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 アシャンテ王国は王制だが、ずっとひとつの家が王を輩出してきた訳ではない。

 〈災厄〉後の混乱した世界で、五人の人間がアシャンテ王国をつくった。その五人――ヴォルト、パルディオ、プレミール、ガルダン、カフジ――の子孫である男性が、アシャンテの王になる。

 王になるのは、この数十年はガルダンの子孫ばかりだ。ログ・ガーブ殿下も、ガルダンの子孫である。

 現在の王の家系以外の家系――だから今なら、ヴォルト、パルディオ、プレミール、カフジ――は、まとめて「旧王家」と呼ばれる。

 平和なアシャンテ王国だが、王位の継承に関しては毎回、ちなまぐさい争いが起こる。五つの家があらゆる方法でほかの家の邪魔をし、戦争にまで発展する。


 しかしこれも、(しゅ)の罰のひとつである。諍いで滅びそうになった人間は、〈災厄〉が起こっても反省せず、また諍いをはじめた。だから(しゅ)は、五つの家系以外の人間がアシャンテの王となることを決して認めず、負けた家がアシャンテから出ていくことも認めていない。そんなことをすれば、すべての〈力〉が失われる。出ていった者からも、残った者からも。

 そして勿論、いずれかの家系が途絶えても、〈力〉は恒久的に失われる。




 アル・テルスター卿は、プレミールの子孫だ。だから、王位を継ごうとすればできる。〈力〉を持った妻を迎えれば、戦争の時にも有利になっただろうに、どうして〈力〉を持たないわたしを妻にしたのだろう。




 剣衝洞は、ぶどうの棚の向こうにあった。ヘアリーベッチや燕麦が生い茂った道を、アル卿は、最後はわたしを抱えて歩いてくれた。

「申し訳ございません」

「女生徒の制服がそのような形をしているのは、あなたの所為ではない。草で脚を傷付けては、差し障りがある」

「差し障り……?」

「怪我を痛がる女と同じベッドにはいりたくない」

 端的で、なんの詩情もない返答だったが、その率直な態度はわたしには好もしく思われた。


 剣衝洞は二階建てで、こぢんまりした建物だった。旧王家のかた達の住むところなので、殿下の葉霧洞のように豪華で壮麗な建物だと思っていたのだが、そうではない。

 アル卿はわたしを玄関前におろし、女中と従僕を呼んだ。それから、こちらを見て云う。

「がっかりしたか? あなたの家の物置ほどもないだろう」

「いえ……」

 そう答えたものの、戸惑ってはいた。どうして、数々の戦功がある「岩の貴公子」が、このようなちいさな建物をあてがわれているのだろう。


 女中と従僕は、ひとりずつしか来なかった。どちらも若く、十四・五歳と云ったところだ。

「我が妻だ」

 アル卿はわたしを示して疲れたみたいに云い、建物へ這入った。「寝室は一緒でいい。彼女のきらいなものを聴いておきなさい。俺は少し横になる」

 云いながら、玄関傍の階段をのぼっていってしまう。


 従僕も女中も戸惑った様子だったが、わたしはふたりに案内されて、広間へ這入った。

 広間……といっても、やはり小さなものだ。六人掛けのテーブルと、椅子六脚、花が生けられた花びん、麦畑の絵。目につくのはそれだけだ。

 わたしは従僕がひきだした椅子へ座り、食べものや物事の好き嫌いについて女中に訊かれた。嫌いな食べものは? にはじまり、好きだけれど食べると気分が悪くなるものはないか、嫌いな調理法はあるか、嫌いな色は、苦手な布地は……と、微に入り細をうがったものだ。

「どうして、ここまでくわしく訊くの?」

「旦那さまが、ひとのいやがることをするなと……」

 アル卿はぶっきらぼうだけれど、他人に気を遣うひとのようだ。

 それにしては、わたしの気持ちも考えずに、結婚したのだが。




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