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第15章 眩いばかりに輝く白石

 第15章 眩いばかりに輝く白石

 

 7月1日の朝。

 ドリアドの街は7月7日のお干支祭の準備に追われている。石畳の通りでは、家々から対面の家へロープが張られ、そこに赤や緑、白、黄、橙などのカラフルな三角形の旗が無数に並んでいた。赤は太陽、緑は大地、白はカミュー様、黄はローデン王国、橙は麦の実りを象徴している。

 各家の入口に脇には、赤緑黄橙の四色の横縞、中央に白い丸が描かれた旗を立てていた。ドアの上には麦わらで編んだ玉の上から、麦の穂を五つ垂らした飾りを付けていた。

 街の中央にある公園には、お干支祭のステージを設置している大工職人の姿がある。中央の噴水には、右手に白い石を持った神々しい男神のモニュメントの設置作業が進められていた。

 商店街では、屋台の区割り作業をしていた。

 街中が12年に1度のお干支祭への準備が進み、雰囲気を盛り上げていた。


 ミリアはご機嫌だった。鼻歌まじりでお干支祭の飾りつけをしている。

 ご機嫌の理由は、メルファーレン辺境伯が買い求めたバイカルの造ったミスリルの剣とダイチの造ったアダマン製の黒の双槍一文字が、店始まって以来の高値になったからだ。アダマン鉱石は持ち込みのためその分値は低くなるが、メルファーレン辺境伯の支払金は契約の2倍もあった。更に、カリスローズ侯爵から剣100本の代金も届いていた。

 残業も続いたこともあり、特別ボーナスとして金貨をムパオに70枚、バルに60枚、ナナイに40枚、モルモに25枚、功労者のガリムに300枚、キロとクリそれぞれに300枚と大盤振る舞いをしていた。


 バイカルに呼ばれて、ダイチは店の奥の部屋に入るとそこにミリアも居た。テーブルを挟んで座ると、ミリアが笑顔でダイチを見つめた。

 ダイチが改まってバイカルに話しかけた。

 「最初に俺から話があるのですがいいですか」

 「構わん」

 「黒の双槍十文字をこの店に寄付しますので、店の収益にしてもらえませんか」

 「馬鹿者!俺を殺す気かー。メルファーレン辺境伯様からダイチが賜った逸品を、店で売ってみろ、俺の首が飛ぶ」

ダイチは、バイカル親方の首が飛ぶイメージが鮮明に、しかもスローモーションで浮かんだ。

 「それに、ダイチは双槍十文字が扱えるように精進いたしますって言っていたよな。お前の首も飛ぶぞ」

自分の首がスローモーションで飛んだ。

 「精進します」

ダイチが答えると、バイカルが間をおいて、

 「ゴホン、今回はご苦労であった。職人は腕に応じた報酬を得る。これが今回のダイチの報酬だ」

ミリアは黙って俺の前に袋を2つ置いた。2つの袋を開けると、大判金貨が入っていた。大判金貨1枚は金貨10枚の価値で取引されている。

 「バイカル親方、これはいくらなんでも多すぎます。皆さんの協力があってのことですし」

 「大判金貨100枚ある。職人はその技が命だ。ここの親方として心がけていることの1つ目が、職人の技量と成果を評価し、それに見合う報酬を支払うことだ。ダイチの造った黒の双槍一文字と十文字は、魂の入った見事な逸品だった。親方として心がけていることの2つ目が、良き職人を育てることだ。ガリムのガリクスの製法、キロとクリがアダマンインゴット精錬の技術を修得することにも貢献した。これらの技術を持った職人は、今後もこの鍛冶屋の宝になる。感謝している」

 「それでも、この額は・・・・」

 ミリアが笑顔で、

 「ガリクスの製法には、お金の匂いがプンプンしています。それにアダマンインゴット製の槍を造ったことで、この鍛冶屋も話題になっています。宣伝効果は抜群ですわ。それに今後は、アダマン鉱石持ちの王族様や貴族様からの注文も期待でます。それも考えてのことです」

 「ありがとうございます。それでは俺の職人としての技術を評価していただいたと考えて、これをいただきます」

 ダイチは、頭を深々と下げてから、2つの袋を手に取った。ダイチは2つの袋が重いく感じた。今回の件での仲間たちの祝福の笑顔や心配してくれていた顔が交互に浮かんでいた。特別ボーナスの袋2つをアイテムケンテイナーにしまった。部屋から出ると店先の飾りを不思議そうに眺めていた。そこにミリアが部屋から出て来た。

 「綺麗に出来ているでしょう。外国からきたダイチさんには、不思議に見える? それはね7月7日のお干支祭の飾りなの。干支が龍の年に行う祭なの」

 「以前に屋台のおじさんから、12年に1度の祭だと聞きました。昔は龍の年に飢饉が発生したので、豊作を願う祭と聞いています」

 「遠い遠い昔の話みたいだけど、豊作の祈りを捧げたことが祭の始まりだと聞いたわ」

 「豊作の祈りとこの飾りにはどんな関係があるのですか」

 「5本の麦の穂はカミュー様の手の指を表し、麦で編んだ玉はカミュー様のお天道様。カミュー様がお天道様を持っているところを表しているのよ」

 「お天道様って、太陽を掴んでいるのですか」

 「どうですかね。前ガリムさんがジロジ伝説では、カミュー様は眩いばかりに輝く白い太陽を握りしめているって言っていたわ」

 「そういえばガリムさんは元山の民で、ジロシ山脈の伝説には詳しいと聞きました。炭焼き小屋での話では、カミュー様はジロジ山脈の洞窟に住んでいて、その近くでは黒曜石や龍神赤石が稀に取れるって聞きました」

 「ガリムさんが聞いたら怒るわよ。ガリムさんは元ではなく、今も山の民だと誇りを持っているから。それに童歌にも出て来るでしょう。お天道様や黒や赤」

 ミリアは歌い始めた。

 ♪

 実れよ実れ黄金の海よ

 実る黄金はカミューの涙

 そよぐ黄金はカミューの息吹

 鳥が飛ぶ飛ぶ東空

 虫が鳴く鳴く西の空

 干支の七七柱雲

 お天道様を手に持って

 天の川を泳ぐよ泳ぐ

 風の川を泳ぐよ泳ぐ

 実れよ実れ黄金の海よ

 見つけた見つけたあの子が見つけた

 カミューのお山は黒と赤

 滝とお池はカミューのお宿

 ♪

 「とても素敵な歌声ですね」

 「あら、いやだぁ」

ミリアは頬を染める。

 「黒や赤はきっと黒曜石と龍神赤石のことでしょうね。それから天道様を手に持って、とありましたね。眩いばかりに輝く太陽のことか・・・・あれ、あれ」

 俺の頭の中で話がつながり始めた。カミュー様の住むジロジ山脈へと続く川、その河原にあった黒曜石と龍神赤石、川の中で拾い上げた眩いばかりに輝く白石、川底に沈んだ10メートル程の頭蓋骨、歌詞の川を泳ぐよ泳ぐ、ジロジ伝説や童歌の歌詞と一致している。しかも、歌詞のお天道様を手に持って、とあるけどお天道様が眩いばかりに輝く白石だとしたら、今は俺のアイテムケンテイナーの中に入れたままだ。

 ダイチはううーん、と唸り声を上げた。

 それから、ダイチは鍛冶場にいるガリムのところへ走り出した。特別ボーナスを受け取りホクホク顔のガリムに声をかけた。

 「ガリムさん、大事なお話があります。これから親方も呼びますので、店の奥の部屋まで一緒にお願いします」

 「ん、何じゃダイチ、いきなり」

 「急いでいます。お願いします」

そう言うと、バイカルにも声をかけた。

 3人が部屋の中でテーブル越しに座ると、ダイチはアイテムケンテイナーから眩いばかりに輝く白石を取り出し、テーブルの上に置いた。その眩さに3人とも一瞬目が眩んだ。

 「なんだこの輝く石は」

 「こ、これはひょっとして、ジロジ伝説でカミュー様が持つお天道様ではないのかぁ」

ガリムは椅子から立ち上がって叫んだ。それから眩いばかりに輝く白石を手に取ってダイチを見つめた。

 「儂も山で色々な鉱石を見てきたが、自ら眩い光を放つ石は見たことがねえ。どう考えてもお天道様にぴったりじゃ」

 「俺も、もしやジロジ伝説の石かと思い、お2人にお見せしました。それからこの石はどうすればよいかと」

 「なぜ、ダイチがこの石を持っているのか説明してくれ」

バイカルは落ち着いた口調で言った。その言葉にガリムも落ち着き、椅子に腰かけた。

 「実は、バイカル親方とあの河原で出会う前に、川で魚を取ろうと潜っていたら、川底で発見しました」

 「なんじゃと、そんな大事なものが川底にあったのか」

 バイカルは驚くガリムを横目にしながら、

 「これは伝説にも童歌にもないことなので、どうすることがよいのか判断に迷う。しかし、お天道様を手に持ってと歌詞にあるように、この眩いばかりに輝く白石がお天道様だとしたら、お干支祭までにカミュー様の元へ届けなければならないだろう」

 「はい、私もそれが一番だと思いますが、もう1つ、実はこの石を拾った場所の川底にこの部屋2つ分の頭蓋骨と背骨などの一部がありました」

 「なんだと」

今度はバイカルとガリムもテーブルを叩き立ち上がった。そして2人とも言葉を飲み込んだ。バイカルが恐る恐る言葉にだした。

 「・・・・ま、まさか、その頭蓋骨は・・・・カミュー様のものなのか」

 「俺には分かりません。ただそこに巨大な骨があったことは事実です」

 「儂ゃ、カミュー様が骨になられたなんて信じないぞ」

ガリムは唇をキュと噛んで、右手の拳をブルブル震わせていた。

 「その頭蓋骨がカミュー様の物とは決まっていませんので、ジロジ山脈にあるカミュー様の住む洞窟に、この白石を持って行くことが一番良い選択だと考えています」

 「そうじゃ、まだカミュー様が骨になったとは限らん、いやあれは別の骨で、カミュー様は生きておられるはずじゃ。ならばカミュー様の住まわれるところにお返しに行くことが一番じゃろう」

 バイカルは2人の意見を黙って聞きき、

 「今日は7月1日だ。7日のお干支祭までに届けなければならん」

 2人は頷いた。

 「俺1人で行かせてください」

 「何を言っている。儂も行くぞい」

 「いや、ダイチの腕前は炭焼き小屋のオーク兵撃退で分かっている。俺たちが一緒に行っても足手まといになるだけだ。機動力が勝負だからな」

 「はい、俺はこれから2時間で水と食料、日用品、防寒着などを揃えてきます。親方にお願いがあります。馬を貸してください。それからガリムさん、俺は、カミュー様の住む洞窟へは、あの川を遡って行こうと思っていますが、山脈の中のどの山か見当があるなら教えてください」

 「ダイチ、馬は貸す。15日分の食料と水、日用品は、ミリアとモルモに用意させよう。防寒着などは用意してくれ」

そういうと、バイカルは立ち上がり地図を書棚から取り出した。テーブルの上にジロジ山脈の地図を広げた。

 ガリムが地図を指しながら、

 「ダイチがこの白い石を拾った川がこれじゃ。この川を上流へと辿っていくと、この地図にはないがもっと上流がある。これが山の民が聖なる山と呼ぶキリセクレ山だ。この山の中腹から童歌にも出てくる柱雲を見た者がいるそうじゃ。この地図のこのあたりじゃ。ここへ行くには炭焼き小屋からの南ルートは遠い。ハーミゼ高原に続く山道が早い。ハーミゼ高原手前に川があるのでそれを北へ行け。キリセクレ山はそこから見える槍の穂のように尖った高い山じゃ。キリセクレ山の麓にある森には濃い霧が立ち込めておる。そこに住む魔物はとても強い。龍神赤石は弱い魔物にはそれなりの効果はあるが、強い魔物に効果は期待できんぞ。魔物と出合ったら、迷わず逃げろ。駄目なら戦え。それから霧の森では、棘だらけの赤い草の茂があるそうじゃ。その茂の中央には大樹があり、その大樹のうろ(穴)は魔物から守ってくれるそうじゃ。覚えておけ」

 「ダイチ、ハーミゼ高原への山道には砦や監視所があるが、メルファーレン辺境伯様が黒の双槍十文字は領地不問の証にしてくださっているので問題ない。そのルートが俺もよいと思う。さすがに俺の馬ではハーミゼ高原への山道は登れないので、麓で離してくれ。自分で戻るので心配ない」

 バイカルは1時間後に出発だと、告げてミリアとモルモに指示をしていた。

 俺は、眩いばかりに輝く白石と黒の双槍十文字、地図をアイテムケンテイナーにしまうと、近くの衣料品店に駆け込み、厚めの下着や上着を予備も含めて数着ずつ、皮の手袋、雨除けの皮のフード付きコート、防寒用のハーフマントなどを購入した。魔物に注意しながら森の中を歩くので、厚めの襟のある緑色の上着にダークグレーでポケットの付いた皮ベスト、黒いズボンという姿に着替えた。また、ロープを100メートルと500メートル巻きの麻紐によく似た細い紐も買いアイテムケンテイナーに入れた。

 鍛冶屋に戻ると、ミリアさんが水や食料、ランプ、その他の必需品、何かの役に立てばと貴重なポーション5本、毒消薬3本を革製の肩掛け鞄に入れて渡してくれた。それをアイテムケンテイナーに入れた。

 バイカル親方が護身用にと逸品のソードとベルトを俺に手渡してくれた。ガリムさんが馬を引いて来てくれたので、手綱を取った。様子を察してか、職人たちとエマちゃんが見送りに来てくれた。ピーター君は学校だ。

 「皆さん、ありがとうございました。それでは行ってきます」

と馬に跨った。

 7月1日、太陽が真上に近づき始めた頃の出発だった。


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