第8話 剣術指南役/カズヒト
話を変えて少し『文字』についても説明しておきたい。
『謎の種族』は数種類の文字を使い分けるくらいの高等な頭脳を持っていたそうだが、ヤーマ人が直ぐに覚えられそうな文字だけを教えたらしい。
この文字は日本のカタカナに似たもので俺もヒメカに文字を教わった際、とても覚えやすかったのを記憶している。
「大昔はこの文字も少し違っていたそうよ。2000年の間に少しずつ変化したみたい。大昔の謎の種族が書き残した文献は『宝物庫』に保管されているけど、ここへはヤーマ連合王国の国王と、たしか成人したオーガ一族しか入れないことになっているの」
俺がヒメカに文字を教わっている際に彼女がそう言っていたが元々の文字が本当にカタカナだったら笑えない話だなと思ったことがあったよな。
でも、もしそうだとしたら『謎の種族』は日本人ってことになるぞ。
まぁ、日本人の俺がこの国にいるくらいだから無くはないだろうけど……
興味深いけどヒメカが言っていた『宝物庫』にはオーガ一族しか入れないのなら俺は一生、彼等の残した文献を目にすることはできないないだろうなぁ……
でもまぁ文字が今のヤーマ文字じゃないのなら読めないし意味はないか……
「カズヒト、そろそろ私と剣術稽古をしてくれないかしら!?」
色々と考え事をしている俺にヒメカが頬を膨らませながら俺をせかしてくる。その表情もとても可愛らしく抱きしめてやりたいのだが……空気を読んで今はやめておこう。
ヒメカはヤーマ連合王国国王に次ぐ魔法の使い手と言われているが実は剣術があまり得意としていない。逆に俺は魔法は使えないが剣術はこの国で一番ではないかと評判になってきている。とても恥ずかしいのだけども……
実は先日、ヒメカの勧めで首都アスカールで行われたヤーマ連合王国一の剣術者を決めるという『剣術大会』に出場したのだがなぜか俺が優勝してしまったのだ。
それもあっさりと……
そのお陰というかあまり嬉しくはないのだが最近、弟子もできたくらいだ。
この弟子についてはいずれ語るつもりだが、あまりにも「弟子にしてください!」としつこいものだから渋々、弟子にしたようなものだ。そのお陰で道場まで開いたくらいだ。
俺は子供の頃から運動神経は良い方だったが、剣術でここまで来れたのは学生時代に部活で剣道をやっていたのと身体能力値999のおかげだろうと思っている。
そんな俺に剣術の稽古をせかすヒメカとすれば将来、ヤーマ連合王国の女王となり、この国を守るためにも剣術のレベルも上げておきたいのだろう。その気持ちはよく分かるが……
でも俺としてはヒメカには戦いなどせずに宮殿にいてもらい絶世の美女の王女らしいふるまいをしてもらいたいのだが……
「カズヒト! 早く構えてちょうだい!」
「はぁ……」
王女らしいふるまいはもう少し先の話になりそうだな。
まぁ、真剣な表情をしているヒメカも嫌いではないのだが……
ふぅ……
そろそろ『剣術指南役』としての役目を果たそうか……
実は最近、俺の仕事がまた増えてしまった。
家庭教師とボディーガードは引き続き行っているが国王から剣術を認められた俺はヒメカの『剣術指南役』という業務が増えてしまったのだった。