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第2章 砂上の楼閣

第2章 砂上の楼閣

 

 ダイチとリリー、護衛の兵士20騎は王都ロドに向け、北に駆けていた。

 東にはジパニア大陸の背骨と言われているマイゼク山脈が連なる。季節はまだ夏であったが、山々は冠雪し、真っ青な空に淡く輝き、その神々しさは見る者を圧倒した。

 「ローデン王国で見てきたジロジ山脈に比べて、マイゼク山脈の連峰は、青く、白く、高く、険しく、そして美しい。山頂の空気は澄んでいて、張りつめた緊張感を纏っているようだ。人の住む世界とは隔絶した聖域としか思えない」

ダイチが、そう呟くと、

 「マイゼク山脈は神の宿る所。特に大陸最高峰のあのアディア山は、私たちエルフの最も大事な聖域です」

リリーは右手を上げて北東に見える一際高い山を指した。

 「あのピラミッド、いや四角柱のような1番高く、険しい山のことですか」

 「そう、隣国バーム皇国では、ピラミッドアディアと呼んでいます」

 ピラミッドって通じる言葉のだなと、ダイチは思い少し嬉しくなった。

 「慈愛神獣雪乙女様もアディア山に住んでおられると信じられています」

 ダイチは馬上から、遠くにそびえるアディア山をしばらく眺めていた。


 王都ロドへ向かう途中で、森の中のエルフの町をいくつか通過した。エルフはマネキン人形のような美しい容姿で青い瞳、白か銀の髪、横に尖った耳があった。赤や青、黄、緑、黒などが混じる鮮やかな色合いの透き通った生地の服を着ていた。女性はノースリーブの服に、レースの透き通った膝下まであるマントを着用しているエルフが多かった。男性も女性も左腕に黒い喪章を付けていることに気付いた。

 「住民の方が腕に付けているものは喪章ですか」

 「ええ、この国は喪に服しています。国王陛下と王妃様が3ヶ月前に事故で・・・」

リリーは唇を噛んだ。

 暫くの沈黙の後、リリーが、

 「ダイチ様は、エルフを見るのは初めてですか」

と、リリーはダイチを気遣い明るく声をかけた。

 「はい、私が出会った最初のエルフはリリーさんでした。つい数ヶ月前までは、ホモ・サピエンス以外は知りませんでした」

 「まあ、そうですか。エルフは青い瞳に白か稀に銀色の髪です。ハイエルフは緑の瞳に銀か金の髪です。例外はあってもほぼそうです」

 「エルフとハイエルフって違うのですか」

 「はい。容姿が異なるので見分けは付きやすいのですが、1番は寿命が違います。ハイエルフは長寿です。王族は皆、ハイエルフです」

 「リリーさんは青い瞳に白い髪、エルフですね」

 「はい、エルフです」

 「失礼ですが、エルフの寿命はホモ・サピエンスよりも長いのですか」

 「エルフの寿命に個人差はありますが1000年以上です。でも、ホモ・サピエンスの歳の取り方とは異なります。ホモ・サピエンスの20歳代位いがエルフの身体的加齢の最も遅い時期だと言われています。その後は加齢が加速していきます」

 「そうすると、エルフはホモ・サピエンスの20歳代に見える方が多いということですか」

 「ふふっ、そんな感じかもしれませんね」

 「それなら、エルフの国は、20歳代の働き盛りばかりで、生産人口が多く、活気に満ち、高い国力を維持できますね」

 「そうとも言えますが、逆の問題もあります。成人までに長い年月を必要とするので、子供がまだ幼い頃にその両親に万が一のことがあれば、子供は大変な苦労を続けることになります。今、このナギ王国でも・・・」

ダイチはリリーの横顔の表情が曇ったことを見て取った。

 

 ダイチとリリー、護衛の20騎は町と森を抜け、深い渓谷に入って行った。渓谷にはきれいな川が流れ、その上流は深緑の森へと続いていた。深緑の森では、どの樹木も青々と茂り、道の両脇は密林と言える程の密集した樹木と草、そして低い山々が連なっていた。

 「まもなく王都ロド。そして王宮グレートフォレストです」

 リリーは、確かめるように宝珠の入った袋に手を当てて、ダイチに言った。

 深緑の森が途切れると、森に囲まれた白い石造りの城壁と城門が見えてきた。城壁は高さ20メートル近くあり、長さは深い渓谷の中を数キロに渡っていた。城壁の脇には川があり、透き通った水が音をたてて流れていた。ダイチは、豊かな自然の恵みを受けた白と緑の城塞都市だと感じた。

 城門で白い鎧を着た衛兵のエルフが一斉に敬礼をする中を、騎馬は疾走して行った。城門を潜ると、見上げるほどの大樹があちらこちらにあり、その周りには大理石で造られた家がいくつも建っていた。街の中心街に入ると、商店街や石像の立つ公園がいくつもあった。やがて、緑の芝生が生い茂った大きな広場が見えてきた。その中央には池があり、池の中心には銅像と噴水があった。その広場からは大理石の階段が続き、四角い巨大な建物につながっていた。その建物の入口は三角の大きな屋根を持っており、三角形の屋根は巨大な石造りの円柱によって支えられていた。屋根の上にはエルフの男性象と女性像が3体ずつあった。その豪華さや重厚さにおいては、他を圧倒する建物だった。

 「あれは、王立歌劇場です。ナギ王国の文化の中心地と言っても過言ではありません。雪乙女様に奉納する歌劇奉納の儀の会場となったり、国民の文化的行事にも使われたりしています」 

リリーが指さして言った。

 その他にもドーム状の建築物や神殿風の建築物がいくつもあった。ダイチは、まるでローマ時代か、あるいは神話の中に迷い込んだかのような感覚だった。

 ダイチは、豊かな精神性を感じる文化に感銘を受けていた。エルフの王都は、美麗であり、厳かであり、そこで暮らす人々は活気に満ちていた。

 正面には2つ目の城壁に囲まれた石造りの白亜の城、滝、大樹が見えてきた。

 リリーは2つ目の城門の前で下馬すると、門の衛兵に話しかけてから、ダイチと護衛の兵士20人を従えて庭へと歩みを進めた。

 庭には、緑の芝に真っ直ぐに延びた石畳、いくつもの男神や女神の石像があり、城の後ろには一際高い大樹と滝が見えた。

 

 王宮グレートフォレスト謁見の間。

 謁見の間には、大理石の柱が等間隔で並んでいて、床には白地に金の模様のある絨毯が敷き詰められ、高い天井には大きな黒い喪旗が下げられていた。正面の高い玉座の後ろには、白い雪の結晶の上で翼を広げる銀の雷鳥の意匠のある青い大旗が掲げてあった。

 玉座の階下には、両側に多くの重臣と白い鎧の衛兵たちが並び立っていた。重臣たちは、首元までダブルボタンがあり、肩には金色の肩章が垂れ、首が隠れる長い襟のある白い上着と白いズボンはいていた。白服には金色の縁取りがあって体が動くたびに光った。全てのエルフが左腕に黒い喪章を付けていた。

玉座は、アベイス・フォレスト国王とグレイス・フォレスト王妃が、新しく発見された鉱脈の視察中に落盤事故で命を落として以来、3ヶ月間空席のままになっていた。

 玉座に向かって、左に王位継承権1位のアルベルト・フォレスト王子と、その左には王位継承権3位のルーナ・フォレスト王女。

 玉座の右には王位継承権2位のドリゥーン・グリーンフォレスト王子とその右にローズ・グリーンフォレスト第2王妃が座っていた。

 玉座の左に座る王位継承権1位のアルベルト・フォレストは、外見をホモ・サピエンス年齢に例えると11歳前後と幼かった。ハイエルフで、金色の髪と緑の瞳の美形ではあるが、あどけない表情が黒い上下の喪服を不釣り合いなものに感じさせていた。

 王位継承権3位のルーナ・フォレスト王女は、ホモ・サピエンス年齢18歳のハイエルフで、ストレートの長い金色の髪をもち、右の瞳が緑、左の瞳が青と、左右の瞳の色の異なるヘテロクロミアであった。白のドレスの左腕に黒い喪章、口元を隠す黒い喪布を付けていた。実弟である王位継承権1位のアルベルト・フォレストが王位に着くことを深く望んでいた。

 玉座の右の王位継承権2位のドリゥーン・グリーンフォレスト王子は、ホモ・サピエンス年齢20歳であり、長身、銀の短髪に緑の瞳、きつそうな目元が美しさと精悍さを際立たせるハイエルフだった。銀の飾りのある緑色の上下服を着て、左腕に喪章を付けていた。ナギ王国では、王妃は王のフォレスト姓を名乗り、第2王妃はグリーンフォレスト姓を名乗ることとなっていたため、第2王妃の実子であるドリゥーンは、グリーンフォレスト姓となっていた。

 第2王妃ローズ・グリーンフォレストは、ホモ・サピエンス年齢25歳で、長い銀色の髪をカールし、瞳が緑、左腕に黒い喪章、口元を隠す黒い喪布を付けていた。ハイエルフのため、外見がホモ・サピエンス年齢25歳と若いが、ドリゥーン王子の実母であった。ドリゥーン王子を王位に着かせることを望み、最近ではその願いを隠さない言動も度々あった。

 ナギ王国では、国王と王妃の急死によって、王位継承をめぐる争いが発生していた。


 ハイエルフとエルフの間に生まれた子供は、極稀に左右の瞳が緑と青のヘテロクロミアになることがある。そのため、王位継承権3位のルーナ王女は、グレイス王妃がエルフとの密会の末にできた子供ではないかと、王宮内で噂話になっていた。アベイス国王は、これを否定し、グレイス王妃とルーナ王女を愛し続けた。国王と王妃を亡くした今は、ことの真相は闇の中となった。

 疑惑のグレイス王妃の姉弟よりも、王位継承権2位のドリゥーン王子に王位継承させるべきと画策する第2王妃を支持する勢力が台頭してきていた。

 

 「アルベルト王子に申し上げます。賊に盗まれた宝珠はここに取り戻してまいりました」

 畏まったリリーの口上に、王位継承権1位のアルベルト王子は頷く。

 「宝珠は無事なのだな」

と、王位継承権2位のドリゥーン王子が問い質す。

 「ご確認いただければ幸いです」

リリーが答えると、 

 「余に確認せよとは何事だ。真偽を確認の上で報告しろ。もし、その宝珠が偽物であったり、破損していたりすれば、其方を含め多くの者の首が飛ぶぞ」

と、ドリゥーン王子がまくし立てる。

 「宝珠奪還では、多くの兵士も命を落としたと聞いておる。リリー、其方に怪我はないのか」

王位継承権3位のルーナ王女がドリゥーン王子の言葉を遮ると、

 「ルーナ王女、私ごときの身を案じてくださるとは至上の喜びです。先ずは宝珠のご確認をお願いします」

 リリーが平伏し、恭しく宝珠の入った箱を掲げた。

 内務大臣エルバン・フォン・ラングエッジ侯爵が進み出て、リリーの差し出した箱を受け取ると、王子等に一礼し、

 「失礼致します」

そう言うと、箱を開き宝珠を確認した。

 内務大臣のラングエッジ侯爵は、王位継承権1位のアルベルト王子の戴冠を強く支持している1人である。 

 ラングエッジ侯爵が目配せをすると白手袋をした宮廷彫金師ワイルゼン・パールが歩み寄り、箱を恭しく持って紫色の布のかかった台の上に置いた。箱からまるで赤子のように大事に宝珠を持ち上げるとルーペで宝珠を確認し始めた。謁見の間にいる一同が宮廷彫金師ワイルゼンに注目している。

 ワイルゼンが宝珠を箱に戻すと、無言で頷いた。ラングエッジ侯爵は、箱を両手で持ち上げると、そのまま王位継承権1位のアルベルト王子の前に跪いた。そして箱を開けると恭しく掲げた、

 「ナギ王国、王の三聖器の一つ、宝珠に間違いございません。破損もございません」

と、ラングエッジ侯爵が言上した。

 おおぉ、という喜びとも安堵とも思える声が階下の重臣一同から上がった。

 王位継承権1位のアルベルト王子は頷き、ラングエッジ侯爵に労いの言葉を掛けた。

 「大儀で」

突然、横から王位継承権2位のドリゥーン王子が、

 「大儀であった」

と、ラングエッジ侯爵を労った。

 これにはラングエッジ侯爵だけでなく、居並ぶ重臣たちも驚いてドリゥーン王子を見た。ドリゥーン王子の叔父にあたる軍務大臣アレックス・フォン・フォール侯爵は笑みを浮かべた。

 ルーナ王女は、

 「ドリューン王子、次期王のアルベルト王子の言葉を遮るとは、不敬にあたります」

すると、ローズ第2王妃が、

 「功ある臣下への労いは王家の努め、国王陛下なき今は正当な血筋の王子がこれに代わり労うことに、何か問題があるとおっしゃいますか」

 「ローズ・グリーンフォレスト第2王妃、アルベルト王子と私を愚弄するおつもりですか」

 「さて、なんのことやら。ドリゥーン王子、宝珠は無事もりました。長居は無用です。さあ行きましょう」

そう言うと、ドリゥーン王子は、

 「宝珠の警備責任者の裁きは後でいたす。皆の者、大儀であった」

そう言い渡すと、ローズ第2王妃と共に王の間から退出して行った。続いて、軍務大臣フォール侯爵と外務大臣ルーレンス・フォン・コージス侯爵も退出して行った。

 ルーナ王女は、ドリューン王子とローズ第2王妃を苦々しい表情で見送っていた。

ルーナ王女は、顔を階下に戻すとリリーに尋ねた。

 「そちらの方は」

 「宝珠奪還にご助力をいただいたダイチ・ノミチ様です」

 「リリーと兵士たちがお世話になったようです。次期王に代わり礼を申し上げます。しばらくの間、このロドにご滞在くだだい」

 ルーナ王女は、内務大臣ラングエッジ侯爵に、

 「ダイチ殿をお願いします。これから、私は宝珠奪還で命を落とした英霊に祈りを捧げてまいります」

ルーナ王女は、アルベルト王子へ目配せをした。

 「皆の者、大儀であった」

アルベルト王子の労いの言葉は、もはや力を失い謁見の間に虚しく響いた。

階下で頭を下げ胸に手を当てている重臣たちを一目見て、アルベルト王子とルーナ王女は、謁見の間から退出して行った。

 謁見の間に残された重臣たちは、あるものは憤り、あるものはため息をつき、あるものは空席のままの玉座を眺め、それぞれ無言のまま退席していった。

 

 内務大臣ラングエッジ侯爵から指示を受けたリリーは、迎賓第2別館レークの客間にダイチを通した。この別館は王子が住む城から南に1キロ程離れた湖の畔にあった。建物の周りには、よく手入れのされたサッカー場ほどの庭があり、噴水や花壇、林があった。建物は大理石造りの2階建てで、円柱の柱がその荘厳さを際立たせていた。屋内は寝室と客間を合わせて22部屋からなり、大きな窓には長いカーテンがかかり、絨毯の敷き詰められた部屋の調度品は豪華なものばかりであった。

 ダイチは宝珠奪還の功により、非公式ではあるが準国賓としての待遇を受け、この迎賓第2別館レークに居住することになった。警備の兵士10人と料理人2人、侍女6人付きとラングエッジ侯爵の侍従から伝えられた。ダイチはこれを固辞したが、警備の兵士と侍女等を付けないということは、王女の命に背くことになると丁寧な言い回しではねつけられた。

 リリーの口添えもあって、ようやく侍女2人のみということで納得させた。ダイチが侍女を2人にしたのは、侍女1人の住み込みでは侍女に対してあらぬ噂が立っても失礼だと考えてのことだった。

また、住居に他人が入ってくると、神龍カミューのことがばれて騒ぎになることを懸念し、リリーに信頼の置ける侍女2名の人選をしてもらった。この2人の侍女にはクローやカミューのことを打ち明け、その秘密を守ってもらうことにした。 


 「先ほどはお見苦しいところをお見せしました」

迎賓第2別館レークの客間でリリーが頭を下げると、

 「ナギ王国内のことは、俺には関わりがないことですのでお気にせずに。それよりリリーさんの心中をお察しします」

ダイチが返答した。

 ダイチとリリーの2人だけなので、クローはテーブルの上に置き、カミューは部屋の絨毯の上で自由に寝そべっていた。

 「私は、幼いアルベルト王子の戴冠のために、お力を尽くされているルーナ王女のことがお労しくてなりません。アルベルト王子は、幼いないながらも聡明なお方だと存じ上げております。ルーナ王女のお支えがあればナギの民のために善政を敷く、賢王となられると信じています。ですが、アベイス国王陛下とグレイス王妃の亡くなられた今は、ルーナ王女お1人で全てをお抱えになっておられます」

 「リリーさん、あなたはルーナ王女にお仕えているとおっしゃいましたが、ルーナ王女を深く尊敬なさっているのですね」

 「・・・はい。私に生きることの意義を教えてくださった方です」

 「なるほど、それは人生最大の恩人かもしれませんね。私もローデン王国の鍛冶屋の親方や仲間から、この過酷な世界で逞しく生きていくこととはどういうことなのかを学びました。気付かされたというべきかもしれませんが、今は人生の道標となっています」

 「ダイチ様もそんな経験をなさっていたのですね」

 「お互い、出会いに恵まれましたね」

リリーは、コクリと頷いた。

 「リリーさん、あなたはルーナ王女の護衛なのですか」

 「はい。正確には護衛と侍女を兼ねています」

 「槍も馬術もかなりの腕前でしたね」

 「ルーナ王女をお守りしたい一心で励みました」

リリーは、ダイチを真っ直ぐに見て答えた。

 「ダイチ様は、他にご希望はありますか」

 「ご配慮ありがとうございます・・・神獣雪乙女についての情報を知りたいことと、彫金について勉強したいと思っていますので、どこかで見学でもさせていただければ」

 「神獣雪乙女様の情報と彫金ですね。分かりました。神獣雪乙女様のことは、ルーナ王女にもお伝え致します。それから、このナギ王国の彫金技術と音楽は大陸最高峰です。是非ご見学ください」

 「ありがとうございます。音楽も素晴らしいのですね」

 「はい、それはもう。7日後には、神獣雪乙女様に国家泰平と民への慈愛を願い、その祈りを歌劇として奉納します。王族方や貴族の方々も参加する国家行事ですので、ダイチ様もご鑑賞されるとよいでしょう」

 「歌劇の奉納ですか。お招きいただければ喜んで出席致します」

 「では、私はルーナ王女の元に戻ります」

 ダイチは玄関でリリーを見送った。

 

 『ダイチ、この国へは、雪乙女を召喚神獣とするために来たのだ。王位継承権争いに巻き込まれると厄介なことになるぞ』

 「クロー、分かっているよ。でもな、リリーさんが王女のために、誠心誠意尽す姿には心が動かされる。あのような生き方は、俺の生き方とは異なるけれども、俺の目指す逞しく生きること、逞しく生きている姿の1つではないかと感じているがどうだろうか」

 カミューが、

 『主の考える逞しく生きている姿かどうかは分からんが、ルーナ王女を支えて生きていくという目標を持ち、それを達成しようとする信念は感じるな』

 『表現の稚拙なカミューにしては、分かり易い。私も同感だ。だが、リリーがルーナ王女に誠心誠意尽しているのは、民の幸せのためという双方の生きる目的が重なっているからだと私は考える。ルーナ王女を支えることは、目的達成のための手段としての目標だな』

 「クローの合理的な話は分かり易いが、目的が重なる、共有するだけではなく、やはり人には感情があるから、ルーナ王女への信愛などの感情が影響して、それが忠誠心を高め、誠心誠意尽せるのではないかと思うよ」

 『人の感情が影響するか・・・私の苦手な部分だな』


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