第3話 魔力値ゼロの男/カズヒト
ヒメカとの出会いから5年……
どうやら俺は夢を見ているのではなく本当に異世界に転移したみたいだ。
元々俺はこういった話が好きで施設に住んでいる頃は『異世界もの』の小説をよく読んでいた。なので直ぐに受け入れることはできたのだが……
でも何故、この俺が異世界に転移したのかは謎のままだった。
そんなこの国の言葉も文字も分からず不安いっぱいの俺の傍にヒメカはずっといてくれた。そして『この国』の言葉や文字を数年かけて教えてくれたんだ。
実はヒメカはこの国『ヤーマ連合王国』国王の一人娘で王女様なのだ。
彼女のフルネームは『オーガ・ヒメカ』
この国の氏名は日本と同じで名字が先にくる。なのでヒメカの名字は『オーガ』
俺の名字は『大神』なので何となく似ている気がして親しみやすい。
まぁ王家に対して親しみやすいというのはおこがましいが……
いずれにしても俺はヒメカのおかげでこのどこかも分からない国でなんとか生きることができている。
衣食住、全てヒメカが用意してくれ、仕事まで世話をしてくれたのだから……
俺の仕事は『ヒメカ王女の家庭教師』
実際は俺の方がヒメカに言葉や文字を教わっているのだが、たまに覚えたての文字や言葉を使って俺の住んでいた世界のことを彼女にも教えているのでギリ家庭教師ということにしてほしい。
ちなみにこの世界は異世界の名に恥じることなく『魔法』が使えるのは当たり前の世界である。
この世界には『魔力値』と『身体能力値』を測定する装置があるそうでヒメカも相当の魔法を使える少女だそうだ。
ヒメカいわく彼女の魔力値は102。この数値がどんなものなのか当初の俺には理解できなかったが、このヤーマ連合王国があるムーア大陸で魔力値が100を超えるのは凄いことらしい。
ヤーマ連合王国の中で魔力値が100を超えているのはヒメカとヤーマ連合王国国王だけということらしいのでヒメカはとても貴重な人物と言える。
ただ連合王国以外の国には魔力値100超えはゴロゴロいるらしいが……
試しに俺も魔力値を測定してもらったのだが結果は……
0……
当然と言えば当然なのだが俺は『魔力値ゼロの男』らしい。
まぁ日本で魔法なんてものは空想のもので実際に魔法なんて使える人間など見たことが無かった。たまにテレビなどで様々な能力を披露している人間はいたけど、どれも胡散臭い気がしたし……
なので異世界に来た途端に俺の中に眠っている能力が発動してみたいな期待も密かにはあったが、まぁ現実はそう甘くはないということだ。
まぁ俺みたいな日本から来た人間がいきなり魔法なんて使えるはずもないのだが、でも『魔力値ゼロの男』という扱いはあまり好きではなかったのは言うまでもない。
ヒメカはそんな魔力値ゼロの俺に気をつかい魔法の使い方を必死に教えてはくれたが、魔力値が1でもあれば修行次第で平均値の50くらいまでにはできる可能性はあったかもしれないが、掛け算と同じ0はどうあがいても0のままだということが分かったみたいで『ヒメカ師匠』は俺に魔法を教えることを諦めてしまった。
「カズヒトは魔力値0でも他の人達に負けないくらいの絶対的な身体能力値があるんだから魔法なんて使えなくてもそれで全然カバーできるし、気にする必要なんてないからね」
「あ、ああ……分かった……ありがとう……」
ヒメカの優しい言葉に救われ……はたから見れば慰めの言葉に聞こえるかもしれないが、実はそうではない。ヒメカは事実を言っているのだ。
そう、俺は信じられないくらいにこの国の人達よりも身体能力値がずば抜けて高かったんだ。ちなみにこのヤーマ連合王国で身体能力値が100を超えている人間はいない。
国王の身体能力値は85、ヒメカの身体能力値は60、この国の英雄と呼ばれている戦士がヤーマ連合王国最高値の99ということだが……
俺の身体能力値は……
999……
英雄の10倍って……
さすがにこれには驚いた。測定に関わった国王とヒメカは口を開けながらポカーンとしていたが2人の気持ちはよく分かる。
その時ヒメカが小声で『能力計測器は3桁までしか表示できないから実際はカズヒトの身体能力値は1000を超えているかもしれないわ……』と呟いてだが、さすがにそれはないだろう。
そう呟いていたヒメカも計測器が壊れていないか何度も業者を呼んで点検してもらっていたしな。
でも結局、計測器は故障していないことがハッキリしたので俺の身体能力値は間違いなく999なんだと確定したが、しばらくの間は俺とヒメカ、そして国王の3人だけの秘密にすることにした。
秘密にした理由は国中に俺の数値が知れ渡るとあまりにも異常な数値なので彼等からすれば謎の異世界から転移してきた得体のしれない青年の身体能力値が999なんてのは国民からすれば不安でしかないということと、敵対国に情報が洩れると俺自身の身が危険になる可能性があるからだそうだ。
もし俺が敵対国に攫われ洗脳魔法をかけられ『敵側』として現れでもしたら大変だということらしい。
しかしこの身体能力値が原因となり、この日から俺は国王から勅命を受けることになる。
「カズヒト、君の身体能力値を見込んでヒメカの家庭教師兼ボディーガードに任命する! ヒメカのことをよろしく頼んだぞ?」
え……?