未来からの遺産編 第1章 エルフの国、ナギ王国への誘い
ANOTHER EARTH
― 魔力がわずか1の魔法使い ―
未来からの遺産編
| 花野井 京
未来からの遺産編
第1章 エルフの国、ナギ王国への誘い
「国境を越えさせるな」
リリー・バレイは、槍で右方向を指した。
リリー・バレイに続く騎馬9騎のうち4騎は右に開き、逃げる盗賊6騎の側面に回り込もうとしている。
リリー・バレイは、青い瞳、白く長い髪を後ろで束ね、赤に白い意匠のついた上下の布服に革ひものブーツを履いていた。外見はホモ・サピエンスに例えると20歳前後のエルフの女性であった。従う騎馬は白い兜と鎧を着込み、手に槍を携えた屈強の騎兵であった。
ここはエルフの国、ナギ王国南西部の草原で、ところどころに赤や白、黄色の夏の花が草原を彩っていた。ナギ王国は国土の多くは山と森に囲まれているが、この南西部は広大な草原となっていた。ここは日照も良好で、遠くにはナギ王国の名産である白い幹に緑の葉のついたオリーブ園が広がっていた。
盗賊は、西の国境を目指していた。この緑の草原を抜ければ深い森となり、隣国バーム皇国への国境へと続いている。
リリーの束ねた白い髪は、馬上で風になびき、髪の間から長く横に尖った耳が見え隠れする。馬上で右腿に挟んだ槍の鋭い穂が日の光で輝く。背後にはマイゼク山脈の冠雪した山々が連なっていた。
長い距離を駆けてきた馬は息が荒くなり、限界が近いことを示していた。
「あと3キロでバーム皇国への国境か。逃しはしない」
リリー・バレイはそう呟くと、馬上から右手を前に突き出し魔法を唱えた。
「水弾」
長さ30センチの楕円形の水の弾が高速で飛ぶ。逃げる馬上の盗賊の背中に命中した。
「うが」
男は苦しそうな声を上げると、そのまま落馬して地面を転がる。シャクナゲの白い花の上で倒れている男の脇をリリーと、それに続く騎兵5騎が駆け抜ける。
逃げる盗賊の先頭にいる男は全身が柿色の装束を纏い、顔は頭巾で隠していた。その男は背中に膨らんだ袋を背負っている。
盗賊の逃げる先には黒い森が見える。
「森に逃げられたら、面倒になる」
リリーは、そう呟くと馬を加速させた。
盗賊5騎よりも追う騎馬の足が速く、距離が詰まっていく。盗賊の1人が先頭で疾走するリリーめがけて手斧を投げる。
「水流壁」
リリーの前方に円盤の盾が現れた。円盤の盾は水が渦を巻くように高速で回転していた。手斧は水の円盤の渦に弾かれ宙に舞った。
「水弾」
リリーが放った水弾が命中し盗賊は落馬する。リリーは落馬した男には眼もくれず、前を駆ける盗賊4騎を睨んだまま駆ける。騎馬5騎の蹄の音もこれに続く。
リリーは前を逃げる盗賊に追いついた。最後尾を駆ける盗賊めがけてリリーは馬上から槍で突く。
「ぐあ」
と、声を上げた盗賊はそのまま肩から地面に衝突した。
最後尾となった盗賊2人は、馬上から振り返ると、互いに目配せをし、リリーを挟み込むような位置取りをしてきた。2人の盗賊は両側からリリーめがけて剣を振った。リリーは馬上で体を横にして右からの剣をかわし、左からの剣を槍で受流すとそのまま脇腹を突いた。引き抜く槍の柄先で右の盗賊の胸を突いた。2人の盗賊は悲鳴を上げながら落馬していく。
前には柿色装束を纏った男の1騎のみとなったが、森はもう目と鼻の先に迫っていた。
「水弾」
リリーは、柿色装束の男が乗る馬の尻に水弾を撃った。
ブヒヒヒッ
と、馬はいななき、そのまま倒れ地面を滑る。柿色装束の男は、地面を滑る馬から跳ね、宙で体を捻るように回転させながら着地した。
リリーは馬上から柿色装束の男めがけて槍を突く。男は身をひるがえしてこれをかわす。槍を2度、3度と突くが、男は全てかわす。
「盗んだ物を返せば、命だけは助けてやる」
リリーがそう叫ぶと、柿色装飾の男は背中の袋を右手で掴み、頭巾の中で微かに笑ったような息を吐いた。そして、男は袋を高く放り投げた。
「あ、何をする」
リリーと追手の騎兵の視線が、放物線を描きながら宙を飛ぶ袋に注がれる。
宙を舞っていた袋は、突然現れた黒装束の男の手の中に落ちた。
「お、お前はどこから」
リリーが黒装束の男を問い質した瞬間、黒装束の男は、右手を前に出して拳を開いた。
「氷矢」
黒装束の男の掌から6本の青白い矢が射出した。
リリーは馬上で身を捻りながらこれをかわすが、そのまま落馬した。リリーは跳ね起き、後ろにいた騎兵5人を見ると、氷矢に胸を貫かれて地面に転がっていた。
「氷魔法か」
リリーは、黒装束の男に向かい叫んだ。
迂回していた騎兵4人が黒装束の男に駆け寄り、男を取り囲み馬上から一斉に槍で突く。黒装束の男は、槍を右に左にかわし、跳躍した。宙を舞い蜻蛉を切りながら、右手を前に出して拳を開いた。
「凍結」
ピキッ、ピキッ
黒装束を囲んでいた騎兵2人が馬上から滑り落ちるように落馬した。落馬した兵は、兜も鎧にも真っ白な霜が付き凍結していた。
リリーが、黒装束の男をめがけて水魔法を唱えようとした瞬間、背後から柿色装束の男が切りかかって来た。
ガキン、キン
リリーは背後から迫る剣を槍で防いだ。背後にいた柿色装束の男は、2本の剣を逆手に持っていた。剣というより長さが50センチほどの片刃の小刀であった。
「その刀と構え、忍びか」
「死に逝く者が詮索する必要はない」
リリーと柿色装束の男が槍と小刀を交えていると、
「凍結」
ピキッ、ピキッ
黒装束の男が唱えた氷魔法で、残った騎兵2人が凍結した。
リリーは凍結した兵士2人と黒装束の男を横目で見た。黒装束の男は、リリーに向かって右手を前に出して拳を開いた。
「凍結」
「水流壁」
ピキッ
という音と共に、リリーの前方に現れた水円盤の盾が凍結した。
黒装束の男は、左手に袋を持ったまま、右手で刀を抜いた。長さは60センチほどの曲刀だった。黒装束と柿色装束の男は、リリーを左右に挟むようにじわじわと移動する。
リリーは槍を構えて、左右の2人を交互に睨む。
柿色装束の男は、腰に下げた小袋からクナイ(金属製で15センチの刃と持ち手があり、持ち手の先には輪のついた投擲武器)を掴むと、その手をリリーに向けてゆっくりと突き出した。
チリン
と、音がした。
クナイの輪には10センチ程の糸が垂れ下がり、その先で鈴が揺れていた。柿色装束の男が低く静かな声で、
「汝は我が術中に在り。汝の体・・」
その時、突風が巻き起こる。3人は身を屈めたが、立っているのもやっとであった。
『人間どもよ。武器を納めよ』
突然の声に虚を突かれた3人は、視線を上空へと移す。
そこには、頭と背、4本の手足の付け根に金色の毛をもった白龍が、体をくねらせながら青い空に浮いていた。
『我は破魔神獣、神龍のカミュー。我が主の裁きを待て』
「な、なんなの、神龍・・・」
リリーは、身動きが出来なかった。
「・・・・」
黒装束と柿色装束の2人も、宙に舞う神龍を見つめていた。
「そこの3人、ちょっと待てー」
3人の目には、森から走り出て来る1人の男が映った。
黒装束の男は、曲刀を鞘に納めると、神龍に向かって右手を前に出して拳を開いた。
「凍結」
神龍の体の一部が白い霜に包まれたが、神龍はピクリともせず宙に浮いたままだった。柿色装束の男は、腰に下げた小袋から別のクナイを取り出すや、神龍めがけて投げた。クナイは神龍の体に弾かれたが、爆発して炎と黒煙があがった。クナイの輪に火薬が結ばれてあったのだ。
『神龍に刃向かうとは不届き者め』
黒装束と柿色装束の2人の足元から竜巻が巻き上がる。
2人は咄嗟に飛び跳ねて避けよとするが、空中で巻き込まれていく。2人は錐揉みになって上空へ舞い上がる。リリーは、草原の草が巻き上がる激しい気流の中で、呆然と2つの竜巻を眺めていた。
竜巻が収まると2人が地面へと落ちて来た。黒装束の男が持っていた袋は、宙に浮くカミューが掴み取っていた。
リリーは、氷魔法で倒された兵士の元へ走り、一人ひとりの容態を確認し始めた。
「カミュー、や、やり過ぎだぞ。ハァ、ハァ、まさか、死んではいないよな」
駆け寄って来たダイチが、息を切らしながら叫んだ。
『主、此奴等が先に手を出してきたのだぞ。我にはかすり傷も与えられん貧弱な攻撃だったがな。それに死なない程度に手加減はしておいた』
「戦闘を止めさせろと言っただけだぞ。手を出すなとも言っておいたはずだ」
『しかしだな、神龍に対する非礼にはそれなりの罰を与えねば』
「カミュー、もう人を傷つけるなよ」
『・・・承知した』
「2人は大丈夫か」
ダイチは仰向けに倒れている黒装束の男に駆け寄り、呼吸を確認した。
「息はしているな」
次に、ダイチは10メートル程離れた場所でうつ伏せに倒れている柿色装束の男の元へ歩み寄った。体を仰向けにすると、顔を隠す頭巾が外れていた。
黒い瞳に黒い髪、17、18歳位いのホモ・サピエンス。
「あ、女性だ」
ダイチは、柿色装束から覗く顔を見て思わず声が漏れた。
『ダイチ、黒装束の男が危ない』
ダイチの肩掛け鞄に入っていた黒の神書のクローから思念会話が聞こえた。ダイチは振り向き。倒れたままの黒装束の男を見ると、その男の脇に槍を構えたリリーが立っていた。
「カミュー、止めろ」
カミューは、尻尾で槍を持つリリーの腕を叩いた。リリーの槍は飛ばされた。
「何をするの。この男は国の宝を奪うだけでなく、勇敢な兵士を何人も殺したのよ」
リリーは声を荒げた。
「俺たちは争いを止めたかっただけです。これ以上の殺生はしないでほしい」
「この2人は、国賊です。死んで当然なのです。それに、生け捕りにして調べることにしても、私に2人は連れて帰れない。だから黒装束を殺すしかない」
「その袋の中に国の宝があるのですか。まずは確認しましょう。この2人のことはその後で話し合いましょう。カミュー、袋を」
ダイチは、カミューから袋を受けよると、リリーに手渡した。
リリーは袋から箱を取り出した。箱を開けるとソフトボール大の金色に輝く球体があった。それには細かな彫刻が施されていて、赤や青、緑、無色透明、黄などの宝石が埋め込まれていた。球体の上部にはY字型をした突起がついていた。リリーはこれを慎重に持ち上げると、外観や装飾の宝石を無言のまま見つめていた。
ダイチもこの宝に施してある彫金技術の結晶ともいえる繊細で美しい装飾に目を奪われていた。
カミューが思念会話で、
『主、これは宝珠だ。しかし、この宝珠には、何か・・・何かを感じる』
『カミューも感じたか。何か違和感がある』
と、クローも言った。
「危険なものなのか」
『危険は感じぬ』
カミューが答えた。
リリーは、宝珠を箱に納めると、
「我が国の宝珠に間違いありません。破損もない。王子と王女に代わり礼を述べます」
リリーが、ダイチに一礼をした。
ダイチは、エルフと出会ったのは始めてだった。青い瞳に白く長い髪、横に尖った耳を持ったあまりにも美しい容姿に胸がキュッとした。
『伏せろ』
クローが思念会話で叫んだ。
ダイチは、リリーに飛びつき覆いかぶさった。
ドゴーン
激しい爆発音が響く。辺り一面に黒煙が上がっている。
「・・・怪我はないですか」
と、ダイチは体の下に倒れているリリーに声をかけた。リリーは、自身の青い瞳とダイチの黒い瞳が互いに見つめ合う距離での問いかけに、思わず目をそらせ、
「・・・ええ」
と答えると、上半身を起こし、宝珠に損傷がないことを確認し始めた。
『我が神龍の加護で結界を張った。その程度の爆発などで被害が出ることはない』
ダイチは、腰に帯びていたオリハルコン製の刀、白菊を抜いて辺りを見回した。
「カミュー、助かったよ。何が爆発したのだ」
『黒装束の男が、持っていた火薬を爆発させた』
と、カミューが答えた。
ダイチの周りには、まだ黒煙が立ち込め、黒い布があちこちに散っていた。
「自爆したのか」
『爆破しただけで、自爆ではない』
「でも、黒装束の男は粉々になっているよ。あちらこちらに黒い布が散乱している」
『ダイチ、黒装束を着せた木の幹を爆破したのだ。変わり身の術と微塵の術の複合だ。奴は生きている』
と、クローが答えた。そして、
『今度は柿色装束の女が爆破する』
ダイチは柿色衣装の女を見た。
ゾーブ
「エクスティンクション」
魔力がわずか1の魔法使いであるダイチは召喚術士である。
召喚無属性魔法エクスティンクションは、目標の1点に反発エネルギーであり、負の圧力を持つダークエネルギーを召喚する。
柿色装束の女が施した擬態の1点から透き通った球が膨張した。それは瞬きよりも短い一瞬の出来事だった。球形が目に見えた訳ではない。ダイチの想定した効果範囲であるゾーブ(人が中に入って遊ぶ球)大の直径3メートルの透き通った球が存在を示すかのように、球形の輪郭内で背景が歪んだ。その刹那、球形の輪郭が1点に収縮し消滅した。後にはゾーブ大の半球面に抉り取られた地面があった。
ダイチは心の中で、エクスティンクションの再使用可能となるリキャスト9秒を心でカウントし始める。
エクスティンクションは、その魔法を唱えた術士の最大値の全魔力を消費する。全魔力が回復するまで再使用が不可能となる。最大値の魔力が1しかないダイチは、魔力1の回復に9秒を要する。
9
ダイチにとって9秒は果てしなく長く、それは時が止まり、永遠に続く時のような感覚になっている。
8
「クロー、まだ攻撃してきそうか」
7
『いや、柿色装束の女は逃げた』
6
5
「黒装束は微塵の術と変わり身の術の複合とだ聞いたので、エクスティンクションを撃ったが、柿色装束も同じように生き延びているよな」
4
『ああ、同じだ』
3
「死んでいないのなら、それでいい」
2
1
0
ダイチは、リキャストの9秒が経過したので、警戒を解いて白菊を鞘に納めた。
「それで2人はどこにいる」
『もう、森へ逃げ込んだ。追っても無駄だ。森の中であの2人を捕まえることは不可能だ』
『主、神龍の息吹で奴らを森ごと吹き飛ばすことはできるが』
「馬鹿を言うな。人も森も無暗に傷つけるな」
ダイチはキッと睨んで言った。
『カミューの短慮は、魔族の殺戮本能と変わらんな』
『クローよ、魔族と変わらんとはなんだ。主に今後の憂いをなくす選択肢を提示しただけだ』
『よく考えて見ろよ。その結果は、魔族の行為と同じになるだろう』
『同じとは何だ。人間や森の命を軽く考えているわけではない。主が判断すればよいだけだろう』
『だから、カミューはいつも表現が稚拙だんだ』
『表現が稚拙だと』
「2人とも止めろ。カミューが神龍の息吹を撃った訳ではないだろう。そのあたりの線引きは出来ているんだよ。クローもそれが分かっていて絡むなよ」
『・・・むう、主がそう言うなら、今回はクローを許してやる』
『言葉と真意は異なることもあるということか。・・・私はそれを読み取ることが苦手だ』
「ところで、微塵の術と変わり身の術って忍術だよな。この国には忍術もあるのか」
「ま、まさかとは思うのですが、白狐衆の生き残りかもしれません。白狐衆は富岳の里で暮らす忍者集団で忍術を使うことができました。でも、300年以上前にナギ国王軍に滅ぼされたと聞きました」
リリーは憂いを宿した目で呟いた。
「申し遅れましたが、私の名は、リリー・バレイ。ナギ王国の王女ルーナ・フォレスト様にお仕えしております」
「俺はダイチ・ノミチです。ローデン王国から来ました。そこの龍は神龍のカミュー。この本は黒の神書のクローです。どちらも俺の召喚神獣です」
「あ、あのカミュー様ですか・・・召喚神獣? 神獣様のことですか」
『我は神龍カミュー。この主に仕えておる』
カミューが名のると、クローがカタカタと動いた。カミューは音声会話と思念会話の双方で話をすることができるが、クローは思念会話しかできない。そのため、クローとダイチ、カミューのこれまでの会話は、リリーには聞こえていない。
「この本も神獣様でいらっしゃるのですね。神獣様と言えば、この国にも古くから信仰を集める慈愛神獣雪乙女様がいらっしゃいます」
「はい、その神獣雪乙女様にお会いしたく参りました」
「お会いしたい? ナギ王国の人々は深い信仰心を持っていますが、亡き国王陛下以外は、誰もそのお姿を拝見した方はいらっしゃいません」
「訳があって、どうしてもお会いする必要があるのです」
「そうですか。私は王子と王女に宝珠奪還の報告をしなければなりません。ご助力いただいたダイチ様のこともご紹介したいと思いますので、ナギ王国王都ロドまでご一緒いただけませんか。ダイチ様のお力になれるやもしれません」
リリーは、ダイチに微笑みながら王都ロドまで誘った。
「はい、神獣雪乙女様についてもっとお尋ねしたいこともありますので、喜んで参ります。1つお願いが、私の召喚神獣についてはご内密にお願いします」
ダイチはアイテムケンテイナーからアダマン製の黒の双槍十文字を取り出した。カミューは30センチ程に縮むと黒の双槍十文字の柄に巻き付いて、この槍の装飾に擬態した。
リリーは目を大きく開いたまま首を縦に振っていた。
『ダイチ、話がある。私の・・・』
クローがダイチに思念会話で話しかけたその時、白い鎧の騎馬30騎が埃を巻き上げながら迫って来た。
「リリー殿、宝珠は無事ですか」
先頭を駆ける騎士が叫んだ。
「追手の第2陣の騎馬隊が到着したようです」
リリーは、騎馬隊に手を振った。
「クロー、話は後で」
と言うと、ダイチは急いで黒の双槍十文字と腰に帯びていた白菊をアイテムケンテイナーへしまった。
「宝珠は無事です。しかし、勇敢な兵士が命を落としました・・・まずは、英霊に祈りを捧げましょう」
リリーが青い瞳で悲し気にそう言った。
リリーと、馬から降り兜をはずした兵士たちが、亡くなった兵士に祈りを捧げた。
「私はアルベルト王子とルーナ王女に宝珠をお返しに上がり、今回の詳細をご報告します。兵の皆さんは、亡くなった勇敢なる兵士を家族の元へお悔やみの言葉と共に丁重にお返しください」
「はっ、敬意をもってご家族の元へ。リリー殿は、この馬を使って王都ロドまで至急お戻りください。護衛20名も同行させます」
「ありがとうございます。こちらのダイチ様は宝珠奪還の恩人です。この方も一緒に王都ロドへ向かいます。馬の準備をお願いします」
ジパニア大陸のほぼ中央に位置するエルフの国、ナギ王国。東にはジパニア大陸の中央から南にかけて大陸最長のマイゼク山脈がある。ナギ王国の西から北にかけては大国バーム皇国がある。ナギ王国とバーム皇国とは、800年前の人魔大戦後に、ある事件がきっかけで交戦状態に陥ったが、750年前に休戦協定が調印され、その後は両国の間に紛争はない。現在に至っては、ナギ王国とバーム皇国の友好条約締結の動きも出てきている。南はオーク蛮国領となる。
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800年前の人魔大戦で、召喚術士と6つの召喚神獣が封印した魔王ゼクザールは、その封印から解き放たれた。そして、魔王ゼクザールは何処かの地に潜み、完全回復を図っている。この危機的状況を前神龍の記憶を受け継いだカミューから告げられたダイチは、召喚術士として魔王ゼクザールの討伐を決意する。ダイチは、まず大陸各地に住む6つの神獣を召喚神獣とすべくローデン王国から旅に出た。最初の目的地は、ナギ王国だった。
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ダイチとクロー、カミューは、ローデン王国からナギ王国を目指して北上し、バーム皇国南東の都市タンザで食料などを補給した。そこから東のナギ王国へ入国したところで、今回の一件に遭遇し、リリーと出会ったのだ。




