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6.誤解から始まった婿探し

鏡に映し出されたのは、頭蓋骨に皮膚を被せただけみたいに骨ばって、女性らしさに欠けた顔。さすがに言葉を失った。しかし意外と心理的なダメージは少なかった。自分のやせ細った腕と骨張った手から、あらかじめ骸骨のような容姿を想像して心の準備をしたからだろう。


目覚めてから1週間、やっと普通に声を出せるようになった。自力で腕を上げられるようにもなった。痩せてほぼ骨だけの腕が筋肉が衰えた今、こんなにも重く感じるとは。喉の筋肉も衰えて、スニシャが流動食をスプーンで口内に入れても飲み込めず、口元からダラダラとこぼしてばかりいた。


それでも毎日、少しずつ動かせる体の部位が増え、食事も流動食をこぼさず飲み込めるようになり、やがて固形食へと替わった。体の怠さと頭痛も軽減していき、思考もはっきりしてきた。そろそろこの世界のこと、自分の置かれた状況などを知る頃だろう。


「ねえ、スニシャ、ミルヤ。私はどうして寝たきりだったの?重い病?実は私、自分の年齢も思い出せないし、家族のこともわからないの。私に兄弟はいるのかしら。」とりあえず、記憶喪失のふりをする。スニシャもミルヤもここ数日の紗奈の様子から、何も思い出せないという紗奈の言葉を信じたようだ。


「殿下はオルドネージュ皇国の皇帝皇后両陛下の第一皇女としてお生まれになり、御年19歳になられます。殿下には妹と弟がお2人ずついらっしゃいます。」スニシャがゆっくりと話し出した。


「殿下はおよそ1年2ヶ月前にご公務で王都郊外へお出ましになり、帰路に山中で馬車が崖から転落する事故に遭われました。殿下が助かったのは、奇跡といえるほどの大事故でした。」


「まって、1年2ヶ月前?ということは、わたしは1年2ヶ月もの間、寝たきりだったの?」あり得ない、と思った。この部屋には生命維持装置のような医療機器はないし、そもそも点滴すらない。栄養を体内に取り込まないで、どうやって1年2ヶ月もの間、昏睡状態で生きてこられたのか。


「殿下は危険な状態だったのです。昏睡状態となられてからは、大魔法師コルト様が生命維持のためにエネルギーを定期的に流されておられました。それが3ヶ月ほど前から殿下のエネルギーが徐々に変化され、コルト様からのエネルギーをうまく融合させて取り込めなくなったのです。」


はっ、なにそれ?魔法師?生命維持のためのエネルギー?スニシャはごく当たり前の顔で説明するけど、日本人の紗奈に魔法など、にわかには信じられない。


『ここは日本じゃないとは気付いていたけど、まさか世界自体が違っていたの・・・?』


スニシャいわく、魔法師がエネルギーを流すことで患者は眠ったままでも生存可能に。皇女も魔法師からのエネルギー補給で1年近く体が保たれていた。ところが3ヶ月ほど前から徐々にエネルギーを流しても大部分がはじかれるようになり、急速に紗奈の体はやせ衰えていった。このまま目覚めなければ、紗奈の(皇女の)命はもってあと半月だったらしい。


紗奈(皇女)の体がなぜエネルギーを弾いてしまうのか。コルト以外の魔法師が試してもエネルギーは弾かれてしまい、医師団も原因を見つけることはできなかった。このまま皇女の命が尽きてしまえば、魔法師たち、医師団と世話係のスニシャとミルヤ、その一族郎党全てが処刑される運命だったとか。


なにそれ、恐い!!


でもスニシャもミルヤも、処刑されるのは当たり前だと言いきった。

「殿下をお守りできない我らが、殿下のいない世界で生き続けることなど許されません。」そうきっぱりと言い切るスニシャに、うなずくミルヤ。重い・・・


とりあえず自分を取り巻く現況はなんとなく理解できた。弟妹がいるのに誰も見舞いに来ないのは、上の妹は外国に嫁いでいないが、下の妹と弟2人は王宮内にいる。けれども皇女はやせ衰えた姿を見られたくないだろうと、娘の女心を慮る母皇后が、皇女がある程度回復するまで見舞いを禁じたからだった。


その母と父皇帝は毎日1度はかならず部屋に顔を出す。どんなに忙しくても、わずか数分でも必ず娘の顔を見ていく。「愛されてるなあ、エナは。」紗奈はこの体の以前の持ち主、エドウィナ皇女をこっそりエナと心の中で呼ぶようになった。エドウィナを縮めてエナ。自分の名前の紗奈とも音が似ていて、親しみがわく。


目覚めてから2ヶ月後には支えなしで上体を起こして座っていられるようになり、半年後にようやく歩行練習を開始した。ちなみに排泄などのトイレとお風呂は、スニシャとミルヤが全て面倒を見る。排泄は魔法具が尿も便も吸い取ってくれるので、あまり恥ずかしさもなくすぐに慣れた。


しかしお風呂は二人がタオルを使いながら紗奈の体を隅々まで洗うのだ。銭湯を知らず、温泉にもあまり行かなかった紗奈は家族以外に裸を見られるのに慣れておらず、最初はものすごく恥ずかしかった。でも皇族や貴族は自分で体を洗わないのだ。これはもう、慣れるしかない。


こうしてゆっくりと、でも確実に紗奈は回復していった。やが身体は完全に回復し、静かに王宮内にある庭園が美しい離宮で暮らしていたある日。庭園のベンチで日向ぼっこをしていた紗奈の耳に、ふと懐かしい声が聞こえた気がした。


「おかーしゃん、お日さまあったかいねえ。」

「おかーしゃん、みてみて。」


紗奈はそっとドレスの上からお腹の辺りを撫でながら、翔太・・・と呟いた。


「殿下、どうされましたか?」スニシャは紗奈の様子に驚くほど敏感だ。

「スニシャ、わたしは子供を生んだことがあるかしら?」自分でもバカな質問だと思う。確かに子供を生んだのだから。翔太。あの子のことは絶対に忘れない。


だがスニシャには、紗奈が「子供を生めるかしら?」と尋ねたように聞こえた。

「殿下、もちろん殿下も御子さまを授かることが出来ますよ。身体が回復したのですから。」


その日の夕方、スニシャは皇后の居室で庭園での紗奈の問いかけについて報告した。エドウィナが自分は子供が生めるかと問いかけと聞いて(スニシャの聞き間違いなのだが)、皇后はため息を落とした。


「エドウィナは、あの子は結婚したいのかしら。子供を欲しがるなんて。」

「エドウィナ殿下は25歳になられました。お体は完全に回復され、まだ充分に御子さまを授かることが出来るお歳にございます。妹君が代わりに嫁がれたとはいえ、一度は婚約をされていらっしゃいました。御子さまを望まれても不思議はございませぬ。」


「そう。わたくしはあの子にずっと傍にいて欲しかったのに。でもそうね、アディーに相談してみるわ。あの子を正妃として迎えられる独身王族が残っているかどうか。」


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