第13章 英雄来たる
第13章 英雄来たる
鍛冶場は、今日も活気に満ちていた。
ダイチは、バイカルに任された槍を鍛造している。
「キロさんとクリさんがつくるインゴットは、いつ見てもほれぼれするなー」
バルがインゴットを手に取って呟くと、
「ああ、全くだ。バイカル鍛冶屋の製品が上質なのは、この二人が作るインゴットあってのことだな」
ムパオが炉の火力を調整しながら言った。
「このインゴットで、逸品を造らねばどこで造れるのるかってことですよね」
バルは頷きながら、自分自身に言い聞かすように呟いた。
キロとクリが作るインゴットは不純物がなく、精錬技術の高さを示していた。しかも、次から次へと同品質のインゴットを仕上げていた。
二人の会話を聞いていたダイチもその技術や計画性、手際の良さに、職人として学ぶべき点が多くあると考えていた。
昼頃に、店番をしていたミリアが慌てて鍛冶場に来てバイカルを呼んだ。
「今は無理だ。作業で手が離せない。用事ならお前が代わりにやっておいてくれ」
「だって、相手はタフロンのご領主様よ」
「なに! メルファーレン辺境伯か」
バイカルに続きミリアも店へ出向く。
「久しいな。バイカル」
豪華な金の刺繍の入った白い服に白いズボンの軍服を着て、腰には青いベルトと銀の柄の剣を帯び、肩から深紅のマントを架けている。脇には小太り小柄で眼鏡をかけ、紺色で赤い襟元、見るからに豪華そうな服装をした商人のような男性。その後ろには、護衛であろう4人の男が控えていた。4人の護衛は剣を帯び、鋭い眼光から歴戦の勇士だと感じとれる風貌だった。その中でも、一際存在感のある男がいた。メルファーレン辺境伯と同年齢の男で、端正な顔立ちと屈強な体躯をした騎馬隊副官のロイ・ボンドである。メルファーレン辺境伯の常に脇にいて、様々な戦で武功をあげている腹心である。また、護衛の1人は豪華な装飾のされた大箱を抱えていた。
「メルファーレン辺境伯様、ご戦勝を心よりお祝い申し上げます。先のオーク侵攻の国難に赴き、辺境伯様自らのご活躍によって見事これを打ち破り、国をお救いになられたことをこの私でさえ聞き及んでおります」
バイカルは、背を伸ばし右手を胸に当てお辞儀をすると、ミリアもスカートをつまみお辞儀をする。バイカルは店の奥の部屋を勧めたが、メルファーレン辺境伯は断った。
「堅苦しい挨拶はやめよ」
「私の隣が妻のミリアです」
「妻のミリアと申します。メルファーレン辺境伯様、ご機嫌麗しゅうございます」
ミリアは丁寧にお辞儀をした。
「おお、其方があのミリアか。バイカルから聞き及んでおる。私から優秀な騎兵1人を引き抜いた女性だな」
ミリアは頬を染めた。
メルファーレンが次期領主あったで頃、複数の魔物と対峙し窮地だった時に、当時冒険者だったバイカルがたまたま助けたことが縁で、メルファーレン騎馬隊に入隊した。2人は意気投合していたが、バイカルはミリアとの電撃的な結婚を機に入隊から半年で鍛冶屋に転身したのだ。
「メルファーレン辺境伯様、お戯れを。私には任が重かったのです」
「ははははっ、戯言じゃ。気にするでない。それより・・・」
メルファーレン辺境伯は、目で合図した。脇に控えていた小太り小柄で眼鏡をかけた商人のような男性が進み出た。
「私は、ジーク・フォン・メルファーレン辺境伯にお仕えしております。軍事財務官のネロ・リークといいます。ジーク・フォン・メルファーレン辺境伯は、このドリアド領主であらせらせまするウィル・フォン・カリスローズ侯爵さまより贈られた戦勝のお祝いへの返礼にまいりましたついでに、本日は、製造業の盛んなドリアドの職人の技を視察に来ました」
「ネロ、つまらぬことはよい。バイカルなら察しがついておろう」
「返礼においでになられたのは、あくまで口実。ウィル・フォン・カリスローズ侯爵と先の戦で消耗した武器と防具などの取引でいらっしゃたと愚考します。この鍛冶屋には個別の品をお求めに足を運ばれたと存じ上げます」
「話が早い。実はな、先の戦で愛用の剣と槍の穂(刀身)が折れた。代わりの剣と槍となると、私が直接この手に取って、見定めたくてな。見せてくれ」
「英雄メルファーレン辺境伯様のお眼に叶うものがあればよいのですか」
メルファーレン辺境伯は、護衛の兵士が飾ってある剣を取ってこようとするのを制止し、自ら歩み出すと店に飾ってある剣を見渡した。
「バイカル、これだけではないだろう。逸品を見せろ」
「それでは、お手数ですがこちらまで」
バイカルは、メルファーレン辺境伯を店の奥にある部屋まで案内した。部屋には見ただけで逸品と分かる剣と槍が並んでいた。メルファーレン辺境伯は、その中から1本の剣を手に取り、一振りした。
「悪くないな。だが、刀身が薄い」
「そうですか。お気に召さなかったようですが、私が見せたい品はこちらでございます」
バイカルは部屋の奥にある鍵のかかった棚を開けた。棚には1本の剣が飾ってあった。
「これをご覧ください」
バイカルがその剣を差し出すと、メルファーレン辺境伯はそれを無造作に一振りした。
「見事だ」
「私の渾身の作でございます」
「この刀身はミスリルだな」
「はい、ミスリルで鍛えました」
「むう、これを我が剣とする」
「ありがとうございます」
「次は槍だ」
「槍でしたら、まだ店には飾っておりませんが、お見せしたい一品がございますので、お待ちください」
そう言うと、部屋から出て行った。すぐに、
「こちらでございます」
と、槍を手渡した。またもや槍を一振りし、鋭く光る刃を眺めながら、
「見事な逸品だ。鬼気迫るものを感じる。しかし、軽すぎる。そしてこれは鋼だな」
「はい、それは鋼を鍛えたものです。ミスリルでは更に軽くなります」
「分かっておる。これはバイカルが鍛えたものか、伝わてくる気迫の質が異なるが」
「慧眼恐れいります。それは私が鍛えたものではありません。この鍛冶屋で印可をもつダイチというものが鍛えました」
「そのダイチとやらを呼んで参れ」
バイカルは鍛冶場からダイチを連れて来た。
「この者がダイチです」
「メルファーレン辺境伯様、お初にお目にかかります。鍛冶職人のダイチと申します」
「この槍は其方が鍛えたものか」
「はい」
「穂を倍の長さに、厚さはこのままで作れるか」
「お望みとあればお造りいたしますが、穂と呼ばれる槍の刀身の厚さを変えずに長さを倍にすると、強度に不安がでてまいります」
メルファーレン辺境伯は左手を静かに上げた。ネロは重そうな豪華な装飾のされた大箱を護衛に支えられながらテーブルの上に置いた。
「これで造ってくれ。できるか」
箱を開けると、黒く輝く鉱石がいくつも入っていた。
「こ、これはアダマン鉱石では」
バイカルは市場には出回らない、極めて希少性の高いアダマン鉱石を見つめて呟いた。アダマン鉱石の採掘量は極わずかで国王及び王族くらいしか手にすることはない。最後の採掘も約20年前だったという。
「アダマン鉱石だ。先のオーク撃退の褒美として、ローデン国王陛下より賜ったものだ」
アダマンはミスリルを遥かに越える強度だ。これなら、刀身の厚さは変えずに長さを倍にしても、強度の不安どころか、最強の槍となる。と、バイカルは納得した。
「そんな貴重なもので槍を・・・・」
ダイチは思わず口にもらした。
「私は、いかなる時も国王陛下の剣として務めを果たさねばならない。その私の槍に使うのだから、これこそ王の剣としての本分だ」
「しかし、アダマン鉱石となると・・・・その精錬方法が、今では・・・・」
あのバイカルが不安そうに言っている。
「そう、だからこそバイカル、お前に頼みたいのだ。よいな」
バイカルはゴクリと唾を飲んだ。部屋は静かに時が流れた。
「アダマン鉱石に余りがでましたら、是非お戻しください」
ネロがダイチの耳元でそう囁くと、
「ネロ、この馬鹿者が! 駄作に命を預けよと言うのか」
メルファーレン辺境伯は怒鳴った。その迫力は歴戦の勇者のものだった。ネロは上飛び上がった。メルファーレン辺境伯続けた、
「鍛冶職人とは、鉱石に命を吹き込む者だ。素材を鍛える職人が、鉱石の量を気にしていては、逸品など決して出来ぬ。しかも加工技術の失われたアダマン鉱石だ。それは試行錯誤となるだろう。私が命を預ける槍は、世界で唯1つの逸品のみだ。素材を惜しんでどうする。このアダマン鉱石は全てダイチに与える」
「何というプレッシャーだ。俺は世界で唯1つの逸品の槍を造るのか。しかも精錬技術が失われた?と聞こえたが。この気迫、アダマン鉱石で造れなかったら、造れても駄作だったら、命はないな」
ダイチは、心でそう呟いた。そして、命を賭しても造りたいという衝動が、鍛冶職人の魂を震わせた。
「このアダマン鉱石はいただきます。最高の槍を創造します」
ダイチはメルファーレン辺境伯の目を真っ直ぐに見て答えた。
アダマン鉱石の槍とあって、1ヶ月間の猶予をもらった。
メルファーレン辺境伯って、俺が見たオークとの戦で、銀の鎧と深紅のマントを羽織り、騎馬隊の先頭を駆け抜けた騎士だよな?
などと、今更ながら考えるダイチであった。
失われた技術。それは難題だった。アダマン鉱石から造った武器はこれまで2つしかないらしい。およそ100年前に孤高の鍛冶職人ゴロクが造ったナイフとショートソードである。アダマン鉱石はその希少性から、流通するものではないため、その鍛冶職人の知識と技は継承されていない。
過去に鍛冶職人が挑戦をしてみたものの全て失敗に終わっていた。それはアダマン鉱石が鉄鉱石やミスリル鉱石に比べ、融解点が高いことが理由らしい。この難題をクリアできなければ進まない。
バイカルはキロとクリのインゴット職人を呼んだ。
「「アダマン鉱石か、初めて見たわ。失われた技術の復活か、胸が高鳴るわ」」
とアダマン鉱石を1つ摘み上げると、2人でルーペのようなもので観たり、擦ったり、小さなハンマーでコンコン叩いたりした後、アダマン鉱石をいくつか持って、中庭の水車のある作業場へと姿をけした。
「アダマン鉱石の精錬か、これが出来れば事は進む」
「ええ」
バイカル親方の言葉に俺は頷いた。
1時間程すると2人は戻って来て、
「「駄目だわ。火力を最大にしてみたけど、何の変化も見られない」」
バイカルとガリムは、やはりだめかと落胆する。
「「木炭の火力では駄目だったけれども、もっと火力を上げられれば・・・・」」
「木炭を超える火力か」
俺はそう呟くと、炭焼き職人のガリムが突然、
「儂ゃ、燃える黒石の火力がものすごく高いと聞いたことがあるぞい。その熱はインゴット職人でも耐えるのが大変じゃと」
「え、燃える黒石? あぁ、そういえば、親方と一緒に炭焼き小屋に向かう途中で、最近見つかって、ドリアドの街で出回り始めたと」
「「燃える黒石は黒火石のことね。火力がものすごく高いって聞いているわ、あれなら試してみる価値はありそうね」」
話を聞くと黒火石は石炭よりも火力が高そうだな。これはひょっとして、
「よしそれだ。親方は森の中で、黒火石はドリアドの街に売っているって言っていましたよね」
「あぁ、この街で売っているぞ。高価だがな」
「それを購入できませんか」
「よし、知り合いに当たってみよう」
「それから、ガリムさんの炭焼き職人としての技術と経験を貸してください。黒火石でも駄目だった場合には、ガリムさんの力なしでは無理なのです」
「なんじゃいきなり、ダイチは儂の命の恩人じゃぞ。儂にできることは何でもしてやるぞ」
俺は、ドリアド周辺に借りられそうな炭焼き小屋はないかどうか、ガリムさんに尋ねた。時間が限られているので、この街の周辺で作業ができれば理想的だと考えていた。
俺は、中庭に出てクローに尋ねた。
「黒火石を燃料とすればアダマン鉱石からインゴットを精錬ことは可能か示せ」
黒火石を燃料にしてアダマン鉱石からインゴットの精錬は可能か
不可能
「黒火石でも不可能か」
まだ奥の手がある。
「クロー、聞いてくれ。俺のいた世界では石炭を焼いて火力の高いコークスを作っていた。この世界の黒火石を焼けばもっと火力の高い燃料ができるのではないかと考えている。その燃料の火力でアダマン鉱石をインゴットに精錬できるかどうかを知りたい」
「黒火石を焼いてできたものを燃料とすれば、アダマン鉱石からインゴットを精錬すことは可能かどうかを示せ」
黒火石から新たな燃料を作ればアダマン鉱石からインゴットの精錬は可能か
可能
ただし、新たな燃料の作成及びその燃料を使用した場合であっても、高い技術と技能が不可欠である。
翌朝、バイカルが、
「おいダイチ、黒火石は、馬車1台分なら手に入るぞ。何でも黒火石は売れなくて在庫が多いそうだ」
「その店はどこですか」
俺は馬車でその店に向かい確認した。黒火石は石炭には似ていたが違うようでもあった。俺は迷わず、馬車1台分の黒火石を買い求めた。売れないまま在庫になっていたため、その代金は同じ量の木炭より少し高い程度だった。その代金は、アイテムケンテイナー入れておいた龍神赤石1つと物々交換で支払った。店主は、龍神赤石を見ると、丸儲けだと喜んでいた。俺はこのことは秘密にしてほしいと頼んでおいた。
鍛冶屋に戻ると、ダイチは、キロとクリに黒火石ではまだ火力が足りないことを伝える。
「「なぜわかるの?」」
などと、詮索されることを覚悟していたが、やっぱりそうなのかと呟いた。
次は、ガリムに、
「黒火石の不純物をとって火力を高めたいのです」
「焼いて黒火石から不純物をとるのじゃな」
ガリムは、顎髭を撫でた。
ダイチは、適任者はガリム以外には考えられなかった。これまでの炭焼きの職人として培ってきた技術と勘に頼る他ない。
ダイチは、街から1時間程のところに小さな炭焼き小屋を借りていた。そこでガリムに作業をお願いした。
馬車1台分あるので、存分に試してほしい。失敗してもかまわないと伝えると、
「儂を信じたんじゃろ。なら、任せておけ」
と、早速作業に入った。
その日の昼過ぎに、ドリアド領主ウィル・フォン・カリスローズ侯爵の使いがこの鍛冶場にやって来た。3週間以内に剣を100本納めよとの命令である。
バイカル鍛冶屋は、インゴットを叩いて一品物の武器を造る鍛造が自慢の鍛冶屋だったが、領主様からの依頼とあっては断るわけにはいかない。納期が短く大量注文となると製法は鋳造となる。鋳造は溶けた鉄を剣の型に流し込む製法である。
鍛造は1本1本職人の技で造るため時間がかかるが、鋳造は大量生産に向いている。しかし、この二つの製法で造られた剣を比べると靭性が異なる。靭性とは強度と粘り強さのことだ。鍛造は鉄を叩くうちに鉄の質が変化し靭性が高まり、切れ味のよい逸品となるのだ。
ダイチはメルファーレン辺境伯の依頼の槍に専念し、他の職人たちはカリスローズ侯爵の鋳造剣100本の製作にかかった。もっとも、カリスローズ侯爵の命令で造った剣100本は、カリスローズ侯爵からメルファーレン辺境伯のもとへ転売されることは承知していた。
翌朝、バイカル鍛冶屋へ孤児院からシスターと薄紫色の毛がきれいな熊の獣人である女性がやって来た。この鍛冶屋に鍛冶職人見習いとして奉公することになっていた。
バイカルは可能な限り、鍛冶屋で孤児を引き受け、手に職を付けさせてやりたいと考えていた。実はバルも孤児院出身で、最初の奉公先となった早馬による文書配達所では上手くいかず、飛び出したところをバイカルが引き受けたのだ。最年少のナナイは、昨年孤児院から引き受けている。突然のカリスローズ侯爵からの大量受注のため、多忙を極めている時期であったため、シスターと熊の獣人女性への対応は店番をしているミリアがした。
シスターはミリアに感謝の言葉と祈りを捧げると孤児院へと帰って行った。熊の獣人女性は、名をモルモといい、大柄で肉付きのよい15歳だった。鍛冶は過酷な肉体労働のため、司教もシスターも心配して、他の職を勧めていたのだが、当のモルモが鍛冶の仕事を強く希望した。
2ヶ月前にシスターとモルモが挨拶に来た時には、モルモは一言も言葉を発しなかった。モルモはバイカルの目をじっと見ながら頷くのみだった。バイカルは、
「承知した」
の一言で受け入れた。
ミリアはモルモに黒いつなぎの作業服と黒い靴を渡すと、鍛冶場で皆に紹介した。モルモは背筋を伸ばして一礼をした。
「よっ、来たな」
ナナイは陽気に手を上げた。モルモとは同じ孤児院の出身だった。
「あ、孤児院の英雄だ」
思わず俺は声に出した。
「なんだそれ」
バルがそう尋ねると、
「よい女の子だということです」
ダイチは微笑みながら答えた。
バルが首を傾げながら両手を広げ、
「ますますわからん」
その後、職人たちは各自名のったが、モルモは相手を見て頷くのみだった。
「モルモは、人前で話すことが苦手だとシスターに聞きました。悪く思わないでね」
ミリアがいうと、
「「「「了解」」」」
と片手を上げたが、もう視線は手元の鋳造にあった。
「今は手を止める暇も惜しい。ミリア、掃除でもさせていろ」
「落ち着く時期まで私が預かるわ」
「頼む」
バイカルはもう作業を始めていた。
その日のモルモは作業場と店の掃除をした。寡黙だが実によく働いた。モルモが中庭の掃除をしていると、エマが家から顔を出し、
「エマです。5歳です。歌が好きです」
と笑顔でお辞儀をすると、
ニコッと笑顔を返していた。
「モルモさんよ」
ミリアが言うと、
「私にもやっとお姉ちゃんができた」
エマは走り寄り、モルモの手を握った。モルモは屈んでエマと視線を合わせて、またニコッと微笑んだ。
その時、ペーターが初等学校から帰って来た。ペーターは、少しもじもじしてから、
「ペーターです。10歳です。初等学校に行っています」
モルモはエマと手をつないだまま、ピーターに近づくと屈んでピーターと視線を合わせて、またニコッと微笑んだ。ペーターはドキッとしたのか、少し体を後ろに動かした後、顔が赤くなった。
「モルモおねえちゃん、一緒に歌を歌おうよ」
エマが童歌を歌い出すと、モルモは、歌に合わせて繋いだ手を振りながら、笑顔で首を左右に振っていた。ペーターも手拍子で盛り上げる。水車のついたインゴットの作業場からもキロ、クリの鼻歌が聴こえてきた。
ミリアが、
「モルモさんのお話は、笑顔なのよ」
「お話しが笑顔なの? ふーん」
エマはそれだけで納得していた。ピーターはじっとモルモを見つめると、笑顔で、
「また遊ぼうね」
と、家へ入っていった。
「モルモお姉さんは、笑顔だけでもお兄ちゃんと遊べるんだね」
と、エマは感心していた。




