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目を覚ましたら鎧でした。

 ここはどこだ・・おれは一体・・


 オレの最後の記憶は、頭を叩き潰す巨大な鈍器。

 背中も痛かった、全身に噛み付く獣の牙の恐ろしい痛みも憶えている。


?(暗い、それに狭い)身動き出来無い、これが死んだって事だろうか。

 音も光りも無い世界はまるで棺桶、手足が動かない状態はまるで・・・死体だ。


(いやオレ生きてるから!・・生きてるよな?)


 『助けてくれ!身体が動かないだけなんだよ!

 ここから誰か出してくれ!オレはまだ生きているんだ!』


 麻痺毒か?それともケガ?身体のダメージが残ってるのか?

 なんだか解らないが意識はハッキリしてるんだ!


 いまは身体に痛む所は無い、なのに身体が動かないのが途轍もなく怖い。

 生きたまま魔物に飲み込まれているのか、それともこの暗闇の中で魔物に喰われて死ぬのか、そんな事を考えると恐ろしくて仕方ない。


(・・返事は無い・・だれもいないのか、孤独だ。これから死ぬっ人間てのは、こんな感じなのか)


 身体には体温が感じられない、光りも無く少しの音だけが感じるだけ。

 自分が何者かも解らず、これから消えて行く事だけは本能的に理解出来る。


 寒い・・ここは狭くて冷たい・・怖い。


『嫌だ!死にたく無い!

 死ぬのは怖い!死ぬなんて、なにも解らないままで死ぬなんて!嫌だ!誰か!誰か!誰か!!!!!』


 声も出ない身動きも出来ない、叫ぶ事も逃げ出す事も出来ない。

 このまま生きる事を諦めてしまえば待っているのは死、そして自分の消滅。

 自分が消えて無くなるって事がこんなに怖い事なのか。


 [痛みも苦しみも無い世界]そんな物よりオレは生きていたい!


『暗いよ狭いよ怖いよ、暗いよ狭いよ怖いよ、暗いよ狭いよ~~~~~~』


・・・・・・・・・・・・・


「なんだ?トラップか?」

「気をつけろ!中に魔物が隠れているぞ!」


 音も光りも無かった闇の世界の外で、ひとの声が聞こえた。


(誰だ!ひとか?!)


『魔物じゃない人間か!助けてくれ!

 オレは魔物じゃない!ケガをして動け無いんだ!』


 頑張ってガタガタ動く、麻痺毒が切れたのかオレは必死だった。

 必死で藻掻いたんだ。

 

「うぉ!こいつ!」「間違いねぇ、中にいるのは魔物だ!音が激しくなったぞ!」


(?・・・しまった!行かないでくれ!)


『オレは人間だ!動け無いんだ!』

 声が出ないから動くかない、だが動けば恐がって近づいてこない。

 

(どうしよう、彼らが帰ってしまったら、次ぎにいつ助けが来るのか解らないぞ)

 どうしたら良いんだ?・・・・・


「物音が消えた?・・雑魚の魔物か?」「ゴブリンのガキか、それとも大ネズミか」

「どうする?この辺の魔物はゴブリンかネズミかゴキブリか、低レベルの魔物しかいないはずだが」


 男達の声は戸惑い、そしてゆっくりとオレに光りを与えた。


・・・・・・

「なんだ?この薄汚い鎧は」

「期待させやがって、わざわざ宝箱に入っているからなにかと思ったら、中身はこれかよ」

「外れだな、まぁこんな洞窟の宝箱ならこんなもんだろ」


 オレを見下ろす男達は次々と訳のわからないことを言い、ゆっくりと天井・・箱の蓋を閉めようと手を伸ばす。


『待て!止めろ!』ガタッ!


「?・・コイツ」

 二人の男達はすでにオレに興味を失ったのかどこかに行ってしまい、最後に残された男がオレをじっと見下ろしている。


『見捨て無いでくれ!頼む!』


「怪しいな、コイツは・・汚ぇが一応持ってくか」

 汚い手がオレの頭を掴み・・・?

 オレの腕を・・足を・身体を袋に詰めて・・


「チッ、こいつくそ重い!・・しゃぁねぇな」

 ごそごそとオレの足に自分の足を突っ込んだ。


「?!・・こいつ!まさか!」

『オレこそコイツ!だよ!なにしやがる!』バラバラ死体じゃないんだぞ!


 今度はオレの腕に腕を突っ込み、頭に汚い頭を!


『うぉ?!キモイキモイ気持ち悪い!!!』


(フケが!脂が!臭い!臭い臭い臭い!

 足も水虫か!痒い痒い痒い!嫌ぁぁ!!!)


「やっぱりか!コイツは魔法の鎧だ!」

 オレを身に付けた男は飛び上がり、身体をバタバタさせあちこちを叩く。


(魔法の鎧?・・なに言ってんだこいつ)


 汚い男の身体にぴったりと合うサイズ、腕も足も男の身体にあつらえオーダーメイドのような状態になっている・・らしい。


[軽鎧・山賊の鎧]防御+3俊敏+2[斧装備・腕力補正 弱]

 なんか頭に『もやっ』としたなにかが浮かぶ。


(なんだコレ?)


「すげぇ軽い、、、これはあいつらには黙っとくか、もともとあいつらもゴミだと言ってたんだしよ」


「なにやってんだ!置いて行くぞヨブ」

「ちょっとくれっよ!サジ」


 ヨブと呼ばれた山賊はオレを着たまま、薄暗い通路を歩きだした。


『身体が軽い、歩けるって事は素晴らしい』

 ただ自分で思った通りに動け無い事を除けばな。


・・・・・


「なんだ?ヨブその鎧は、どこで見つけたんだよ」

「へ?・・いや、あの宝箱の中にあったヤツだぞ」

 仲間に追い付いたこのヨブという男、ぺこぺこと仲間に頭を下げてる。


「あのボロ鎧だと?嘘つけよ、全然違うじゃねぇか、、、まさかあの箱!二重底だったのかよ!」


「・・あっああ、そうなんだ。

 良く見たら底にコイツが有ったんだよ、皮のチョッキがボロボロだったんでその代わりに・・な?」

 薄暗い中、男達はヨブの鎧がかわった事を指摘し、左右からオレの方を見てくる。


(本当にオレ・・革鎧になったのか?)元はオレ、人間だったはずだよなぁ・・


「チッ、、オレには小さいな・・まあいい、見つけた宝は山分けするってのが決まりだ。

 お前の鎧分の報酬は引かせてもらうぞ」


「え?えええ!!そんなぁ~~~、フェイズのだんな~~」

「お前一人が鎧を手に入れて、オレ達に何も無しじゃ狡れぇだろが!」

 サジが睨み付け、ヨブは下を向いて怒りの表情を隠す。


(・・チッ、腰巾着野郎が・・まあいい。

 コイツは多分マジの魔法の鎧だ、多分金貨50枚の価値はある。

 こんな薄汚れた洞窟でこれ以上の宝なんか無ぇからな・・)


 ただの汚れた革鎧と言い張ればいい、それなら新品でも大体銀貨で60枚、中古なら高くても40枚にもならねぇはず・・物の価値の解らないヤツらに教えてやる必要は無いからな、そんな事を呟くヨブという男。

(オレの価値ってそんな感じなのか・・・)


 そうしてオレ[山賊の鎧]は、この正確の悪いヨブという男に運ばれているのか、装備された事になるのか。

(全く意味が解らん)


・・・・・・

 3人の山賊達の様子を見ていると、フェイズが戦士のように幅広の剣を振り回し、サジが手斧。

 ヨブは短刀を持ち二人の男が魔物と戦い、ヨブは器用な手先を使い罠を壊し扉を開ける。

 戦闘の前線に立たないヨブは二人の小間使いのようにこき使われ、悪感情を募らせているように見えた。


「またネズミか」フェイズが鬱陶しそうに剣を振り上げ、走って来る大ネズミを叩き斬る。

「そっちにも行ったぞ」前衛をすり抜けた大ネズミは、獣の本能で弱者を見分ける。

 この場合は最後尾でようやく短刀を抜いたヨブだ。


「うわっ!」


 洞窟の大ネズミは常に腹を減らし、普段は獣や魔物の死体を喰う。

 その前歯は死体の腐肉で汚れて毒を持ち、即死する毒では無いが消毒と解毒には薬が必要になる程度の毒だ。


「噛まれても薬は無ぇからな!」サジが大ネズミの腹に斧を叩き込み、フェイズの剣は二匹目の大ネズミを切り倒している、つまり援護は無い状態だ。


 ガキッ!

 大ネズミはオレの腕に噛み付き、強い顎が歯を立てた。


「っ!オレだって!」ヨブは腕に噛み付いた大ネズミ喉を、短刀で突き刺す!


「ちきしょうチキショウ畜生!」

 ズサッ!ズサッ!ズサッ!


 大ネズミは絶命しても歯を放さず、その身体を振り回してようやく牙が外れた。

「痛ぇ!・・けど・・」

 肌に、肉に傷は無く、強い力で挟まれた痛みだけがヨブの腕に残っていた。


「スゲェ・・コイツはマジで魔法の鎧だ・・」誰にも聞かれないよう小さな声で男は呟く。

 そしてまだ走ってくる大ネズミに短刀を向けて跳び込んだ。


「はぁはぁはぁ・・やった!やったぞ!」3体の大ネズミを殺しヨブが声を上げる。


「レベルが上がったのか」「マジかよ!?いまので?」


 ヨブは自分の腕をまくり、肩の辺りを触る。

「ああ間違いねぇ、ようやくレベル3だ!これで下っ端生活も終りだよ!」

 松明の明かりの中で、腕によく解らない模様が浮かんでる。

 

「なに言ってやがる、たかがレベル3だろが!」

 サジの見せた腕の模様はヨブの物より複雑な幾何学、画数が2本多い。


「うるせぇよサジ!お前はまだレベル5だろ!すぐに追い付いてやるからな!」

 オレを手でさすり、自分の鎧に傷が無い事を確かめるヨブ。

『半分はオレのお陰って事が解ってんのか?』


「バカが!レベル5の壁を知らねぇのかよ、旦那なら知ってるでしょう?

 レベル5からがどれ程大変かって」


「・・そうだな」


「レベル5からは急にレベルが上がり難くなるんだよ!」

「マジですか」

 まじらしい、所でレベルってなんだ?


「ああ、そうだ。おれのレベルは7だが、そこからもう半年だ。ヨブ、ステータスの確認をしておけ」


『ふ~ん、ステータスねぇ・・コレがレベルアップか、なんか変な感じ』

[軽鎧・山賊の鎧]レベル2、 防御+3俊敏+2[斧装備・腕力補正 弱]ポイント+5


(なんか色々出来そうだが今は様子身しておくか、このヨブとかいう男にオレの事を知られたく無いしな)


・・・その後ネズミを倒し、コウモリを倒してオレはレベルが3になった。

 ヨブのレベルはそのままらしい。


(レベルが上がるには、なにか切っ掛けがいるのか?それとも敵の強さか?数か?)

 今の所は不明な事ばかりだ、ただ解るのはオレが鎧になったって事は確かっぽい。


 (はぁ・・コイツ臭いし汚いし、最悪の気分だ)

 おれはこのままコイツの鎧として生きる?のだろうか・・嫌だなぁ、はぁ、ため息しかでないぞ。。。


(?石が跳ねた?)


 オレとヨブが同時に音に反応して顔を向ける。

 こいつらの話に出てくるゴブリンってやつか、それともまた大ネズミか?


「ヨブ、なにかいるのか」フェイズは音も無く剣を抜き、ほぼ同時にサジも手斧を腰から外す。。。。


(確かにいる、そいつは多分3体。

 金属のこすれる音と足音、それに荒い息遣いまで正確に聞こえる)

 音と気配をオレ達は捕え、多分そいつらはゆっくり近づいて来ている。


「だんな、松明を少し暗くしますよ」

 松ヤニの布で松明を包み、炎の光りを少し押えた。

 そしてゆっくりと音から遠ざかるように歩き、短刀を抜く。


(不意打ちする気か、相手はそれ程・・・?)

 ヨブの息遣いが早い、何を興奮しているのか・・

『テメェ!汚ぇ下半身を堅くするんじゃ無ぇ!』汚ぇ!止めろバカ!


(ハァハァ・・なんだ?何を興奮しているんだ?)

 サジの表情も興奮してる、フェイズの表情は変わらないが、剣に光りが映らないようにボロ布を巻いて不意打ちの用意をして。


 こいつらの異常な興奮の理由はすぐに解った、敵は人間だ。

 それも音で聞こえた通り3人、そいつは松明片手にフェイズ達が隠れている岩陰まで近づいて来ている。


「しゃぁ!」緊張に耐えられ無かったのか、ヨブが松明を持つ敵に飛び掛かる!

『ガッ!』

 堅い!鉄の鎧が短刀の刃を滑らせ、急ぎ過ぎた身体は盾に弾かれた。


「バカが!」素早く動くフェイズ。

 敵は松明を投げて剣を抜いた、だがそれより早くフェイズの剣は敵に迫り、その胴を薙いだ!


「ぐぁっ!」

 苦痛の声と吐き出された飛沫、ヨブの不意打ちが失敗したせいで敵は反射的にガードを堅め、致命傷は避けてはいるが、ダメージは強そうだ。


「その鎧野郎を先に殺せ!」サジが叫ぶ!


 弱った相手を先に倒せば戦いは2対3になる、絶対有利な戦いに持ち込むのは戦闘の基本、だが・・


「オレのナイフじゃそいつの鎧は無理だ、オレは後のヤツを殺る!」

 ギラッ、

 ナイフの光りとヨブの眼光が光り、その後にいたヤツを捉えた。


「[火炎]!」

 そいつは枝のような物を向けたかと思ったら、火を吹いた?


「魔法使いか!」

 『熱っ!』

 魔法使いの炎がギリギリで肩を擦り、オレの身体がちょっと焦げた!


「な!?」

 かわされるとは思っていなかったのか、魔法使いが素早く後に下がる!

 もう一人は白い服を着た女、そいつは怯えたように立ちすくみ、杖を胸の前に何かをしようとしている。


「女神官か!そいつは生け捕りにしろ!高く売れる!」

 ザジが大声で叫び、神官?は、青白い顔で息を止める。


「へへっ、なら魔法使い、お前からだ!」

 ヨブは逃げた魔法使いを追い打ち、その枝をナイフで断ち切った!


「へへへ、知ってるぜ、おまえら魔法使いは杖が無いと魔法が使えないんだよな!」

 どうやらその通りらしい、魔法使いは折れた杖をなんとか振るが、火の粉一つ輝かなかった。


「死ね!」

 飛びかかったヨブは、自分の思っている以上の速度で跳んだため、勢い余って魔法使いを押し倒す。


「はぁはぁはぁ・・ガキが!調子に乗りやがって!」

 右腕で両腕を掴み押さえ付けるヨブ、身体から憎しみの感情を溢れさせ、左手で落ちたナイフを探す。


『嫌だな』オレ、コイツ嫌い。

 箱の外に出してくれた事には感謝するけれども、コイツとは合わない気がする。


 臭いし汚いし、性格悪いし頭悪いし、口汚いしケツも臭い、人を殺そうってのに勃起するとかはもう最悪だ。


『オイ!聞こえるか?お前?』

 魔法使いってくらいだから、魔法の鎧くらい知ってるはずだよな?

 聞こえ無かったら仕方無いが、聞こえるなら何とかしろ。


 『オレをコイツから引き剥がすとか、魔法の鎧だから魔法で動かないようにするとかしろ!』


「くっ!?やっぱり魔法の鎧か!」

「?なんだぁ?てめぇ、オレの鎧が解るのか?・・なら絶対ここで殺さないとな!」

 サジ達に鎧の秘密を知られたく無いヨブは殺意を増し、掴んだ腕を強く握る!


『お前、オレをなんとか出来るか?

 具体的にはオレの魔法と解くとか、力を押えるとか』そうしないと死ぬぞ?・・・?

「そんな事・・できるか!」魔法使いは首を掴むヨブの腕を両手で押え、なんとか抵抗しているが。


「何もさせるかよ!ガキが!今すぐブッ殺してやる!」


(・・・無理かぁ・・でもなんかレベルアップポイントの選択に[憑依]とか有るんだけど、どうしようか・・)


『なぁお前、オレはコイツ嫌いだ。

 かと言ってお前が死ぬって事には、可哀想だとは思うがそれ以上の対象じゃない、そこで提案だ・・オレを装備出来るヤツを紹介してくれ。

 多くは望まない、平均で良いんだ』平均のヤツだ。


「?」


『まず優しくて美人、物を大事にするような優しさは欲しい。

 あと胸は大きすぎなくていいぞ、足もスラッとして・・筋肉でムチムチでも良いが、良い匂いの女が良い』


「・・・・」


『歳はまぁ40以下だな、子供過ぎてもダメだ、女の子ってより女の娘だ!

 体型も重要だな、あんまり体型が・・・・・・・』


「・・・・・・・・・・・・・」


『王女様とかは望まないが、貴族の御令嬢とか・・ああ!当然旦那がいるとかは勘弁して欲しいぞ・・

おっと、あまり贅沢を言っては駄目だな、だからこの程度にして置こうか。どうだ?謙虚だろ?』


「そんなどこかの聖女様か王女様みたいな知り合いは、いない!」

『こっちだって色々制限が有るんだ。それにお前!オレの提案を蹴れる立場か?』


 戦士はサジとフェイズに押され、最初のダメージが聞いているのか盾で守るだけで必死だ。

 今は壁を背にしているが、二人のどちらかに背中を見せた時点で死ぬ。

 神官の祈りは向こうまで届くかどうか、この状態でお前が死んだらヨブは神官を殴って黙らせ、3人で戦士を囲む。


『完全に詰みだろ?それよりこのバカをなんとかして、あっちの神官と強力すればなんとかなるんじゃないか?』


「なにをガタガタ言ってやがる!」ナイフを見つけたヨブが左手で掴んだ凶器を魔法使いの脇腹に!


「解った!約束する!」

『OK!契約成立だ!』スキルポイント5消費[憑依]獲得!

 

『お前にオレを装備させてやる!』

 オレの身体は一瞬で分解され、押し倒された魔法使いに装備された・・・?


[軽装備・魔法使いのローブ]魔力+3知性+3魔法防御+2[魔法補助 弱]?


「な?!てめぇ何をしやがった!おっオレの」


『オレだって知らんがな!なんで鎧がローブになってんだよ!

まっまあ良い!おいお前!魔法を使え!おれが補助してやる!』


「!・・[火炎]!」

 殺す、多分そんな事を言おうとしたんだろう、ヨブは炎に包まれて燃え上がり、石の通路を臭いにおいを立てながら焼け転げ回る。


「どうなった?なんで杖も無いのに魔法が!」

『そんな事はどうでもいい!まずは神官だ!

 アイツを正気に戻せ!それから魔法だ!

 戦士にあてないような魔法はあるか!?』


 炎に焼かれ転がり叫ぶヨブ、その声でサジ達の動きが止っている。

 炎の明かりでヤツらの殺意がこっちに向くにはそう時間はかからない、その前になんとか!


「フェーデ!」

 魔法使いの声で彼女の視線が向く、白い法衣?が眩しく、良い身体の線が薄らと曲線を描いている。


『良し!フェーデさん!オレと契約して魔法少女になるんだ!』

「なにを言ってる!」


『何を言うも何も、オレ!あっちの娘の方がいい!オレ彼女に装備されたい!』

 胸とか白い肌とか髪なんて金色でふわっとして!


「・・・彼女は神官、教会の巫女です。

 神秘の魔法は使えますが魔術系魔法は使えません、魔法使いにはなれませんよ」


 なんかガッカリしてるような怒っているようなオーラ、まったく・・ああアレか、この魔法使い、あの神官が好きなんだな?


(それかオレが装備から外れて、魔法が使えないようになる事を心配してる感じか)


『悪フザケしてる場合じゃないな、今は緊急事態!

 フェーデさんも正気を取り戻したら、次ぎは戦士のフォローだ!


 1人ずつ・・斧使いの方を引き剥がして倒せ、、、とその前にヨブ・・そこの男にとどめを刺せ、背後から襲われるような事になれば2人とも殺されるぞ』


 戦いは一人ずつ確実に戦力を減らすべき。


(特に圧倒的な力の差が無い以上、油断無く敵は排除しないと。

そうしないと・・・そうしないと・・?どうなるんだっけ?)

 思い出せないな、何か大事な事だったと思うが。


『?どうした、そこに落ちているナイフを突き刺せ、そいつはお前を殺そうとしてたヤツだぞ?』

生かして置く必要は無いぞ?


「・・・・」オレを装備している魔法使いの鼓動が早い、感情も恐怖と動揺に満ちている。

『お前、人を殺した事が無いのか?』時間が無い状況で、童貞かよ!


『ならフィーデさん!

 取りあえずしこたまぶん殴るんだ、足腰立たないようにすれば危険は回避できる』


「?」


『なあ童貞!フィーデさんには聞こえてないのか?』

「ど!童貞ちゃうわ!

 お前の声だと?・・ああっ、そうか解った、フィーデ!頼むそいつを杖でやっつけるんだ、襲って来たら危険だから」

 

(童貞と言われて動揺するとは、人殺しをした事もないは確実として・・・オレの声は装備した人間にしか聞こえ無い?

 それとも魔法使いにしか声が届かないのか?

 う~~~ん、フィーデさんになんとかして装備して貰うには・・・)


 それは後で考えるとして、フェイズには三人でも多分勝てない。

 あの男が本気を出す前に、逃げ出すか退却させる方法を考えないと。


 壁を背にして守る戦士はダメージで足が動いていない、もう限界が近い。


『・・・はぁまた男かよ、もう男に装備されるのは憤慨の極みだが・・最後の手段として使えるなら・・フィーデさんの為ならば!』

 やむを得ない!背に腹は替えられないのだ!


「・・・ちょっと、なんか色々伝わってきて集中できないから少し黙れ」

 黙ってる、喋ってないのにこの怒られた!

 この小僧!自分の精神力不足を棚上げして!


『いいか、狙いは斧使いだ、剣士の方には絶対手を出すなよ』

「わかった」

 魔法使いの小僧が集中を始めるとサジとフェイズが二人に向く、ヤバイ!魔法に警戒されたのか!


 足の止った戦士は無視して、魔法という最大火力を先に潰す、基本に忠実すぎて逆に泣けそうだ。


『小僧、さっきのナイフは持ってるよな、ちゃんと握ってるか?』

「あ?ああ、今集中してるんだが」

『向こうの狙いはお前に向いた、魔法を使う前に潰されるぞ?だから』

 換装・[山賊の鎧]レベル2!


「へ?」

 革鎧に装備を変えた小僧は、正面を向いたままナイフを手にして驚く、それはサジ達も同じだったのか、警戒して足が止った。


『狙いは斧使いだ!頭から突っ込め!』

「えっ!」

『考えるな!走れ!』

 腕力+4俊敏+3、それがどれ程の効果があるのかは解らないが、魔法使いのローブよりは動けるはず。


『敵が驚いている間に奇襲しろ!掻き回せ、混乱させろ!』


 魔法が来ると構えていたサジは、素早い動きで直進する小僧に反射的に斧を構えるが、それより早く小僧の頭突きがみぞおちに!


「ぐはぁ!」「くはっ!」

 手斧が肩に当たったがオレの防御力の勝利!

 当然だ!サジの皮ジャケットなんかにオレが負けるものか!


『今だ!手首に噛み付け!手斧を奪うんだ!』

 人間は追い詰められると藁すら握る、その力はリミッターが外され普段使う力の数倍になる。

 サジがいま唯一頼りにしている斧を手放させるには、指を切り取るくらいしか無いが、今は奪えなくてもいい。

 手首にダメージを与えておけば、手斧を使う事が難しくなるんだ。


(あと手斧が奪えたなら、なお良しなんだが) 


 小僧とサジ、両方が混乱している中で、反射的に指示を受けて行動する小僧は早かった。

 腕を掴み汚い手首に噛み付くと渾身の力を顎に込める!


「ぐぁぁ!!」

 身体の部位で最も堅い歯、そして人間の本気で噛んだ時の顎の力はその歯を砕き折る。

 鉄のスプーンを折り曲げ、指の骨も噛み砕く事が出来る力はサジの手首の肉を骨ごと潰す!


(が、手斧を奪うまでは無理か)

『離れろ!一つの攻撃に執着するな!』


 執着は敵の反撃を招く、反撃はこちらの思わぬ痛手招く。それよりは一撃離脱を選択すべきだ。


「!」素早く飛び退く小僧、魔法使いだけあって頭の回転が速い。


「痛ぇ・・いてぇよぉぁ!!」

 左手に手斧を持ち替えたサジが右手首を押え肘で押え、涙目で呻いている。


「・・」フェイズの目が小僧、そしてサジとフェーデと戦士に目を動かす。

「退くぞ」その動きは早かった。


 抜身の剣を一振りして洞窟の床を斬り『追って来れば斬る』そう意志表示するように小僧を見て、ゆっくりと背を向けた。


『追うなよ、アレは別格だ』

 多分山賊と言うより傭兵、サジとヨブの見張り・・お守りに着けられただけで、ずっと本気で戦っていない気がする。


・・・・・・・・・・・・・・・・


[回復]フィーデさんのヒールを受ける戦士、鋼鉄の鎧の中は女戦士だったぞ!

 短髪でスポティシュな元気系、筋肉質で良い体をした女戦士か。


(・・・・小僧め、こいつ)女の子二人連れて洞窟探索か、許せんな!


「フォルス、大丈夫ですか?」

 回復の光りを受けているフォルスの顔から徐々に疲労の色が消え、力を抜くのが見える。

『良し!小僧、まずはあのひとだ!

 フォロスさんと言うのだな?オレを彼女に装備させるのだ』


「・・・・」

『なんだよ!約束だろ!』

 何故か嫌そうなオーラ、コイツ!男と鎧の約束を破るつもりか!?


「お前はなんかだめだ、フォルスには装備させられない」

『安心しろよ!オレ魔法の鎧らしいから、サイズとかぴったりフィットするらしいし、彼女の身体はしっかり守るぞ!』

 あんな鉄の鎧なんかより、オレの方が絶対役に立つんだからね!


「彼女の身体って・・はぁ・・とにかくだめだ。

 それと私のローブを返せ、フォルスが回復したら・・」


「助かったユノ、お前のお陰で・・その・・お前、意外とアグレッシブなヤツだったんだな。

しらなかったよ」

「?・・」


「その口、拭いたほうが良いんじゃ無いか」

 フォルスの視線はユノの口元に、そして顎から首本に掛けての赤い血の跡を映す。


「!ち、違う!」

 サジの手首を噛んだ時の返り血、そして唇を噛んだのか血が流れて染まっていた。


「ユノ、あなたにも」

「いい!こんなかすり傷に魔法は必要ない」

 ヒールを使おうとするフィールさんから顔をそむけ、ハンカチで口元を擦り拭いた。


『なぁ・・嘘つきは泥棒の始まりだぞ?

山賊の鎧を装備しても泥棒になったわけじゃないんだからな』

「お前はお前でうるさい!」


「?!」「すみません・・助けていただいたのに」

『こら!フィールさんを困らせるな!』


 驚くフォルスさんと悲しそうな顔のフィールさん、ユノはなんて悪いヤツだ。

「っ!~~~~!!お前ちょっと静かにしろ!それよりも私のローブだ!早く返せ!」


『なんだよ、人?オレを泥棒扱いしてからに!

 ・・ああっ!オレが泥棒とか言ったからそれのお返しか・・・頭良いヤツはこれだから』

 仕方ない、小僧を泥棒扱いしてオレが泥棒みたいなことをしてたら何も言えないな。


[換装]魔法使いのローブに戻ったオレ。

 [軽装備・魔法使いのローブ]のレベルが上がった

 [軽装備・魔法使いのローブ2]のレベルが上がった。

 [魔力+5知性+5魔法防御+4[魔法補助 弱]スキルポイント15って。


(・・・・ああヨブが死んだのか、それにしても山賊一人殺して2つもレベルが上がるとか)

「あっ・・レベルが上がった」小僧もレベルが上がったらしい。

 それと同時にこの重苦しい感情、後悔と恐怖、それを実感している感じか。


「・・」

「この者に許しを、神の慈悲を与えたまえ」


 手を振わせて固まっているユノの隣でフォルスさんは死者に祈る、自分を殺しに来た山賊相手に祈りを捧げ許しを与えるフォルスさん。

『綺麗だ、オレを着てみませんか?』


 祈りを終えたフィールさんは、細く柔らかい手で小僧の手を挟むように包む。

「大丈夫です、あなたの苦しみもヴェルズ様は受け入れます。大地の女神に祈りを」

 大地神ヴェルズ、彼女が祈りを捧げるとユノの身体が僅かに光る。


 精神系魔法の[鎮静]・[高揚]だろうか、小僧の心拍が落ち着きオーラにも冷静さが戻っていく。

『癒やし系か~良いなぁ~~』

「・・ああ・・このくらいは・・・覚悟していた・・そのつもり・・だったんだが」

 鼓動は正常に脈拍ちはじめ、感情もようやく嫌なオーラが消えた感じがする。


「あんなのと遭遇するとはな、ついてなかったよ。。。それでこれからどうする?帰るか」

フォルスさんは鎧を着け直し、一息つくように壁にもたれるように座っていた。


「・・」

『止めとけ、運気の落ちた時はとことん付いてないもんだ。今日の所は帰ろうぜ?そんでオレに彼女を』

「よし行こう!もともと私達はレベルアップする為に来たんだ、もう少し戦って経験を積まないと馬車代にもならないよ」

 魔物を倒してレベルを上げる。

 各々の職業神が倒した敵の数・強さに対して加護を与え、教会の事務方神官が職業カードに金を振り込む、だから魔物の部位とかを拾って帰る必要は無いが・・・


『それでも死んだら意味ないだろ』

 仲間が死んだり自分が死んだら終りだ、自分だけは死なない・自分の仲間だけは大丈夫だと思うのは傲慢ってやつだぞ。


「・・それでも私はいつまでも弱いままなのはダメなんだ、お金だって必要だし、強くならないと・・ダメなんだ」


[強くなりたい]その強い気持ちがオレにも伝わって来る。

 強くならないといつも貧乏で、強くならないと魔物にも・・山賊や野盗にも負ける。


 魔物に負けたら死ぬ、山賊や野盗に倒されたら殺されるか捕えられて全てを奪われる。

 人権も人としての尊厳も、そして身体も自由も、人生の全てを奪われるだろう。


『わかったよ、ただしな』

「可愛い女の娘を紹介しろっていうんだろ!解ってるよ!」

『違う、、、いや、それも間違っちゃいないが、こんな所で死ぬなよ小僧、死んだらまたオレは一人になっちまうからな』

 薄暗い地下洞窟で、動け無いまま一人でお前の死体が腐るのを見ているなんて、いやだからな。


「・・そうだな、わかった。。。ところでお前を外した場合、私の装備はどうなるんだ?

私のローブは元に戻るとして、おまえは山賊の鎧になるのか?」


『解らん、だがオレはお前から女の子を紹介されるまで、お前から外れる気は無いぞ』

 フィールさんに装備してもらうかフォルスさんに装備してもらう、それまではお前から離れるつもりは無いからな! 


「!・・・呪いの装備だったか、くそっ金が無いってのに」

『なにぃ!小僧、いまオレを呪いの装備だと言ったか!

 侮辱だ!それは鎧に対する最大の屈辱だぞ!撤回しろ!謝罪しろ!賠償金を請求してやる!』

 なんたる侮辱!修理してもらっても許さないぞ!オレが許すまで鎧磨きを要求する!


「耳元・・あたまの中でごちゃごちゃ叫ばないで・くれ、集中できない」

 魔法使いだからかオレの声は集中を乱すのか。

 やはりアレだな、魔法使いと鎧は相性が悪いんだな。


「・・なあユノ、さっきから思ってたんだが、その・・一人ごとだよな?

 お化けとかそんな見えないヤツががいるんじゃないよな?」

「フォルス、大丈夫です。周囲に邪悪な者の気配は感じません」

 二人から見えるユノは一人でブツブツと声をあげ、急に機嫌が悪くなるように見えているらしい。


(状態異常、憑依?とかだったりして)


「なんでもない、ちょっと疲れているだけだ」

『此奴、彼女らにオレを紹介しないつもりか』

「うるさい、ちょっと待ってろ!

 お前知ってるのか、革鎧の時すごく臭いんだよ。そのまま紹介してもいいのか?」 


『?!・・・わかった、ただし洞窟探索が終わったらマジで鎧磨きを頼む。

消臭してピカピカになったオレを紹介するんだからな』

 ヨブの野郎は確かに臭かった、汚くて不潔なヤツだった。

 そんな状態で紹介されても、レディ相手には印象を落とすだけだもんな。


(そうすると、箱の中に閉じ込められていたオレを装備して、外に出してくれたヨブのヤツにはちょっとだけ感謝すべきなんだろうな・・

 今でも嫌いだがありがとうよ、臭い男、もう会うことも無いだろうがな)

今度の物語はファンタジー全快です、王道とは少し外れますが楽しく読んでいただければ幸いです。

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