路地裏の蝙蝠
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イヤホンで音楽を聴いている。イヤホンで聴く音楽は外界と自身との間に壁を設けて、外界の情報をシャットダウンし内に籠もれるから好きだ。
だから俺は音楽を聴くときはもっぱらスピーカーではなくイヤホン派だ。それにここは外、しかも電車の中である、音量を出せる状況ではない、
こういう状況ではスピーカーでよりもイヤホンやヘッドホンが便利なのだ。さて、俺が何処に向かっているかと言えば、それは"仕事"である事件の渦中に向かっていた。
集合場所は某所某駅、そこからはタクシーが手配されているらしい。そして俺の相棒である捜査官である女性もそこにいる。
俺たちは政府の特務機関『超人保護観察機関』通称『超人機関』の一員で超人たちを政府の保護、観察下に置くことを目的としている。未確認の超人、怪人などが現れれば、
そこに赴き、危険と判断すれば管理下に置き、危険がなければ観察下に置くことを目的としている。いわば政府による超人(人間の域を超えた存在)を管理下に置こうとする組織なのである。
そんな組織の最前線に経っているのが、この俺なのであった。
「もう着くか」
今回の任務は昨今東京の路地裏で暗躍しているヴィジランテ(自警団)を観察し、管理下に置き保護するか、対象を観察下に置き、処分を保留とするかの、ジャッジをしにきた。
「待っていましたよ」
待っていた彼女のの名は砂上彩花。この『超人機関』のメンバーであり、彼女自身も所謂『超人』である。
「早かったですね」
「別にそうでもない。到着10分前だろう、対象はもう捕捉しているのか?」
「ええ、路地裏で犯罪者と戦っています」
「では我々も向かおう」
某県某所、そこはある『超人』が根城にしているテリトリーであった。そこは治安が悪く犯罪が絶えず、殺人事件の件数も多い、住民以外はそう立ち入らない場所である。
だが最近そこの犯罪率が減少傾向にあるというデータが調べたところ分かった。何が原因なのか調べてみると、そこにはある種のヒーローが現れたことが分かった。
『蝙蝠男』名をそういう。なんでも蝙蝠の様な格好をしているから蝙蝠男らしい。その男は街のあらゆる場所に監視網を設けて、街の犯罪を監視しているらしい。
そこの警察から、その自警団の存在を調査して欲しいと依頼があった。彼らもそのヴィジランテを逮捕しようとしたことがあるのだが、どうにも上手くいかないらしい。余程したたかなのか、
やり手なのか、何れにせよ、無視できない存在であると感じた我々は調査に乗り出すことにした。
「彼が我々に協力的なら、観察処分にし、非協力的なら拘束する、そういう方針で行こう」
超人機関所長、烏丸大地の言葉であった。
「分かりました、では明日現地に向かいます、メンバーは俺と砂上で良いんですね」
「ああ、頼んだよ、どうやら今回は中々難しいそうだからね」
そうして目的地に着いた我々は、監視用に飛ばしていたドローンで今現在件の蝙蝠男がいるのか、いないのか探した。件の蝙蝠男が活躍するのは夜だという、
そこでドローンのサーチライトをつけさせ街中を探し回らせる。蝙蝠男はその格好からして闇に紛れるのを得意としている、闇から縫いでて、犯罪者に暴力行為を行い、
街全体を恐怖で支配しようと言うのだ。
「いた、発見しました!B29、3番地区です」
「了解彩花は引き続き監視してくれ、俺が現地に向かう」
現地で見た光景、そこには惨たらしく殴られたナイフを持った二人組の姿があった。
「君がやったんだな」
「……誰だ」
「『超人保護観察機関』通称『超人機関』実行部隊の者だ、君を保護にしにきた」
「俺を保護だと……」
「君はここら一帯で自警団的活動を行っているな、それは非合法的なものだが、現実問題街の犯罪率は減っている、それに我々が調べたところ君は殺人を犯してない、
君にはヒーローの素質があるかもしれない」
「ヒーローか……かつてこの街にはヒーローがいた。彼は善良な心と力を持って、この街で悪と戦っていた。世界がまだ単純だったころの話だ。悪の組織、公衆の面前で破壊活動を行う怪人、
それを倒して喝采を浴びる、『スコット』『ライトマン』、だが後年分かった事がある、怪人とは元々人間だったのだ、悪の組織に改造を施された改造人間、
それらを救う事が出来ず倒し殺すという方法でこの街を平和にしていた彼は、後年悩んだ、自分のしてきた事は本当に正しかったのだろうか……と。ヒーローというのは大衆が作る幻想であり、
自身は単なる人殺しに過ぎなかったのではないか。俺が犯罪者を殺さない理由は一つ、スコットに二の足を踏まない為だ、殺人は悪だ、どうあっても人の命を奪うことに正当性は無い、故に俺は人を殺さない」
「立派だな……」
「正しい心を持って、正しい行いを為せば必ず報われる、それが俺の哲学だ」
「いいだろう、君は観察対象として保護する、拘束はしない、君は『正義』の心を持った超人だ」
「組織は必ず腐敗する……」
「なんだと……」
「俺が組織に属さない理由だ、俺はおたくらの組織が腐敗し権力を乱用する事があれば、迷わず離反するぞ、それは覚えておけ」
「分かったよ、だが逆に君の『正義』が暴走し、人を殺めることがあれば我々は君を拘束する、それを忘れるな」
「安全装置というやつか……良いだろう」
その時突如、轟音が鳴り響いた。ここからでも見える巨体がビル群を突き破って現れたのだ。巨大な風船、そこにはピエロの顔面が張り付いてる。
「切り札か……」
「切り札?」
「あのピエロの通称だ、凶悪な犯罪者だ、俺が懲らしめる」
「俺も協力しよう」
「アンタが?」
「俺も超人だからな」
蝙蝠男、元ネタは世界的な有名な某ヒーローと仮面ライダーです。他にもコンクリート・レボルティオなどが元ネタとなっており、ヒーローを題材とした作品をこれからも書いていこうと思っています。よろしくお願いします。