表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/32

2.情報収集は重要です

国王には婚約者がいないのに、ひと月後には妃がサイラス王国に到着するという。青天の霹靂とはこのことか。国王、宰相とその息子の筆頭側仕え文官の3人が、執務室内で頭を抱えていると、カロンが「情報庁、内務庁および外務庁の各大臣がお越しになりました。」と3庁のトップたちの到来を告げた。


国王の執務室には10人掛けの楕円形のテーブルセットが置かれた小さな続き部屋が設えてある。そこに3人の大臣たちを迎え入れ、侍女に茶の用意をさせたのち、人払いを命じた。


侍女たちが綺麗なお辞儀をして出ていったのを確認すると、ネイサンが扉を閉めて席についた。全員が着席したのを確認して、宰相のアルバ公が口を開いた。


「この場にはガリント将軍と厚生大臣シエロ、それに魔導士長官サザランドの3名が不在だが、彼らが南の森調査から戻るのを待つ時間がない。陛下、始めてもよろしいでしょうか。」


「かまわん。ネイサンは書記としてすべてを記録し、議事録をわたしと不在の3名に届けるように。ではアルバ公、こたびの経緯を最初から説明してくれ。」


ネイサンが筆記を始めるためにペンを握りしめたのを見てから、アルバ公が説明を始めた。


「本日昼過ぎ、オルドネージュ皇国より使者殿が到着された。」

「なんと!あの国境の山を越えてきたのか?魔物も増えてきたというのに。」外務大臣のキリアン公爵が驚きの声を上げた。


「いや、今回は緊急のため北王国経由でサイラスに入国したようだ。北王国が使者の到来を知らせる事告げ鳥を我が国に飛ばしてくれたのだが、その鳥が魔物に喰われたらしく、王宮には届かなかったが。」


「なんと・・・では、誰も使者殿を国境まで出迎えに行かなかったのか。」アルディンが顔をしかめた。

「使者殿はこちらの状況をご存知で、逆に魔物をサイラス国内でくい止めていることについて謝意を伝えられました。」


「そうか。」ほっとした空気が室内に広がった。


「使者殿は今、どうされているのですか?」内務大臣のアマリス伯爵が少し気づかわしげに尋ねる。客人の世話は内務庁の担当だ。


「今は応接室のソファで仮眠を取っておられる。休息できる部屋を用意すると申し上げたのだが、親書への返書が整い次第、出発すると言ってきかんのだ。それで、このような緊急招集をかけた次第なのだが。こちらが皇帝からの親書です。儂は使者殿から口頭で内容を伝えられたが、陛下の婚姻に関する親書とのことです。」


アルバ公はそう言って封書をアルディンに差し出した。アルディンは差し出された封書には手を伸ばさず、皆の前で読み上げるように宰相に命じた。


「承知いたしました。では。」とアルバ公は封書を開くと、声に出して読み始めた。意外と長い。


要約すると、親書は時候の挨拶から始まり、7年前に事故に遭って臥していた第一皇女が回復した。やっと元気になった皇女には女の幸せを掴んでほしい。よき相手を探していると、隣国サイラスの国王がいまだ独身で婚約者もいないと知った。


そこで皇女をサイラスに降嫁させることにした。サイラスとオルドネージュの国境の山は馬車で超えるのに1カ月以上かかるが、幸い北王国は皇后の実家なので、北王国経由でサイラスに行かせる。皇女は春の月の末に出発させるので、晩春の月半ばには到着するだろう。よきに計らえ。


というものだった。よきに計らえのあとは、大皇国からのお願いという形をとった無茶な要望がつづられていた。


いわく、世継ぎは皇女腹の王子か王女を立てること、皇女が世継ぎを産むまで国王が側室を持つことは許さない、サイラスの王宮を皇女が過ごしやすいようにオルドネージュ風に変えろ、オルドネージュから連れて行く女官や侍女、護衛騎士たちは、到着後はサイラスが彼らを雇用するように、などなど。


アルバ公が親書を読み進めていくうちに、どんどん大臣たちの顔が険しくなり、その額には青筋が浮かんでいく。


宰相が親書を読み終えると、室内は重苦しい空気に包まれた。誰も、何も言いださない。


「で、」アルディンが沈黙を破った。

「この親書は婚約の打診ではなく、皇女が降嫁するとの決定事項を伝えてきただけのようだな。」


「はっ、降嫁だと?!サイラスはオルドネージュの属国ではないっ!!まず最初に我が国に婚姻を打診し、一定の婚約期間を経たのちに婚姻を結ぶのが正式な国婚なのに、外交儀礼もあったもんじゃない。我が国をバカにするにもほどがある!!!」怒りの声を上げたのは、外務大臣のキリアン公爵。


「オルドネージュの第一皇女と言えば、クライストン帝国皇太子の婚約者だったはずだ。それが馬車の転落事故で1年以上昏睡状態にあったらしい。目を覚ましてからも普通に日常生活を送れるようになるまで、さらに1年はかかったはずだ。そのせいでクライストン帝国には妹の第二皇女が代わりに嫁いだと聞いている。」


さすがはわが国自慢の諜報、いや情報大臣だ。隣国皇室の情報をよく掴んでいる。


「第一皇女はクライストン帝国皇太子のおさがりってことですか。」ネイサンが嫌味っぽく呟く。

それを宰相が聞きとがめて叱った。

「ネイサン、失礼が過ぎるぞ。」


「失礼なのはあっちじゃないですか!!属国でもないサイラスに皇女を降嫁って、何様なんだよあの国は!!」

「宰相閣下、ネイサンの言うことももっともですわ。陛下に側室禁止だの世継ぎの冊立にも口出しするなど、礼儀を甚だしく欠いているのはあちらの国です!」内務大臣のアマリス伯も憤慨して、今にもその上品な口元から火を噴きそうだ。


「だいたい、その皇女はいくつなんだ?」

「クライストン皇太子妃の22歳の生誕祭が先日開かれたから、その姉である第一皇女は少なくとも23歳以上かと。」さすがは情報大臣だ。


「23歳以上って、行き遅れじゃねえかよ。」「ネイサン!!!口を慎め!」


「ふん。で、どんな容姿なんだ?オルドネージュの皇后は光り輝く美貌って噂だ。皇帝が結婚前に迎えていた側室全員を希望する騎士や貴族に下賜して、皇后1人だけ皇宮に残したほどの溺愛っぷりらしいから、その娘なら当然美人だよな?」


「ネイサン、お前はさきほどから皇女殿下についての発言が直截すぎる!!」アルバ公がネイサンを叱るのを、情報大臣がまあまあ、容姿は大切ですからと宥めた。


「残念ながら、第一皇女は事故に遭って以来、公の場に出ていないため、姿絵なども出回っていませんし、容姿についての噂話なども漏れ伝わってきません。」

情報大臣でもわからないことがあるのか。


「だが、皇后の生んだ皇女なら、美人に間違いないのでは?」

「いや、皇帝の娘でもあるぞ。どっちの血を色濃く引くかなんて、生まれてくるまでわからんからな。ちなみにクライストンの皇太子は代わりに嫁いできた妹の第二皇女をもろ手を挙げて歓迎したらしいが、第三皇女は婚約が決まるまですったもんだあったらしいぞ。」


外務大臣も意外と情報通のようだ。


アルディンは、ネイサンの辛辣な本音や大臣たちの発言に注意深く耳を傾け、紛糾してきたところで手をパンと叩いてみんなの注意を自分に向けた。


「みなもまだまだ言いたいことはあるだろうが、使者殿が待っておられる。結局、どんな容姿であれ、皇女が嫁いでくるのは決定事項だ。嫁ぐでも降嫁でも、言葉はこの際、どうでもいい。それよりもこの親書に隠されたオルドネージュの秘密の謀に気付いた者はいるか?」


国王の問に、ネイサンが首を傾げた。

「秘密?この失礼極まりない親書に、いったいどんな秘密が?」


やはり、目先の無礼な言葉の数々に捕らわれて、誰も真の意図に気づいていなかったか。アルディンは、ふうっと息をひとつ吐いてから、口を開いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ