11 ロスリカ王国の闇
テラたちを乗せヘッドウインド号は、ロスリカ王国サンルーズ港に入港した。キュキュは、テラから役割を託され、近くの森へと飛んで行った。
サンルーズ港は、スロスリカ王国最大の港湾都市である。現在も産出される砂金による一攫千金を狙い、ホモ・サピエンの移民で賑わう活気あふれる街だと聞いていたが、その路地裏には、憂いに満ちた表情や荒んだ眼をしたドワーフやエルフ、獣人たちが座り込んでいた。
ドワーフやエルフ、獣人たちの多くは仕事にもつけず、奴隷同然の扱いを受けて暮らしていた。
入港後には、入国審査と語り数十名の警備兵がどかどかと船に駆けあがって来ては、船員に詰問をした。まだ、ルカの民の女性を捜索していると言う事であったが、ホモ・サピエンスではないドワーフのファンゼムと白熊獣人のリッキは、警備兵から執拗な審査と差別的な言動をされた。ホモ・サピエンス以外の人間への人種差別が色濃く反映されていたのだ。
テラたちは、ロスリカ王国教都ロロスの情報収集のためにパー商会に来ていた。パー商会は、サンルーズの好景気に後押しされて、更に立派な店構えに変わっていた。
パー商会店主クアナ・パーは、12年前にバルバロス海賊に船と積み荷を奪われ、ボートで漂流しているところをマーマンに襲撃され、既の所を女神の祝福に救助された過去があった。
パーは、小柄ではあったが、商会店主と船長を兼ねていることもあり、色黒で筋肉質であった。4年前に事故に遭い、右足に大怪我をしたため、今でも足を引きずる様にして歩いていた。
パーとテラたちは、互いの再会を喜び、笑顔で挨拶を交わしていた。
「パーさん、教都ロロスと国王についてお聞きしたいことがあります」
と言うテラの言葉にパーの表情は曇り、キョロキョロと辺りを見渡し小声で、
「・・・ここではなんですから、奥の部屋でお話ししましょう」
と、奥の1室に案内された。
奥の個室で、パーからの説明を聞いていたテラが、真剣な眼差しをして問いかけた。
「パーさんのお話では、ロスリカ王国は、4年前に聖ヴァングステン・ホグザルト国王が即位すると、ルクゼレ教を国教と定めた。そして、王都をルクゼレ教の聖地ロロスへと遷都して、その地を教都ロロスと改めたということなのですね」
「その通りです。そして、現在は、ルクゼレ教に改宗した者だけが、この国の主要産業となる砂金に関係する職に従事することができます」
「ルクゼレ教と砂金がセットになっているのですね」
「砂金がこの国の重要な資源である以上は、それを国が管理する。それも止む無しのところはありますが、入信するにしても、ルクゼレ教の経典が酷過ぎます。
ホモ・サピエンスは神が創造した最上位の人種で、万物の頂点に立つ。ホモ・サピエンス以外の種族は、来世にホモ・サピエンスへと生まれ変わるために、現世でホモ・サピエンスのために尽くさなければならないとされています。
つまり、ルクゼレ教に入信すれば、来世のホモ・サピエンスへの生まれ変わりは約束されると言う事ですが、現世での人権は厳しく規制され、惨い差別を受けたままです。
その一方、ルクゼレ教に改宗したホモ・サピエンスには、上級市民としての特権が与えられます」
「ホモ・サピエンス以外の人々は、母国へは戻らないのですか」
「ホモ・サピエンス以外の者に移動の自由は認められていません。一度この国の臣民となれば、この国のから出ることはできませんので、この惨状を他国の者が知る術もありません。
いや、知っていたとしても、この国の砂金欲しさに見て見ぬ振りをしているのかもしれません」
『事の良し悪しは子供でも判断できる事柄なのに、人間とは、目先の利益に目を奪われる生き物なのね』
マウマウが、そう呆れてテラに思念会話で話しかけてきた。
マウマウの言葉を聞いて、テラは、自身も心に抱えている人間の醜い業が、黒い霧となって両肩へ覆い被さって来る感じを覚えた。
レミは、この国の施策がもたらすものについて言及した。
「この国は、人種や民族で人を差別し、その心まで分断しているという事なのですね」
白熊獣人のリッキが、
「砂金と特権という餌と、過酷な身分制度による統治か・・・胸糞悪い」
と、吐き捨てた。
「こりゃ、最悪の国じゃぞい。どえらい国に来ちまったな」
「ファンゼムさん、パーさんの前ですよ」
レミが、嗜めた。
「いえ、お構いなく。私と家族も、ルクゼレ教には改宗する気にはなりません。機を見て他国へ移り住もうと考えていたところです」
「その方が良いかもしれませんね。早めの行動が良いと私は思います」
レミが率直な意見を述べた。
「ところでテラさんたちは、聖ヴァングステン・ホグザルト国王への謁見を希望なさる理由はどのような事なのでしょうか」
「・・・パーさんには、正直にお話しします。この世界が平和となり、人類が繁栄していくための協力要請です」
「あははははっ、世界平和と人類繁栄とは、また壮大な・・・これは失礼、それを可能とする要請とは何なのですか。聞かせてもらえませんか」
「自由と平等の実現です」
テラの言葉を聞いて、にこやかだったパーの目つきが急変する。
「・・・自由と平等・・・しかし、・・・しかしですよ。このロスリカ王国の政策と正反対と言ってもいい。そんな事を願い出たら捕らえられて、最悪極刑になりますよ」
「私たちの仲間も既に各国で国王への説得を開始しています。私たちは、必ずそれを成し遂げられると信じています」
テラの真剣な眼差しと情熱に、パーはテラたちへの誤解に気づく。
「・・・テラさん、皆さん、大変申し訳ありませんでした。
マーマンを撃退した皆様の強さは目にしておりましたが、その様な尊いお志までお持ちの方々であったとは知りませんでした。
私にご協力できる事がございましたら、何なりとお申し付けください」
パーは真摯な表情で協力を願い出た。
テラは、少し考えてから申し訳なさそうにパーに願い出る。
「・・・多人種のいる私たちのグループでは、規制と監視の目が厳しくなると思います。教都ロロスまでの移動に馬が必要です。そこで、馬4頭を手配してもらえませんか」
「あ、それなら5人分の水と食糧も2週間分お願いします」
レミが、慌てて追加注文した。
「承知しました。馬ならここから教都ロロスまでは2日ですが、食料は2週間分も必要なのですか・・・まあ、食料は店で売るほどありますがね。ふふっ」
「はい、『まずは、水と食料の用意は怠るな』。これが、漁師を夫に持つ私の母の信念です」
「ほほぉ、私もそう思います。良いお母さまですな」
パーはそう言って席を立った。
パーは、それから30分後には、注文の品の全てを用意していた。
「街道を2時間ほど行くと、道が左右に分かれます。左は教都ロロス。右はマリアナン渓谷に続いています。
真っすぐには道がありませんが、分岐点から2つの岩が見えるはずです。その2つの岩の間を通って、正面の森を進んでみてはいかがでしょう。深く美しい森です。森林浴できっと心が和みますよ」
「私は海育ちなので、森林浴に憧れます。楽しみです」
レミがいつになく乗り気になっていた。
「はい、それはもう、素敵な森が広がっていますよ。皆様の心のご負担が少しでも軽くなることをお祈りします・・・それから、これを汗拭きにでも使ってください」
と、パーは一人ひとりに汗拭き用の布を手渡した。
テラは、パーから受け取った布を広げると、白い布に藍色で剣と円が描かれ、その円の内側には1本の横棒が引かれ、その両端には小さな三角形がぶら下がっていた。
「この印は・・・これは天秤? パー商会のマークかいな?」
「まあ、そんなところです」
「パーさん、何から何まで、ほんまにおおきに」
ガリムは、礼を述べながら腰のベルトに布を吊るした。
テラとレミは、ダンから預かった伝書鳩のグレートピジョンの入った籠をそれぞれ馬に結びつけた。
テラたちは、馬に跨り教都ロロスに向けて出発した。
サンルーズの街を出ると、冠雪した山脈が遥か遠くに見えた。青く透き通った空にキュキュの小さな黒い影が円を描いている。
遷都してから4年とまだ間もないが、教都へ続くメイン街道とあって、整地された道が続いていた。
パーの言っていた分岐点に出た。
街道は左右に分かれていたが、正面には2つの岩が遠くに見えた。更にその奥には森が黒く見えていた。
「森林浴、森林浴! テラ、ファンゼムさん、リッキさん 行こう。行きましょうよ」
「パーさんのお勧めだからね。私も楽しみだわ」
テラたちは、街道を逸れて美しい森の中へと進んで行った。
「この森は静かでいいのぉ。じゃが、ちと寒くなってきたのぉ」
「ファンゼム、俺は何者かに見られている様な気がしてならんのだが・・・」
歴戦の勇士リッキが不穏な空気を感じ取っている様だった。
その様子を見て、レミが不安がる。
「・・・嫌だわ。リッキさん、魔物の気配がするのですか」
「何とも言えんな・・・ただ、視線を感じるだけだ」
「確かに見られている感じがする」
テラも馬上から、辺りを警戒していた。
『テラ、この森に魔物は確かに棲んではいるが、周りで身を潜めているのは人間だ』
「やっぱり、人間に監視されているのね」
手前の茂みがガサッと音をたてると、武器を手にした数人の男女が立ち上がった。
「きゃー、さ、山賊!」
レミが悲鳴を上げると、レミの騎乗する馬も嘶いた。
前には、獣人とドワーフの男女4名が立っていた。
「・・・待ちな」
獣人の男が剣を肩に置いて、気怠そうに声を掛けてきた。
「出てきなさい。それで囲んでいるつもりなの」
テラが厳しい目つきで叫んだ。
テラたちの周りから、獣人とエルフ、ドワーフなどの男女が立ち上がった。総勢20名を超える男女が弓や剣を構えていた。
ドワーフの1人が前に進み出ると、凄みを利かせた声色で脅しをかけてくる。
「武器を捨てろ!・・・ん、ドワーフと獣人もいるな・・・」
「そうじゃ、儂はドワーフじゃ。そして、隣の者は白熊獣人じゃ」
ドワーフの男は剣先をファンゼムとリッキに向ける。
「・・・・ホモ・サピエンス以外には用がない。お前たちは逃がしてやる」
「断る。このホモ・サピエンスたちは、儂らの仲間じゃ」
テラがドワーフの男を睨んで問いかける。
「貴方がリーダーね。私たちに何の用なのかしら・・・貴方たちが山賊なら、私たちは戦うわ」
「俺たちは、お前たちホモ・サピエンスにだけ用がある」
男は剣先をテラとレミに向けた。
リッキは無言のまま馬を降り、ミスリル製のウォーメイスを手にすると表情が豹変し、取り囲んでいる者たちに対して、リッキから強烈な殺気が発せられた。
取り囲む男女は、明らかに怯んだ。その中でドワーフの男だけがリッキの眼を睨んでいる。
「お前は相当の手練れだな」
と、リッキに問いかけた。
リッキは、抑揚のない口調で呟く。
「我らは皆、人外の如く強い」
ドワーフの男がファンゼムやテラ、レミに目をやる。
「ふん、お前以外は、そうは見えんがな」
「あら、そうなの?」
ドワーフの男の背後に突然現れたテラが、アダマント製斬魔刀の飛願丸の刃をその男の首元に当てて言った。
「・・・・うっ、い、いつの間に・・・いや、何者なんだ」
ドワーフの男は、身動きせずに目玉と唇だけを動かした。
テラたちを囲む者たちも色めき立ったが、テラが鋭い視線で制した。
「・・・私はテラ。貴方は?」
「・・・・・」
「この野太刀は重たいのよ・・・ほら、切先が震えているのが分かる? ぐずぐずしていると、耐えきれなくなって、その首を刎ねてしまうかも・・・」
「・・・・」
テラの飛願丸の刃が、ドワーフの男の首に当たり、その首に薄っすらとした切り傷ができた。
「・・・うううっ・・・ギャレル・・・」
「そう、ギャレル・・・何のつもりで襲ったの?」
「ホモ・サピエンスのお前たちが一番分かっているはずだ」
「私は確かにホモ・サピエンスよ。ある使命があって、今日この国に来たばかりのね」
「・・・本当なのか・・・ルクゼレ教信者ではないのか?」
「当然よ。人種差別をするルクゼレ教なんて最低だわ。それを壊したいのよ」
「・・・・・」
ギャレルは、無言のまま半信半疑の表情を浮かべた。
「その布を見せてもらえますか」
ファンゼムの腰に掛けた白い布を指さして、羊獣人の女性が尋ねた。
「この汗拭きかね」
ファンゼムが腰の布をその羊獣人の女性に渡した。
「これをどうしたのですか」
布のマークを見て、ファンゼムを覗き込んだ。
「知り合いから、貰うた」
その羊獣人の女性が、テラに向かって語りかける。
「私は、サヨ。ごめんなさい。私たちは勘違いをしていたみたい。
私たちは人種解放軍フリーダムの戦士よ。お願い、ギャレルを離して」
テラは、ギャレルの背を押した。
サヨがギャレルに布を見せる。
「・・・これは、ジャスティスの印・・・お前たちは何をしにこの森へ来たのだ」
ギャレルは、目を見開き、ファンゼムやテラたちを見回して尋ねた。
「森林浴よ」
レミがきっぱりと断言した。
「・・・・・ぷははははっ、森林浴か、それはいい」
「何がおかしいのよ」
「では、聞き方を変えよう。この国に来た目的は何だ」
「私たちは、人類の平和と繁栄のために、差別のない平等な世界を目指している。そのためにこの国に来たのよ」
「差別のない平等な世界か・・・。その布を持っていたのなら、このまま帰す訳にはいかない。ついてこい」
「なぜ、儂らがお前たちに付いて行かねばならんのじゃ」
「その布が、そうしろと言っている。ついてくれば分かる」
テラは、パーから貰った布を眺めながら、
「分かったわ。一緒に行くわ。パーさんは、きっと私たちが貴方たちと行動を共にすることを願ったのね」
と、仲間を見た。
リッキは、
「テラ、このまま彼奴らに付いていくのだな」
リッキは、ウォーメイスを腰に戻しながらそう言った。
「うん」
「やれやれ、とんだ森林浴じゃわい」
「パーさんは、『皆様の心のご負担が少しでも軽くなることをお祈りします』と言っていたわ。きっと、これはその事に繋がるのね」
テラは、白い布を握りしめて呟いた。
テラたちは、ギャレルたちの案内で、美しい森をかなり深くまで歩いた。やがて、滝の音が聞こえてきた。
「おぉ、なんと雄大な滝じゃ」
ファンゼムが、感嘆の声を上げた。
「あそこに虹がかかっているわ。とっても素敵な場所ですね。森林浴を勧められて良かったわ」
レミが、能天気に指さした。
リッキは、立ち止まって滝の奥をじっと眺めていた。
テラは、密かに黒目だけを空に向け、高高度で飛行するキュキュを確認していた。
ギャレルたちは、水飛沫の舞う滝壺の裏へと回った。滝裏には洞口がありそこから奥へと入って行った。
「ギャレル、その者たちは何だ」
「クイグルさん、哨戒中に遭遇しました。これを見てください」
ギャレルは、河馬獣人である人種解放軍フリーダム第1戦士隊長クイグルに白い布を渡した。
「ジャスティスの印・・・副指令長官に合わせるしかないな」
ギャレルは頷くと、テラたちに手招きした。
ここは森に囲まれた深い渓谷の上であった。堀と柵が張り巡らされた環濠集落であり、柵の内側には大小の小屋と崖に開けられた洞穴が無数にあった。
戦士たちが、集落内で剣の稽古をしている。その脇では、弓、格闘等の訓練をしていた。
「この横穴に入れ」
横穴の壁には、ランプが灯されていた。迷路のようにいくつもの枝分かれした先に広い空間があった。そこは、ドワーフや獣人、エルフたちの声が響き、人で賑わう地下街の喧噪といったところだった。
商売をしているドワーフが、ホモ・サピエンスのテラとレミに目をやる。立ち話をしている獣人とエルフが、テラとレミを訝しげな目を向ける。ここでは、ホモ・サピエンスがマイノリティとなっていた。
扉の前でクイグルとギャレルが目配せをした。クイグルだけが扉の中へ入っていた。
暫くすると、クイグルが扉を開けて、
「入ってこい」
と、不愛想にテラたちを呼んだ。
「私が人種解放軍フリーダム副司令長官のドロン・ドドだ」
長い2本の牙が上顎から伸び、リッキを越える身長と厚い脂肪に覆われた胴、身長の割には短い2本の足を持つセイウチ獣人ドロンが、ジャンボサイズの椅子に腰かけながら名乗った。
「私は交易・冒険者チーム、女神の祝福のリーダーのテラ、そこにいるのはメンバーのファンゼムとリッキ、レミ」
「ジャスティスの印を持っていたと聞いたが・・・」
「ジャスティスの印?」
フリーダム第1戦士隊長クイグルが手に握っていた布を黙って広げた。
「この印が、ジャスティスの印なのね」
ドド副司令長官が、ゆったりとした口調で説明した。
「・・・我ら人種解放軍フリーダムの旗印だ」
ギャレルがドド副司令官を見て、
「ドド副司令、この者たちの目的は我らと同じ。差別のない平等な世界を目指していると語りました。そして、そのためにこの国に来たとも」
と、説明をした。
ドド副司令は、深い顔の皺から覗く、真ん丸の黒い瞳を輝かせ、
「むう、ならば単刀直入に申す。
人種差別に苦しむ人間の解放を目指し、我らと共に戦わぬか」
と、テラたちを誘った。
「貴方たちは、誰と戦うの?」
「人種差別の根源、聖ヴァングステン・ホグザルト国王とルクゼレ教徒と戦う」
「それは、武力衝突での戦い?」
「人種解放軍フリーダムの旗印は、ジャスティスの印。
これは剣と天秤。剣なき秤は空虚、秤なき剣は暴挙。
我らは、4年間に渡り聖ヴァングステン・ホグザルト国王の悪政とルクゼレ教の差別と偏見に満ちた馬鹿げた経典を、我らの天秤でその正邪を測ってきた。
我らに結論に達した。剣を取るべきだと」
「私たちは、聖ヴァングステン・ホグザルト国王に人類の平和と繁栄、自由と平等を提案するために来たのよ」
テラは首を横に振りながら、ドド副司令に決意を告げた。
「我らも話し合いによる解決を何度も試みたが、何も変わらなかった。そして、その度に、我らが血の代償を支払うだけであった。其方たちも・・・
我らの決意と武による行動が、差別を受け奴隷として耐えている民6万の心に火をつけるのだ」
「我々は、ホグザルト国王に提案のため、これから教都ロロスへ赴く。兎に角、軽率な行動は起こさないでほしい」
今度はドド副司令が、テラに決意を告げる。
「あと6日で、ルクゼレ教大神ダキュルスへの感謝祭だ。我らはその時に行動を起こす」
ファンゼムは、叫んだ。
「ダ、ダキュルスじゃと!」
「今、ルクゼレ教大神ダキュルスって言ったよな」
「ダキュルス教って、他国でテロを起こした宗教でしょう? 魔族崇拝だと噂を聞いたけれども、この国では、ダキュルスは神なの? それとも違う神のことなのかしら」
レミが率直な疑問を口にした。
テラは思念会話で、マウマウに話しかける。
「何か怪しい雰囲気になってきたわね・・・マウマウはどう思う」
『ルクゼレ教とダキュルス教の奉る神は、同じかどうかは分からない。もし、同じだとしたら、宗教名は異なるが、根っこは同じ。魔族と関係ありそうね。
それに人種による分断は、魔族を利するだけだ。全てが魔族の離間工作と考えると辻褄は合う』
「そうなると、国の政策立案や意思決定をしている重臣たちの中にも、魔族が潜んでいるという事も考えられるわ」
『十分考えられる。問題はどの程度かになる』
「人間の善意や良心を信じての提案と考えていたけれども、魔族が相手となると違ってくるわね」
『予定通り、サクの出番がありそうね』
テラは、ギャレルに願い述べる。
「ギャレルに頼みがある。もし、我々が3日目の朝までにこの地に戻らなければ、このグレートピジョンを放してほしい。我々が失敗に終わったことを仲間に知らせたい」
「承知した。提案が首尾よく行けば、我々の軍事作戦も不要となる・・・テラたちには悪いが、それは、万に一つの可能性も無い事だと考える」
「教都には、魔族が潜んでいることも考えられる。フリーダムの皆さんも、十分に用心してね」
ドド副司令が、驚き声を上げる。
「魔族だって・・・」
「ええ、私たちのいた大陸では、魔族を崇拝するダキュルス教が魔族の手先となって事件を起こしている。この国のルクゼレ教大神ダキュルスが偶然の一致だとは思えない」
「分かった。慎重に行動することとしよう」
「ファンゼム、リッキ、レミ。気を引き締めて行くわよ」
「「「了解」」」
テラたちは、聖ヴァングステン・ホグザルト国王に提案すべく、教都ロロスへと馬を進めていたが、国教であるルクゼレ教の存在が黒い影が気になっていた。
教都ロロスまで、あと十数キロと迫った所で、テラは首に掛けていた導きのペンダントを手に握り、マナを込めた。
ドドドーンと凄まじい雷が目の前に落ちた。衝撃で空気が、地面が震動した。落雷の跡には、馬に乗る黒い騎士の姿があった。
「サク、私たちが向かっている教都ロロスの雲行きが怪しくなってきたの。魔族の影がちらつくのよ」
『・・・承知した。魔族を察知したら教えよう』
「勿論、サクは、気配を絶ってね。
聖ヴァングステン・ホグザルト国王との会談も成功させたいから、出会った魔族は、密かに倒していくわよ」
『承知した』
テラは、サクに気配を絶ち、魔族には気づかれずに全て倒すと、極めて難易度の高い要求をしたが、サクは即答で答えた。




