幻想
2
「ハッハァ!ここから脱出して俺は自由を手に入れるぞ!だがその前に目障りな蝙蝠男を排除する。あいつがいれば安眠出来ねぇからなぁ」
「そこまでだ」
「きたな蝙蝠男。だが今日の俺は一味違うぜぇ!」
切り札は巨大な風船の下の気球部分に乗っていた、あれでこの街を脱出するつもりらしい。だが……。
「彩花!」
「はい先輩」
直後気球の風船部分が破け、切り札が落下する。その瞬間を蝙蝠男が滑空し抱きかかえた。
「蝙蝠男!」
「たとえお前の様なやつでも死なせる訳にはいかない、刑務所でおとなしくしていろ」
「そうはいくか」
切り札は有毒ガスを蝙蝠男に向かって噴射した。
「くっ」
「ははっ」
切り札は落下しパラシュートを展開し、安全にビルの屋上に着地した。だが……。
「運が悪かったな、今回は彼だけじゃない」
「誰だぁてめぇは?」
「しがないヒーローオタクだよ、悪いが悪者を逃がす訳にはいかない」
「ヒーロー気取りかぁ、悪いがな俺に言わせればヒーローなんて単なる虚像なんだよ、人の弱い心が産み出した偶像で実際には存在しない、
現実の人間は欲深く何処までも利己的でどうしようもなく自己中心的だ、それを求めることは結局現実逃避なのさ、それをお前は分かってるのかな?」
「お前と長々と話をする気はないが、一つ言っておこう、ヒーローなどいない、幻想だ、そんなことはわかっている。でもだからこそ、届かない理想だからこそ手をのばすんだ、そこを履き違えるな、
むしろ理想を追求することをやめ、現実に妥協した存在こそ、真の現実逃避だと俺は思うがね」
「どうやら俺とおまえは相容れないようだな」
「らしい」
突如鳴海の腕が拡張し、巨大な影の腕が産まれた。それは切り札の身体を掴み拘束した。
「何だこれは!?」
「幻想さ……俺の力の源は幻想、お前たちが相容れないとするヒーローの力、彼らが世界に対して理想を投げかけ、それが現実という世界を変え続ける度に俺の力は増す」
「大丈夫か?」
蝙蝠男が隣に着地する。
「奴は捉えた。あとは君の範疇だろう、後始末は任せた」
「お前は一体……?」
「現実に抗うもの、とでも言っておこうかな」