1ページ 開幕 ①
月に照らされた森は騒いでいる。木が倒れる音が次々に轟く。
「逃がさないよ!」
ネモフィラは、木を蹴りながら飛び回り、二本足で走っている大きい豚を追いかけている。
「これでどうだ!」
手に持っていた大きいハサミを大きく振り、衝撃波を豚に向かって放つ。
衝撃波は、周りの木々を切り刻みながら、豚に近づいてくる。豚は衝撃波に気づき、横へ避ける。
その隙を逃さず、ハサミを二つに割れ、片割れを投げる。豚のお腹に片割れのハサミが刺さり、体ごと木まで貫通する。
豚を捕まえた。
「くそ!取れねぇ!」
豚は腹に刺さったハサミを外そうとしている。
ネモフィラは豚の前に飛び降り、片割れのハサミを向ける。
「おまえらか。俺たちを回収する図書館の管理人っていうのは」
豚は鋭い目つきをする。
「そうよ。あなたたちが人間に被害を与えないようにするために、本に戻して回収しているの」
ネモフィラは答える。
「だから、あとの2匹はどこにいるか、教えてくれない?『3匹の子豚』の長男さん」
ネモフィラは睨みつける。
目の前にいる豚は、『3匹の子豚』の長男。
『3匹の子豚』
18世紀後半に出版されたイギリスのおとぎ話。
3匹の子豚が、藁の家、木の家、レンガの家を作り、それぞれ暮らしていた。
そんなある日、狼が口から吐いた風で藁の家や木の家を吹き飛ばされ、2匹は狼に食べられる。
レンガの家は狼の吐息では吹き飛ばすことはできず、煙突から侵入するも、落下してしまい、3匹目が用意した鍋に入れられ、3匹目は狼を食べてしまうというお話。
その一人の長男が目の前にいる。残りはどこに。
その時、横から魔力を感じる。後ろへ下がらなければ、左から飛んできた木の槍の連続の餌食になるとこだった。
さらに木の槍を持った豚も飛んできた。ネモフィラは後ろへ下がり、豚は木の槍で地面へと叩きつける。
木を出すということは、『三匹の子豚』の次男だろう。
次男が反撃しないように、ネモフィラはすぐに次男に向かう。
次男は木の槍をすぐに地面から引き抜き、木の槍で大ハサミを受け止める。
この木の槍はただの木ではない。魔法で補足され、木の強度を上げている。
その時、ハサミを持った豚は、二人を割り込むように刺さっていたハサミで叩きつける。
長男は戦っている隙にハサミを引き抜き、参戦する。
ネモフィラは距離を取る。
「おい!俺まで巻き込まれるところだったぞ!」
「そのおかげで助かっだろうが」
豚たちはいがみ合うも視線を向けられる。
「さーて。こっちは2対1。しかもおまえのハサミはこっちの手にある」
「どうするのかな。管理人」
相手が挑発してきた。
ハサミで刺さった豚は、お腹に穴を空いているにもかかわらず、思っていたより元気だ。
刺しただけではまだ本には戻れない。Aランクのキャストなだけある。
けど。
ネモフィラは上に飛び、背後から飛んできた豚を兄弟にぶつける。
その衝撃でハサミが豚から離れる。
ハサミを掴み、大きくふり、衝撃波を放つ。
まとめて衝撃波で3匹の子豚を切る。
地面にポトンと落ちた原本を拾い上げる。
「タイミングばっちりだったね。チャールズ」
金髪に青い瞳の男チャールズは、ネモフィラの相方。
図書館の管理人は二人組で組むのが決まり。
「それより早く印鑑を押せ。さっさとしないとすぐに実体化するぞ」
「分かってますって。」
ネモフィラは、印鑑を召喚する。
印鑑は、原本から実体化したキャストを封じ、さらに図書館に転送もできる仕掛けになっている。
印鑑を原本に押す。印から光った光に原本を丸ごと包み込み、原本は消えていった。
「これで、図書館の返却完了!さーて次の仕事は?」
ネモフィラは、チャールズに訊く。
「働き者だな」
「だって。キャストから人間を守り、本を管理することが、私たち図書館の管理人の仕事でしょ」
ネモフィラは、笑顔でチャールズに返す。
「そうだな」
チャールズは気が乗らない様子だか、次の仕事を少女に告げる。
「フィラ。次はドイツに行くぞ」
「はいよ」
ネモフィラは返事を返す。