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29 城塞都市ジムダムの攻防戦

 2月1日14:00 ザーガード帝国城塞都市ジムダム

 城塞都市ジムダムは、北に険しい山、東西に深い森と大河、南に港街と海に囲まれた自然の要害であった。この地は、魔族の棲むラゴン大陸に最も近ため、城塞都市ジムダムには、対魔族軍を想定して幾つかの工夫があった。

 先ず1つ目に、雪の結晶の形に城壁が設計され、別名クリスタル城壁と呼ばれいる攻守に優れる城壁である。これは、高い城壁が六角形に造られ、角から放射線状に城壁が真っすぐ延びていた。これによって、どの方向から敵が攻めて来ても3方向からの挟撃が可能であった。

 2つ目に、城壁に等間隔で高い塔が設置されていた。飛行する魔族を城壁と更に高い塔の上からと、高低差を付けた遠隔攻撃が可能であった。

 3つ目に、対空装備の充実である。長さ1mの矢を同時に5本斉射できる斉弩器と呼ばれる装置を城壁と塔に設置していた。

 この城塞都市ジムダムには、人類連合軍兵16万が駐留していた。また、第2防衛線となる後方15㎞にも10万の兵が配備されていた。


 城塞都市ジムダム城壁の塔から兵士が叫ぶ。

 「11時の方向、距離7km、魔族軍発見。飛行して接近中、その数・・・5000・・・1万、

 ・・・いえ、2万」

 人類連合南部方面軍第1軍司令官グリュードベル王国リッチモンドが、指示を出す。

 「総員迎撃態勢」

 その報は、人類連合南部方面軍総司令長官ザーガード帝国ガンジバルに伝えられる。

 「いよいよ、来たか。各国に1つずつ配付されたヘッドセットと伝書鳩で、各国へ知らせろ。

 電文。

 2月1日14:00 ザーガード帝国城塞都市ジムダムに魔族軍2万接近。

 人類連合南部方面軍総司令長官 ザーガード帝国ガンジバル」


 2月1日14:00 ザーガード帝国城塞都市ゴーゼル近郊

 第1副官のロイがヘッドセットによる伝令文を差し出す。

 「メルファーレン様、通信による伝令です」

 「城塞都市ジムダムに魔族軍2万か・・・陽動だな。

 いよいよだ。あそこに見える城塞都市ゴーゼルに魔族軍主力部隊が攻めて来るぞ」

 「城塞都市ゴーゼルには、人類連合軍兵11万が駐留し、第2防衛線として後方10㎞に7万が待機しています。ジムダムへ侵攻した魔族軍2万より多いとなると、ゴーゼルへの駐留軍だけでは少な過ぎます」

 「ジムダムとゴーゼルの中間地点後方に駐留している第1遊撃隊を、ゴーゼルの支援に動いてもらうとするか。

 俺の名で、ヘッドセットで連絡をしろ。

 電文。

 『ザーガード帝国城塞都市ジムダム、

 ジムダムへの侵攻した魔族軍2万は陽動の可能性大。

 第1遊軍は、ゴーゼルを背後から支えられたし。

 人類連合南部方面軍特殊遊撃軍司令官 ローデン王国ジーク・フォン・メルファーレン』」


 2月1日14:30 ザーガード帝国城塞都市ジムダム指揮塔指令室

 ナギ王国のエルフの若き参謀マクレールが、指揮塔指令室にいるガンジバル総司令長官に戦況を報告する。

 「ガンジバル総司令、開戦から早20分。

 我が軍の死傷者1000。魔族軍死傷者400。クリスタル城壁を死守しております」

 「むう、我が人類連合は、魔族軍相手に善戦をしておるな。

 クリスタル城壁上の兵士を増やせ。物量で魔族を殲滅せよ」

 「総司令、参謀として具申します。

 ここまでの魔族軍の攻撃に不可思議な点があります。城壁上の兵士への魔法攻撃が脆弱なのです。城壁の兵士を一気に殲滅しようとする魔族軍の策だと考えます。

 今は、動かずこのまま魔族軍の消耗を待ちましょう」

 ガンジバル総司令は、瞳を左に寄せ参謀マクレールを(にら)む。

 「我の戦術に不満があるということか」

 「感情面での不満ではありません。魔族軍の意図を理解する必要があると具申します」

 参謀マクレールは、頭脳明晰で論理的に物事を考える点においては参謀としての資質は高かった。だが、エルフ特有の歯に衣着せぬ物の言い方が、ガンジバル総司令の鼻を突いた。

 「却下する。このクリスタル城壁の理を生かすために、城壁の兵士を増やせ。3方向からの斉弩器の連射速度を速めろ」

 脇にいた参謀ボムーが、頷いて伝令兵に命令を伝えた。

 ガンジバル総司令長官は、もうマクレールには見向きもしない。脇のボムーに話しかける。

 「・・・あの城壁を守る革鎧の魔導士兵中隊の活躍には、目覚ましいものがあるな。魔族相手に土属性魔法の威力で負けておらん。(むし)ろ押しておる。

 ・・・どこの国の中隊だ」

 「ティタンの民の義勇軍です」

 「何、ティタンだと!」

ガンジバル総司令長官の顔の表情が曇った。

 ガンジバル総司令長官の背後にいるマクレールが呟く。

 「ティタンの民は、800年前の人魔大戦でも抜群の戦闘力を誇っていたと、我がエルフたちが評価しています」

 ガンジバル総司令長官は、振り返ってマクレールを見る。

 「貴様の説明などいらぬ。・・・我がザーガード帝国で、十数年前までは奴隷(どれい)として暮らしていた(いや)しき民だ。

 人魔大戦後の平和な世には不釣り合いな強大な魔力を持ち、他国を(おびや)かしたために滅ぼされた亡国の民。それがティタンの民だ」

 「ザーガード帝国が、侵攻して滅ぼした国の民です」

 「・・・マクレール、何が言いたいのだ。我がザーガード帝国が、人類の脅威となる国を滅ぼしたまでだ」

 「私は、事実を明らかにして、客観的に分析し、冷静にかつ根拠に基づく判断をしたいだけなのです。

 彼らは人類の脅威ではありません。魔族にとっての脅威です。

 しかし、ティタンの民にとっては、迫害をする人類こそ脅威となったのです」

 「黙れ、マクレール。其方をザーガード帝国に対する侮辱罪として、マクレールを人類連合南部方面軍参謀から更迭(こうてつ)する。

 ティタンの民など姿も見たくはない。奴らを城壁から降ろせ!」

ガンジバル総司令は、感情を抑えきれずに叫んだ。

 「・・・ガンジバル総司令、人類存亡の一戦です。私情ではなく、人類連合南部方面軍総司令長官としての賢明なご判断を」

 「下がれ、マクレール」

 「・・・・」


 2月1日15:00 ザーガード帝国城塞都市ジムダム指揮塔指令室

 「良いぞ、良いぞ。クリスタル城壁の兵士が増員され、攻撃力が格段にあがった」

ガンジバル総司令が満面の笑みで言った。

 「ガンジバル総司令、お見事な戦術です。防御を重視していた魔族兵も、流石にこの飽和攻撃には耐えられず、急激に数を減らしていっています」

参謀ボムーも戦果を称賛した。

 「このクリスタル城壁は無敵だ。このまま魔族を刈り続けるぞ」

 城壁上に(あふ)れるほど増員された兵士を見て、森の陰からほくそ笑む影があった。魔界神ディアキュルスである。

 「くくく、脆弱な人間どもよ。我の前に姿を現したな」

 森からクリスタル城壁の兵めがけて、分解球が飛んだ。

 「・・・真っ黒なあの球は何だ。近づいて来るぞ」

城壁の兵士が分解球を指さした。

 分解球は、六角形から放射線上に突き出した城壁の上に沿って進み、そこを守る兵士たちの体を(えぐ)り取っていく。

 「うわー、あの黒い球に触れるな」

 「触れると抉り取られるぞー」

 「逃げろー」

 分解球の速度はあえて低く抑えられ、直線の城壁の上を歩くように移動していく。

 「どけ、早く行け。黒い球に追いつかれるぞ」

 「早く行けー」

 「押すなー! 前がつかえていて逃げ場がない。ひーー」

 分解球に追われ、城壁の兵士は懸命に逃げるが、城壁には多数の兵士で満ち、もう身動きが取れなくなっていた。逃げる兵士の先頭は六角形の城壁の兵と押し合い、その城壁でも将棋倒しが連鎖していた。

 分解球から逃げられずに足首を城壁に残して抉られていく兵士たち、分解球を恐れて城壁から地上に飛び込み命を失う兵士たちと、城壁上は阿鼻叫喚となっていた。

 「くくくっ・・・良い景色と旋律(せんりつ)だ。恐怖と絶望の声が心地よい祈りを奏でているようだ。

 魔神によって滅び行くこの地も、ついこの間までは我を主神ダキュルスと讃え、我に祈りの力を与え続けていた信徒の()む国の1つだとは、実に滑稽(こっけい)な話だ」

 ディアキュルスは、次々に分解球を放った。分解球は、別の放射線上に延びた城壁に沿って飛行して行った。その度に、兵士たちの悲鳴が轟き、逃げ場を求めて押し合う兵士たちの連鎖で、城壁は組織的な防衛機を失っていた。

 ここぞとばかりに、魔族兵たちの本格的な攻略が始まった。城壁で押し合う兵士だけではなく、城内に待機していた兵士たちの頭上にも、魔族兵の高火力の魔法が降り注いだ。

 指揮塔からこの戦況を見ていたガンジバル総司令は、忸怩(じくじ)たる思いでこれを眺めていた。

 「総司令、ここは危険です。退避を」

参謀ボムーが、ガンジバル総司令に進言した。

 「兵士たちが命を賭して戦っているのだぞ。最後まで指揮をする」

 「しかし、城壁の防御は無力化し、城塞の南1/4は魔族が制空権をとって魔法をばらまいています。この戦況では、組織だった行動は最早困難です」

 「・・・それでも、我は引かん」

 「総司令、ここで死ぬおつもりですか」

 「馬鹿な事を言うな。まだ戦っておる兵士がいる限り、それを指揮する者が逃げるわけにはいかん」

 参謀ボムーが頷く。

 「・・・私も、お供いたします。

 おい、他の者は避難しろ」

 「我々も、お供します」

 ガンジバル総司令は、

 「其方たちは、現場に降りて、混乱している兵士たちの指揮を執れ。そして、第2防衛線の戦力となるために逃げ延びろ」

 「・・・・」

 指揮塔指令室に詰めていた幹部たちは、黙って頷くと、塔の階段を下って行った。


 2月1日15:20 

 「ボムー、あそこを見ろ」

指揮塔から見下ろすガンジバル総司令が指さした。

 「・・・城内の南側の上空を埋め尽くしていた魔族兵が、あの一角だけは侵攻が止まって・・・いえ、寧ろ我が軍が押し返しております」

 「ボムー、あの一角の奮闘が、この戦況を変える転換点となるかもしれんぞ」

 その時、指揮塔指令室に伝令が駆けあがって来た。

 「我が軍は、魔族に制空権を奪われ甚大な被害を出しています。

 ですが、一部魔族軍を押し返す隊もあります」

 「どの部隊だ」

 「マクレール参謀が指揮するナギ王国兵とティタンの民の大隊です」

 「なんと! 参謀を更迭されたマクレーンが現場で戦術指揮とは・・・しかも、旗下のエルフ兵と元奴隷のティタンの民か」

 ガンジバル総司令が声を張り上げた。そして、伝令に続けて問う。

 「マクレールは、どのようにして魔族を押し返しているのだ」

 「エルフ兵の所持するアベイスグレイス鉱石で、魔族の付与する魔法を一時的に無効化しています。

 これによって、魔族兵は、飛行能力と防御力が消失し、地上に落下したところをティタンの民の土魔法で致命傷を与えています。

 これを見た他の国の兵士たちも、落ちてきた魔族兵に斬りかかっております」

 「『ティタンの民は、魔族の脅威』か・・・」

ガンジバル総司令は目を(つむ)ると、大きく息を吐いた。

 「マクレールが切り開いたあの一角から魔族軍を切り崩す。

 ボムー、あの一角で援護にまわせる部隊はどこだ」

 「配置で言えば、第3軍と6軍かと」

 「第6軍は、オーク軍だな・・・その白兵戦能力に期待しよう。

 速やかに第3軍と6軍を、マクレーンの援軍にまわせ。そして、その両軍をマクレーンの指揮下に置く。急ぎ伝えよ。

 それから、ここに伝令兵を10名連れて来い」

 「はっ」

 伝令は指揮塔を駆け下りて行った。


 「1時から2時の魔族兵にアベイスグレイス鉱石の光放射。

 エルフ第2中隊、それを仕留めろ。

 ティタン中隊、4時の魔族兵へ火力を集中しろ。

 ゾアン第4軍団長、3時の大隊の消耗が激しい。一旦下げて、替わりに別大隊を増援に向かわせてろ」

 「了解。第4軍第3大隊3時へ増援。

 第2大隊は、一旦下がりダンポーションで回復」

ゾアン第4軍団長が、マクレーンの指揮に従って部下に命じた。

 マクレーンの下には、エルフ大隊とティタンの民中隊に加え、ザーカード帝国兵中心の第4軍ゾアン団長が、自ら戦況を判断し指揮下に入っていた。

 ちなみに、各国兵士に配付されたダン印の特製エクストラポーションは、ダンポーションと呼ばれ重宝されていた。

 「持ちこたえるだけではだめだ。ここの魔族軍左翼を押し返して、侵攻する魔族軍本隊の側面を攻撃しなくては・・・それには、まだ戦力が足りない」

マクレーンは、魔族軍に痛撃を与えるための戦術を張り巡らせていたが、手元の戦力不足を痛切に感じていた。

 「参謀マクレーンとは、其方か」

マクレーンが振り返る。

 そこには、鎧を身につけた偉丈夫なホモ・サピエンスが立っていた。

 「はい、マクレーンです」

マクレーンは、略式の敬礼をした。

 「私は、グリュードベル王国のクォーク。人類連合南部方面軍第3軍指揮官だ。

 ガンジバル南部方面軍総司令長官の命によって、其方の指揮下に加わる」

 「あのガンジバル総司令が、ここに増援を・・・」

 「第6軍もこちらに向かっている。存分に指揮をしてくれ」

 「それでは、私の戦術に従ってください。

 第3軍の半数は、右から迂回して、側面から攻撃を。残りは戦闘中の兵士の増援に向かわせてください。

 クォーク将軍は歴戦の勇将。第3軍1万5000の戦術の実行指揮は、クォーク将軍にお任せします」

 「了解した」

 クォーク将軍は、第3軍に言葉少なく的確な指示を与えた。

 第3軍の作戦参加で、この一角の戦況が大きく転換した。魔族軍左翼部隊を押し込み始めたのだ。

 「Γ%α、ζ#$Θ」

猛獣の様な大声がした。

 マクレーンが後ろを振り向くと、猛獣より大きく屈強なオーク兵たちが立っていた。

 「オーク軍・・・第6軍だな」

 「Γ%α、*‘’ΛΨΞ」

 オークの言葉は理解できなかったが、マクレーンは宙から落下する魔族兵を指さしてから、左掌を右拳で叩いた。

 「Γ%α、Σ!」

 「「「「「「ガロー!」」」」」」

オーク兵5000は雄叫びを上げると、戦場に踊り出て行った。

 オーク兵は、落下して来る魔族兵を類稀な白兵戦能力で打ちのめしていった。宙を飛ぶ魔族兵に背負っていた巨大なブーメランを投げつけて、落下させることもあった。見る見るうちに、地上は魔族の屍が積み重ねられていった。

 豊富な魔力をもつ故に、高い戦闘力を誇る魔族であったが、アベイスグレイス鉱石によって魔力を消失させられる。そうなれば、圧倒的に数で勝る人類が、その数の暴力を遺憾(いかん)なく発揮した。

 「小癪(こしゃく)な人間どもめ」

 「こちらから攻めて来るぞ」

 「こっちからもだ」

 「おい、ここを優先して守れ」

と、魔族兵が浮足立ってきた。

 第3軍が、侵攻する魔族軍の左翼を深くまで削っている。

 第3軍の魔導士兵と弓兵が魔族兵を地上に落とす。それを圧倒的な数の力で殲滅していった。そこにアベイスグレイス鉱石を手にしたエルフが、サポートに回った。

 人類連合軍兵は、大勢を整え兵士の士気も高揚していた。


2月1日15:40 指揮塔指令室

 「ついにやったぞ、やりおった。

 南から城内に侵攻した魔族軍を左翼から本隊、更に右翼をも、次々と分断に成功したぞ」

指揮塔から見下ろすガンジバル総司令が呟いた。

 「このまま各個撃破できます」

参謀のボムーも微笑んだ。

 「伝令兵。第1軍、第2軍に孤立した魔族軍を包囲殲滅に努めよと伝えよ」

 「はっ」

 分解球がクリスタル城壁の下部に穴を開けて、城内で死闘を繰りひろげている人類連合軍兵と魔族兵を呑み込み抉り取っていく。

 「うあー」

 「(かわ)せー。あの黒い球に触れるなー」

 「ぐげげげぇー。・・・魔族の俺たちも巻き込むとは」

 次々に放たれる分解球が、クリスタル城壁を穴だらけにしていった。魔族兵は慌てて高度を上げる。しかし、アベイスグレイス鉱石や魔法の標的となり落下する魔族も後を絶たなかった。

 その城内では、魔界神ディアキュルスから次々と撃たれる分解球の無差別攻撃によって、人間も魔族兵も体を抉られていった。

 「このままでは、損害が大きい。退避だー!」

 「この城内で、ど、どこに退避するのですか」

 「・・・ここは鳥籠(とりかご)となった」

 「躱せ、黒い球を躱すしかない」

兵士の叫びが、こだまする中で兵士たちは逃げ惑う。

 クリスタル城壁内は人間を閉じ込める籠となり、分解球による大量虐殺の場へと変わっていった。

 これを見た空中に退避した魔族が白い牙を()きだして笑みを浮かべる。

 「くくくくっ、慌てふためく地上の人間どもを見ろ。俺たちも魔法攻撃といくか」

 魔族兵は、逃げ惑う人類連合軍をねらい、一斉に魔法攻撃を開始する。

 「ぎゃははは、もう人間には、反撃の余裕などない。撃て、もっと撃て。

人間は狩り放題だ」

 クリスタル城壁の上では、魔族兵たちの残酷な笑い声に満ちていた。

 ヒューーーウと、白い風がクリスタル城壁の上を流れた。

 宙を飛ぶ魔族兵たちは、全身が凍結して次々に落下して地上で砕け散る。

 ヒューーーウ、ヒューーーウと息吹が白い風となって上空に吹き荒れる。

 城内の兵士たちの頭や肩に白く輝く結晶が舞い落ちた。

 「何だこれは・・・雪か?」

 「ん、これはダイヤモンドダスト・・・」

 ナギ王国のエルフ兵たちから歓声が沸き起こった。

 「雪乙女様だ!」

 「見ろ! 慈愛神獣雪乙女様が助けに来てくださったぞー」

ダイヤモンドダストが銀色に輝く天空をエルフ兵が指さした。

 魔族兵も天を見上げる。

 黒く長い髪が靡き、白いドレスが揺れ、ふわふわと漂う淡い青の羽衣を纏った女性が浮いていた。その右の瞳は緑、左の瞳は青のヘテロクロミアには、気高さと慈愛に溢れていた。

 雪乙女ルーナの紅色の唇が開くと、ヒューーーウと白い吐息が延びて行く。凍結の息吹だった。凍結の息吹に晒された魔族兵たちが全身を凍らせて落下していく。

 「神獣様がお救いに来てくださったぞー」

 「雪乙女様ー!」

城内に大歓声が起こった。

 突然、白い閃光が瞬いた。少し遅れてゴゴゴゴゴーッと空気を震わす爆音が響く。空に避難していた魔族軍の隊形に巨大な穴がぽっかりと開いた。それは、神龍の息吹の白い閃光に巻き込まれた魔族兵たちが消滅したためだった。

 空を飛ぶカミューに跨るダイチが心配する。

 「カミュー、城内には当てるなよ」

 『分かっておるわ。

 魔族はこの神龍の息吹で早々に吹き飛ばす。

 ん・・・ぐははははは、我はついておるぞ』

 「カミュー、どうしたんだ」

 『主、あの森の中にダキュルスの気配がする』


 ダイチとエーアデを乗せたカミューが上空から、神龍の息吹を吐いた。

 カミューの口から白い閃光が一直線に延び、宙に浮かぶ魔族兵の群れの中心に巨大な円形の空洞をつくった。少し遅れてゴゴゴゴゴーッと空気を震わす爆音が響く。

 魔族軍の兵は、ルーナの凍結の息吹とカミューの神龍の息吹によって、極端にその数を減らし、おろおろと逃げ惑っていた。

 「カミュー様だ。破魔神獣神龍のカミュー様だ」

 「我らをお救いくださる」

 「ありがたやー」

カミューを目撃した兵士たちの心は勇気づけられ、奮い立った。

 カミューは、群がる魔族軍に向かい神龍の咆哮をした。魔族は、一瞬にして思考も身体機能も急停止し地上に落下した。地上で待ち構える人類連合兵たちに、止めを刺されていった。

 『ダイチ、魔界神ディアキュルスはカミューに任せ、我々は地上に落ちた魔族兵と白兵戦だ』

 「クロー、分かった。カミュー、俺を下に降ろせ。そして存分に戦ってこい」

 『主、承知した』

 カミューは、急降下してダイチとエーアデを城内に降ろす。そこにパンジェを乗せたロック鳥のガイガーも不時着した。

 『主、我はダキュルスと決着をつけて来る』

 「必ず勝て!」

 『当たり前だ』

カミューの鋭い眼が光った。

 

 パンジェが大薙刀の岩斬を水平に薙ぎ払うと、魔族兵の悲鳴と共に、両断された半身が乱れ飛ぶ。野を駆けるが如く戦場を疾駆するパンジェの姿を視界に捉えた魔族が、魔法で地面から岩を突き出した。自身の左右を守る大岩の盾としたのだ。

 パンジェは、魔族と目が合うと、躊躇いなく岩斬を水平に振る。そこにいた魔族を盾とする大岩ごと2つに斬った。パンジェは止まることなく、突き進んでいく。パンジェが駆ける軌道上には、魔族の屍が宙に舞い、魔族の悲鳴が戦場に響いていた。

 「・・・あ、あの黒いオークを止めろー」

 「うあぁぁ、無理だ。お前が何とかしろ」

 「・・・に、逃げるなぁー!」

 パンジェに睨まれた魔族は、死から逃れることはできなかった。最早、魔族兵の眼に映るアカフチブラックドラゴンの鎧を身に付けたパンジェは、死をもたらす黒き災厄(さいやく)となっていた。

 パンジェの獅子奮迅の活躍を目の当たりにして、オーク軍兵士たちは歓喜の雄叫びを上げた。

 「ζΨ!、$Θ、ガロー!」

 「ζΨ!、%ΦΞ、ガローー!」

 あまりに凄まじい破壊力を目の当たりにしたオーク兵たちは、歓喜の雄叫びから次第に言葉を失っていった。

「・・・Ψγψ」

「Ψγψ」

「Ψγψ、Ψγψ」

オーク兵たちは、パンジェの事を魔人と表現した。


15:50 指揮塔指令室

「ザーガード帝国の多くの民が崇め奉っていた信仰神がダキュルス。このダキュルスの正体は、魔界神ディアキュルス。

 我が王は幽閉され、魔族が大臣に成りすまし、長い間、我らは魔族に操られていた。この恥辱(ちじょく)をそそがねばならぬ。

 神獣カミュー様、魔界神ディアキュルスをお倒しください」

ガンジバル総司令は、カミューに祈った。


 カミューは城壁内上空から、魔界神ディアキュルスの潜む森を睨む。

 『ディアキュルス、其方は狡猾で人心を惑わす。そして、逃げ足の速いところだけは、我も及ばぬ。

 人間にダキュルス神の正体が魔神だと知れ渡った今、其方は人類を滅ぼし、魔族の世にするしか生きる道はない。 

 決着をつける舞台ができたな』

カミューは、龍神白石を見つめた。

 その瞬間に龍神白石から、眩いばかりに輝く光が天と地を照らした。

 グオォォォーンと雄叫びを上げ、体長100mの神龍へと変化した。


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