダイチは、右に左にうろうろと歩き始めた。思案をする時のダイチの癖である。

 「・・・・・うーん・・・・迷うな」

 カミューが、

 『主は相変わらず決断力が鈍いな』

と、あきれ顔で呟く。

 『まったくだ』

クローも同意する。

 「ちょっと待ってくれ。慎重に選ばせてくれよ。クローのサポート能力は、俺の生死に直結するし、俺の生き方の質にも関係するのだから」

 『主の命は我が守るから問題ない』

 「カミュー、それは分かっているけれども、今後も常に一緒にいるとは限らないだろ」

と言うと、ダイチは、目を見開き爽やかな笑顔を浮かべ、左の掌を右の拳で叩いて決断した。

 「保留だ」

 『・・・・・ダイチ、お前という奴は・・・』

 『主は、決断は遅いが、先送りの決断だけは速いな』

 「慎重だと言ってくれ」

 『優柔不断、躊躇する、踏み出せない、臆する、怖気づく、歯切れが悪い、愚図愚図する、煮え切らないなど、自分をどのように表現しても構わないが、この点は魔族に付け込まれるところだぞ』

 「クロー、俺は、そんな風に自分のことを表現していないぞ。慎重だといっただけだ」

 『自分を美化した表現を使っただけだろう。他人にはそう感じるだけだ』

 『クロー、お前が新しいジョブを楽しみにしていた気持ちは分かる。だが、そのくらいで主を許してやれ』

 「クローは、新しいジョブを楽しみにしていたのか。それが延期されて・・・クローにも感情があるのだな」

 『ダイチ、あたりまえだ。1度目は話も聞いてもらえず。そして今の保留だ。これで2度目の延期だからな』

 「・・・・カミュー、お前はいつも辛辣なクローに小言を言われていて辛かったな・・・・カミューの気持ちが分かったよ。クローの精神攻撃は、反撃を許さない正論だから・・・」

 ダイチとカミューは見つめ合った。その両者の眼は共感と慈愛に満ちていた。

 「とりあえず、クローのステータスを確認しておく」

ダイチは黒の神書のクローのステータスページをめくった。これは依然に作成したページだが、リアルタイムで更新されている。


 氏名:クロー   年齢:0歳   性別:     所持金:0ダル

    種 :黒の神書       

    称号:

    ジョブ・レベル:生活百科・レベル 50

         

 体力      387

 魔力       65

 俊敏性       1 

 巧緻性       1

 カリスマ性  1090

 物理攻撃力     0

 物理防御力  1661

 魔法攻撃力     0

 魔法防御力  1969

 

   生得スキル

    

   ジョブスキル

    目的達成回答

    

   特異スキル

    完全感知

    百科全集


 「物理と魔法攻撃力は0のままなのだな。固定値とは書かれていないが、上がりそうもないな」

 『私はダイチやカミューの戦闘の仕方とは違う。主となったダイチが、私の能力をいかに有効活用するかが問われるのだ』

 「はいはい、分かっていますよ。頼りにしています。カミューのステータスもみておくか」


 氏名:カミュー   年齢:1002歳   性別:男性   所持金:0ダル

    種 :神龍       

    称号:

    ジョブ・レベル:神龍・レベル 92

         

 体力     5024

 魔力     5500

 俊敏性    2177  

 巧緻性    1001

 カリスマ性 32060

 物理攻撃力  3311

 物理防御力  3903

 魔法攻撃力  4962

 魔法防御力  4989

 

    生得スキル

     水魔法

     風魔法

     雷魔法

        

    ジョブスキル

     神龍の息吹

     神龍の逆鱗

     龍神白石の力


    特異スキル

     咆哮

     神龍の加護


 「カミューのステータスは、いつ見ても驚かされるよな。桁が違う」

 『まだまだ強くなるぞ。それに龍神白石に民の祈りが溜り、それを使えば今のステータスは10倍以上となる』

 「港町ポポイで見せたあの威力は、天変地異を越えていたな。魔王ゼクザール討伐戦では期待していますよ」


 離宮グリーンフォレスト。

 王宮グレートフォレストの離宮は、第2王妃の住まいである。第2王妃は、グリーンフォレスト姓を名乗るため、この第2王妃の住まいを離宮グリーンフォレストと呼ぶようになっていた。

 離宮の豪華な1室でテーブルを挟み、王位継承争いのローズ第2王妃派の4人の男女が話をしていた。

 ローズ・グリーンフォレスト第2王妃と王位継承権2位のドリゥーン・グリーンフォレスト王子、軍務大臣アレックス・フォン・フォール侯爵、外務大臣ルーレン・フォン・コージス侯爵であった。

 「アルベルト王子派は、喪の開ける3か月後にはアルベルト王子の戴冠式を強行するというのは誠ですか」

外務大臣コージス侯爵が言った。コージス侯爵は、ホモ・サピエンス年齢55歳のハイエルフ。大柄で肥満、額から後頭部にかけて禿げている。才はないが名家コージス侯爵家の生まれということで、外務大臣職に就いていると陰口を叩かれることも多い。

 「ええ、秘密裏に準備を進めているらしいですわ。それから、戴冠後すぐに王威を示すために、休戦中の隣国バーム皇国との友好条約締結をする準備も怠りないと、王子アルベルトの元に放ってある鼠から連絡がありました。

 亡くなった王妃グレイスの出自はリバー家。かつては我がホール家と共に2大貴族として名を馳せていたものの、800年前の人間と魔王との人魔大戦で、一族は戦死。国王陛下の憐れみを受けて王妃になっただけの者。更に陛下の寵愛を受けたにも関わらず陛下を裏切る不貞な女。不貞な女の子どもアルベルトにこのナギ王国は渡しません。お父様、アルベルト王子派の切り崩しの件はいかがかしら」

第2王妃ローズが、口元の黒い喪布の中から語気を強めて言った。

 「ローズよ、心配するな。アルベルト王子派の切り崩しは順調だ。まあ見ておれ。それより中立派の3人の抱き込みを急がねばならん」

軍務大臣フォール侯爵がワイインを傾けながら、好物のオリーブの実の塩漬けを1つ手に摘みながら低い声で言った。

 フォール侯爵は第2王妃ローズの父であり、ホモ・サピエンス年齢46歳のハイエルフ。兵士にも引けをとらない大柄でがっちりとした体躯に銀の短髪、政治的手腕が高く、権力闘争を好み、娘のローズが亡きアベイス国王の第2王妃となるとその地位を政治的に利用し頭角を現してきた。

 「財務大臣アーネスト子爵、法務大臣ローゼン侯爵、教育文化大臣マザーン子爵。この3人の抱き込みで、情勢は一気に傾きますな。アルベルト王子派も抱き込みに懸命のようですが、効果は出ておりません」

と、外務大臣コージス侯爵が笑みを浮かべる。

 「中立派の抱き込みに効果の出ていないことは、こちらも同じ。コージス侯爵、この成否にコージス家の命運がかかっているのだぞ。結果を出せ」

と、ドリゥーン王子が詰め寄る。

 「コージス侯爵、無能な者に譲る席は用意しておりませんわ。肝に銘じておきなさい」

第2王妃ローズが冷たく突き放す。

 コージス侯爵は、ハンカチで額と禿げた頭の汗を拭っていた。

 「ローズ、そう責めるな。コージス侯爵が汗をかいておるぞ。儂には別の策もある」

と、軍務大臣フォール侯爵が不敵に笑い、オリーブの実の塩漬けを1つ口に入れると、グラスのワイインを飲み干した。

 「祖父君、別の策とは・・・」

ドリゥーン王子が尋ねる。

 軍務大臣フォール侯爵が立ち上がり、窓のカーテンを少し開けた。

 「・・・まあみておれ」

夜の森を見て呟いた。

 「お父様にお任せしますわ」

第2王妃ローズが冷たい目で微笑んだ。


 真夜中の一室。

 窓のない一室には、黒いテーブル1台と燭台に1本の蝋燭、黒い1脚の椅子のみであった。奥にいる1人は椅子に座り、テーブル越しに1人は床に片膝をついて座っている。揺らめく蝋燭の小さな灯りが椅子に座る1人の顔だけを橙色に照らし、壁に映る2人の影は、ゆらゆらと動き、室内の薄暗さを際立たせていた。

 床に片膝をついて座っている男が言った。

 「落盤事故に見せかけた国王アベイスと王妃グレイスの死は、このナギ王国に大きな影を落としております。これを好機とみて暗躍する者たちも出ております。我が主の慧眼、恐れ入ります」

 「あのような魔石の鉱脈を見つけたことが、ナギ王国と国王アベイスの仇となったのだ。我らの脅威となる力を秘めた魔石だ。早晩、このナギ王国は滅ぶこととなる」

 「ごもっともです。我らダキュルス教団も信者の数を増やしております。そして、ナギ王国は王位継承争いの只中、期も熟してまいりました。摘み時は近いかと」

 「早まるでない。封魔結界があるため、我らはナギ王国に侵攻できないままだ。封魔結界が目障りだ。まずは、封魔結界の源を突きとめよ。

 不思議なことに、その封魔結界の力は衰退が止まらぬ。封魔結界消失の日もそう遠くないかもしれん。その日に備えて、我が配下を集結させているところだ」

 「我が主の配下が侵攻せずともこのナギ王国は、内乱で自滅して行きます。ましてや封魔結界が消失するとなれば、地図からこの国が消える日も近いかと考えます」

「ナギ王国1国のことを申しているのではない。今後も封魔結界をもつ国が現れるやもしれん。我が我らの侵攻を阻む封魔結界の源を突きとめよ」

 「はっ、封魔結界の源の究明を最優先します。・・・魔王ゼクザール様による人間の滅亡と魔族の繁栄。その手始めに目障りとなるナギ王国の滅亡。

 クククッ、楽しみです・・・して、王位継承はどちらになさいますか。魔王ゼクザール様の六羅刹が1人、傀儡師ホージュス様」

 「どちらになろうと、この掌の上で転ぶだけ。豪華に着飾りその役を演じ、せいぜい派手に転ぶがよい」


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