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23 神獣 VS 魔神

 5:40 ミストアビッソ城 東北東8㎞

 「ふー、食った食った」

 「美味しかったわ」

 「オレ、ゲンキ デタ」

 『『『!!!!』』』

 『今、城から反応が消えた魔神がいる』

 『グルルル、来るぞ』

 『急襲に備えろ』

 「作戦通りに展開」

リッキが立ち上がって叫んだ。

 各自が跳ね起き、武器を掴む。

 その瞬間、リッキに向かって、一寿が飛び跳ねた。

 イフは、デューンに向かって拳を突く。

 エルフに変化したルーナは、雪乙女へと戻る。

 リッキの頭上で一寿が何者かに体当たりをしていた。

 イフはデューンに迫る何者かを殴り飛ばしていた。

 ドドンと、すぐ脇で地を揺るがす音が響いた。

 主力部隊のメンバーは、何が起こったのかを把握できないまま、辺りを見回した。

 「きゃーー!」

と、レミの悲鳴が夜明け前の凍てつく大気を切り裂く。

 魔神1柱が、ガイの片足を掴んでそこに立っていた。

 ガイ自身も何が起こったのかを把握できぬままに逆さ吊りにされていたのだ。ガイは握っていたカオスの斧を魔神にぶち当てようとして振る。

 魔神は、ガイの片足を掴んだまま放り投げた。ガイはそのまま宙を舞い、少し離れた崖の中腹に激突した。そして、そのまま崖下に落下した。

 魔神の足元から無数の氷の刃が突き出してくる。魔神は後方に1跳躍して、これを(かわ)す。

 一寿とイフに飛ばされた魔神2柱も、遠くでむくっと立ち上がる。

 余りに一瞬の出来事で、事態を把握できずにいた主力部隊メンバーであったが、すぐに距離をとって展開した。

 ガイを放り投げた魔神が、神獣と主力部隊のメンバーたちを指さして名乗りを上げる。

 『800年前の屈辱を晴らしに来た。

 人間どもよ、平伏すがよい。

 我は、八魔神雷魔神ゼド』

 顔は猿に似て、上顎から狂暴そうな2本の牙が光っている。両耳から横に伸びる角と目の上から上に伸びる2本の角、脳天から後頭部にかけて短い角がびっしり伸びている。背には黒い翼、二の腕と脚には岩の様な硬質な肌、鋭い爪があった。

 見るからに(おぞ)ましい魔人であった。

 『我は、八魔神水魔神ニュクノス』

 見た目は人間の女性、長いカーリーヘアを靡かせ、褐色(かっしょく)の肌に鳥のような白い翼、僅かに茶のかかった白いロングドレスを着て、肩には金色の鎧が光り、鎧からはドレスと同じ色の2本の布が舞っている。金色の手甲をつけた手には三又の槍を握っていた。

 ニュクノスの見かけは、戦の女神と見間違える美しさであった。

 『八魔神風魔神エイナス』

伏し目がちの青い瞳の魔神が名乗った。

 黒い猫耳に長い黒髪。黒のドレスは、チャイニーズドレスのように側面にはスリットが入り、その下からは腿に巻かれた黒い革紐が見えた。腹には黒革のコルセットを革紐(かわひも)できつく締め、手には黒い革の手甲をつけていた。首からは、銀色の波を(かたど)ったネックレスが胸元で揺れている。腰には黒いサーベルを帯びていた。

 エイナスからは、神秘的な(あで)やかさと(あや)しさが(ただよ)っていた。

 『グルルルル、我は主から名をもらい一寿と名乗っている』

 『我も同じく名をイフと改めた』

 『わたくしはルーナ』

エイナスが、主力部隊のメンバーを見渡して言う。

 『神獣たちも新しい主と名を得たのね。 

 ・・・ねえ、そこの人間たちは、頑張ったのね。良い眼をしているわ。

 でも、せっかくの神獣を倒す機会を邪魔しないでね』

 エイナスを中心に暴風が巻き起こった、暴風は爆発の衝撃のように主力部隊のメンバーを襲った。リッキもハフも、デューン、レミ、パンジュエたちもその暴風に飛ばされ、宙を舞い、地を転がりながら地面に叩きつけられた。

 一寿の眼が光ると、大地が盛り上がり岩となり、雷魔神ゼドを左右から挟んだ。そして、雑巾(ぞうきん)(しぼ)る様にその岩がグググと絞られていく。

 イフが左手を横に払うと、風魔神エイナスの足元から巨大な炎が天へと延びて行く。エイナスは炎に包まれた。炎の中のエイナス目がけて拳を撃つ。

 ルーナが水魔神ニュクノスに視線を向けると、ニュクノスは氷漬けになった。ニュクノスの頭上に巨大な氷柱が出現し、氷漬けのニュクノスめがけて飛ぶ。

 ゼドは、岩を砕き極大の雷を一寿に落とした。一寿は、その雷を腕で叩き落とす。

 エイナスは、舞い上がる炎を暴風で四散させると、イフの拳を掌で受け、黒いサーベルでイフを突く。イフは身を(かが)めてこれを躱すと、エイナスの顔に頭突きを浴びせた。その衝撃で、エイナスの頭が後ろ曲がった。

 エイナスのサーベルが、イフの脇腹を(かす)める。イフは、後ろに跳ねて距離を取った。

 『おのれイフめ。我の顔をその汚い頭で汚すとは・・・許せん!』

エイナスは、鼻血を腕で拭いながらイフを睨んだ。

 突然、頭上から高圧力の気流が降下し、イフを撃つ。イフは片膝をついてこの圧力に(あらが)う。イフの周りの地面は、風の圧力で窪み、ビキビキと音を立てて陥没していく。

 ニュクノスを抑える氷と頭上から迫る氷柱が弾け飛んだ。ニュクノスを中心に膨大な水が周囲に溢れ出たのだ。この水流が集まり向きを変えてルーナに襲い掛かる。ルーナが跳躍してこれを躱すと、水流はそのまま大地に潜り、ルーナの足元の大地を砕き吹き上げて来た。ルーナはこの水流を宙で体を(ひね)り躱すと、水流が瞬時に凍結した。

 崖に叩きつけられたガイが、意識を取り戻す。

 「この鎧に守られたのか・・・いや、それだけではないな、他の何かにも守られたな」

 気を失っていたガイではあったが、カオスの斧を握りしめたままだった。カオスの斧を杖にしてヨロヨロと起き上がる。

 神獣3柱と魔神3柱が、凄まじい攻防を繰り広げていた。

 「神獣と魔神の戦い・・・自然の理を越えている。

 あれでは、俺たち人間は近づけない・・・デューンたちはどうなった?」

ガイが慌てて周りを見回すと、デューンがふらふらしながら、起き上がろうとしていた。

 他のメンバーも同様に体を起こしているところであった。

 「無事だったか・・・しかし、この戦いには、俺たちの出番はなさそうだな・・・」

そう言って、ガイは、神獣対魔神の戦いに目を向けると、そのまま目を伏せ(うつむ)いた。


 5:40 ミストアビッソ城 西4㎞のリーデッア山脈

 『動いた! ミストアビッソ城から神獣4柱の気配が消えた』

カミューが、ガバツッと首を上げてダイチに言った。

 「気配が消えたとは?」

 『主、3柱は、高速で飛行しているので間もなく主力部隊に地に到着する。1柱は地上を駆けて向かっている。・・・む、今、地上を走る1柱が気配を消した』

 「そんなに早く主力部隊に到着するのか?」

 『15秒もあれば、到着する』

 『ダイチ、それより気配をけして走る魔神1柱が問題だ』

 「なぜ?」

 『恐らく、伏兵として、奇襲をかけるつもりだ』

 「伏兵の奇襲なんて卑怯(ひきょう)です」

テラが大声を上げた。

 マウマウがテラに告げる。

 『我々とて伏兵と陽動、奇襲作戦を取っている。ましてや敵も魔族の存亡が懸かっている。戦術に卑怯や情けなどはない』

 「・・・・」

 『ダイチ、いよいよ我々の出撃だ』

 『主、準備は良いか』

ダイチはテラに目をやる。テラがダイチにゆっくりと頷き返す。

 「よし、出撃だ! 目指すは、ミストアビッソ城に潜む魔王ゼクザールの首だ」

 ダイチを乗せたカミューとテラを乗せたキュキュが、夜明けの近づくリーデッア山脈から飛び立った。


 5:40 ミストアビッソ城

 「魔神たちめ、ようやく動きよったか」

王座に腰かけたゼクザールがそう呟いた。

 「魔神には魔神の矜持(きょうじ)があるのでしょうな。魔人や2万の魔族兵の力を借りる訳にはいかんのでしょう」 

階下に控える六羅刹筆頭焦土のガイエンが答えた。

 「甘い。甘いぞ、ガイエン。それが800年前の人魔大戦で不覚をとった原因だ。

 ・・・魔神とは、こうも学ばぬものなのか」

 「申し訳ありません。されど、神獣3柱に対する我が魔神は4柱。しかも、前神龍を倒した時と同じく、その内1柱が気配を消して潜み、不意撃ちで致命的な1撃を浴びせます。

 己の武による勝負にこだわる魔神が、これを納得しただけでも良しと考えます」

 「・・・まあ良い。神龍の気配を感じぬが、奴は、ここをいつ急襲して来るかだな」

 「はい。そろそろかと存じ上げます」

 「ここまで攻め込まれては、他に策はない。我が自ら(おとり)となる」

 「はっ、では、魔王ゼクザール様は、囮としてあの魔法陣の部屋で?」

 「そうだ。この城に引き付け魔神2柱で殲滅(せんめつ)する。

 魔神魔界神ディアキュルスと魔神炎魔神ロギン、親衛隊による迎撃の準備は整っておるか」 

 「勿論です。

 魔神双璧の1柱、戦魔神ウラースがラゴン大陸におりますが、もう一方の魔界神ディアキュルスがラゴン大陸からこのミッドアイスガルド大陸に来ていたことが不幸中の幸いでしたな」

 「魔界神ディアキュルスには、汚名を返上する良き機会となったな」

 「御意」

 魔王ゼクザールは、胸のひび割れた白石に手を置く。

 「ブリージア、敵はとる」


 5:50 ミストアビッソ城 東北東8㎞

 夜空から一寿の天撃が白い光の槍となって降る。ゼドは、地を這う青い稲光となってこれを躱す。天撃が落ち地面の岩が砕けて舞い上がる。

 青い稲妻となったゼドが、光速で一寿の胸を撃つ。バチバチバチと空気を震わせ、線香花火のような青白い放電の花が、一寿の全身を包んだ。その衝撃で、一寿が背後に弾き飛ばされる。宙に飛ばされた一寿は、電気ショックで一時的に身体機能が麻痺していた。

 青い稲妻のゼドが追撃し、宙の一寿に2度、3度、4度と突撃を繰り返す。一寿は切り立った崖まで弾き飛ばされ、その衝撃で崖が崩れ落ちて来る。

 一寿は、白目になり、崖に体をめり込ませたまま身動き一つしない。

 『・・・・・・』

 ゼドの青い稲妻は、容赦なく一寿の頭、胸、腹に激突を繰り返す。

 この戦場から離れた場所に張られたレミのディフレクトシールドの中には、リッキとハフ、デューン、ガイ、パンジェ、レミが神獣の戦いを見守っていた。

 「一寿、しっかりしろー」

ガイは悲痛の叫びを上げるが、ゼドのバチバチという放電音にかき消されていた。

 一寿の場所から150mほど離れた場所で、イフと風魔神エイナスが戦っていた。

 イフは一撃必殺の黒炎を宿した拳で、エイナスに連続したコンビネーションパンチを繰り出すが、エイナスは、ひらりひらりと後退して行く。イフの攻撃を躱すたびに、エイナスのスキットの付いた黒いドレスも揺らめいた。

 『おほほほ、イフ、それは貴方の好きな踊りなの? そろそろ、その踊りにも飽きてきたわ』

 『黙れ』

 イフの力を込めた渾身のパンチが、エイナスの(あご)に迫る。エイナスに(まと)う風が、エイナスの体を右に押して、イフの一撃を(かわ)す。イフのボディブローをエイナスに纏う風が、体を後ろに押して紙一重で躱す。エイナスに纏う風が、空を切ったイフのパンチの力を逆手に取り、力を逃がす様に腕を押す。イフの拳は大振りになって体が泳いだ。

 エイナスの黒いサーベルが、イフの腹を突く。

 イフの動きが一瞬止まる。イフはガハッと口から血を吐いた。視線を下に向けると、腹から背にサーベルが貫いていた。

 『あら、急所だけは外したのね。私に一瞬でも(すき)を見せたら終わりよ。覚えておきなさい』

 エイナスは、イフの腹からサーベルを引き抜くと、イフの喉を狙い、再びサーベルを突く。サーベルの剣先がイフの喉元に迫った時に、エイナスは体をくの字に曲げて後方に飛ばされた。

 イフの正面蹴りがエイナスを(とら)えたのだ。しかし、イフは片膝を着き、腹を押さえていた。その拳からは、黒い炎は消えていた。

 『エイナス、勝ち誇り、隙だらけであったぞ』

イフは、口から血をたらしながらニヤリと笑った。

 エイナスは、地に這いつくばったまま、恐ろしい形相をして唇を噛む。

 『おのれー、イフ、貴様を切り刻んでやる』

エイナスは、立ち上がると頭上で片手を回し始めた。

 大地がビリビリと振動を始め、夜空から無数に生まれた灰色の竜巻が伸びてきた。その竜巻が地上に達すると岩と砂、残雪、地上の全てのものを巻き上げる。竜巻の周囲の大地は、抉り取られ、削ぎ取られた大岩が次々と吸い込まれていった。

 無数の竜巻は、大くねり、不規則な動きをしながらイフに迫る。

 これを見たデューンが、

 「だ、大地が砕かれ、何もかもが、吸い込まれて行く。・・・もはやこれは、天変地異の大災害・・・イフ、大丈夫か・・・」

と、不安げな視線で呟いた。

 イフとエイナスの戦場から離れること200m。ルーナと水魔神ニュクノスが死闘を繰りひろげていた。

ルーナとニュクノスの間を、エイナスが起こした竜巻が、轟音を上げながら通過していく。ルーナとニュクノスは、岩と石、砂などが高速で巻き込まれていく中でも、瞬き一つせずに睨み合っていた。

 ニュクノスは、三又の槍で竜巻の向こう側にいるルーナを指す。大量の水が、水龍となって竜巻を回りこむようにして、ルーナを襲う。竜巻の死角から飛び出して来た水龍は、口を開きルーナを呑み込もうとするが、一瞬にして凍り付いた。

 『ニュクノス、何度やっても同じよ。貴方はわたくしとの相性は最悪。貴方に勝ち目はないわ』

ルーナがそう言う。

 ルーナの周りには無数の凍り付いた水龍があった。

 ニュクノスの周りは、星の光に照らされてキラキラと輝く氷の結晶で満ちていた。

 『ルーナ、相性に頼ると、足元を(すく)われるわよ』

 竜巻が通過して、ルーナとニュクノスを隔てるものがなくなった。

 『大海嘯(だいかいしょう)

ニュクノスが掌をルーナに向けると、その前方から巨大な津波が水壁となって競り上がってきた。

 その津波が凍って氷壁となる。ルーナがニュクノスの周囲に、密かに張り巡らせていた極低温の冷気が津波を凍らせたのだ。

 しかし、凍り付いた氷壁を越えて膨大な水量の津波がルーナに迫る。その津波も氷壁と変わるが、それを越えて更に高い津波が押し寄せる。

 『物量で押し切るわ。全て凍らせることができるかしら』

 『・・・・・』

ルーナは、両手を前に突き出して魔力を込めた。

 高い津波が何度も押し寄せ、氷壁となってルーナに徐々に迫る。

 『凍らせるよりも、水を発生させる方が、消費する魔力の負担は少ないのよ』

 ルーナを膨大な水量の津波が包んだ。結果として、ルーナは、自分の魔力で自身を凍った津波に閉じ込めてしまった。

 『慈愛神獣雪乙女ルーナ、自分自身の魔力で氷漬けにされる気分はいかが? この槍で止めを刺してあげるわ。おほほほほ』

 ニュクノスは、高笑いをしてルーナに歩み寄って行った。

 「ルーナ様が危ない」

ディフレクトシールドの中で、レミが叫んだ。

 「だが、我々が行って手助けできるものでもない。足手まといになるだけだ」

リッキが唇を噛みしめた。

 「神獣様は、私たちを巻き込まないように、距離を置いて戦闘をしているに違いない」

ハフも拳を強く握った。

 「・・・俺たちは無力だ・・・何もできないでいる」

ガイは、窮地に追い込まれている一寿を見ながら呟いた。

 「・・・アソコ」

パンジェが、崖の上を指さした。

 「どうしたんだ、パンジェ」

 「オレノ カン。アソコ、キケンニナル。・・・シールド トイテ」

 「は、はい・・・」

パンジェが、崖の上を見つめて走り出した。

 「パンジェ、何があるんだ・・・ちっ」

デューンは、舌打ちをして、パンジェの後を追った。

 「デューンまで何を・・・しょうがない」

ガイもパンジェとデューンの後を追って駆けて行った。


 5:50 ミストアビッソ城 西上空

 「うおぉぉぉぉぉぉ!」

 「きゃぁぁぁぁーー!」

ダイチとテラが絶叫する。

 ダイチとテラを背に乗せたカミューとキュキュは、高高度から滑空による急降下をしている。

 カミューとキュキュの背に跨り、競馬の騎手の様な前傾姿勢を保ってはいるが、ダイチもテラも髪は全て後ろに靡き、風圧で唇が開き波打っている。つけている暗視ゴーグルが風の抵抗を受け、首に負担がかかる。

 『主、あの城に魔王ゼクザールがいる。早く龍神白石を我に渡せ』

 「・・・あー、な・・・何か・・・言ったかー!」

 『ダイチ、思念会話に集中しろ。カミューが、龍神白石をよこせと言っている』

 「くっ、テンパっていて忘れていた。風圧が・・・ちょっと、待て」

 『待てぬ。時間がない』

 ダイチは、片手でカミューの金の髪を握りしめ、もう一方の手でアイテムケンテイナーから、龍神白石を取り出そうと手を伸ばす。姿勢が変わりダイチの体に一層の風圧がかかる。ダイチは、体ごと後ろに持っていかれそうになって、カミューの金の髪を握る手に力が入る。ようやく、アイテムケンテイナーに手を忍ばせて、手探りで龍神白石を掴んだ。

 「白い光を放っている・・・人々の願いと祈りの全てが、この白石に込められているのだな」

 ダイチは上体を起こし、龍神白石をカミューに渡す。

 カミューが左手でこれを握ると、ピカーーーーッと眩いばかりに光を放ち、夜明け前の空と大地を太陽の光の様に照らした。民の祈りと願いが込められた龍神白石を、魔族領で持ち歩くことは、居場所を知らせる事になるため、ダイチが急襲直前まで保管していたのだ。

 カミューが、隣で飛ぶキュキュに跨っているテラに思念会話を送る。

 『もう、龍神白石の光で我々の存在が魔族にばれた。テラ、城の最上階、2本の塔に挟まれた大きな三角屋根が見えるか』

 「はい」

 『そこだ。飛べ』

 カミューの言葉が終わらない内に、無属性魔法:ムーブメントで、テラは城の最上階にある屋根の上に立った。

 テラは、アダマント製斬魔刀、飛願丸を数回振り、その屋根に大穴を開けた。切られた屋根の落下と重なるようにして、その穴にカミューに跨ったダイチが突入する。続いて突入して来るキュキュの背にテラは飛び乗った。

 ダイチの肩掛け鞄に入っていたクローが、特異スキル完全感知を使う。 

 『魔王ゼクザールは、3時の方向、距離34m』

 カミューが口を開くと(のど)が発光する。間髪入れずに、神龍の息吹を吐いた。白い閃光が一直線に床を貫く。カミューとキュキュは部屋の床に衝突する手前で旋回する。

 白い閃光から生まれたゴゴゴゴゴゴーッという轟音(ごうおん)が、ダイチとテラの耳を刺激する。

 『躱された』

 カミューが第2撃となる神龍の息吹を放とうと口を開ける。城の床が崩れ落ち、壁も崩落していく。その落下する瓦礫の間から炎が吹き上げて来る。

 カミューの眼が光ると、水竜巻が起こり吹き上がる炎を包む。

 「城が倒壊する。カミュー、上昇だ」

 『くっ、キュキュ、上昇するぞ』

 『キュキーン』

 『主、ゼクザールの気配が消えた』

 「・・・消えたって・・・死んだのか?」

 『違う。気配が消えたのだ』

 カミューは、崩落する屋根と壁を尻尾で弾き飛ばしながら、キュキュと共に急上昇をして、上空へと舞い上がった。

 「瓦礫の間から吹き上がって来た炎は、神龍の息吹の影響か?」

 『それも違う。魔神のカウンターだ。来るぞ』

城の周囲から魔族親衛隊が一斉に飛び上がって来る。

 神龍の息吹の閃光が、前方から飛び上がる魔族親衛隊を呑み込む。その閃光は、城の周囲にあった岩山を溶かし、森を一瞬で消滅させていた。

 キュキュの古代龍の息吹が、側面から舞い上がって来る魔族親衛隊を消し去る。

 ダイチは、後方から密集して舞い上がる魔族親衛隊の一団の中央に位置する1匹を睨む。


 ガスタンク

  「エクスティンクション」


 魔力がわずか1の魔法使いであるダイチは召喚術士である。

 召喚無属性魔法エクスティンクションは、目標の1点に反発エネルギーであり、負の圧力を持つダークエネルギーを召喚する。

 魔族親衛隊の一団の1匹から透き通った球が膨張した。それは瞬きよりも短い出来事だった。

 球が目に見えた訳ではない。ダイチの想定した効果範囲であるガスタンク大の直径30mの透き通った球が存在を示すかのように、球形の輪郭内で背景が歪んだのだ。

 その刹那、球形の輪郭が1点に収縮し消滅した。飛行する魔族親衛隊の31匹が一瞬にして消滅していた。

 ダイチは、エクスティンクションのリキャスト9秒を心でカウントを開始する。

 魔族親衛隊から無数の魔法が飛んで来た。炎弾や氷柱、風の刃がダイチたちを襲う。

 カミューは、神龍の息吹で、この魔法攻撃とそれを放った魔族親衛隊を一気に殲滅する。

 キュキュも古代龍の息吹で、残りの魔族たちを消滅させる。

 突然崩れ落ちる城から噴き出して来た炎柱が、キュキュの側面を掠める。

 キュキュはバランスを崩して、テラを乗せたまま落下して行く。

 「テラ、キュキュー」ダイチが振り向き叫ぶ。

 カミューが、火柱の噴き出した位置目がけて、神龍の息吹を吐く。

 朱色の体に黒い翼を持つ何者かが城から飛び出ると、神龍の息吹の閃光が城を完全に消滅させる。

 キュキュは錐揉(きりも)みになりながら、落下して行く。

 『あれは魔神だ』クローが思念会話で伝える。

 朱色の体に黒い翼を持つ魔神が、掌をカミューに向けると、炎球が現れ、それがカミューを高速で襲う。

 カミューはダイチを乗せたまま、火球を躱そう飛行するが、火球がカミューの直前で爆発してカミューが炎に包まれる。

 『ダイチ、呼吸を止めろ。肺が焼ける』クローが思念会話で注意喚起する。

 キュキュは、錐揉みを制御して体勢を整える。

 魔神が、炎に包まれたカミューに、次々と火球を撃ち込む。

 「うがっ、熱いー!」ダイチは炎に包まれ、心の中で悲鳴を上げる。

 カミューは、炎に包まれながら神龍の息吹を撃つ。

 キュキュはテラを乗せたまま、急上昇する。

 神龍の息吹が、火球を粉砕しながら一直線に魔神へと伸びる。

 魔神は、これを躱そうとするが、神龍の息吹で左足を失う。

 キュキュは、火球を撃ち込む魔神を狙い黒い炎を吐く。

 不意を突かれた魔神は、キュキュの黒い炎の直撃を受ける。

 『止めだ』カミューが口を開くと、喉が発光した。

 カミューに分解球が飛んで来る。

 『魔神の伏兵だ!』カミューは体を捻り、寸でのところで分解球を回避した。

 「うわぁー」

ダイチは、カミューの背から宙に投げ出された。

 魔神から出た青白い光が、キュキュに吸収される。キュキュは、一直線に朱色の体に黒い翼を持つ魔神に向かう。

 もはや、キュキュの眼には、朱色の体に黒い翼を持つ魔神しか映っていなかった。


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