ミッション1:チャイルドオークション事件(6)
更新、遅くなってしまい申し訳ありません。
夢姫の奮闘、後半です。
誘拐を阻止する事は出来るのか?
楽しんで頂けたら嬉しいです。
(20)
【夢姫様、こちらもうすぐポイントに到着でありんす】
南に向かっていた白猫は夢姫に連絡を入れながら、猫の声のする方に急いだ。
ヒュィーーーーーン
足を収納し、ホバークラフトのように空気を噴出して、高速で移動する白猫に黒梟が付いて行く。
角を曲がると、暴れて抵抗する男の子 (推定7歳)を車に押し込もうとしている男が見えた。
「ジタバタしてんじゃねぇ、ガキぃ。」
「うー、うー、うー!!!」
怒声を上げながら暴れる男の子に手こずる男に、
「おい、何やってんだ。
なんで薬使わねえんだよ!」
車の中から男が苛立たしげな声を掛けた。
「うるせぇ、暴れられて落としちまったんだよ!
うだうだ言ってねえで手伝え!」
ピリピリした雰囲気の中、子供を車に押し込もうとしている男の目の前を、
ヒュン
黒い影が横切った。
「なんだ!?」
びっくりしてゆるんだ腕から男の子が抜け出し、
「このっ!」
ゲシ
男の脛を蹴って、駆け出そうとするのを、
「いってぇ!
何しやがるクソガキ、待ちやがれ!」
ブチ切れて腕を振り、ぶっ飛ばそうとしている男の腰のあたりに、
【これでもくらうでありんす!】
ドーーーン!!!
白猫が突っ込んでいった。
男は強烈な衝撃を受け、
「おわぁ!?」
車に向ってふっ飛び、
「どわぁぁぁ、、。」
「ぎゃぁぁぁ、、。」
仲間の男と絡み合うように車の中に転がり込んでいった。
「撤収しろー!」
絡み合った男の1人が叫び声が響き、ドアを開けたまま急発進して走り去っていった。
(21)
【夢姫様、南ポイントと阻止したでありんす】
【このまま東ポイントに向かうでありんす】
イヤホンマイクから聞こえてきた白猫の連絡に、
「白猫、ありがとにゃ。
引き続きお願いするにゃ。」
夢姫が返した。
【お任せでありんす】
「よろしくにゃ。」
そんなやり取りをしながら夢姫は5つ目のポイント、声がする方に向かったが、
「にゃにゃにゃ、なんてことにゃ!?」
車が止まっている場所は北面からも東面からも狙えなかった。
「これは、こまったにゃ。
うにゃにゃぁ、どうすればいいにゃ!?」
頭をかかえ、必死に悩むこと約20秒。
「これしかないにゃ。」
決断し、急いで中央に置いていたリュックの所に戻り、ロープを取り出した。
それを持って北面と東面を繋ぐ角に向かった。
片方を柱にしっかり括り付け、もう片方を自分の腰に巻いて、しっかり結んだ。
そして手すりに上がると、
「う、にゃーーー!」
気合いを入れて、飛んだ。
飛びながらゆっくり深呼吸し、集中力を高めていく。
その時、
「見えたにゃ!」
その目が誘拐犯を捉えた。
そして、ロープが張り詰めるまで伸びて、
ビン!
体が強制的に止められた瞬間、
「んにゃっ。」
もれでた呻き声を飲み込んでスコープを覗き、素早く犯人を補足した。
反動で戻り始めるまでの僅かな時間。
風を読み、照準を合わせ、引き金を引き絞った。
パーン!
「いっけにゃーーーにゃにゃにゃにゃぁぁぁぁぁ!?」
そして、発射と同時に時計塔に向って体が振り子のように振り戻されていく夢姫の叫び声が、夜空に吸い込まれていった。
(22)
「おい、早くしろ!」
車の中から焦りまじりの怒声が響く。
「わかってるって!」
返事しながら、ぐったりした男の子 (推定3歳)を抱えて男が車に向って走っていく。
その様子に、
「お前、そんな小さな子供に薬を使ったのか!」
「くそデカい声で泣き叫びやがるから。。」
「5歳以下は後遺症が残る事があるから使うなって言われてただろうが!」
「んな事言っ、、うわぁ!?」
言い合いしていた子供を抱えていた方の男が突然、悲鳴を上げた。
尻のしびれに驚くも、子供はなんとか落とさなかった。
「なんだ、尻がビリって、、うわぁ!」
今度は左足の太ももがしびれた。
「なんだってんだ!?」
男が訝しんでいると、
「そこで何してるの?
その子どうしたの?」
突然、野太い声が掛けられた。
声の方に目を向けると、
『やっべ、警官だ。
この時間、巡回来ないんじゃなかったのかよ。』
巡回中の警官2人が立っていた。
「なにやってんだ、逃げるぞ。
急げ!」
車の中から男が小声で声を掛けた。
「ちょ、え、男の子どうすんだよ。」
「そこに置いとけ!」
「わ、わかった。」
男は一瞬迷ったが、すぐさま子供を警官に向って、
「ほらよ。」
放り投げ、車に飛び込んだ。
驚いた警官が受け止めながら尻もちをつき、もう1人が、
「お前たち誘拐犯だな。
待ちなさい!」
少し荒々(あらあら)しげに声を掛けてきた。
のを無視して、全速力で走り去った。
(23)
反動で時計塔の壁に振り戻された夢姫は、
「うにゃん。」
しっかり足の裏で着地し、
「んにゃぁぁぁぁぁ!」
壁を蹴って、飛んだ。
ロープが張り詰め、犯人が視界に入る。
ジャコン!
薬莢を排出し、次弾を装填して照準を合わせ、
「にゃっ。」
息を止め、引き金を引き絞った。
パーン!
弾が発射され、飛んで行く先を確認していると、犯人に近付く人影を目の端しに捉えた所で、
「にゃぁぁぁぁぁ!!!」
引き戻された。
ざしゅ
壁に着地。
して、もう1回飛んで、スコープを覗くと犯人が子供を警官に投げていた。
「にゃにゃ、警官が間に合ったみたいにゃ。」
ならば後は任せておけば良い、とそのまま壁に戻っていった。
着地すると上に向かって、
トン、トン、トン
と壁の出っ張りを足場にして軽やかに飛び上がり、展望デッキに戻ったところで、
【夢姫様、こちら間に合わなかったでありんす】
【女の子が攫われてしまったでありんす】
白猫からの連絡がイヤホンマイクから聞こえた。
「うにゃぁ、間に合わなかったのはしょうがないにゃ。。」
落胆気味の声で返す夢姫に、
【ですが、黒梟が追跡しているでありんす】
白猫が状況を伝えた。
夢姫はその言葉に少しほっとし、顔がほころんだ。
「わかったにゃ、それじゃ白猫は戻ってにゃ。」
【了解でありんす】
白猫に邸に戻るよう伝えた夢姫は、
「黒梟、どんな状況にゃ?」
黒梟に声を掛けた。
【犯人の車を捕捉、追跡中だポポー】
【アジトに着いたら連絡するポポー】
返答を聞いた夢姫は、
「ご苦労様、それじゃ頼むにゃ。」
労い、追跡続行をお願いした。
通信を終え、ロープを解いた夢姫は、
「とにかく予定の5件は片付いたにゃ。
しばらく様子を見てから帰るにゃ。」
ひとり言ちながら中央に戻ると、座り込んで銃の点検をしようとして、
「にゃにゃぁぁぁ!?」
焦り声で叫んだ。
「し、しまったにゃ。
空薬莢、下に落としちゃったにゃ。
また、光姫に怒られるにゃぁ!?」
半泣きで絶望的な言葉を呟いた夢姫は、
「みんな、お願いにゃ。
これを探してきてほしいにゃ。
おやつ奮発するかにゃ〜。」
展望デッキでくつろいでいた猫たちに空薬莢を見せ、ぺこぺこ頭を下げてお願いした。
それから待つこと約2時間。
無事、空薬莢を回収した夢姫は、猫たちにお礼を届ける約束をして邸に戻っていった。
どうでしたか?
夢姫ってば詰めが甘いのよ、ほんとに。
でもまぁ、4件も阻止してくれて助かったわ。
情報も入ってきそうだし、いよいよこの私、光姫が活躍する番ね。
楽しみに待ってて。