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第10章 失敗と成功からの学び

第10章 失敗と成功からの学び  


 ドリアドの街に向かう途中、俺は殿として馬車の後ろを歩いている。俺はクローを脇に抱え、独り言のように話しかける。話題は、少し遅い朝食の時に指摘された2種類の魔法のことだ。

 「クロー、結果だけみれば、確かに2種類の魔法に見えたのだろうな。俺の失敗と成功を聞いてくれ。エクスティンクションの召喚点となる1点について、俺が感じていた違和感は、魔法のイメージからくるものだったと気づいた。魔法は火の玉とか雷とか岩とかを発生させて、魔物にぶつける俺のイメージの延長から抜け切れなくて。練習を始めたころは、魔物の腹とか頭とか肉眼で見える表面にダークエネルギーを召喚させようと考えていた。でも、エクスティンクションは俺がイメージしていた魔法とはタイプが全く違うから、1点の狙いを従来の魔法のように発射と着弾をイメージした練習では違和感があった。狙った1点でのダークエネルギー召喚なのだから、『一撃必殺の効果を発揮できる1点、どんな魔物にも通用する1点、この無属性魔法の最も効果的な1点、それはどこだ』と、自問するだけで答えは見えなかった。だけど砂のついた焼き魚を食べた時に、口の中のじゃりっとした嫌な感覚から、魔法でダークエネルギーを魔物の体内に召喚させるという発想が生まれた。つまり、表面の1点から体内の1点という発想に変わった。これなら、例え強力なバリアを張る魔物相手であっても、バリア関係なしに効果を発揮できる。それからはこのイメージを繰り返し練習してきた」

 この魔法は、「召喚する1点のコントロール」と「想定範囲内に効果を留める魔法操作」が重要になる。それを誤れば、ダークエネルギーが暴走する危険性がある。

 「初の実戦となった1度目の弓オーク兵、あれは完全に失敗だった。まず第1に、1点のコントロールだ。俺は視界に捉えたオーク兵の頭の中を狙っていた。それが胸の奥でダークエネルギーを召喚させてしまった。1点のコントロールが甘かった。第二に効果範囲の制御だ。半径五センチの球形をイメージしたが、半径3メートル程に効果範囲が膨れ上がってしまった。それでも、丘全部を消滅しなかったことは幸運だった。つまり、効果範囲の制御に失敗した。効果範囲の大きさばかりに意識がいって、球の形がぼやけていた気もする。いくら巧緻性が高くてもイメージが曖昧では、魔法制御はできないということを学んだ」

 ダイチは、リキャストのカウントダウンの中で、失敗の原因、修正点も考えていたのだ。

 「2度目のエクスティンクションは、ほぼイメージ通りだった。効果範囲設定にソフトボールが閃いた。1度目の弓オーク兵では、①召喚する1点をイメージして設定し、次に②効果範囲をイメージして設定した。空間に異なる二点をイメージするとイメージがぶれてしまい、その結果失敗。2度目は、瞬時にイメージする必要のある場面だったので、オークの頭の中にソフトボールをイメージした。ソフトボールの中心点めがけてエクスティンクションと唱えただけだ。簡単に言えば、効果範囲をイメージし易い実物にして、その中心点にダークエネルギーを召喚した。それがコントロールと効果範囲の制御が高まった理由だと確信している」

 それから思わぬ発見もあった。

 「クロー、ちゃんと聞いているか。偶然に発見できたこともあった。2度目の魔法発動直前にバイカルさんが目の前に姿を出し、3匹目のオーク兵が視界から消えた状態だったにもかかわらず、オーク兵の頭の中の1点に召喚できたことだ。明確なイメージさえできれば、視線を切っていても、また、障害物越しでも命中するということだ。まあ、ターゲットめがけて飛んで行く魔法ではないので、今考えれば当たり前のことなのだけれどもね。バイカルさんに直撃していたら大変なことになっていた。結果オーライだ」

 エクスティンクションの失敗と成功から学んだことを反芻し、クローに話をすることでだいぶ整理された。

 「次回のエクスティンクションの時には、ゴマつぶ、ビー玉、ピンポン玉、スイカ、運動会でよく使う大玉とか自分が瞬時にイメージしやすい物に例えるつもりだ。クローはビー玉とかわかるか?」

 「それから、リキャスト9秒はとても長く感じたよ。全部がスローモーションに見えて頭の中だけがグルグル回転していた感じだ。走馬灯のようにってやつだな」

 今回はよい結果であったため、ダイチは喜びと充実感で満たされて興奮していた。そのためクローに饒舌に話していた。クローは途中から寝ていたのか、喜んで聞いていたのかは知る由もない。

 ダイチは魔法発動前に、襲って来たオーク兵の命を奪う恐怖のことをすっかり忘れていた。


 3日目の朝、俺はエマちゃんのタンポポの綿毛攻撃によって目が覚めた。寝ている俺の顔めがけて綿毛を吹きかけてくる攻撃だった。タンポポの綿毛がフワフワと頬や耳、鼻に触れ、むず痒くて目が覚めたのだ。目を開けるとペーター君はタンポポを数本持って脇に立ち、俺を見つめていた。第2波の攻撃も控えていたのかと笑いが込み上げてきた。残念だったなぺーター君。

 これを見てミリアさんは、目を細めながら、

 「まあ、なんてことを、ダイチさんごめんなさい。本当に・・・この子達ったら、フフッ」

 「何じゃ、どうせ起こすんなら、これを顔の上に置いてやるといいぞい」

と、ガリムさんがアゲハチョウの幼虫のように緑に白と黒の模様のついた芋虫をつまんでペーター君に手渡していた。頭の後ろから橙色をした匂いのきつい角を出していた。エマちゃんは、ペーター君の影に隠れながら興味深々だった。

 「ちょっとガリムさん、待ってよ。こんなのを顔の上に置かれたらトラウマになる」

がははははっと、笑い飛された。陽気で冗談好きの一面を持つガリムさんである。この3日間でも、しばしば場を和ませていた。

 歌好きのエマちゃんが右に左に舞い、手拍子をしながら童歌を歌い出す。

 ♪

 実れよ実れ黄金の海よ

 実る黄金はカミューの涙

 そよぐ黄金はカミューの息吹

 鳥が飛ぶ飛ぶ東空

 虫が鳴く鳴く西の空

 干支の七七柱雲

 お天道様を手に持って

 天の川を泳ぐよ泳ぐ

 風の川を泳ぐよ泳ぐ

 実れよ実れ黄金の海よ

 見つけた見つけたあの子が見つけた

 カミューのお山は黒と赤

 滝とお池はカミューのお宿

 ♪

 この3日間でペーター君もエマちゃんもすっかり俺に懐き、後を追い回して来るくらいだった。ペーター君やエマちゃんは、死の恐怖を感じてどうなることかと心配していたが、見かけ上は、その影響は感じられなかった。

 「つらい記憶を表現できない心情こそ、より深刻な影響を抱えている恐れもある」

と、走り回っている2人を目で追いながら考えていた。

 

 「街に入るぞ、ピーター、エマ、龍神赤石は人には見せないように。魔物は嫌いでも、高価な石を人は大好きなので、お前たちに危険が及ぶ場合もある」

 ピーターは自分のアイテムケンテイナーに、エマは、ミリアの鞄の中に慌ててしまった。

 「人とは難儀なものじゃのー。魔物より欲深い輩もおる」

 馬車の手綱を握りながら、ガリムは街の門を見つめていた。


 昼過ぎに、馬車はドリアドの街に着いた。ドリアドの城壁の門を通過すると、石畳の通りは街の中心へと真っ直ぐに延びていた。通りの左右には西洋風のレンガ造りで2階立ての建物が所狭しと並んでいた。やがて通りは屋台街へと続いた。屋台からは肉を焼く匂いが漂っている。トルコのドネル・ケバブのように香辛料をまぶした羊の肉を鉄棒で吊るして、遠火で焼いていく料理や太いソーセージもあった。

 「香辛料と焼いた肉の匂いが食欲をそそる。たまらないなー」

ダイチは異国のような街並みに興味を抱き、見慣れぬ食文化に食欲旺盛だ。これからの生活に希望が湧いてきた。

 円いパンや長いパンなどを売っている屋台も多かった。是非この屋台街で食べ歩きをしたいと思ったが、所持金は0だった。

 「まず、生活資金だな」

と、下を向いた。

 街の中心街には商店が並んでいた。店の入り口で商品を指さして話をしている人、大きな布袋を抱えて歩いている人、呼び込みをしている人など多くの人々で賑わっていた。服装は、パステルカラーの半袖のシャツと麻のパンツといった軽装が多く、清潔そうな感じがした。パスレルカラーの華やかな模様のついた薄手のワンピースを着ている女性も多く見かけた。


 石畳なのでパコパコと馬の蹄の音が響くが、人混みの喧騒に消えていく。

街の中心にある公園に着いた。公園の中央には噴水と銅像が立ち、公園の周辺は賑やかな商店街となっていた。石畳は中央の噴水へと延びていた。噴水を中心に石畳の十字路が作られていた。

 馬車の中からピーターとエマが、子供たちに手を振ったり、声をかけたりしている。街ではドワーフや獣人も多く見かけた。街に住む人間と和気あいあいと話していることからも、同じ市民として尊重されているようだ。噴水を中心とした十字路を右に曲がりしばらく行くと、街並みは変わってきた。

 ここは製造業を営む職人街となっている。あちこちで鍛冶の音や鋸を引く音、威勢のよいかけ声が聞こえる。木材や大きな麻袋をいくつも積んだ荷台が行き来していた。職人の家は、通りに面した店の裏が作業場、更に奥に住居がある造りが多い。

 馬車は細い道を曲がり、職人街から外れ、更に街並みから離れた一軒の家の裏口に止まった。そこがバイカルの自宅だった。

 馬車が自宅に着くと、ミリアとペーター、エマが荷台から降りて来た。エマが背伸びをしながら欠伸をしていると、

 「バイカル親方、よくご無事で」

 「ハーミゼ高原でオーク軍とローデン王国軍が戦したって聞いたから、気が気じゃぁなかったです」

 「おかみさんとピーター坊ちゃん、エマ嬢ちゃんもご無事で何よりです」

 迎えに出た男性は、この鍛冶屋で職人をしているムパオとバル、ナナイの3人だった。

 ムパオは実直そうな感じのするドワーフで身長は低いが体が大きな筋肉に覆われている。36歳だが、寿命は人間の2倍と言われているドワーフのためか、見た目はまだ十代の若者だ。

 バルは大柄な人間で筋肉質だが、丸く愛嬌のある顔をした32歳。

 ナナイは昨年この鍛冶屋に見習いに入ったばかりのジャガーの獣人で、細身中背でまだあどけなさが残る16歳である。

 「ああ、それがな、オーク兵に襲われてな。危うかった」

 「何ですと、け、怪我はなかったんですか」

ムパオが驚くと

 「本当に無事なんですか。俺たちが、たまには親子水入らずでゆっくりしてきてくださいなんて言ったものだから」

と、バルも詰め寄って来た。

 「ああ、全員無事だ。このダイチに世話になった」

 ムパオとバル、ナナイは一斉にダイチを見た。

 泥だらけだが、派手な赤地に白いラインが入ったスエットを着た男性。この街でも見かけない服装だったのだろう。三人が凝視していた。

 「ダイチ ノミチ といいます。バイカルさんに助けてもらってから、ご一緒させていただいています。どうぞよろしくお願いします」

 「・・・おぉ、こ、こちらこそよろしく。俺はムパオ、ここの鍛冶職人だ。ところでダイチさんは学者さんか。高価そうな黒い本を抱えているから」

 「あぁ、この本ですか。この本はとても大事にしています。お守りみたいなものですよ。それから学者ではなく、無職です」

 「本は形見か何かか。悪いことを聞いた」

ムパオは勝手に納得していた。

 「ゴホン、俺はバルだ。まだまだの鍛冶職人だ。よろしく頼む」

 「ゴホン、俺はナナイだ。鍛冶職人だ。よろしく頼む」

すると、ドワーフのムパオが、

 「こら、ナナイ調子に乗るんじゃない。ダイチさんはお前より年配だからな、礼儀ってもんがある。それからな、ナナイ、お前は、まだ鍛冶見習いだろ。職人を名乗るのは百年早いわ。今度ごまかしたら飯抜きだからな」

 「勘弁してくださいよ。ムパオさん・・・腕はまだまだでも、気持ちは鍛冶職人ですから」

 「よいか、言っておくが、ダイチは俺たち家族の命の恩人なんだ。皆も覚えておけ。」

と、バイカルが太く低い声で言った。

 「「「へい」」」

 「儂もダイチには命を助けられたんじゃ」

 「ガリムさんもですか。ダイチさんは、こんなひょろちい兄さんなのに・・・やば、飯が」

ナナイが口を押えて、ムパオを見た。腕を組んで横目で睨むムパオ。

 「ああ、儂は、危うくオーク兵に頭から一刀両断にされるところじゃったわ」

 「おとうさんは外で戦ってくれていて、ぼくもエマも危なかったです。庇ってくれたお母さんもオークの斧で切られそうになったから」

 相当に厳しい状況だったと3人は理解した。

 「それから、今は休暇でいないが、インゴット職人のキロとクリもいる。2人の精錬するインゴットは良質で、うちの造る武器を支えている。炉の管理も全て2人でしている双子の姉妹だ。まぁ、詳しい話は中に入ってからだ。留守番ご苦労だった。留守の間のことも聞かせてもらう」

ナナイはミリアの鞄を持って

 「お疲れさまです。ささ中へ」

 一行は家の中に入って行った。


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