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第17話 過去の俺/カズヒト

 ヒメカの騒がしい幼馴染3人が帰ってから俺はヒメカの部屋にある大きなバルコニーで外を眺めていた。そんな俺の後姿をヒメカはソファーに座り黙って見つめている感じだが彼女もまた何か考え事をしているようだ。


 そんな二人だけの静かな時間……

 俺は少しでも静かな時間ができるとつい故郷の『日本』を思い出してしまう。



――――――――――――――――――――――


 俺は母親の顔を知らない。


 俺が生まれて直ぐに病気で死んだそうだ。


 そして俺が5歳になる頃までは父親と二人暮らしだったのだが、西暦2050年、陸上自衛隊の隊員だった父、『大神和将おおがみかずまさ』は軍事演習中に突然、200名の仲間と共に消息を絶ってしまった。


 当時、この事件に対して色々な憶測があったらしい。


 昔、大ヒットした映画みたいに彼等は『戦国時代』にタイムスリップしたのではないか?


 いやいや、そんなことが現実に起きるはずがない。これは演習中に大きな事故があって全員死亡したことを国が隠しているんじゃないのか!?


 さすがに200名もの死者が出れば隠すことなんて不可能だろう。これは行方不明になったことにして彼等に『特別任務』を与え海外の紛争地域に派遣しているのではないか?


 など、色んな憶測が巻き起こり日本中大パニックになったそうだが、5歳にして孤児になってしまった俺には理由なんてどうでもいいことだ。俺の父さんを返してくれ! その思いしかなかった……しかしその思いは搔き消されてしまい辛い現実を突き付けられる。


 大神家おおがみけは代々、豪族、貴族の血筋だそうでどの親戚もプライドだけは高く『どこの馬の骨かもわからない女』と結婚した一族の恥と言われていた父さんの息子を引き取ってくれるような優しい親戚は誰一人としていなかった。


 そういったわけで俺は施設で暮らすことになるのだが、そこの施設長やスタッフ、それに俺と同じ境遇だった子供達は皆良い人だった。


 こんな環境の中、俺は勉強や部活に励み成績は常にトツプクラス、部活は剣道部員として全国大会で優勝したこともある。ついでに言えば施設長の趣味が『筋トレ』ということもあり、毎晩それにも付き合っていたので俺の体は並の男性よりは強いと思う。


 施設長や周りから高校卒業後は大学進学を強く望まれたが、俺は早く働きたい気持ちが強かったので周りを説得し、渋々了承してもらい高校を卒業してから地元の工場で働くことになり同時に13年もお世話になった施設を出て一人暮らしを始めた。


 俺が早く働きたかった理由……それは今までこんな俺に愛情をこめて優しく育ててくれた施設長達に少しでも恩返したいという思いがあり給料の一部を施設に寄付したかったからだ。


 施設長は「和仁、施設に気を使わなくてもいいんだよ。汗水流して稼いだ給料は自分の為に使いなさい」と言ってくれてはいたが、子供の頃から施設運営の大変さ、経済的な厳しさはよくわかっていたので俺は約2年間、寄付をし続けていたんだが……


 だから突然この世界に転移してしまった俺は寄付ができなくなってしまったということが今もとても心残りなんだ。


「カズヒト、また故郷を思い出していたの?」


 ヒメカが心配そうな表情で俺に話しかけてきた。


「え? あ、うん……時間がある時はつい思い出してしまうんだよ」


「それは仕方ないと思うわ。突然、カズヒトは本人の意思に関係なくこの世界に転移させられたのだから……私が同じ状況だったらって考えると恐ろしくなるし……毎日毎日、故郷を思いだして泣いていると思うわ。でもカズヒトが転移してきたおかげであなたと……」


 ヒメカはいったん話を止めた。彼女を見ると顔が少し赤くなっている。「コホン」と咳払いをしたあと再び話し始めた。


「だから全然知らない世界でカズヒトが今までやってきた努力はとても凄いと思う。一番近くであなたを見ていた私が言うんだから間違いないわ。私は心の底からあなたを尊敬しているんだから……」


「ありがとうヒメカ……でも故郷を思い出してはいたけど悲しんではいないんだ。あの世界に俺の『身内』なんていないようなもんだし……でも心残りはあるというか……前にヒメカに言ったことがあるけど、身寄りの無い俺を愛情深く育ててくれた施設長やスタッフ、それに仲間たちは今頃どうしてるかなぁって思う……施設長はもう高齢だし心配なんだ。それなのに突然俺が行方不明になってしまってとても心配しているんじゃないかなぁと思ってさ……高齢の施設長に余計な心配をさせていると思うと申し訳なくて……」


「カズヒトは優しいね……だから私は……」


 ギュッ


 ヒメカはそういうと少し潤んだ目をしながら俺を抱きしめるのだった。

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